JILPTリサーチアイ 第58回
新型コロナ感染症拡大下における雇用調整助成金利用企業の特徴と助成金の効果─JILPT企業調査二次分析

新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT委員
富士通株式会社シニアアドバイザー
酒光 一章[注1]

2021年4月2日(金曜)掲載

本稿は、雇用調整助成金(以下「雇調金」という。)の利用企業の特徴と効果について、労働政策研究・研修機構の企業パネル調査「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(以下「JILPT企業調査」という。)[注2]を用いて分析した。[注3]

新型コロナ感染症が拡大し、人の移動の自粛・制限、緊急事態宣言への対応により飲食・旅客・観光などを中心に経済に大きな影響が生じている。その一方で雇用面では女性や若者などの非正規層を中心に一定の影響を受けている[注4]ものの、全体として就業者の減少や失業率の悪化の程度は抑えられているように見える。その一つの要因として、雇調金が寄与している可能性がある。

雇調金は、雇用保険制度創設以来現在に至るまで、不況時における最も中心的な政府の雇用対策の一つである。雇調金は、それ自体好況時にはほとんど利用されず、不況時に大いに利用されるという点で自動的な安定機能を持っているが、特に経済情勢が厳しい折などにおいては、時限的に助成率の拡充や支給要件の緩和等の機能強化が行われ、その効果が期待されてきた。[注5]

今回の事態においても、政策当局は、付表1のとおり、支給対象者の拡大[注6]、要件の緩和、手続きの簡素化等非常に素早い対応で雇調金の機能強化を行った。その結果、3月15日の時点で支給申請件数は累計290万件に及んでいる。

雇調金が利用されるべき層にきちんと活用されているか、雇調金が雇用を維持する効果があるかは重要な論点である。

これらの論点に関する本稿の結論を述べると、第1の論点については、雇調金は、幅広い業種・規模で利用されており、これは雇調金の各種特例措置の効果があった可能性が考えられる。しかし、なお、5人以下の企業においては利用率が低く、こうした極めて小さい企業が利用しやすくなるよう細かな目配りが一層求められる。

第2の論点について、雇調金を利用した場合の雇用への影響を見ると、労働者総数あるいは非正社員、派遣労働者については、雇調金利用企業が雇用を減らしており、これは雇用調整の必要性の高い企業ほど雇調金を利用していることを反映していると考えられる。一方、正社員については雇調金利用企業で雇用を減らしているという傾向はみられない。このことから雇調金は正社員に対して一定の雇用維持効果をもっている可能性がある。

雇調金の効果については、助成金がないと維持できない雇用を生み出すという置換効果と、助成金がなかった場合でも維持されていた雇用があるという死荷重の問題がある。雇調金利用企業において利用後に雇用の減少が緩和されていることから、現段階では置換効果はあまり問題ではないように思われる。一方、死荷重の問題については、助成金の効率性の観点から引き続きの検討が必要である。

雇調金は飲食・宿泊業、中規模企業を中心に幅広く利用

JILPT企業調査をクロス集計して求めた企業属性別の雇調金利用企業の割合は表1のとおりである。[注7]

表1 雇調金利用企業の属性

表1画像

これは第2回調査の結果を集計したものである。2020年9月までに申請したか、10月以降に申請することを検討している企業の割合を示している。

これによると、申請済み企業は34.3%、検討中を加えると37.0%となる。東京商工リサーチ調査[注8]では上場企業での申請率が15.6%であるので、それに比べるとかなり高めの利用状況となっている。[注9]

産業別にみると飲食・宿泊業の利用率が最も高く、次いで製造業、運輸業で利用率が高い。逆に医療・福祉ではほとんど利用されていない。こうした産業別の特徴は厚生労働省のサンプル調査[注10]とおおむね整合的である。

規模別でみると中規模企業での利用率が高く、小企業、大企業での利用率が低い。

地域別にみると、北海道、東北の利用率が低い。北海道は、緊急事態宣言の対象にいち早くなったこともあるので、やや意外な結果である。これがサンプルの問題なのか、それとも何らかの別の要因があるのかは引き続き分析が必要である。

経営状況が厳しい企業ほど雇調金を利用

生産・売上などの経営状況と雇調金の利用状況をみると、生産・売上等の経営状況が厳しい企業ほど、雇調金を利用している。

表2により生産・売上の前年同月に比べての増減の状況別に雇調金利用率(ここでは9月までに申請済み企業の割合)を見ると、各月の生産・売上が減少している企業の44~50%程度が9月までに雇調金を申請している。[注11]

表2 生産・売上の増減(5~9月)別9月までに雇調金申請済み企業の割合

表2画像

注:2~4月は継続サンプル、5~9月は第2回調査回答サンプル

また、表3により労働者の過不足状況、業況の回復時期の見通し、雇用維持を見込める期間などと雇調金の利用の関係を見ると、労働者が過剰である企業、業況の回復見通しを1~2年または回復は見込めないとしている企業、雇用維持が可能な期間が短い企業ほど雇調金を利用している。

全体として、より雇用維持に困難を抱え支援を必要としている企業ほど利用しているということが言える。

表3 経営状況別の9月までの雇調金の利用状況

表3画像

雇調金は幅広く利用されているが5人以下企業では利用が少ない

上記のクロス集計によっても大まかな雇調金利用企業の特徴を把握できるが、例えば産業別の利用状況には、産業ごとの企業規模の違いや経営状況の違いが反映されている可能性がある。このため、以下の推定モデルにより、それぞれの属性等の雇調金利用への独立した影響をみることとする。

Y_i=βX_i+μ_i

ここで Y_i は雇調金利用ダミー、X_i は産業・規模等の企業属性または売上や業況回復見通しなどの経営状況である。

具体的には、被説明変数 Y_i は以下のダミー変数とした。

  • モデルA 2020年9月時点で雇調金を申請済みの場合 = 1
  • モデルB 2020年9月時点で雇調金を申請済み又は今後申請を検討の場合 = 1

説明変数 X_i はモデルごとに以下の変数を用いた。[注12]

  • モデル1 産業、企業規模、都道府県(各ダミー)
  • モデル2 1に加え、生産・売上前年同月比減少ダミー(2~9月の各月)
  • モデル3 2に加え、業績回復時期・雇用維持見通しのダミー

推定は、線形確率モデル(OLS)で行った。したがって係数の推定値はそのまま雇調金利用率への効果を示すものとなる。

推定結果は付表2のとおりである。ここで例えばモデルA1は被説明変数がモデルA、説明変数がモデル1の意味である。モデルAとモデルBでは推定結果に大きな違いがないので、以下主としてモデルAについて見る。

産業・規模・都道府県といった企業属性のみで推定したモデルA1では、産業別にはレファレンスである建設業に比べ、飲食・宿泊業、製造業、運輸業、サービス業、小売業で有意に雇調金の利用率が高い。この結果は、経営状況に関する変数を加えたモデルA2, A3でも大きな違いがない。

規模について見ると、レファレンスである100~299人企業に比べ、モデルA1では50人未満企業と1000人以上企業において有意に利用率が低いが、生産・売上に関する変数を加えたモデルA2をみると、6人~49人規模は有意でなくなり、さらに業況の見通しや雇用維持見通しを変数に加えたモデルA3では1000人以上の大企業も有意ではなくなる。これに対し、5人以下企業では経営状況をコントロールすることでむしろ係数が低下し、利用率の低下が顕著となる。したがって、経営状況等を加味しても雇調金の利用が少ないのは5人以下の小さな企業となる。100~299人規模企業に比べ5人以下の企業では20~30%ポイント程度利用率が低くなる。

なお、雇用維持見通しの係数を見ると、雇用を維持できるのが2・3か月くらい又は半年くらいとする企業で有意に利用率が高く、雇用調整の緊要度の高い企業ほど利用していることが確かめられる。

従前より、雇調金の利用が製造業大企業に偏っているのではないか、と言われることがある。阿部(2017)でも製造業の各業種の利用率が高く、飲食サービス業の利用率は低いという結果が得られている[注13]。しかし、今回の結果を見ると、規模や経営状況をコントロールしたうえでも、製造業だけでなく、飲食・宿泊業をはじめ幅広い業種で利用されていることが見て取れる。これは周知が進んだことや、給付対象の拡大・各種要件緩和・手続き簡素化などの効果があった可能性がある。[注14]

一方、5人以下の最も小さな規模の企業においては有意に利用率が低い。これは助成金を知る機会が少なかったり、知っていても事務処理能力の問題、あるいは休業の規模が小さく手間に見合わないなどから申請をしなかったりしていると考えられる。なお、大企業においても利用率は相対的に低いが、OLSの推定において経営状況をコントロールすると係数が低下し有意でなくなることを踏まえると、生産・売上動向等から支給要件を満たさない、または雇用調整を必要と考えていないことがその理由ではないかと考えられる。

まとめると、今回の雇調金の各種特例措置は、幅広い企業で雇調金を利用しやすくした効果があり、必要な企業の多くが雇調金を利用できたと考えられる。しかし、引き続き5人以下の非常に小さな規模の企業に対しては、周知や手続きの支援等の細かな目配りが求められる。

雇調金の効果 ~ 正社員の雇用維持に効果

雇調金の効果については、そもそも雇調金に雇用を維持する効果があるのか、また、雇用維持効果があった場合にそれが単に淘汰されるべき企業や産業の延命に使われているだけではないか(換言すれば中期的にみた場合でも雇用が維持されるのかしないのか)ということなどが論点としてある。

小林(2021)は、本稿と同じJILPT企業調査のデータを使って、雇調金をはじめとする政府の支援策が企業業績や雇用にどのような影響があるか検証している。そのうち雇調金について見ると、雇調金の申請後、業績変化は良好であり、雇用減少の状況が緩和されているという結果が得られている。

本稿では、コロナ禍で雇調金を利用した企業の現時点での雇用維持効果について検討するとともに、これらが正社員か非正社員かなど雇用類型により異なる効果を持っているかを検討した。このため、以下のとおり、雇調金の利用を処置変数とし、各種必要な変数でコントロールしたうえで、雇用の増減に対する効果を推定した。

Y_i=βX_i+γT_i+μ_i

Y_i は雇用の減少ダミー、X_i は企業属性や経営状況等のコントロール変数、T_i は雇調金利用の有無である。

具体的には、被説明変数(Y_i)については、直近である2020年9月時点で前年同月と比べ雇用が減っている場合に1、それ以外の場合に0を取るダミー変数とし、これを雇用の類型ごとのモデルで推定することとした。モデルC1が雇用総数、C2が正社員、C3が非正社員(パート・アルバイト・契約社員)、C4が派遣労働者[注15]である。

処置変数は、9月における雇調金の申請済み又は今後申請予定の企業を1とするダミーとし、コントロール変数としては、産業、規模、都道府県、生産・売上の前年比減少ダミー(2~9月)をもちいた。2月~9月の生産・売上のデータを用いているためサンプルは継続サンプルになる。

推定は線形確率モデル(OLS)で行った。

推計結果は表4のとおりである。

表4 雇調金の効果(OLS)

表4画像

*** P < 0.1%, ** P < 1%, * P < 5%

モデルC1により、雇用総数への影響を見ると、雇調金の係数はプラスで有意である。これは雇調金を利用する企業は雇用を減らしていることを示している。雇調金そのものに直接的に雇用を減らす効果はないので、雇調金を利用する企業は雇用を削減せざるを得ない状況にあり、それが産業、規模、都道府県、生産・売上だけでは雇用調整の必要性を十分にコントロールできていない可能性がある。

雇用の類型別にみると、正社員では雇調金の係数は有意でなく、非正規や派遣ではプラスで有意となっている。すなわち、雇調金を利用している企業は、非正規や派遣は減らしているが、正社員は減らしているとはいえない。雇用調整が必要な企業が、非正規・派遣等の調整ともに雇調金を利用することにより、正社員の雇用を維持しようとしていると解釈することもできる。

推定値が有意でないことをもって積極的にその意味を主張することには慎重でなくてはならないが、雇調金利用企業で雇用全体あるいは非正規労働者、派遣労働者を有意に減らしている一方で、正社員については減らしていることが明確にはみられない。このことから、雇調金が正社員についてはある程度雇用維持効果を持っている可能性があることが示唆される。[注16] [注17]

今後の課題及び留意点

雇調金の効果を考えるうえで、雇調金が、助成金なしには維持できない雇用を生み出す、いわゆる置換効果(displacement effect)を持っており、単に淘汰されるべき企業や産業の延命に使われているだけではないかという指摘がある。この点、コロナ禍の影響が感染拡大予防の一時的な対応ゆえであると考えるならば、経済・雇用への影響も一時的であり、産業構造転換を遅らせるなどの問題は考えにくい。本稿と同じJILPT企業調査を用いた小林(2021)が、雇調金利用の1か月後、2か月後に雇用の減少が緩和されていることを示していることから、現段階では置換効果はあまり問題ではないように思われる。

雇調金の効果に関する課題としてはもう一つ効率性の問題がある。これは死荷重(deadweight loss)の問題として知られている。助成金による雇用維持効果とされている部分に、助成金がなかったとしても維持されていた雇用があるのではないかという問題である。今回の文脈に照らせば、例えば、現在の(特例措置後の)雇調金の要件・助成率等を縮小・厳格化しても同様の雇用維持効果があるとすれば、死荷重が発生しているといえる[注18]。この点、今回の推定では十分に考慮されていない[注19]。したがって、仮に雇調金に雇用維持効果があったとしても、今行われている特例措置がすべて必要であった(有効であった)ということまで示すものではない。

また、特例措置については、手続きの簡素化などにより今まであまり利用してこなかった企業の利用をしやすくした効果も考えられる。この点、上述の通り今回雇調金が幅広い業種・規模で利用されていることで一定の効果があったことが示唆されるが、どの措置がどのような効果があったかといった個別の効果は明らかではなく、これについても今後の検討課題としたい。

なお、厚生労働省から、今後、雇調金の特例措置については徐々に縮小していくことがアナウンスされている[注20]。縮小の過程でどのような影響が生じるか、生じないかについて注視していくことで、特例措置の効果を推定することができ、ある程度死荷重の大きさも見ることができるかもしれない。これは、EBPMの観点からも今後の雇調金の制度設計にあたって有益であると考えられる。

JILPT企業調査は調査項目がすでにかなり多いことも考慮しなければならないが、パネル調査であることのメリットを活かし、引き続き調査の充実が期待される。

おわりに

雇調金利用企業の特徴と雇調金の効果について、JILPT企業調査を用いて分析した。

雇調金は、幅広い業種・規模で利用されており、これは各種特例措置の効果があった可能性が考えられる。しかし、なお、5人以下の企業においては利用率が低く、こうした極めて小さい企業が利用しやすくなるような一層細かな目配りが求められる。

雇調金を利用した場合の雇用への影響を見ると、労働者総数あるいは非正社員、派遣労働者については、雇調金利用企業が雇用を減らしている。これは雇用調整の必要性の高い企業ほど雇調金を利用していることを反映していると考えられる。一方、正社員については雇調金利用企業で雇用を減らしているという傾向はみられない。このことから雇調金は正社員に対しては一定の雇用維持効果をもっている可能性がある。

雇調金の効果に関しては、置換効果と死荷重の問題がある。置換効果については現段階ではあまり問題ではないように考えらえる。死荷重については助成金の効率性の観点から引き続き検討が必要である。

参考文献

付表1 雇調金の特例措置

付表1画像

資料出所:厚生労働省の各プレスリリースから筆者作成

付表2 雇調金利用企業の特徴(OLS)

付表2-1画像

付表2-2画像

*** P < 0.1%, ** P < 1%, * P < 5%

脚注

注1 本稿は執筆者個人の責任において発表するものであり、所属する組織の見解等を示すものではない。

注2 この調査は労働政策研究・研修機構が新型コロナウイルスの感染拡大やその予防措置が企業経営にどのような影響を及ぼすか把握するために行っているものである。その最大の特徴はパネル調査であることである。現在までのところ6月及び10月の調査結果が公表されている。一次集計結果及び詳細については労働政策研究・研修機構(2020a)(2020b)を参照。本稿は、この調査の二次分析に当たる。以下の分析においては第1回目と第2回目のデータをプールするとともに、継続調査対象となっている企業についてはパネルデータとして処理をしている。したがってクロス集計、OLS推定に当たっては、必要に応じ第1回サンプル、第2回サンプル、継続サンプルを使い分けている。

注3 小林(2021)でも同じ調査を用いて政府支援策の一つとして雇調金の効果分析を行っている。

注4 例えば 中井(2020)、周(2020a)(2020b)(2021)、酒光(2020)など。

注5 最近では、リーマンショック時や東日本大震災時。

注6 雇用保険に加入していないアルバイト、勤続年数が6か月に足りない新入社員など、これまで雇調金の対象とならなかった者も対象となった。

注7 JILPT企業調査の一次集計(労働政策研究・研修機構(2020a)(2020b))は、原則として規模及び地域ブロック別の復元倍率を用いて割合等を推計している。したがってこれらと本稿の集計値は必ずしも数字が整合しない。

注8 東京商工リサーチ(2021)。雇調金の受給又は申請を情報開示した上場企業を対象に2020年4月1日~2021年1月31日で金額、活用、申請を開示資料に記載した企業を集計したもの。

注9 東京商工リサーチ調査の方がJILPT企業調査に比べて利用率が低い要因としては、調査対象の上場企業の多くが大企業であるところ、後述の通り大企業の利用率が低いことや、雇調金に関する情報開示がなされていない企業の中に雇調金利用企業が含まれている可能性があることなどが考えられる。

注10 厚生労働省(2020a), p.212。2020年4月~8月の4か月間の雇調金等の支給決定について、都道府県労働局ごとに4~5%を目安として抽出したもの。

注11 生産・売上が増加していながら雇調金を申請した企業もあるが、これは単月で増加していても別の減少した月に雇調金を利用した場合がありうるからである。

注12 生産・売上については2020年2~9月のそれぞれの月で前年同月比減少している場合に1を取るダミーとした。2~4月は第1回調査、5~9月は第2回調査を利用しているので、モデル2及び3は第1回と第2回の継続サンプル(パネルデータ)を用いる。なおモデル1は第2回調査サンプルの全数を用いている。業績回復見通し、雇用維持見通しの具体的内容は推計表の項目を参照のこと。なお、雇用維持見通しは仮に現在の生産・売上額の水準が今後も継続するとした場合に現在の規模での雇用をいつまで維持できるかを問うたものである。業績回復見通しとは必ずしもリンクしない。

注13 従業員数については有意な結果とはなっていない。設立年については古い企業ほど利用していることが示されている。

注14 ただし今回の推定では十分に雇調金の利用率をコントロールするための変数をとれていない可能性もあり、留意は必要である。

注15 派遣労働者の効果は、派遣先企業における効果である。

注16 非正規労働や派遣労働者については雇調金利用企業で雇用が減少しているが、直ちに雇用維持効果がなかったとまでは言えない。本文でも述べている通り雇用調整の必要性を十分コントロールできていない可能性があるからである。

注17 神林(2017)は、雇調金の雇用への影響として、特に事業所の改廃を考慮しない継続事業所においては、受給終了直後にいったん雇用が減少した後に、雇用が増加するとしている。本稿で雇用の状況を見た9月の時点ではまだ多くの企業が受給中であることを考えると、ある程度雇調金の利用が落ち着いた時点での雇用の動きを見ることで、より明確な効果がみられるかもしれない。

注18 一般的には、助成金の効果とされるもの(例えば雇用)の一部が、助成金がなかったとしても実現されていただろうと考えられる場合に、これを死荷重という。

注19 山上(2017)は雇調金の置換効果や死荷重の問題に関連し、雇用保護立法との補完性や労働時間の柔軟化による雇用維持効果も併せて考えるべきと指摘している。

注20 厚生労働省(2020b), p.1。