諸外国に広がるシェアリング・エコノミー:序文

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デジタル・プラットフォームを活用して、サービスの利用者と提供者を結ぶビジネスモデル、シェアリング・エコノミーが世界中で拡大している。

デジタル・プラットフォームとは、スマートフォンやパソコンなどの持ち運び可能なインターネット端末上でつくられるビジネスモデルのことだ。ここにはサービスの利用者と提供者を瞬時に結び付けるという特性がある。モノや土地、資金などのサービスのほか、労働力の提供が含まれる。なにか新しい創造があるということよりも、これまでも行われてきたビジネスモデルをデジタル・プラットフォームによって組み替えているというものが大半である。そこには、タクシー、乗り合いバス、宅配、介護、保育、小売り、旅行、などが含まれる。この意味では、製造業も例外ではない。

最終組み立て、研究開発、部品メーカー、物流、販売、顧客サービスなど、関連するすべての企業や労働者、顧客を情報通信技術によってつなぎ合わせる、ドイツ主導のインダストリー4.0も延長線上にある。

サービスの利用者と提供者をデジタル・プラットフォームで瞬時に結ぶということは、ビジネスモデルをつくりだして普及させた事業者にビジネスモデル全体を支配するという力を与える。これをプラットフォームビジネスと呼び、事業者をプラットフォーマーと呼ぶ。プラットフォーマーは、スマートフォンやパソコンのアプリケーションを開発するだけでなく、関連する企業や人を結び付け、その中核に位置するからだ。そこには、ビッグデータやAI(人工知能)も使われる。顧客の傾向の把握や、利用者とサービスの提供者のマッチング、物流や移動、交通情報の予測などに活用されるからだ。

瞬時につなぎ合わせることにより、利用者には利便性を、サービスの提供者には生産性の向上やコスト削減をもたらす。その一方で、さまざまな問題ももたらしている。たとえば、インターネットを活用した小売業の普及により、対面式の販売業が打撃を受けたり、地域や国境を越えて思わぬ競争相手が登場したりといったことがある。プラットフォーマーに力が集中する一方で、プラットフォームに参加する企業や労働者が従属的な下請け、元請け関係に置かれてしまう可能性もある。

こうした問題のなかでも、労働力の提供を行うものが世界各国で議論を呼んでいる。デジタル・プラットフォームを活用すれば、一つのサービスごとに利用者と提供者を結び付けることができる。その関係は継続性を持つ必要がなく、請負契約となる。このことは、これまで企業が労働者を雇用することでつくられてきた社会制度の根幹に影響を与えることになる。

雇用関係に基づく社会制度は、労働者に教育訓練機会、労働組合を通じた労働条件の向上、健康保険や年金といった社会保障などの法的枠組みを成熟させてきた。これは、働く側にとって生活の安定をもたらす一方で、働く場所や労働時間の管理などの裁量権を雇用主に一定程度譲り渡すものであり、自由を制限するものでもあった。一方で、請負労働は自由や裁量が増えるものの、安定や社会保障などが雇用関係よりも低下する。それらの前提条件のうえで、デジタル・プラットフォームに位置付けられる労働者は、プラットフォーマーとの関係性がどうなっているのかということが課題となっているのである。つまり、労働者はサービスの利用者と請負関係にあるのか、それともプラット―フォーマと実質的な雇用関係にあるのかということであり、これこそが、世界各国で巻き起こっている議論の中心にある。

今回の特集は、この問題を中心に、英米独仏中の五か国の現状と課題への取り組みを取り上げ、最後に法的な課題についてとりまとめた。

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