調査シリーズNo.237
「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査
(第1~6回)」結果―JILPTコロナ連続パネル企業調査―
- 記者発表 『第1~6回『新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査(一次集計)』(2020年7月~2022年5月)
概要
研究の目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大やその予防措置が、企業の経営や雇用に及ぼす影響等を継続的に把握する。
研究の方法
調査会社のモニター登録企業(従業員なしを除く)を対象として、2020年6月~2022年2月までの期間について、4か月置きに全6回の連続パネルWeb調査を実施した(第1回及び第2回は地域(10ブロック)、企業規模(3区分)別に層化抽出した企業、第3回から第6回までは全てのモニター登録企業)。具体的な調査期間、配布・回収状況等は図表1のとおり。
第1回調査 | 第2回調査 | 第3回調査 | 第4回調査 | 第5回調査 | 第6回調査 | |
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調査期間 | 2020年6月1~15日 | 2020年10月5~15日 | 2021年2月1~9日 | 2021年6月1~15日 | 2021年10月1~14日 | 2022年2月1~14日 |
配布数 | 3,000 | 4,293 | 11,070 | 11,622 | 11,930 | 11,470 |
有効回収数 | 1,293 | 1,591 | 3,265 | 3,769 | 3,344 | 2,895 |
有効回答率 | 43.1% | 37.1% | 29.6% | 32.4% | 28.0% | 25.4% |
速報公表日 | 2020年7月16日 | 2020年12月16日 | 2021年4月30日 | 2021年9月15日 | 2021年12月24日 | 2022年5月18日 |
主な事実発見
2020年6月から2022年2月までの調査期間において、企業の生産・売上額が急激かつ大幅に減少する中でも、それと比べて人件費の減少は緩やかなものにとどまり、労働者数の減少は更に小さかった。厳しい経営環境が続く中でも、企業は人員の減少につながる厳しい雇用調整を避け、主に労働時間や賃金面での対応により、雇用維持の努力をしてきたことがうかがえる。
また、コロナ下の厳しい経営環境においても、企業においては感染拡大前から続いていた人手不足感が根強く、経済活動が停滞する中でも人手不足感が高まっていた。特に、「正社員・正規従業員」の方が、「パート・アルバイト・契約社員」「派遣労働者」よりも不足感が高く、不足感の高まり方も大きくなっている。
現在の生産・売上額等の水準が今後も継続する場合に現状の雇用を維持できる期間の推移をみると(図表2)、調査の回を重ねても、雇用を維持できる期間は短くなっておらず、「それ(2年)以上(当面、雇用削減の予定はない)」と「雇用削減の必要はない」を合計した割合は上昇傾向(第2回:64.8%、第3回:66.7%、第4回:68.6%、第5回:73.9%、第6回:72.5%)にあり、時間が経過しても企業の雇用維持のスタンスにはあまり変化がみられなかった。新型コロナの影響により、一時的に経済活動が停滞したものの、将来的にも人手不足が見込まれ、新型コロナ感染収束後を見据えて人材確保を重視していたことが想定される。
コロナ前までは企業においてほとんど取り組まれていなかった在宅勤務(テレワーク)は、2020年4月から5月にかけて発出された最初の緊急事態宣言下において企業の実施率が6割前後まで拡大し、その後は感染拡大の波に応じて上下しながらも、おおむね3割台後半から4割台で推移するなど、感染拡大を契機に広がることとなった(図表3)。地域別には南関東が、産業別には情報通信業が、企業規模別には規模の大きい企業の方が、実施率が高くなっている。
新型コロナ関連支援策の2022年1月までの利用状況は、「政策金融公庫や民間金融機関のコロナ特別貸付やセーフティネット保証等による資金繰り支援」(38.0%)、「持続化給付金」(37.4%)、「雇用調整助成金」(36.0%)の順に、利用した企業の割合が高くなっている。支援策の複数利用もみられる中、特に飲食・宿泊業での利用が突出して多くなっている。
今後の企業業績の見通しについては、新型コロナの収束が見通せない環境の中で、感染拡大が始まってから2年経過後においても、「分からない」が21.3%となるなど先行きへの不透明感が根強い中で、業務の拡大や別の事業を新たに始めて事業を継続する企業割合が上昇傾向となっており、現状を打開しようとする企業行動もみられた。
今後の見通しを踏まえた将来の人材戦略については、「雇用や人材の育成を重視する」(69.1%)、「年齢に関わりなく能力・成果に応じた登用を進め、正社員の年功賃金割合を小さくする」(50.5%)、「中途採用を強化する」(36.9%)、「教育訓練・能力開発を進める」(36.1%)の順に回答企業割合が高くなっている。また、企業が従業員の満足度を高めるために実施している取組では、「従業員の雇用の安定の取組(解雇をできるだけしない)」(61.4%)、「年次有給休暇の取得促進」(57.6%)、「賃金の引上げ」(56.0%)、「長時間労働の抑制」(49.7%)の順に割合が高くなっている。
企業のデジタル化に関する取組については、何らかの事項をこれまでに実施した企業は65.9%と約3分の2を占める一方、「実施しているものはない」と回答する企業も約3割存在した。事項別には、「テレワーク」(27.8%)と「ペーパーレス化」(27.5%)がそれぞれ3割近くの企業で実施されており、「業務におけるオンラインの活用」(22.0%)と「業務データのクラウド化」(18.6%)も約2割の企業によって実施されている。また、ポストコロナにおいて推進されると企業が考える事項としては、「ペーパーレス化」(63.9%)、「業務におけるオンラインの活用」(58.7%)、「業務データのクラウド化」(58.2%)、「ハンコの撤廃・電子契約ツールの導入」(55.3%)の順に割合が高くなっている。
企業の賃上げの取組と考えについては、感染拡大期に賃上げを「実施した」企業の割合は67.3%、「実施していない」企業の割合は32.7%と、約3分の2の企業は「実施した」と回答している。
また、今後1年間の賃上げの予定については、「実施する」が70.9%、「実施しない」が29.1%と、約7割の企業は「実施する」と回答している。今後1年間に賃上げを実施する予定と回答した企業の理由としては、「社員のモチベーションの向上、待遇改善」(78.9%)、「社員の定着・人員不足の解消のため」(54.1%)、「業績(収益)の向上」(44.2%)、「物価上昇への対応」(24.7%)の順に割合が高くなっている。
政策への貢献
令和3年版労働経済白書、労働政策審議会労働条件分科会等で引用
本文
分割版
研究の区分
プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「新型コロナウイルスによる経済、雇用・就業への影響、及び経済、雇用・労働対策とその効果についての分析に関する研究」
(新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT)
研究期間
令和2~3年度
執筆担当者
- 中井 雅之
- 元労働政策研究・研修機構 主席統括研究員
- 前田 一歩
- 立教大学コミュニティ福祉学部 コミュニティ政策学科 助教
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.169)。
関連の研究成果
- 記者発表『第6回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(一次集計)結果(2021年9、10、11、12月、2022年1月の変化を2月に調査・2020年2月からの連続パネル企業調査・最終)』(PDF:1.4MB) (2022年5月18日 )
- 記者発表『「第5回 新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(一次集計)結果(2021年5、6、7、8、9月の変化を10月に調査・2020年2月からの連続パネル企業調査)』(PDF:2.2MB)(2021年12月24日 )
- 記者発表『「第4回 新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(一次集計)結果(2021年1、2、3、4、5月の変化を6月に調査・2020年2月からの連続パネル企業調査)』(PDF:1.4MB)(2021年9月15日 )
- 記者発表『第3回「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(一次集計)結果 (2020年10、11、12月、2021年1月の変化を2021年2月に調査・2020年2月からの連続パネル企業調査」』(PDF:1.2MB)(2021年4月30日 )
- 記者発表『「第2回 新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(一次集計)結果(5、6、7、8、9月の変化を10月に調査・2月からの連続パネル企業調査)』(PDF:1.2MB)(2020年12月16日 )
- 記者発表『「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査 」(一次集計)結果(2、3、4、5月の変化を6月に調査・企業調査)』(PDF:1.1MB)(2020年7月16日)
- 『検証・コロナ期日本の働き方─意識・行動変化と雇用政策の課題』(慶應大学出版会)(2023年3月29日刊行)
- 『コロナ禍における個人と企業の変容─働き方・生活・格差と支援策』(慶應大学出版会)(2021年11月25日刊行)
- 『テレワーク コロナ禍における政労使の取組』(ブックレット)(2021年6月3日刊行)
- ディスカッションペーパー22-06『コロナショックの産業間多様性と企業が見出した活路─ポストコロナの経済社会の変革に向けて─』(田上皓大)(2020年7月)
- 新型コロナウイルス感染症関連情報 新型コロナに関する報告書
- JILPTリサーチアイ 第42回「テレワークは今後も定着していくか? 生産性の高いテレワーク実現に向けた方策提言─JILPT新型コロナの雇用への影響 6月企業調査からの示唆─」(井上裕介)(2020年7月)
- JILPTリサーチアイ 第43回「業種別にみたコロナ禍への企業対応─JILPT企業調査より─」(中村良二)(2020年8月)
- JILPTリサーチアイ 第44回「2~5月の新型コロナウイルス流行下の企業業績と採用・雇用維持─「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」の二次分析─」(小林徹)(2020年8月)
- JILPTリサーチアイ 第53回「新型コロナウイルス流行下(2020年2~9月)の企業業績と雇用─「第2回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」二次分析─」(小林徹)(2021年2月)
- JILPTリサーチアイ 第58回「新型コロナ感染症拡大下における雇用調整助成金利用企業の特徴と助成金の効果─JILPT企業調査二次分析」(酒光一章)(2021年4月)
- JILPTリサーチアイ 第68回「企業の感染防止対策」(田上皓大)(2021年9月)
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