ディスカッションペーパー 22-06
コロナショックの産業間多様性と企業が見出した活路─ポストコロナの経済社会の変革に向けて─

2022年3月17日

概要

研究の目的

コロナショックが企業の事業経営と雇用の状況にいかなる影響を与えたのかを検討する。具体的には、①産業別の多様性、②企業間での共通一貫性、③企業の主観的意識という観点から、企業における事業経営・人員不足・在宅勤務について分析を行う。特に③企業の主観的意識という観点に関して企業の「今後の事業計画(の予定)」がコロナショックのもとでどのように作用していたのかを明らかにする。

研究の方法

労働政策研究・研修機構「新型コロナウイルスの感染症が企業経営に及ぼす影響に関するアンケート調査(企業パネル調査)」の二次分析及び、民間調査や公的統計データの集計表の分析を行う。

主な事実発見

  1. 企業の事業経営・人員不足の状況・在宅勤務の実施へのコロナショックの影響は産業間で多様である。さらに、コロナショック下における企業の見通しに関しても産業間の多様性が存在する。コロナショックのもとでの産業間の多様性をまとめると図表1のとおりである。

    図表1 コロナショックのもとでの産業間多様性

    図表1画像

  2. 産業などの属性に関わらず企業に共通する時系列なトレンドとして、時間とともに次第に事業経営が好転し、人員不足が高まり、在宅勤務を実施しなくなるという傾向がある。
  3. 産業などの属性に関わらず、ビジネスチャンスを探したり、生き残りのための活路を見出すために事業拡大等に取り組んでいる企業ほど、コロナショックにおいても人員不足であり、在宅勤務を実施している傾向がある(図表2)。さらに、そのような企業ほど、デジタル化関連の変革を実施しており、こうした変革が今後社会的促進されると考えている傾向がある(図表3)。

    図表2 今後の事業計画と人員不足・在宅勤務(抜粋)

    図表2画像

    注:本文中の図表からの抜粋.ロジットモデルの平均限界効果(Average Marginal Effects)を表示.統制変数:産業、地域、企業規模、資本金規模、事業の休止経験ダミー、営業短縮経験ダミー、雇用調整経験ダミー、売上・生産額等の変化の平均、人件費の変化の平均

    + p<0.10, * p<0.05

    図表3 今後の事業計画とデジタル化関連の変革(抜粋)

    図表3画像

    注:本文中の図表からの抜粋.ロジットモデルの平均限界効果(Average Marginal Effects)を表示.統制変数:産業、地域、企業規模、資本金規模、事業の休止経験ダミー、営業短縮経験ダミー、雇用調整経験ダミー、売上・生産額等の変化の平均、人件費の変化の平均、業績回復までの期間、雇用維持可能期間

    + p<0.10, * p<0.05

政策的インプリケーション

  • コロナショックは必ずしもすべての企業の事業経営にネガティブな影響を与えたわけではなく、産業ごとに異なっている。今後の事業計画の見通しという点でも産業間で差異がみられており、パンデミックの長期化によって産業間の格差が拡大しうることが示唆される。
  • しかしながら、ビジネスチャンスを探したり、生き残りのための活路を見出すために事業拡大等に取り組み、またデジタル化・DX関連の変革にも積極的に挑戦しようとしている企業も少なくない。すなわち、コロナショックという逆境を克服しようとする企業のインセンティブやモチベーションを活かしていくことが重要である。そして、こうしたことは、景気や家計、雇用へのネガティブな影響に注目されがちなコロナショックが、むしろ今後の経済社会の変革に向けてのターニングポイントになりうることを示唆している。

政策への貢献

新型コロナウイルス感染症が経済社会・労働市場へ与えた影響を検討する際の基礎資料となる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「新型コロナウイルスによる経済、雇用・就業への影響、及び経済、雇用・労働対策とその効果についての分析に関する研究」

研究期間

令和3年度

研究担当者

田上 皓大
労働政策研究・研修機構 研究員

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内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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