JILPTリサーチアイ 第53回
新型コロナウイルス流行下(2020年2~9月)の企業業績と雇用─「第2回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」二次分析─

新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT委員
高崎経済大学経済学部准教授
小林 徹

2021年2月3日(水曜)掲載

労働政策研究・研修機構は12月16日に、『「第2回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(一次集計)結果』を発表した。そこでは、9月時点の企業業績は5月時に比べて回復が見られるものの、前年同月比では6割の企業が減少と回答しており、厳しい経営環境が続いている事が報告されている。さらに、このような経営環境が続いた場合には、半年以内に現在の雇用維持ができなくなると感じている企業が少なくないという。そこで本稿では、当該調査データと6月に実施された第1回の同調査データを用いた二次分析により、このような経営環境を改善させるに当たってどのような政策や企業活動が重要になるのか、経営環境が厳しい中で雇用維持に資する政策は何であるかについて考えて行きたい。

1.業績悪化の程度は5月以降どのようになっているのか

2回に及ぶ「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」では、業績や人件費が減少したかどうかやその程度、テレワークの実施など経営・労務面における対応の具体的項目名が調査時点から遡って聞かれている。そのため、上記の変数については同企業に関する2~9月の7時点分のパネルデータが作成でき、時間の経過によって変化しない企業の固定効果を考慮した分析が可能な構造になっている。さらに第2回調査では新規の調査対象企業が加えられ、5月と比較した9月時点の業績比も聞かれている。そこで、業績に関する対前年比と5月比の2種の変数を被説明変数としたパネル分析を行った。なお、第1回調査でのみ聞かれている2~4月の業績前年比については、増加した企業の増加割合が聞かれていないため、2~4月についての増加企業は便宜上すべて1.1としている(5月以降でも2割以上増加した企業は各月で5~7%程度であった)。分析結果は表1のとおりである。

表1より全業種を対象にした業績前年比に関する分析結果を見ると、検定結果から変量効果モデルが支持されており、テレワーク実施ダミーは有意な結果となっていない。月別には、2月に比べて3~9月の全てで有意なマイナスとなっており5月が最も大きなマイナスになっている。業種別には、製造業に比べて飲食・宿泊サービスや生活関連サービス・娯楽業が有意なマイナスの結果になっている。次に先の分析で統計的に有意なマイナスであった飲食・宿泊サービス、生活関連サービス・娯楽業の企業に限定した分析結果を見ると、やはり変量効果モデルが支持され、時系列では4月が最も大きなマイナスとなっている。テレワーク実施ダミーや企業規模ダミーは有意になっていない。最後に、9月業績の5月比に関する分析結果を見ると、標準誤差の計算方法に関わらず共通して飲食・宿泊サービス業が有意なプラスの結果となっている。しかしながら、ここから当該業界ほど業績回復していると判断することは難しい。官公庁が公表している「主要旅行業者取扱額新しいウィンドウ」を見ると、令和2年5月の国内外取扱額前年比は2.4%である。当該業界の令和2年5月はほぼ売上が無くなってしまったため、他業界に比べて5月比が良くなっているように見えたと思われる。ちなみに9月の国内外取扱額前年比は21.1%であり、9月の状況も非常に厳しいものとなっている。また表1の5月比に関するOLSでは、5月と9月の繁忙状況が業界ごとに異なるといった季節的な要因も排除できていない。

そこで表1のうち業績前年比に関する変量効果モデルの月ダミーの係数を時系列で図1に示した。こちらは業績前年比であるため、季節的な要因は一定程度考慮されていると考えられる。全業種の推移は6月に若干回復したものの、その後は4月水準のマイナス幅を保つようにまま横ばいで推移している。一方で、サービス業の推移は4月に大きく落ち込み5月に若干回復した後6~8月は横ばい、9月にまた回復している。7月22日に開始されたGo Toキャンペーンの影響か、他業界よりも1カ月早く変化が現れるだけなのかは分からない。仮にGo Toの影響であれば、サービス業では10月以降も他業界より大きな回復傾向が現れることが予想され、そうでなければ他業界も同様に10月から回復しサービス業と同様の傾向が見られるのではないだろうか。また次回調査の分析課題としたい。しかしながらサービス業ほどマイナス幅がどの月も非常に大きく、特別な支援が求められるのではないだろうか。

表1 前年同月比の業績変化に関する分析結果

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図1 業績前年比に関する変量効果モデルの月ダミーの係数推移

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2.企業の経営面の対応や政府支援はコロナによる業績悪化を軽減させるのか

「第2回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」では、「インターネットを活用した通信販売を新規に開始」したかどうかなど新型コロナ流行後の経営面における対応について、様々な質問が設けられている。そこで、これら対応が実施されているかどうかにより、業績に改善が見られているかどうかを分析する。対応項目の中にはGo Toキャンペーンに係る項目も見られることから、5月時点では各項目への対応がされていない、またはされていたとしてもその影響は明確には波及していないと仮定し、5月と比較した9月業績を実施、非実施別に確認する。具体的には、9月時点の対5月時業績比や業績前年比の9月と5月の差分を被説明変数に用いることで、階差推定に準じた分析を試みる。分析結果は表2に掲載している。なお経営面の対応については17項目について実施したかどうかが聞かれているが、相関の強い対応項目や実施が特に少ない項目については説明変数から除外している。

表2より経営面における対応の分析結果を見ると、業績前年比も5月比も共通して「政府の需要喚起策(Go Toキャンペーンなど)に対応した商品の開発・販売」が有意なプラスとなっている。本分析からはGo Toキャンペーンの業績への好影響が推察される。また9月業績の5月比に対しては「国内の販売体制の拡大」が有意なプラスになり、業績前年比の差分に対しては「海外の販売体制の縮小」が有意なプラスになっている。海外から国内への販売体制の移行をした、またはそれが可能であった企業ほど業績悪化をくい止めることが出来たのかもしれない。一方で「海外のサプライチェーンの見直し」は有意になっておらず、生産体制の変化については影響が見られない。なお、テレワーク実施ダミーの差分変数が業績の5月比に有意なマイナスとなっている。前回の第一回調査の二次分析ではテレワークは企業業績見通しにプラスの影響が確認されていた。緊急事態宣言下ではテレワーク実施企業ほど業績回復に期待が持たれたものの、緊急事態宣言が解除され通常業務も可能になった後においては通常勤務に戻せた企業ほど業績が改善したと考えられる。なお、「第2回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査 (一次集計)(PDF)」では、緊急事態宣言後にテレワーク実施率が減少していることが報告されている。

表2 経営面における対応の業績前年比の改善に関する分析結果

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続いて政府の支援策と企業業績との関係についてみていく。「第2回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」では、持続化給付金や雇用調整助成金といった政府支援策に申請したかどうか、申請した場合には最初に申請した月が聞かれている。これら支援策は業績が特に大きく悪化した場合など、申請には条件が付けられていることから、クロスセクションデータとして分析した場合には、当然のように申請と業績にはマイナスの相関が確認される。そこで、2~9月の各時点で申請済みであるかどうかに関するダミー変数を作成し、2~9月の業績前年比や企業属性データと接合したパネルデータを作成し、パネル分析を試みる。具体的には、傾向スコアマッチング法を用いて、支援策を実際に申請済みであるサンプルとそれらに属性や業績状況が近いサンプルとで、業績前年比の階差変数を比較する。

まず各支援策に関する申請済みダミーを被説明変数に、前月の業績や企業属性ダミーを説明変数に用いてプロビット分析を行った。分析結果である表3を見ると、前月の業績前年比はどの支援策に対しても有意なマイナスの結果である。やはりどの支援策も業績が悪化している場合ほど申請されていることがわかる。また企業規模についても有意なマイナスの結果が多くみられ、各種支援策は中小企業ほど申請がされている状況が確認できる。産業については、飲食・宿泊サービスや生活関連サービス・娯楽業は複数の支援策で有意なプラスの結果を示し、多くの支援策が申請されている。一方で、建設業や学術研究・専門サービス業は「持続化給付金」についてのみ有意なプラスの結果となっている。

表3 政府支援策の申請に関するプロビット分析結果

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次に表3の分析結果を用いてマッチングされたトリートメントグループ(実際に支援策を申請済みのサンプル)とそれと似たコントロールグループ(実際には未だ申請されていないサンプル)間における「業績前年比の1か月後または2か月後の変化」の違い(ATT)[注1]表4に示した。表4を見ると、取り上げた4つの支援策ともに有意なプラスが示されている。また、翌月よりも2ヵ月後の値との比較のほうが、ATTは大きくなっている。支援策の申請後に業績前年比が改善していく様子が確認でき、これら支援策が企業に好ましい影響を与えたことが推察される。基本統計量を見てもここで取り上げた支援策は比較的多くの回答企業に申請されたことが確認されるが、実際に企業の助けになる支援策であることから利用可能な企業に幅広く申請されたのではないだろうか。

表4 政府支援策の申請とその後の業績変化に関する分析結果

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3.経営環境が改善するまでの間、どのようにして雇用維持をするのか

これまでの分析では、企業の経営環境の悪化に対し、Go Toキャンペーンといった需要喚起策に対応することや持続化給付金などの政府支援がその改善を促す可能性が示唆された。しかしながら、図1に見られるように緊急事態宣言が解除された後も企業業績は厳しい状況が続いており、コロナ発生前に戻るには時間がかかると思われる。このように経営環境の改善に時間がかかってしまうと、将来の雇用に大きな影響があることが予想される。2020年11月時点においては、完全失業率は5月に大幅に上昇した後でも3%前後の低水準を維持しているが、この背景には厳しい経営環境化でも企業の余力により雇用維持されていたことが考えられる。というのも、第2回調査のQ5「仮に、現在の生産・売上額等の水準が今後も継続するとした場合、現在の規模での社員の雇用を何か月先まで維持できると思いますか」への回答を示した表5を見ると、既に雇用削減をした企業は調査が実施された10月時点では1.8%に留まる。しかしながら、2か月~半年くらい維持できると回答した企業は全体の15.5%もあり、同回答を9月の業績が前年の70%以下の企業に限定すると28.2%と高水準になっている。一次集計報告でも言及されたように半年まで雇用維持が可能と回答する企業が少なくないことから、調査半年後の2021年4月には失業率がさらに高くなっているかもしれない。また、表5では産業別の9月の業績前年比を示しているが、生活関連サービス業、娯楽業や飲食・宿泊サービスでは、9月の業績が前年の70%以下であった企業が7割近くにもなり、全体でも27.6%も存在する。このようなサービス業から雇用維持が出来なくなるおそれがある。

サービス業における雇用維持ができなくなったとしても、外部労働市場を通じて速やかに別産業の雇用に移動が可能であれば良いのだが、それが可能な労働者は一部の層に限定される可能性が高い。転職前後の産業間移動を分析した小林・阿部(2014)は、飲食・宿泊サービス業や生活関連サービス・娯楽業を辞めた者であっても、民営職業紹介経由の転職であれば比較的多くの者が製造業をはじめとする別産業に転職していることを報告している(小林・阿部2014,106頁)。しかし、民営職業紹介によって転職を果たした者は、高学歴者や若年者が多くなり、一部の転職に有利な個人属性を持つグループに偏りがあることも述べられている(小林・阿部2014,110頁)。転職市場で不利になる個人属性を持つ労働者にとっては、現在の勤め先企業において雇用維持が果たされることが特に重要と考えられる。

表5 現状の業績が続いた場合の雇用維持が可能な期間と産業別の9月の業績前年比

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そこで次に、企業の雇用維持に対する政府の各種支援の影響を分析する。表4と同様の傾向スコアマッチングの分析枠組みを用いて、政府支援策の申請がされている企業で人員減少の状況が緩和されているかどうかを確認する。第1回・第2回調査とも各月の人員が前年同月に比べて減少したかどうかが聞かれているため、本質問から作成した人員減少ダミーを月次パネルデータに加え、翌月または2ヵ月後の人員減少ダミーと今月の人員減少ダミーとの差分について、トリートメントグループ(実際に支援策を申請済みのサンプル)とそれと似たコントロールグループ(実際には未だ申請されていないサンプル)間で比較を行う。分析結果は表6に掲載した。表6を見ると、各支援策とも人員減少ダミーの差分はマイナスに有意な結果を示しており、次月との比較よりも2ヵ月後の比較のほうがATTの絶対値は大きくなっている。各支援策とも申請された後に人員減少の状況が緩和され、時間を経過したほうが違いは明確になると考えられる。

表6 政府支援策の申請とその後の人員減少状況の変化に関する分析結果

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4.二次分析結果のまとめ

本稿では、2020年6月と10月に労働政策研究・研修機構が実施した「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」のデータを用いて、大きく以下の3点を計量経済学の分析手法によって確認した。第一には、企業属性をコントロールした場合において緊急事態宣言後の業績はどう推移しているのか。第二には、さまざまな企業の経営面の対応や政府支援策は業績状況の変化にどのような影響を及ぼしたか。第三には、企業の雇用維持の見通しと、各政府支援策は人員減少の変化にどのような影響を及ぼしたか、である。

分析の結果、企業業績の前年比は5月に最も落ち込み緊急事態宣言後にわずかに回復したものの、4月時点とあまり変わらない状況で9月まで推移していた。また飲食・宿泊サービス業、生活関連サービス・娯楽業ほど業績の悪化が大きかったが、当該産業では9月に改めて回復している傾向が見られた。

業績状況の変化については、販売体制に関して海外よりも国内の体制強化が出来た企業ほど、Go Toキャンペーンに対応した企業ほど良好な変化が確認された。さらに、各種政府支援策に申請した後のほうが業績変化は良好になっていた。

またこのような業績状況が継続した場合には、雇用維持は半年くらいなら可能という企業が少なくなかった。調査時点で既に雇用削減をした企業は殆どなかったが、業績改善までの道のりが長期化した場合には、半年後くらいに失業問題が大きくなる可能性が考えられる。これに対し、雇用調整助成金の特例措置や持続化給付金といった新型コロナの流行から実施された代表的な政府支援策は、申請済である場合ほどその後の雇用減少の状況が緩和されている様子が確認され、雇用確保においても政府支援策が重要であると考えられる。

これら分析の結果からは、新型コロナ流行後に実行された政策は概ね企業にも雇用にも肯定的な影響を与えたと考えられる。今後の企業業績の状況を注視しながら、なかなか業績改善が進まないならばこれら政策の継続が求められるのではないだろうか。また別に注目されることは、緊急事態宣言が解除された後においても、企業業績は下がったまま横ばいで推移していることである。仮に緊急事態宣言の経済への影響が宣言中だけの一時的なもので無く、解除後もなお残る永続的なものである場合には、緊急事態宣言のたびごとに業績が沈下する可能性もある。2021年1月に一部都道府県に緊急事態宣言が再度発令されたが、以降の推移やその近隣地域との違い(栃木県と群馬県など)に注目していきたい。

分析に用いたデータの基本統計量

基本統計量1画像

基本統計量2画像

基本統計量3画像

脚注

注1 傾向スコアマッチング法は、前回調査の二次分析JILPTリサーチアイ 第44回「2~5月の新型コロナウイルス流行下の企業業績と採用・雇用維持」でも用いている。分析手法の説明やノーテーションについては、こちらを参考にされたい。

参考文献

  • 小林徹・阿部正浩(2014)「民営職業紹介、公共職業紹介のマッチングと転職結果」『経済分析』第188号. pp.93-118.