特集2:失業保険制度
失業保険制度の新たな試み:再就職支援プラン(PARE)

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:雇用・失業問題人材育成・職業能力開発職業相談・職業情報・職業適性

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  • 国別労働トピック:2003年9月

2001年に締結された失業保険協定では、失業者の再就職支援をいっそう強化するために、再就職支援プラン(PARE)が導入された。これは、失業手当を給付する傍ら、各失業者の求職活動を個別にバックアップしようとするもので、2001年7月1日から実際にスタートした。PAREの対象となるのは、PARE契約を結んでいる求職登録者で、「積極的に求職活動を行う」ことを誓約することが求められている(注1)。

なお、求職活動支援を迅速に行うために、事前PARE(PARE anticipe)の制度もある。雇用主は、解雇通知の際に従業員に対してPAREに関する情報を提供し、当該従業員がPAREの適用を望む場合、解雇通知から8日以内に必要書類をASSEDICに提出することで、当該従業員は解雇前からANPEでの面談と職能診断を受けることができる。この時点で個別行動計画(PAP、後述)が策定され、雇用復帰支援手当(ARE)の受給手続きを開始できる。

以下、PAREの枠内で提供される求職支援サービスと補助金について詳述する。いずれも各求職者の個別のニーズを考慮して支援の態様が決まる。

(1) 求職支援サービスと各種補助金

  1. 個別行動計画(PAP)

    個別行動計画(PAP)は、求職者各人の職能、適性、要望を考慮して策定される求職計画で、求職活動支援の指針となる。PAREの適用を受ける求職者は、ASSEDIC登録の翌月に、ANPEでの面談においてPAPを策定される。PAPには、求職者の有する資格、求職者の職能に適した職業タイプ(または職種変更の可能性も検討)、求職者が望むポスト、求職者が望む職業訓練(明確な希望がない場合には職能診断を実施)とが盛り込まれる。

    ASSEDICは求職計画の進捗をチェックし、6カ月を過ぎても再就職できない場合には、ANPEで再度面談を行ってPAPを見直すことになる。必要がある場合には、当該求職者の職能をより詳細に総合診断する。その後さらに6カ月を過ぎても再就職できなければ、求職活動支援はさらに強化され、ASSEDICは当該求職者を雇用する企業に対して補助金を交付するなどの措置もとる(注2)。

  2. ASSEDICによる補助金

    PAPにより求職活動支援を受ける失業者には、ASSEDICから以下の各種補助金が交付される。

    • 地理的移動補助金

      遠距離(往復50km以上、あるいは通勤時間が往復2時間以上)の勤務地に就職が決まった場合に、1830ユーロを上限として、交通費、二重住居または引っ越しの費用が支給される。

    • 職業訓練補助金

      ASSEDICが認定した職業訓練を受ける場合、訓練費用と登録費用の全額、交通費、滞在費、食費の一部が支給される。

    • 採用見込職業訓練補助金

      空席のポストがあって、それが一定の職能を要求する場合、採用を約束した企業に対して、ASSEDICがその企業内での職業訓練費用の一部を負担する(1時間当たり7.62ユーロ、総計1524.49ユーロまで)。求職者は上記の職業訓練補助金を受給でき、正式な採用までの間は雇用復帰支援手当(ARE)の受給権利も失わない。

    • 対雇用主漸減補助金

      求職登録から12カ月を過ぎたARE受給者を採用する企業は、最長3年間(当該求職者の失業手当受給権利残余期間のかぎりにおいて)、ASSEDICから補助金の交付を受けることができる。補助金額は、最初の年は当該新規就職者の賃金の40%で、2年目は30%、3年目は20%と漸減する(有期雇用契約の場合は、雇用期間を3分の1ずつに区切って同じように漸減)。

(2) PAREの運用実態

  1. PAP適用者数

    2001年7月1日のPARE導入以来、2002年7月までに約450万人の求職者がPAPの適用を受けた。そのうち約310万人が2001年7月1日以降の新規求職登録者で、約140万人がそれ以前からの求職者である。

    社会的疎外対策プログラムの対象となっている1年以上の長期失業者と社会参入最低所得(RMI)受給者へのPAP適用も順調に進んでいる。2001年7月1日からの1年間で、前者については約79万人が、後者は約39万人がPAPの適用を受けた。

  2. 求職支援サービスの利用状況

    PAREの導入以来、ANPEによる求職支援サービス(求職活動のための勉強会、職能評価、総合的な職能診断など)の利用は50%以上増えた。2001年7月からの1年間で、約150万人の求職者がこれらのサービスを利用している。

    とりわけ、面談(2001年7月からの1年間で55万4064人が利用、92%増)、勉強会(同65万1130人、121%増)、職能評価(同14万1138人、67.6%増)の利用が顕著である。職業訓練のオリエンテーションを利用した求職者も同時期に102万770人と、36%増加した。

(3) PARE導入による失業保険制度の変化

PAREの導入は、失業保険制度の根幹を見直す改革であったといえる。2001年の新失業保険協定は、それまでの基本的な失業保険手当であったAUDを廃止し、新たにAREを導入するとともに、求職活動支援対策としてPAREをスタートさせた。ここでは、失業手当の給付にとどまらず、雇用政策の一端を担う失業保険制度の積極的な役割が強調されている。

PARE導入の評価については、一部には、とりわけ、漸減手当であったAUDの廃止がもたらすマイナスの影響を指摘する声もあるが、新制度の総合的な評価には未だ時期尚早であるといわなければならない。

現時点で観察できる変化は、失業保険手当給付対象が拡大し、一時雇用や人材派遣などの不安定な雇用の後の失業に対する措置がとられたことから、受給者が増加し、失業者全体に占める失業保険手当受給者の割合が上昇している点である。

以下、この点を中心にPARE導入の影響をより詳しく見てみよう。

  1. 受給者

    前述のとおり、1999年12月から2001年12月にかけての2年間で、全失業者中に占める失業保険手当受給者の割合は7ポイント上昇したが(41.5%から48.5%へ)、この増加分にPAREが寄与するところは実のところ0.7ポイント程度にすぎないと見積もられている。実数で見ると、PAREの導入によって新たに増えたと見られる失業保険手当受給者は3万6000人で、具体的には以下の3点がその主な要因として挙げられる。

    • 求職者登録手続き期間の短縮

      2001年新協定は、求職者登録の手続き期間を8日から7日に短縮した。論理的には、求職者登録手続き期間の短縮は受給者の増減に影響しないが、これにより、2001年12月31日時点で、失業保険手当受給者が5100人増加したと推測されている。これは、失業保険手当受給者増加へのPARE導入の寄与分である0.7ポイントのうちの0.15ポイントに当たる。

    • 給付対象の拡大

      2001年新協定によって、失業保険手当受給の条件が緩和されて、離職前18カ月中に4カ月以上の労働期間があればよいことになった(注3)。これにより、失業保険手当給付の対象範囲は拡大され、2001年に新たに3万5000人の受給者が生じたと見られる。このカテゴリーの失業保険手当受給期間は4カ月であるから、2001年を通じては常に平均で約1万1500人の押し上げ効果があった。これは、2001年末時点での失業保険手当受給者増加へのPARE導入の寄与分である0.7ポイントのうちの0.3ポイントに当たる。

    • 職種転換協定(Conventions de conversion)の廃止

      勤続2年以上の従業員を経済的理由で解雇する雇用主は、当該従業員に対して職種転換協定を提案する義務を負っていたが、これが2001年7月1日以降廃止された。この職種転換協定の廃止による失業保険手当受給者の増減はそれほど明白ではない。しかし、職種転換協定実施の際には、事前解雇通知が必ずしも必要ではなく、職種転換期間の終了の後にもなお就職先が見つからなければ失業保険手当の受給を開始するがその場合に給付期間は75日短縮されていた。さらに、特定職種転換手当(ASC)の受給者とAUDのそれとでは、再就職率にも恐らく差がある。なにより、職種転換中の者は失業者として数えられなかった。こうして、職種転換協定の廃止は、ARE受給者と求職者そのものの増加に多かれ少なかれ寄与していると見られる。試算によると、2001年12月31日時点では、失業保険手当受給者数を1万9000人押し上げている。これは、2001年末時点での失業保険手当受給者増加へのPARE導入の寄与分である0.7ポイントのうちの0.25ポイントに当たる。

      失業者全体に占める失業保険手当受給者の割合の推移を、現状とPAREが導入されなかったと仮定した場合とで比較したものである。PARE導入による影響は認められるが、いずれにしても最近の急激な割合上昇をそれだけによって説明することはできない。

      2001年に入ってから、各種失業手当(失業保険制度および国の連帯制度)を受給する者の数は急激に増え、2002年末には250万人を超えた。そのうちの83%が失業保険手当の受給者である。失業保険手当受給者は1999年、2000年にそれぞれ3.9%、5.9%減少したが、2001年には13.4%と大幅に増加し、2002年も9%増となった。労働市場の状況悪化に対し、失業保険制度が「過剰対応」してしまっている。

      2001年末時点で、失業保険制度と連帯制度による失業者の補償率は60.2%に達している(失業保険制度のみによる補償率は49.2%)。2001年にこの補償率は大幅に上昇したが、これは失業保険手当の受給者が著しく増加したことによる。

      繰り返しになるが、この補償率の急上昇に2001年新協定による失業保険制度改革が寄与するところは必ずしも明白ではない。新協定は失業保険手当受給の要件を緩和したが、2001年に「第1段階受給者(Filiere 1)」(注4)の対象となった27万3300人のうち、新協定の恩恵を受けた者(すなわち旧制度下では給付の対象とならなかった者)は3万4600人(12.7%)であるとUNEDICは推計している。新協定の恩恵を受けた者の特徴としては、高齢、標準給与の水準が高い点などが挙げられる。2001年1-3月期では、新協定の恩恵を受けた者のうち25歳未満の者は20%程度にとどまっている。

      2001年にFiliere 1の受給者は31.3%の大幅増となり、Filiere 1が全カテゴリー中に占める割合も前年から1.4%上昇して14.2%となった。しかし、Filiere 1への加入は従来から他のカテゴリーよりも多く、これらの変化を直ちにPAREの導入に帰することはできない。

  2. 給付額

    2001年12月31日時点で、平均失業保険手当給付額は月856ユーロで(税引き前)、前年から8%増加した。給付額の算定基準となる給与の上昇率が4.4%であったことにかんがみると、2001年に失業保険手当給付額は大きく引き上げられた。

    その要因の1つに、フルタイム労働者の失業が増えたことが挙げられる。離職前にフルタイム労働に就いていた失業者への平均手当給付額は月959ユーロと、パートタイム労働に就いていた失業者へのそれ(月524ユーロ)を大きく上回る。2001年にはフルタイム労働後に失職した失業者への手当給付が23万件増加し、これが平均手当給付額を引き上げることになった。

    また、PARE導入とともに漸減手当のAUDが廃止され、定額給付のAREに代わったことも、平均手当給付額上昇の要因と考えられる。ただし実際のところ、この改革による影響はまだ部分的にしか測ることができない。

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