JILPTリサーチアイ 第44回
2~5月の新型コロナウイルス流行下の企業業績と採用・雇用維持
─「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」の二次分析─

新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT委員
高崎経済大学経済学部准教授
小林 徹

2020年8月21日(金曜)掲載

労働政策研究・研修機構は7月16日、『「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査 」(一次集計)結果』(PDF:1.1MB)を発表した。そこでは、7割超の企業の業績悪化が確認され、業績が悪化した企業ほどなんらかの雇用調整を実施していることが指摘されている。本稿では、同じ調査データにより計量経済分析の手法を用いて、より業績への悪影響が大きい企業はどのような企業なのか、業績が悪化しているほど新卒採用の抑制や人員削減といったより深刻な雇用調整が実施されているか、などを確認していく。

1.どのような企業がより大きな業績悪化に見舞われたのか

「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」では、業績や人件費が減少したかどうかやその程度、実施した雇用調整の具体的項目名が2月~5月の各時点分調査されている。そのため、上記の変数については同じ企業の4時点分のデータが確認でき、パネルデータ分析が可能な構造になっている。そこで、業績に関する回答から、前年同期比での「業績変化」変数(増加=1.1、同じ=1.0、1割減少=0.9、2割減少=0.8……)を作成し、こちらを被説明変数としたパネル分析を実施した。分析結果は表1のとおりである。

表1よりモデル1~3のパネル分析の結果を見ると、検定結果から変量効果モデルが支持されておりテレワーク実施ダミーは有意な結果とならず、緊急事態宣言のあった4・5月ダミーが統計的有意なマイナスの結果を示している。同様の結果は他のモデルでも示されており、様々な企業属性をコントロールしても4月・5月ほど業績の悪化が深刻(係数はマイナス0.12~マイナス0.13)になったことがうかがえる。さらにモデル4~7の産業ダミーの結果を見ると、飲食・宿泊業と生活関連サービス・娯楽業が有意なマイナスの結果となり、係数もマイナス0.3を超えている。『「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(一次集計)結果』で報告されたように7割超の企業が業績悪化になったが、やはりサービス業の業績悪化が著しかったことが確認できる。また、企業規模ダミーの結果を見るといずれも統計的に有意なプラスとなり規模が大きいほど係数が大きくなっている。小規模企業ほど業績悪化が激しいと考えられる。新型コロナウイルスの企業業績への影響は中小サービス業ほど深刻であったことがうかがえる。

表1 前年同月比の業績変化に関する分析結果

被説明変数 業績変化(増加=1.1、同じ=1、1割減=0.9、2割減=0.8……)
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4 モデル5 モデル6 モデル7
固定効果
モデル
変量効果
モデル
OLS OLS OLS OLS OLS
b/se b/se b/se b/se b/se b/se b/se
活動地域の緊急事態宣言適用日数(例:首都圏=48日) - - - 0 0 0 0
- - - [0.000] [0.000] [0.000] [0.000]
緊急事態宣言後D(4月・5月D) -0.127 -0.13 -0.134 -0.126 -0.126 -0.126 -0.126
[0.005]*** [0.005]*** [0.006]*** [0.023]*** [0.023]*** [0.023]*** [0.023]***
上記2変数の交差項 - - - 0 0 0 0
- - - [0.001] [0.001] [0.001] [0.001]
テレワーク実施D -0.009 -0.002 0.007 - - 0 -0.013
[0.007] [0.006] [0.006] - - [0.007] [0.007]*
鉱業,採石業,砂利採取業D - - - 0.1 0.128 0.1 0.13
参照:農林漁業、電気・ガス・熱供給業 - - - [0.137] [0.137] [0.137] [0.136]
建設業D - - - -0.094 -0.076 -0.094 -0.072
- - - [0.097] [0.097] [0.098] [0.097]
製造業D - - - -0.125 -0.117 -0.125 -0.114
- - - [0.097] [0.096] [0.097] [0.096]
情報通信業D - - - -0.054 -0.045 -0.054 -0.039
- - - [0.098] [0.097] [0.098] [0.097]
運輸業,郵便業D - - - -0.097 -0.093 -0.097 -0.092
- - - [0.098] [0.097] [0.098] [0.097]
卸売業,小売業D - - - -0.144 -0.123 -0.144 -0.119
- - - [0.097] [0.097] [0.097] [0.097]
金融業,保険業D - - - -0.179 -0.165 -0.179 -0.161
- - - [0.104]* [0.103] [0.104]* [0.103]
不動産業,物品賃貸業D - - - -0.146 -0.125 -0.147 -0.121
- - - [0.099] [0.098] [0.099] [0.098]
学術研究,専門・技術サービス業D - - - -0.144 -0.111 -0.144 -0.105
- - - [0.098] [0.097] [0.098] [0.097]
宿泊業,飲食サービス業D - - - -0.381 -0.373 -0.381 -0.371
- - - [0.100]*** [0.099]*** [0.100]*** [0.099]***
生活関連サービス業,娯楽業D - - - -0.351 -0.332 -0.351 -0.33
- - - [0.100]*** [0.099]*** [0.100]*** [0.099]***
教育,学習支援業D - - - -0.15 -0.135 -0.15 -0.132
- - - [0.109] [0.108] [0.109] [0.108]
医療,福祉D - - - -0.09 -0.092 -0.09 -0.092
- - - [0.100] [0.099] [0.100] [0.099]
複合サービス事業D - - - -0.2 -0.152 -0.2 -0.149
- - - [0.119]* [0.118] [0.119]* [0.118]
サービス業(他に分類されないもの)D - - - -0.087 -0.07 -0.087 -0.066
- - - [0.098] [0.097] [0.098] [0.097]
6人~19人D - - - - 0.068 - 0.069
参照:5名以下 - - - - [0.013]*** - [0.013]***
20人~49人D - - - - 0.073 - 0.074
- - - - [0.013]*** - [0.013]***
50人~99人D - - - - 0.096 - 0.098
- - - - [0.015]*** - [0.015]***
100人~299人D - - - - 0.096 - 0.099
- - - - [0.011]*** - [0.011]***
300人~999人D - - - - 0.098 - 0.103
- - - - [0.013]*** - [0.013]***
1000人以上D - - - - 0.12 - 0.125
- - - - [0.017]*** - [0.018]***
定数項 0.94 0.939 0.937 1.063 0.974 1.063 0.967
[0.003]*** [0.005]*** [0.004]*** [0.098]*** [0.098]*** [0.098]*** [0.098]***
観察値数 5066 5066 5066 5066 5066 5066 5066
Adj-R-squared -0.048 - 0.097 0.15 0.163 0.15 0.164
hausman 0.134
xttest 0.000

注1:[]内の値は標準誤差を表す。

注2:***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。

※都道府県及び企業IDでクラスター内の誤差項の相関に対して頑健な標準誤差による推定を実施したところ、全業種、企業規模が有意な結果となり、他の変数の有意、非有意の結果は変わらなかった。産業や企業規模についても係数の大きさから指摘される特徴に違いは無いことから、クラスターロバスト標準誤差を用いない分析結果を掲載している。

2.業績悪化が激しい企業ほど新卒採用抑制や人員削減などの雇用調整を実施したのか

次に、業績悪化と雇用調整との関係を同様のパネル分析で確認していく。「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」では様々な雇用調整についての質問が設けられているが、ここでは雇用調整の中でも労働者への影響が重大と考えられる「新卒採用抑制」と「人員削減」の状況を確認したい。まず「新卒採用抑制」については、調査に設けられた「新規学卒者の採用の抑制・停止」を選択した企業を1とする「新卒採用抑制を実施ダミー」を作成した。加えて「人員削減」については、「希望退職者の募集」、「解雇」、「雇い止め」のいずれかを実施した企業を1とする「人員削減を実施ダミー」を作成した。雇用調整に関する質問は雇用形態ごとに設けられており、上記それぞれのダミー変数は、正社員に関するダミー変数と、正規・非正規のどちらかでも選択された場合には1とするダミー変数の2パターンを用いる。雇用調整に関する質問も2月~5月の4時点で聞かれているため被説明変数には「次月に新卒採用抑制を実施(人員削減を実施)ダミー」を用い、説明変数に「業績変化」を用いることで、時点を考慮した分析を実施する。これにより、新型コロナウイルス流行期に業績が悪化した企業ほど、翌月に雇用調整を実施しやすくなっていたかどうかを確認する。分析結果は表2に掲載した。

表2より採用抑制に関する分析結果を見ると、正社員に限定した場合もしない場合も同様の結果となっている。どちらも固定効果モデルが支持され、「業績変化」は統計的に有意なマイナスとなった。つまり、時点で変化しない企業固有の特性によらず、業績が悪化している企業ほど新卒採用の抑制を実施していたことがうかがえる。注目できるのは「テレワーク実施ダミー」が統計的に有意なマイナスの結果となっていることである。企業の固定効果がコントロールされたうえで、テレワークを実施した企業ほど新卒採用の抑制が回避されやすくなっており、テレワークの効果とも考えられるのではないだろうか。WEB面接など新卒採用活動自体がリモートになってきているためか、テレワークを実施できなかった企業はそもそも新卒採用を停止・抑制せざるを得なかったとも考えられる。

次に表2より人員削減に関する分析結果を見ると、正社員については変量効果モデルが支持され、正社員に限定しない場合には固定効果モデルが支持されている。どちらも「業績変化」は統計的にマイナスの結果となっており、やはり業績が悪化している企業ほど人員削減を正社員についても、非正規を含めても実施されていたことがうかがえる。ここでは「テレワーク実施ダミー」は有意な結果を示していない。やはりテレワーク実施が雇用維持そのものに効果があるというよりも、採用活動自体に欠かせないものとして採用維持に限定して効果がみられたのだと考えられる。表2では新卒採用抑制、人員削減に加えて、給与削減を実施したかどうかについても分析を加えている。「給与削減の実施」に関する分析を見ると、正社員に限定した場合もしない場合も変量効果モデルが支持され、「業績変化」はやはり統計的有意なマイナスの結果を示している。業績が悪化している企業ほど、給与削減も実施しており、新型コロナウイルス流行下での業績悪化は「採用抑制」、「人員削減」、「給与削減」など労働者に重大な影響を及ぼしたことがうかがえる。

表2 採用抑制、人員削減に関する分析結果

被説明変数 次月に正社員の新卒抑制を実施D 次月に新卒抑制を実施D
固定効果
モデル
変量効果
モデル
OLS 固定効果
モデル
変量効果
モデル
OLS
b/se b/se b/se b/se b/se b/se
業績変化(増加=1.1、同じ=1、1割減=0.9、2割減=0.8……) -0.03 -0.054 -0.098 -0.021 -0.045 -0.102
[0.015]** [0.013]*** [0.015]*** [0.015] [0.013]*** [0.015]***
テレワーク実施D -0.012 -0.01 -0.005 -0.016 -0.015 -0.01
[0.006]* [0.006]* [0.007] [0.006]*** [0.006]*** [0.007]
3月D 0.015 0.014 0.012 0.016 0.014 0.012
参照:2月D [0.004]*** [0.004]*** [0.007]* [0.004]*** [0.004]*** [0.007]
4月D 0.021 0.017 0.009 0.024 0.02 0.011
[0.005]*** [0.005]*** [0.008] [0.005]*** [0.005]*** [0.008]
定数項 0.048 0.07 0.112 0.043 0.066 0.12
[0.015]*** [0.013]*** [0.015]*** [0.014]*** [0.013]*** [0.016]***
観察値数 3807 3807 3807 3807 3807 3807
Adj-R-squared -0.49 0.013 -0.489 0.013
hausman 0.0185 0.0049
xttest 0 0
被説明変数 次月に正社員の人員削減(希望退職の募集、解雇、雇止)を実施D 次月に人員削減(希望退職の募集、解雇、雇止)を実施D
固定効果
モデル
変量効果
モデル
OLS 固定効果
モデル
変量効果
モデル
OLS
b/se b/se b/se b/se b/se b/se
業績変化(増加=1.1、同じ=1、1割減=0.9、2割減=0.8……) -0.018 -0.027 -0.04 -0.099 -0.124 -0.162
[0.009]** [0.008]*** [0.008]*** [0.024]*** [0.021]*** [0.022]***
テレワーク実施D -0.006 -0.004 0 0.001 0.009 0.021
[0.004]* [0.003] [0.004] [0.010] [0.009] [0.010]**
3月D 0.002 0.001 0 0.031 0.029 0.025
参照:2月D [0.003] [0.002] [0.004] [0.007]*** [0.007]*** [0.010]**
4月D 0.004 0.002 -0.002 0.029 0.023 0.013
[0.003] [0.003] [0.004] [0.009]*** [0.008]*** [0.011]
定数項 0.025 0.033 0.046 0.137 0.161 0.196
[0.009]*** [0.008]*** [0.008]*** [0.023]*** [0.021]*** [0.022]***
観察値数 3807 3807 3807 3807 3807 3807
Adj-R-squared -0.503 0.006 -0.471 0.02
hausman 0.232 0.0141
xttest 0 0
被説明変数 次月に正社員の給与削減を実施D 次月に給与削減を実施D
固定効果
モデル
変量効果
モデル
OLS 固定効果
モデル
変量効果
モデル
OLS
b/se b/se b/se b/se b/se b/se
業績変化(増加=1.1、同じ=1、1割減=0.9、2割減=0.8……) -0.026 -0.039 -0.058 -0.038 -0.051 -0.068
[0.011]** [0.009]*** [0.010]*** [0.012]*** [0.010]*** [0.010]***
テレワーク実施D -0.004 -0.004 -0.004 -0.008 -0.008 -0.009
[0.005] [0.004] [0.004] [0.005] [0.004]* [0.005]*
3月D 0.009 0.009 0.008 0.013 0.012 0.012
参照:2月D [0.003]*** [0.003]*** [0.004]* [0.003]*** [0.003]*** [0.005]**
4月D 0.013 0.012 0.009 0.016 0.015 0.014
[0.004]*** [0.004]*** [0.005]* [0.004]*** [0.004]*** [0.005]**
定数項 0.03 0.042 0.061 0.041 0.054 0.07
[0.010]*** [0.009]*** [0.010]*** [0.012]*** [0.010]*** [0.011]***
観察値数 3807 3807 3807 3807 3807 3807
Adj-R-squared -0.489 0.011 -0.483 0.015
hausman 0.2199 0.3785
xttest 0 0

注1:[]内の値は標準誤差を表す。

注2:***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。

※都道府県及び企業IDでクラスター内の誤差項の相関に対して頑健な標準誤差による推定を実施したところ、変数の有意、非有意の結果は変わらなかったことから、クラスターロバスト標準誤差を用いない分析結果を掲載している。

3.どのような企業が業績回復の見通しや事業継続の見通しが明るいのか

次に、企業が主観的に感じる「業績の回復見通し」と「事業継続の見通し」への影響について企業属性をコントロールし、テレワークの実施や持続化給付金といった経営支援策の影響を検討する。但し、経営支援策に関する質問は「利用を申請したり、今後の利用を考えたりしている選択肢をすべて選択してください」となっており、利用を検討しているだけでも選択できるようになっている。必ずしも経営支援策を利用した後の効果が反映されているわけではないことに留意する必要がある。また「業績回復の見通し」と「事業継続の見通し」については、回答時6月の1時点だけ聞かれているためパネル分析はできない。説明変数は、産業ダミー、企業規模ダミーに加え、2~5月各月の昨年同月比の業績変化や人件費変化、5月時点にテレワークを実施していたことを反映するダミー変数、2~5月のいずれかで人員削減や新卒採用抑制を実施したことを反映するダミー変数を加えた。分析手法は最小二乗法、順序プロビットの双方を実施したが、分析結果の傾向はほぼ変わらなかったため、表3には最小二乗法の結果を掲載している。

表3より、「業績回復の見通し」に関する分析結果を見ると、モデル1~3に共通して2・3月の業績変化が統計的有意なプラス、テレワーク実施ダミーも統計的有意なプラスとなっている。緊急事態宣言が出されていない時点の業績が良好なほど、テレワークが実施されていた企業ほど業績回復の見通しは明るくなっている。

次に「事業継続の見通し」に関する分析結果を見ると、モデル4~6に共通して5月と3月の業績変化が統計的有意なプラス、テレワーク実施も統計的有意なプラスとなっている。またモデル5~6に共通して2月の人件費変化が統計的有意なプラスとなっている。最後にモデル6で含めた2~5月に正社員の人員削減を実施ダミーが統計的有意なマイナスになっている。やはり業績や人件費の悪化程度が小さいほど事業継続の見通しは明るいことが示された。一方で、正社員の人員削減まで追い込まれた企業の見通しは厳しい。また、注目されるのはテレワークが実施された企業の見通しが業績回復に加えて事業継続についても見通しを明るくさせていることである。但し、対人対面で仕事をしなくてはならない企業など、そもそもテレワークを実施しにくい企業ほど新型コロナウイルスの影響を回避できないことを考えると、テレワーク実施そのものの効果ではなく企業の特性が反映された結果であるかもしれない。そこで、次のセクションではテレワーク実施ダミーを被説明変数とした分析を行い、テレワークを実施しやすい企業属性を確認する。その後、傾向スコアマッチング法によってテレワーク実施のしやすさが理論的に同様の企業間で、実際にテレワークを実施した企業としていない企業とで見通しがどれだけ異なるかを確認する。これにより異なる分析手法でもテレワーク実施の見通しへの影響がみられるかどうかを確認したい。

表3 業績回復、事業継続の見通しに関する分析結果

被説明変数 業績回復の見通し( 5:半年以内で回復、 4:半年~1年で回復、3: 1~2年で回復、2: 2年超で回復、1:回復しない ) 事業継続の見通し( 5:拡大、4:現行通り、 3:縮小し継続、2:別事業で継続、1:廃業 )
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4 モデル5 モデル6
OLS
b/se b/se b/se b/se b/se b/se
5月の業績変化 0.29 0.201 0.198 0.423 0.347 0.341
[0.215] [0.227] [0.228] [0.104]*** [0.110]*** [0.109]***
4月の業績変化 -0.113 -0.089 -0.087 0.059 0.117 0.104
[0.229] [0.236] [0.236] [0.115] [0.119] [0.118]
3月の業績変化 0.485 0.456 0.46 0.229 0.243 0.222
[0.253]* [0.262]* [0.262]* [0.124]* [0.128]* [0.128]*
2月の業績変化 0.758 0.802 0.795 0.09 -0.005 -0.005
[0.267]*** [0.277]*** [0.278]*** [0.129] [0.133] [0.133]
5月のテレワーク実施D 0.131 0.157 0.153 0.075 0.082 0.085
[0.073]* [0.074]** [0.074]** [0.035]** [0.035]** [0.035]**
持続化給付金(売上が減少している事業主に200万円等) 0.004 -0.008 -0.008 -0.034 -0.044 -0.048
[0.100] [0.101] [0.102] [0.051] [0.052] [0.052]
都道府県等の休業要請や営業時間短縮に応じた場合の休業協力金 -0.099 -0.16 -0.158 -0.106 -0.095 -0.116
[0.149] [0.154] [0.154] [0.075] [0.078] [0.078]
政策金融公庫や民間金融機関のコロナ特別貸付やセーフティネット保証等による資金繰り支援 -0.044 -0.045 -0.043 0.038 0.04 0.043
[0.079] [0.080] [0.080] [0.039] [0.039] [0.039]
雇用調整助成金(従業員の雇用を維持する場合に休業手当等を助成) -0.022 -0.037 -0.037 -0.057 -0.06 -0.057
[0.073] [0.073] [0.073] [0.036] [0.036]* [0.036]
5月の人件費変化 - 0.165 0.173 - 0.228 0.245
- [0.447] [0.448] - [0.221] [0.220]
4月の人件費変化 - 0.141 0.138 - -0.076 -0.192
- [0.567] [0.576] - [0.280] [0.281]
3月の人件費変化 - -1.017 -1.024 - -0.434 -0.376
- [0.714] [0.716] - [0.349] [0.348]
2月の人件費変化 - 0.813 0.819 - 0.883 0.822
- [0.792] [0.794] - [0.376]** [0.374]**
2~5月に正社員の人員削減(希望退職募集、解雇、雇止)を実施D - - 0.124 - - -0.404
- - [0.244] - - [0.121]***
2~5月に正社員の採用抑制を実施D - - -0.075 - - -0.059
- - [0.162] - - [0.079]
定数項 2.246 2.175 2.176 3.153 2.663 2.795
[0.295]*** [0.500]*** [0.511]*** [0.543]*** [0.583]*** [0.582]***
観察値数 847 826 826 1155 1130 1130
Adj-R-squared 0.039 0.042 0.041 0.086 0.095 0.103

注1:[]内の値は標準誤差を表す。

注2:***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。

注3:産業ダミー、企業規模ダミーも含めているが、ほとんどの変数で有意な結果が確認されるものは無く、結果の掲載を省力している。

※都道府県及び企業IDでクラスター内の誤差項の相関に対して頑健な標準誤差による推定を実施したところ、モデル1のテレワーク実施Dが非有意になった以外に、分析結果はほとんど変わらなかったことから、クラスターロバスト標準誤差を用いない分析結果を掲載している。

4.テレワークを実施しやすい企業の特徴と、その特徴が近い企業間での見通しの違い

まず「テレワーク実施ダミー」を被説明変数に用いたプロビット分析を実施し、テレワークを実施しやすい企業の属性を確認していく。分析結果は表4に掲載した。表4を見ると、3月、4月、5月ダミーが統計的有意にプラスとなり限界効果も増えている。2月以降テレワークを実施する企業がだんだんと増えてきた状況がうかがえる。産業と企業規模ダミーを見ると、情報通信業や企業規模ダミーが統計的有意なプラスとなり、企業規模が大きいほど、情報通信企業ほどテレワークが実施されやすい傾向が共通して示されている。一方で医療・福祉業が共通して統計的に有意なマイナスとなっている。製造業、飲食・宿泊サービス、生活関連サービス・娯楽も分析対象を限定しない場合には、統計的に有意なマイナスになっている。やはり対面で顧客対応業務を行わざるを得ないサービス、医療・福祉業はテレワークを実施しにくいと考えられる。加えて製造業のテレワーク実施も進んでいないことは興味深い。

表4の右側にはモデル4で用いた分析対象について、5月にテレワークを実施した企業の割合を産業、企業規模別に示した。436企業と最も多かった製造業では5月にテレワークを実施した企業は53.9%と約半数になっている。宿泊業、飲食サービスは44.4%、生活関連サービス、娯楽業は42.1%と、テレワークを実施しにくいと思われたサービス業でも一定程度の企業が実施していることがうかがえる。一方で、医療・福祉は23.5%とやはり少ない。

表4 テレワーク実施に関する分析結果

被説明変数 テレワーク実施ダミー
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4
プロビット
dfdx/se dfdx/se dfdx/se dfdx/se
3月時ダミー 0.29 0.3 0.315 -
[0.066]*** [0.067]*** [0.069]*** -
4月時ダミー 0.572 0.589 0.615 -
[0.064]*** [0.066]*** [0.068]*** -
5月時ダミー 0.581 0.597 0.624 -
[0.064]*** [0.066]*** [0.068]*** -
製造業D - -0.013 -0.053 -0.05
- [0.050] [0.052]*** [0.094]
情報通信業D - 0.366 0.326 0.387
- [0.088]*** [0.090]*** [0.236]***
卸売業,小売業D - 0.003 0.016 0.02
- [0.054] [0.055] [0.100]
金融業,保険業D - 0.148 0.063 0.089
- [0.261] [0.272] [0.545]
宿泊業,飲食サービス業D - -0.096 -0.126 -0.146
- [0.177]* [0.179]** [0.309]
生活関連サービス業,娯楽業D - -0.088 -0.099 -0.142
- [0.171] [0.176]* [0.308]
教育,学習支援業D - -0.113 -0.086 0.009
- [0.381] [0.385] [0.633]
医療,福祉D - -0.215 -0.264 -0.458
- [0.208]*** [0.212]*** [0.357]***
100人~299人D - - 0.171 0.23
- - [0.046]*** [0.082]***
300人~999人D - - 0.318 0.358
- - [0.065]*** [0.126]***
1000人以上D - - 0.504 0.421
- - [0.110]*** [0.273]***
観察値数 5066 5066 5066 1259
5月テレワークを実施した企業(%) 観察値数
全体 55.8 1259
農林漁業 0.0 1
鉱業,採石業,砂利採取業 0.0 1
建設業 49.6 133
製造業 53.9 436
電気・ガス・熱供給・水道業
情報通信業 93.9 82
運輸業,郵便業 36.9 84
卸売業,小売業 53.8 316
金融業,保険業 71.4 7
不動産業,物品賃貸業 66.7 36
学術研究,専門・技術サービス業 80.4 51
宿泊業,飲食サービス業 44.4 18
生活関連サービス業,娯楽業 42.1 19
教育,学習支援業 50.0 4
医療,福祉 23.5 17
複合サービス事業 0.0 2
サービス業(他に分類されないもの) 59.6 52
5人以下 26.7 90
6人~19人 41.8 153
20人~49人 39.6 149
50人~99人 43.5 85
100人~299人 60.5 559
300人~999人 77.9 172
1000人以上 90.2 51

注1:[]内の値は標準誤差を表す。

注2:***は1%水準、**は5%水準、*は10%水準で有意であることを示す。

注3:モデル4は5月の分析対象に限定した分析結果である。

※都道府県及び企業IDでクラスター内の誤差項の相関に対して頑健な標準誤差による推定を実施したところ、変数の有意、非有意の結果は変わらなかったことから、クラスターロバスト標準誤差を用いない分析結果を掲載している。

次に表4のモデル4の分析結果を用いてテレワーク実施に関する理論確率を算出し[注1]、傾向スコアマッチング法による分析を行った。本分析は、テレワーク実施の理論確率が近い企業同士で、実際にテレワークを実施した企業と実際には実施していない企業の業績回復や事業継続の見通しの違いを比較するというものである[注2]

表5を見ると、実際にテレワークを実施した企業としていない企業の業績回復見通しの差を示すATTは統計的に有意なプラスの結果となっている。属性が類似した企業の中でも、テレワークを実施している企業のほうが業績回復の見通しが良好であることがうかがえる。新型コロナウイルスのために様々な制限がかかるなかでも、テレワークによって業務を進められることで明るい業績見通しに繋がっているのかもしれない。一方で、事業継続の見通しについては有意な結果は示されなかった。テレワークの実施が企業業績になんらかの良好な影響があるのであれば、その実施割合が高くなかった業界で今後さらに実施が進む可能性が考えられる。また、これまで対人対面で受けていたサービスをリモートに切り替えるなど、リモートサービスの浸透、普及も重要になってくるのではないだろうか。

表5 傾向スコアマッチング法による、テレワーク実施企業と実施していない企業の業績回復・事業継続見通しの違い

Nearest Neighbor Matching
N(実施企業) N(非実施企業) ATT 標準誤差
業績回復の見通し 702 371 0.195 [0.073]***
事業継続の見通し 702 503 0.015 [0.064]
Kernel Matching
N(実施企業) N(非実施企業) ATT 標準誤差
業績回復の見通し 702 555 0.17 [0.07]***
事業継続の見通し 702 555 0.007 [0.063]

5.二次分析結果のまとめ

本稿では、2020年6月に労働政策研究・研修機構が実施した「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」のデータを用いて、大きく以下の3点を計量経済学の分析手法によって確認した。第一には、2月~5月の新型コロナウイルス流行期にどのような企業の業績悪化が大きかったのか。第二には、このような業績悪化の程度が大きいほど、雇用調整が実施されやすかったのか。ここでは、様々な雇用調整の中でも特に労働者への影響が大きい新卒採用の抑制や既存の従業員の人員削減に注目した。第三には、テレワークの実施や持続化給付金といった経営支援策の利用が、企業の業績回復への見通しや事業継続の見通しに影響しているかどうか、である。

分析の結果、中小企業や新型コロナウイルスの影響を直接的に受けやすい宿泊・飲食サービス業、生活関連サービス・娯楽業、医療・福祉業ほど業績悪化が著しかった。また、緊急事態宣言下ほど2・3月に比べて業績の前年同月比が0.12~0.13ほど低くなっていた。テレワーク実施の業績悪化への影響はパネル分析からも確認できなかった。

業績悪化の雇用調整への影響に関するパネル分析では、業績悪化が大きいほど、新卒採用抑制、人員削減、給与削減のいずれも実施されやすくなっていた。この度の新型コロナウイルスは多くの企業の業績を悪化させ、雇用への影響も非常に大きかったと考えられる。また採用活動がリモートになりつつあることの影響か、テレワークを実施している企業ほど、新卒採用抑制を実施していなかった。

企業の業績回復や事業継続の見通しに関する分析では、回帰分析による結果と傾向スコアマッチング法による結果に共通して、テレワークが実施されている企業ほど業績回復の見通しが良好であった。

これら分析の結果から今後に向けた課題を考えると、企業の業績悪化を防ぐ手立てがより求められるのではないだろうか。業績悪化の程度は人員削減にも新卒採用抑制にも影響し、雇用の出口・入口ともに悪化させていた。出口をふさぐ雇用調整助成金や出てしまった労働者を支援する失業給付、再就職支援は重要であるが、これに加えてあらたな就職氷河期をおこさぬよう入口に対する対策も重要と考えられる。通年通りの規模で採用をした企業にインセンティブが働くような仕組みが求められるのではないか。しかしそれ以上に業績悪化を防げばそもそも人員削減も新卒採用抑制も防ぐことができるため、雇用政策以上に経済活性化政策が重要と考えられる。また、テレワークの実施にも業績回復の見通しを良好にする可能性が考えられることや、実施企業ほど新卒採用を抑制していなかったことから、テレワークがさらに広がることも重要と考えられる。本調査では、製造業やサービス業、医療・福祉業といった産業にはさらなる拡大の余地が確認された。採用意欲のある企業がテレワークを導入できないことで採用活動をあきらめることが無いよう、テレワーク導入支援の普及が重要であると考えられる。

分析に用いたデータの基本統計量

平均値 標準偏差
業績変化 0.873 0.211
産業ダミー
鉱業,採石業,砂利採取業 0.001 0.028
建設業 0.105 0.307
製造業 0.346 0.476
情報通信業 0.065 0.247
運輸業,郵便業 0.067 0.249
卸売業,小売業 0.251 0.434
金融業,保険業 0.006 0.074
不動産業,物品賃貸業 0.028 0.166
学術研究,専門・技術サービス業 0.040 0.196
宿泊業,飲食サービス業 0.015 0.120
生活関連サービス業,娯楽業 0.015 0.122
教育,学習支援業 0.003 0.056
医療,福祉 0.013 0.115
複合サービス事業 0.002 0.040
サービス業(他に分類されないもの) 0.042 0.201
企業規模ダミー
6人~19人 0.121 0.326
20人~49人 0.119 0.324
50人~99人 0.068 0.251
100人~299人 0.443 0.497
300人~999人 0.137 0.344
1000人以上 0.041 0.199
テレワーク実施D 0.353 0.478
活動地域の緊急事態宣言適用日数 37.166 9.036
緊急事態宣言後D(4月・5月D) 0.498 0.500
上記2変数の交差項 18.491 19.643
観察値数 5,066
平均値 標準偏差
次月に正社員の新卒抑制を実施D 0.029 0.168
次月に新卒抑制を実施D 0.033 0.178
次月に正社員の人員削減を実施D 0.009 0.093
次月に人員削減を実施D 0.068 0.252
次月に正社員の給与削減を実施D 0.013 0.112
次月に給与削減を実施D 0.015 0.120
業績変化 0.904 0.192
テレワーク実施D 0.285 0.452
3月ダミー 0.334 0.472
4月ダミー 0.331 0.471
観察値数 3,807
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
業績回復の見通し 3.444 0.977
事業継続の見通し 4.016 0.549
5月の業績変化 0.726 0.232 0.783 0.235
4月の業績変化 0.792 0.224 0.836 0.219
3月の業績変化 0.898 0.182 0.924 0.175
2月の業績変化 0.947 0.156 0.960 0.146
5月の人件費変化 0.938 0.153 0.954 0.141
4月の人件費変化 0.956 0.132 0.968 0.122
3月の人件費変化 0.986 0.088 0.992 0.080
2月の人件費変化 0.996 0.073 0.999 0.066
2~5月に正社員の人員削減D 0.021 0.142 0.018 0.132
2~5月に正社員の採用抑制D 0.050 0.217 0.043 0.204
5月のテレワーク実施D 0.561 0.497 0.563 0.496
持続化給付金 0.223 0.416 0.177 0.382
休業協力金 0.062 0.241 0.051 0.221
資金繰り支援 0.315 0.465 0.269 0.444
雇用調整助成金 0.450 0.498 0.372 0.483
産業ダミー
製造業 0.341 0.474 0.341 0.474
情報通信業 0.067 0.249 0.070 0.255
運輸業,郵便業 0.073 0.260 0.066 0.249
卸売業,小売業 0.262 0.440 0.250 0.433
金融業,保険業 0.002 0.049 0.005 0.073
不動産業,物品賃貸業 0.029 0.168 0.029 0.168
学術研究,専門・技術サービス業 0.036 0.187 0.041 0.198
宿泊業,飲食サービス業 0.016 0.125 0.015 0.122
生活関連サービス業,娯楽業 0.018 0.134 0.013 0.114
教育,学習支援業 0.004 0.060 0.004 0.059
医療,福祉 0.013 0.115 0.014 0.118
複合サービス事業 0.001 0.035 0.001 0.030
サービス業(他に分類されないもの) 0.045 0.207 0.044 0.206
企業規模ダミー
6人~19人 0.130 0.336 0.126 0.332
20人~49人 0.116 0.321 0.119 0.324
50人~99人 0.067 0.249 0.070 0.255
100人~299人 0.447 0.497
300人~999人 0.132 0.339 0.133 0.339
1000人以上 0.040 0.196 0.041 0.198
観察値数 826 1,130

脚注

注1 傾向スコアの算出ではBalancing Propertyに基づく検定で棄却されなかった。

注2 具体的には、テレワーク実施の理論値が似た企業同士において、実際にテレワークを実施している企業1と実際にはしていない企業0の見通しの差であるATT(Average Treatment effect on the Treated)を見ている。ATTは以下(1)式で定義する。

数式(1)

(1)式のうち、Yはそれぞれの企業の業績回復・事業継続の見通しである。Dはテレワーク実施ダミーである。P(X)は表4のモデル4の分析結果から求められるテレワーク実施の理論値であり、これが同様の企業同士をマッチングさせることでATTの一致推計量を得る。マッチング推計量は
数式(2) で示され、n1はD=1である企業数、n0はD=0の企業数である。また、W(i,j) は傾向スコアに基づくD=0である企業へのウェイトであり、数式(3) となる。なおウェイト付けに際しては、一般的に用いられている、Nearest Neighbor MatchingKernel Matchingの2種類の方法を用いている。