調査シリーズNo.237
「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査 (第1~6回)」結果―JILPTコロナ連続パネル企業調査―

2024年3月22日

概要

研究の目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大やその予防措置が、企業の経営や雇用に及ぼす影響等を継続的に把握する。

研究の方法

調査会社のモニター登録企業(従業員なしを除く)を対象として、2020年6月~2022年2月までの期間について、4か月置きに全6回の連続パネルWeb調査を実施した(第1回及び第2回は地域(10ブロック)、企業規模(3区分)別に層化抽出した企業、第3回から第6回までは全てのモニター登録企業)。具体的な調査期間、配布・回収状況等は図表1のとおり。

図表1 調査期間、配布・回収状況等

6回に渡り実施したコロナ連続企業パネル調査の調査期間、配布・回収状況、調査結果の速報公表日の一覧。
  第1回調査 第2回調査 第3回調査 第4回調査 第5回調査 第6回調査
調査期間 2020年6月1~15日 2020年10月5~15日 2021年2月1~9日 2021年6月1~15日 2021年10月1~14日 2022年2月1~14日
配布数 3,000 4,293 11,070 11,622 11,930 11,470
有効回収数 1,293 1,591 3,265 3,769 3,344 2,895
有効回答率 43.1% 37.1% 29.6% 32.4% 28.0% 25.4%
速報公表日 2020年7月16日 2020年12月16日 2021年4月30日 2021年9月15日 2021年12月24日 2022年5月18日

主な事実発見

2020年6月から2022年2月までの調査期間において、企業の生産・売上額が急激かつ大幅に減少する中でも、それと比べて人件費の減少は緩やかなものにとどまり、労働者数の減少は更に小さかった。厳しい経営環境が続く中でも、企業は人員の減少につながる厳しい雇用調整を避け、主に労働時間や賃金面での対応により、雇用維持の努力をしてきたことがうかがえる。

また、コロナ下の厳しい経営環境においても、企業においては感染拡大前から続いていた人手不足感が根強く、経済活動が停滞する中でも人手不足感が高まっていた。特に、「正社員・正規従業員」の方が、「パート・アルバイト・契約社員」「派遣労働者」よりも不足感が高く、不足感の高まり方も大きくなっている。

現在の生産・売上額等の水準が今後も継続する場合に現状の雇用を維持できる期間の推移をみると(図表2)、調査の回を重ねても、雇用を維持できる期間は短くなっておらず、「それ(2年)以上(当面、雇用削減の予定はない)」と「雇用削減の必要はない」を合計した割合は上昇傾向(第2回:64.8%、第3回:66.7%、第4回:68.6%、第5回:73.9%、第6回:72.5%)にあり、時間が経過しても企業の雇用維持のスタンスにはあまり変化がみられなかった。新型コロナの影響により、一時的に経済活動が停滞したものの、将来的にも人手不足が見込まれ、新型コロナ感染収束後を見据えて人材確保を重視していたことが想定される。

図表2 現在の生産・売上額等の水準が今後も継続する場合に現状の雇用を維持できる期間の推移(パネルデータ)

現在の生産・売上額等の水準が今後も継続する場合に現状の雇用を維持できる期間の推移をみると、調査の回を重ねても、雇用を維持できる期間は短くなっておらず、「それ(2年)以上(当面、雇用削減の予定はない)」と「雇用削減の必要はない」を合計した割合は上昇傾向(第2回:64.8%、第3回:66.7%、第4回:68.6%、第5回:73.9%、第6回:72.5%)にあり、時間が経過しても企業の雇用維持のスタンスにはあまり変化がみられなかった。

コロナ前までは企業においてほとんど取り組まれていなかった在宅勤務(テレワーク)は、2020年4月から5月にかけて発出された最初の緊急事態宣言下において企業の実施率が6割前後まで拡大し、その後は感染拡大の波に応じて上下しながらも、おおむね3割台後半から4割台で推移するなど、感染拡大を契機に広がることとなった(図表3)。地域別には南関東が、産業別には情報通信業が、企業規模別には規模の大きい企業の方が、実施率が高くなっている。

図表3 在宅勤務(テレワーク)実施率の推移(パネルデータ)

2020年2月から2022年1月における「在宅勤務(テレワーク)」の企業の実施率の推移をみると、2020年2月には5.0%だった実施率は、2020年4月から5月にかけて発出された最初の緊急事態宣言下において6割前後まで拡大し、その後は感染拡大の波に応じて上下しながらも、おおむね3割台後半から4割台で推移するなど、感染拡大を契機に「在宅勤務(テレワーク)」が広がっていった。

新型コロナ関連支援策の2022年1月までの利用状況は、「政策金融公庫や民間金融機関のコロナ特別貸付やセーフティネット保証等による資金繰り支援」(38.0%)、「持続化給付金」(37.4%)、「雇用調整助成金」(36.0%)の順に、利用した企業の割合が高くなっている。支援策の複数利用もみられる中、特に飲食・宿泊業での利用が突出して多くなっている。

今後の企業業績の見通しについては、新型コロナの収束が見通せない環境の中で、感染拡大が始まってから2年経過後においても、「分からない」が21.3%となるなど先行きへの不透明感が根強い中で、業務の拡大や別の事業を新たに始めて事業を継続する企業割合が上昇傾向となっており、現状を打開しようとする企業行動もみられた。

今後の見通しを踏まえた将来の人材戦略については、「雇用や人材の育成を重視する」(69.1%)、「年齢に関わりなく能力・成果に応じた登用を進め、正社員の年功賃金割合を小さくする」(50.5%)、「中途採用を強化する」(36.9%)、「教育訓練・能力開発を進める」(36.1%)の順に回答企業割合が高くなっている。また、企業が従業員の満足度を高めるために実施している取組では、「従業員の雇用の安定の取組(解雇をできるだけしない)」(61.4%)、「年次有給休暇の取得促進」(57.6%)、「賃金の引上げ」(56.0%)、「長時間労働の抑制」(49.7%)の順に割合が高くなっている。

企業のデジタル化に関する取組については、何らかの事項をこれまでに実施した企業は65.9%と約3分の2を占める一方、「実施しているものはない」と回答する企業も約3割存在した。事項別には、「テレワーク」(27.8%)と「ペーパーレス化」(27.5%)がそれぞれ3割近くの企業で実施されており、「業務におけるオンラインの活用」(22.0%)と「業務データのクラウド化」(18.6%)も約2割の企業によって実施されている。また、ポストコロナにおいて推進されると企業が考える事項としては、「ペーパーレス化」(63.9%)、「業務におけるオンラインの活用」(58.7%)、「業務データのクラウド化」(58.2%)、「ハンコの撤廃・電子契約ツールの導入」(55.3%)の順に割合が高くなっている。

企業の賃上げの取組と考えについては、感染拡大期に賃上げを「実施した」企業の割合は67.3%、「実施していない」企業の割合は32.7%と、約3分の2の企業は「実施した」と回答している。

また、今後1年間の賃上げの予定については、「実施する」が70.9%、「実施しない」が29.1%と、約7割の企業は「実施する」と回答している。今後1年間に賃上げを実施する予定と回答した企業の理由としては、「社員のモチベーションの向上、待遇改善」(78.9%)、「社員の定着・人員不足の解消のため」(54.1%)、「業績(収益)の向上」(44.2%)、「物価上昇への対応」(24.7%)の順に割合が高くなっている。

政策への貢献

令和3年版労働経済白書、労働政策審議会労働条件分科会等で引用

本文

分割版

研究の区分

プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「新型コロナウイルスによる経済、雇用・就業への影響、及び経済、雇用・労働対策とその効果についての分析に関する研究」
(新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT)

研究期間

令和2~3年度

執筆担当者

中井 雅之
元労働政策研究・研修機構 主席統括研究員
前田 一歩
立教大学コミュニティ福祉学部 コミュニティ政策学科 助教
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.169)。

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