特集2:失業保険制度
失業保険制度の財政問題と将来展望

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2003年9月

(1) 失業保険制度の収支

2001年には2億4700万ユーロの黒字であった失業保険制度の収支は、2002年には36億9000万ユーロの赤字に転じると見込まれている。

2001年9-12月期にフランスの経済成長は急激に鈍化し、2002年に入ってそれが雇用市場に反映され、失業保険制度の収支悪化を招いている。

失業保険への新規加入者数(=雇用創出数にほぼ相当)の推移を見ると、年間平均は2001年の45万人から2002年15万6000人(見込み)へと大きく後退し、景気の減速に伴って労働市場が停滞しつつあることを示している。

一方、失業保険給付受給者は、2001年6月に158万人まで減少したが、その後再び増加に転じて、2002年12月には208万5000人となった。それをなぞるように、同じ時期に失業率も上昇している(2002年12月末時点での失業率は9.1%)。

景気の減速は、失業者の再就職も困難にしている。1997年以来、若年者雇用創出の強化など、雇用政策は労働市場の構造的な改革を目指してきたが、2001年秋以降は、まず「失業を減らす」ことに再び重心が移っている。

支出のうち給付支出が最近急激に伸びているが、これは補償率、受給者数がともに上昇していることによる。とりわけ、離職前の給与が高かったか、労働期間が長かった受給者が増えているため、1人当たりの失業手当給付額が高くなっている。さらに2001年の新協定によって、漸減手当のAUDに代わる定額手当のAREの導入も、給付総額を押し上げる一因となったと見られる。

(2) 財政問題への対処:2002年12月20日の合意

2002年以降に予測される収支の赤字をどのように手当てするか。失業保険制度は景気と労働市場の変化に迅速に対応することを目下求められている。

なお、失業保険協定第6条は、保険料率や給付額の調整など、経済情勢に応じて制度の収支安定のためにあらゆる措置をとることを認めている。

財源の確保に関しては、金融機関から今後3年間で29億ユーロの借り入れを実施することが決められた。中長期的には、金融機関からの借り入れとともに、国の保証を伴う債券発行による資金調達計画が立てられることになっている。

失業保険制度そのものの見直しについては、財政建て直しの目的から、2002年12月20日に労使間でいくつかの合意が実現した。この合意内容は、2003年1月1日から2005年12月31日まで有効となるもので、現行の失業保険協定(2001年1月1日から2003年12月31日まで有効)に修正を加えることになった。

合意内容は、全体として、失業保険手当給付の要件を厳格化し、給付期間を短縮するもので、失業者側により犠牲を強いるものとなった。また、雇用主と被用者の双方に対して保険料率が引き上げられる。一方で、失業手当の漸減性復活は盛り込まれなかった。以下に、これらの制度変更について詳述する。

  • 保険料引き上げ

    2003年1月1日から保険料率が5.80%から6.40%に引き上げられた(雇用主4%、被用者2.4%)。これは1993年当時(6.6%)を超える高い水準である。また、失業保険手当最低給付額は変わらないが、UNEDICによる求職者の補足年金保険料代納の水準を引き下げるため、離職前の給与に対する失業保険手当の置換率は57.4%から1.8%程度下がると見られる。

  • 給付期間

    2003年1月1日以降の新規失業者については、新しく下表どおりの失業保険手当給付期間が適用されることになった(注1)。ただし、2002年12月31日時点ですでに解雇手続きが開始されていた失業者の給付期間は旧制度により、2003年1月1日時点ですでに手当受給中の求職者については、2004年1月1日まで従来どおりの給付期間が適用される。また、これらの者のうち、雇用契約終了時に50歳以上であった求職者で、失業手当給付期間が45カ月以上の場合には、この新措置は適用されない。

これらの制度改革による収支改善は、次のように予測されている。保険料率の引き上げなどによって2005年までに67億5100万ユーロの収入増が見込まれ、給付の引き締めによる支出削減分65億7800万ユーロと合わせて、収支は約130億ユーロ改善される。この結果、失業保険制度の収支は、2003年にはなお47億ユーロの赤字が見込まれるものの、2004年からは黒字に転じ、2005年末までの累積赤字は14億ユーロに抑えられると予測されている(制度変更がなかった場合の累積赤字見込みは147億ユーロ)。

失業保険財政の健全化は、今後も引き続いて労使間の検討課題となる。2006年の累積収支の黒字化に向けて、労使間では2003、2004年に話し合いを続け、また財政安定化のための特別基金も創設されることになっている。

(3) 失業保険制度の将来展望:2004年新協定へ向けて

現行の失業保険協定の有効期間は2003年末で、近く新協定が準備されることになるが、2002年12月20日合意の適用期間が2005年12月31日まであるため、2004年新協定は基本的にはこの合意を踏襲することになるだろう。現在、財政の改善が失業保険制度にとって急迫の課題となっている。

PAREの運用に関しては、労使間で2003年1-3月期にも総括報告書が作成される予定である。職業訓練については、ANPEと管理職雇用協会(Association pour l’emploi des cadres: APEC)との間の連携強化や、公的機関や地方自治体との協力、若年者を対象とする訓練制度の改革などが検討されている。また、新規企業設立支援策の強化や、50歳以上の求職者を新規採用する雇用主への漸減補助金なども課題として浮上している。

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