特集4:職業訓練制度
フランスにおける継続的職業訓練制度

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2003年9月

フランスでは、職業訓練の推進が雇用政策上、重要な位置を占めている。特に1970年以降、職業訓練の制度化が進み、98年3月には職業訓練担当相が置かれるに至った。

1999年3月に職業訓練に関する現状報告に政府提案を併せて発表された白書によると、フランスにおける職業訓練は以下の4点を柱としている。

  1. すべての人に職業訓練の機会を提供する
  2. 職業上獲得した能力知識を認定するシステムを確立する
  3. 職業見習いと学業とを統一した教育システムを発展させる
  4. 関係者(国、労使、地方自治体)それぞれの役割を明確にする

以下ではまず、フランスにおける継続的職業訓練制度について見る。次いで、職業訓練と雇用契約を組み合わせた特殊な形の雇用契約を取り上げ、職業訓練は失業対策としても重要な役割を果たしていることを示す。

1 フランスにおける継続的職業訓練制度

有能な人材の育成のためには、学校や大学における教育が重要なのは当然だが、それに加えて、フランスでは1970年代初頭から、職業訓練の重要性が注目されるようになった。以来、国、企業、地方自治体、公共団体、公立および私立の訓練機関、職業団体、労働組合などが独自に、あるいは連携しながら職業訓練制度を発展させてきた。

フランスの継続的職業訓練は、団体交渉による決定が重視されている点、年齢や経験に応じて各個人に適した様々な訓練を用意している点が特徴である。

継続的職業訓練に関する措置は、労使交渉による業種別組合協定か国の法律・デクレによる。労使団体と国は、各職種に特有の問題点を考慮したうえで、適切な措置をとる必要がある。なお、継続的職業訓練はフランスのGDP全体の1.7%に相当し、経済的にもその比重は大きい。

(1) 若年者向けの職業訓練制度

若年者に対しては、職種別に初歩的な職業訓練が中学レベルから開始され、以下の3つのレベルに分かれる。

  • 職業訓練教育課程
    中学レベル:
    職業適性証書(certificat d’aptitude professionnelle: CAP)
    職業学習修了証書(brevet d’etudes professionnelles: BEP)
    高校レベル:
    職業バカロレア
  • 技術教育課程
    高校レベル:
    技師免状(brevet de technicien: BT)
    技術バカロレア
    大学レベル:
    高等技師免状(brevet de technicien superieur: BTS)
  • 職業別高等教育長期課程

これらの職業訓練は、見習契約という雇用契約の1形態と連関している。見習契約は、16-25歳の若年者を対象に、一般教育、理論、実践を施し、CAP-BEPから技術者資格に至る各種職業資格を取得させることを目的とする雇用契約である。見習い期間中、契約当事者は各企業の従業員として賃金報酬を受けると同時に、見習い訓練センター(centre de formation d’apprenti: CFA)の生徒でもある。

(2) 継続的職業訓練制度の概要

継続的職業訓練は、就労者を対象に、

  1. 業務上の技術の進歩や条件への適応、
  2. 職能の維持・向上、
  3. 社会的あるいは職業的昇進、を目的として、国、地方自治体、企業、労使団体などの協力の下に実施される。

a) 実施主体

継続的職業訓練制度は国と地方自治体の責任の下で運営されるが、通常の職業訓練においては地方が主導的な役割を果たす。主幹産業や雇用に関する諸問題は地方によって異なるため、各自治体は地元のニーズに即した職業訓練政策を策定することができるというメリットがある。したがって、国はその法的枠組みを提供するにとどまり、その役割は限定的である。国と各地方間での政策実施の一貫性と整合性を保つため、全国レベルの調整機関(見習・職業訓練地方プログラム調整評議会)が置かれている。

実際の職業訓練で最も有効と考えられるのは、企業内部における研修である。国と地方自治体は、研修を実施する企業に助成金を交付して、職業訓練の実施拡充を図っている。

労使は、同数の代表からなる運営機関を設立して、継続的職業訓練プログラムの作成に参加する。

b) 対象

i) 民間部門の被用者

民間企業の従業員は、就労中に継続的職業訓練を受けることができる。この場合、企業単位の研修制度と個人単位の研修制度との2種類がある。企業単位の研修の場合、研修の責任者は雇用主で、被用者への報酬も企業の負担となる。通常、研修はそれに充てられる時間枠を利用して行われるが、労働時間外の研修については、雇用主と従業員の間で作成される共同計画の取り決めに従って実施される。

企業研修のほかに、各被用者は希望すれば個人単位で研修に参加することもできる。この場合は、個人研修休暇(conge individuel de formation: CIF)を利用することになる。

ii) 公務員

公務員は、行政機関の主導により実施される研修、あるいは研修休暇を利用する研修に参加することができる。所属の行政機関による研修への参加は就労時間と見なされ、給与は減額されない。各人の選択において研修休暇を利用する場合は、研修期間中の給与補償を受けることができる。

iii) 非被用者

農業従事者、職人、フリーランス、商人、自由業者などの非被用者も、職業訓練に参加することができる。その場合、非被用者は訓練費用を自己負担しなければならない。

iv) 求職者

すべての求職者は、一定の条件の下で、報酬を伴う職業訓練を受けることができる。

  • 16-25歳の求職者
    • 企業の負担による特殊な雇用契約(以下の3種類、詳細は後述)の枠内での職業訓練
      1. 職業指導契約(企業の「発見」を目指す)
      2. 資格取得契約(職業資格あるいは免状の取得を目指す)
      3. 雇用適応契約(なんらかの資格を持つ者の特定のポストへの適応を目指す)
    • 地方自治体の負担による職業訓練
  • 失業者、そのほかの求職者
    • 就職が困難な者を対象とする特殊な雇用契約の枠内での職業訓練
    • 国あるいは地方自治体の負担による職業訓練

c) 費用の負担

継続的職業訓練の費用は、主に国、地方自治体(地域圏)および企業によって負担される。国と地域圏の管轄は法律によって規定される。

継続的職業訓練においては、地域圏が包括的な管轄を有する。16-25歳の若年者を対象とする職業訓練も、地域圏の所轄である。国は、就職が困難な者、業界団体、企業を対象に介入する。また企業による負担は、法的義務に従う。

以下に、国、地域圏、企業それぞれの負担について詳述する。

i) 国の負担

職業訓練費用に関する国の負担は次のとおりである。

  1. 求職者に対する職業訓練費用・研修報酬の全部または一部
  2. 障害者、移民労働者、被勾留者、文盲などの特殊ケースの職業訓練費用
  3. 特定分野における職業訓練費用(新技術部門など)
  4. 職業訓練制度に関する広報費用
  5. 地域圏への交付金
  6. 企業あるいは業界団体内での職業訓練計画策定・実施への援助

国の負担分は、社会問題・労働・連帯省等を通じて全国あるいは地方レベルで歳出される。欧州社会構造基金(Fonds social Europeen: FSE)(注1)から助成金が交付されることもある。

ii)地域圏の負担

地域圏は、とりわけ16-25歳の若年者向けの職業訓練と、各地方の優先事項に応じた職業訓練を管轄する。若年者に関しては、国および労使との協議のうえ、地域圏は圏内で若年者に提供される職業訓練の全体(学校教育も含めて)を調整する。そのほか、国と地域圏は、5年ごとに更新される国-地域圏契約の枠内で、共通・共同負担の優先課題にそろって取り組む。

iii)企業の負担

企業は職業訓練および職能評価の費用を毎年負担して、職業訓練制度の発展に協力する。負担の態様は、企業規模によって異なる。企業の負担金は、労使間で設立され国の認可を受けた機関によって徴収される。

  • 従業員10人以上の企業

    法定負担分は従業員の総給与額の1.5%。実際は、法定負担分を大きく上回って負担金を納める企業があり、平均負担率は3%となっている。

  • 従業員10人未満の企業

    法定負担分は従業員の総給与額の0.15%。当該企業が見習税(taxe d’apprentissage)の課税対象となっている場合には0.25%。

  • 企業経営者・非被用者

    法定負担分は特別な基準によって算定される収入の0.15%。業界によって、労使交渉の結果、負担分が法定よりも高く設定されることがある。

d) 職業訓練機関

継続的職業訓練の実施に当たる機関には、職業訓練機関と職能評価機関とがある。フランスには現在4万5000以上の職業訓練機関が存在し、その市場は開放されている。

  • 公共・準公共職業訓練機関
    • 教育省所管の機関
    • 他省庁所管の機関
    • 全国成人職業訓練協会(Association nationale pour la formation des adultes: AFPA)
    • 農業省所管の農業振興職業訓練所
    • 農業会議所、商工会議所、職業組合
  • 民間職業訓練機関
    • 非営利団体(1901年任意団体法による)
    • 営利機関

1998年に、フランスにおける全職業訓練機関の売上高は424億フラン(=64億6400万ユーロ)であった。全機関の76%は売上高が50万フラン未満で、売上高上位7600機関が総売上高の3分の1を占めている。

e) 情報提供機関

職業訓練に関する情報を欲する実施主体と受益者にこたえるため、全国各地に情報提供の場が設置されている。

実施主体を対象とする情報提供機関

  • 職業訓練推進・資料・情報センター(Centre d’animation, de ressources et d’information sur la formation: CARIF):各地方で公共団体、職業訓練機関、企業等に情報を提供する。
  • センターINFFO(Centre pour le developpement de la formation professionnelle):1976年に設立され、継続的職業訓練に関する情報提供、資料収集、調査研究を行う。労使間で構成される任意団体で、国の助成金を受けている。
  • 欧州職業訓練開発センター(Centre europeen pour le developpement de la formation professionnelle: CEDEFOP):1975年に設立され、欧州連合の各加盟国で職業訓練に関する情報の収集と発信、とりわけ比較調査研究を行う。職業訓練の専門家の視察プログラムも主宰する。

受益者を対象とする情報提供機関

すべての受益者:
国立雇用機関(ANPE)、職業訓練情報館(MIF)、職業情報館(MIP)、各種地方機関
特定の受益者:
女性・家族情報資料センター(CIDFF)、管理職雇用協会(APEC)、農業管理職・技師・技術者雇用協会(APECITA)、障害者就職・オリエンテーション専門委員会(COTOREP)
若年者:
受け入れ・情報・オリエンテーション常設センター(PAIO)、地方ミッション(ML)、「Espace Jeunes」(情報集約の目的で1994年に設置)、情報・オリエンテーションセンター(CIO)、若年者情報資料センター(CIDJ)

f) 運用実態

2000年において、従業員10人以上の企業の職業訓練への参加率は3.18%と、前年(3.23%)から若干下がっている。1994年の参加率は3.29%であり、この数字は近年低下傾向にある。

2000年に職業訓練を受けた就労者の数は365万6395人で、やはり前年(373万7155人)から減少している。このうち286万6319人は、企業によって直接負担される職業訓練計画の枠内で訓練を受けた。

被用者を対象とする全企業の総職業訓練時間数は、2000年に1億6200万時間と、前年(1億5100万時間)から増加した。

2000年は求職者を対象とする職業訓練の活性化が顕著であった。これは、見習契約も含めて、成人・若年者を対象とする特殊雇用契約の件数が前年から4%増えて45万2000件に達したためで、なかでも成人資格取得契約は前年比106%増、7000件の増加となった。

(3) 国および地域圏による職業訓練

ここでは、国および地域圏が実施主体となる職業訓練について概観する。

継続的職業訓練に関する国と地域圏の役割分担は、上述のとおり、就職が困難な者を対象とする職業訓練は国が担当し、一般的な職業訓練や若年者を対象とする職業訓練については地域圏が主導的役割を果たすとなっている。ただし、実際の職業訓練の実施や費用の負担には、複数の当事者(国、地域圏、県、ANPE、ASSEDICなど)が関与している場合が多い。

a) 全国雇用基金(FNE)による職業訓練

全国雇用基金(FNE)は成人の長期失業者を対象に職業訓練を実施しており、費用は国と地域圏が共同で負担している。実際の職業訓練は社会問題・労働・連帯省の出先機関である県労働・雇用・職業訓練総局(DDTEFP)の所管で、訓練の期間は最低40日、最高3年まで。国または地域圏によって認可された職業訓練に限られ、訓練センターまたは企業内部で実施される。FNEによる職業訓練費用の負担は70%が限度である。

FNEはまた、従業員250人未満の中小企業を対象に、人員採用や人材管理の支援も行っている。ここでは、失業の恐れのある低職能の従業員あるいは管理職、特定技術の分野に従事する者が職業訓練の対象となる。

b) 企業アクセス研修(Stage d’acce`s a` l’entreprise: SAE)

ANPEが主宰する職業訓練で、ある特定のポストに採用が見込まれる求職者と企業内での昇進のために資格取得を必要とする被用者を対象とする。この職業訓練には、年齢やANPE登録期間による制限はない。長期失業者、被勾留者、26歳未満の若年者なども対象となる。

SAEはフルタイムで実施され、無償である。費用は国が負担する。ANPEは、企業および職業訓練機関と協議のうえで、当該ポストにふさわしい研修の内容・実施方式を決定する。研修期間は内容により40時間から500時間の間で設定できる。ANPE登録が1年を超える者については、750時間まで研修が認められる。

SAEの受講者は研修生扱いとなり、求職者の場合はその資格で報酬を得るか、雇用復帰支援訓練手当(AREF)あるいは国・地域圏による各種手当を受給できる。社会保険は、各人の資格によって、国、地域圏あるいはASSEDICが保障する。研修の終了後は、原則として、無期限雇用契約または6カ月以上の有期雇用契約によって当該ポストに採用される。被用者の場合は、雇用契約が維持され、研修中も継続して給与の支払いを受ける。

c) 社会参入雇用訓練研修(Stage d’insertion et de formation a` l’emploi: SIFE)

就職が困難な者を対象に、ANPEあるいは全国成人職業訓練協会(AFPA)が提供する研修で、特に、RMI受給者、ASS受給者、1年以上の長期失業者、扶養家族を抱える(あるいは抱えていた)単親者などを対象として想定している。

研修の大半は集団的に実施されるが、個人的な研修も場合によって可能である。

SIFEを受けるには、過去18カ月中に12カ月以上のANPE登録期間があるか、12カ月以上継続して求職者登録していることが必要である。2年以上の長期失業者は優先的扱いを受ける。すでに職業経験があり、ANPEに3カ月以上求職者登録している26歳以上の者は、個人的SIFEを受けることができる。その場合、長期失業に陥りかねない重要なリスクに脅かされていることを示す必要がある。25歳以下の求職者は、地域圏によるプログラムまたは特殊雇用契約が推奨されるため、SIFEの対象とはならない。

集団的SIFEの内容は、ANPEとAFPAが各地域の雇用状況に応じて決定する。研修は原則として実地研修で、最低40時間、最高1200時間とされているが、低資格者が技能習得のためにSIFEを受ける場合は、期間の延長が認められている。

SIFE受講中は、研修生としての身分で、報酬を受けるか、ASSEDICによってAREFなどの手当を受ける。

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