シェアリングエコノミーに関する法的課題

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川上 資人 (東京共同法律事務所 弁護士)

1. 「シェアリングエコノミー」の多義性

現在、「シェアリング・エコノミー」という言葉は、インターネット上のプラットフォームを介したモノの貸し借りから、労務の提供まで幅広い取引を指す言葉として用いられている。しかし、モノや労務の提供者が相当の対価を得て、プラットフォーム企業も仲介手数料を得ている場合、それを「シェア」と呼ぶことは適切でないとの指摘がなされている(注1)。むしろ、このような経済活動の特徴は「シェア」ではなく、プラットフォームを介する点にあるとして、「プラットフォームエコノミー」と呼ぶべきと指摘されているのである。そして、モノの取引については資産の取引であるという点から「キャピタルプラットフォーム」と呼び、労務の提供については労働の取引であるという点から「レイバープラットフォーム」と呼ぶべきと指摘されている。前者の例がエアビー・アンド・ビー社等が行う民泊であり、後者の例がウーバー社等が行うライドブッキングである。

「シェアリング・エコノミー」という名の下に、様々に異なる取引を広範に含める場合、その法的課題について一律に議論することは不可能である。そこで、本稿においては、「プラットフォームエコノミー」における「レイバープラットフォーム」の法的課題に焦点を当てて議論を進める。

2. レイバープラットフォームの法的課題

レイバープラットフォームにおいて、労務提供者は仕事の発注者と直接マッチングされ、個人事業主として仕事を受注する。そのため、各種労働法と社会保険の適用外に置かれ、労働組合により団体交渉をすることもできない。これらの労務提供者が、自ら労働条件を決定し、自律的存在として経済活動を行っているのであれば、特に問題はないであろう。しかし、その労働実態においてプラットフォーム企業と労務提供者の間に使用従属性が認められる場合、労務提供者は実態において「労働者」であるにもかかわらず、個人事業主と扱われることにより各種法的保護を受けられない状況に置かれ、ここに誤分類という法的問題を生じることになる。また、使用従属性が認められるとは言えないまでも、なんらかの従属性が認められる場合に、全くの自営業者と扱ってよいのか、検討を要する。

3. 労働者性を争う裁判

レイバープラットフォームを介した労働が広く普及した諸外国では、労務提供者の労働者性を問う裁判が提起されている。代表的なものとしては、2016年10月28日ロンドン雇用裁判所がウーバードライバーの労働者性を認め最低賃金と有給休暇の権利を認めた裁判、2017年6月9日ニューヨーク州労働省行政審判官がウーバードライバーの労働者性を認め失業保険の受給資格を認めた裁判、2015年6月3日カリフォルニア州労働委員会がウーバードライバーの労働者性を認め経費償還請求を認めた裁判などが挙げられる。また、2013年8月13日に提訴された原告数38万5,000人に上るオコナー対ウーバー裁判においても、クラスアクションのクラス認定に当たりウーバードライバーの労働者性が認められている。

その他にも、労働者性を争う裁判は、ライドシェアのリフト社、家事代行サービスのハンディ社、ホームジョイ社、配送業のポストメイツ社、キャヴィア社、データ入力などのクラウドフラワー社など、多岐にわたるレイバープラットフォーム企業に対して提起されている(注2)。これらの裁判から明らかなことは、少なくともレイバープラットフォームで働く労働者自身は、自らを自律的で自由な自営業者とは感じておらず、むしろプラットフォーム企業に従属して働く労働者と感じているということである。

4. レイバープラットフォームにおける労働実態

それでは、労働者たちはなぜその様に感じているのか、その労働実態とはいかなるものか。裁判を通して明らかになったウーバードライバーの労働実態を見てみたい。まず、ウーバー社は、研修ビデオによってウーバー社の求める接客方法をドライバーに提示する(注3)。ビデオでは、5つ星のドライバーは携帯の充電器やボトル入りの水を提供していると説明され、ドライバーは暗にそのようなサービスの提供を求められる。また、ウーバー社はドライバーに、特定の振る舞いを乗客がどう評価しているかを説明するメッセージを定期的に送っている。例えば、あるメッセージでは、「可能な場合には乗客のためにドアを開けるなど、乗客の利用体験を特別なものにするために、求められる以上のことをして下さい」などの提案があった。

ウーバーでは、その他の多くのプラットフォームと同じく労務提供者は顧客から5段階評価を受けるが、評価が4.6を下回るとドライバーはアプリの利用を停止される。つまり、解雇である。ウーバーの5段階評価制度は、三つの主要パフォーマンス指標からなる。それは、顧客からの評価、乗車受入回数、そして乗車キャンセル回数である。ウーバーは、ドライバーに対して、高い乗車受入率と、低いキャンセル率を維持するよう要求している。例えば、サンフランシスコでは、乗車受入率80%~90%、キャンセル率5%を維持することが要求され、これらを維持できなければアプリの利用を停止される。乗車受入率に関して、ドライバーは乗車リクエストから10秒以内に応答しなければ乗車拒否とみなされ、受入率の低下を招きアプリ利用停止の危険にさらされる。労働者としては、プラットフォームで働き続けるためには4.6という評価を維持しなければならず、そのためにはウーバー社の要求するサービス水準、仕事の依頼に対する応諾率を維持しなければならない。

このような労働実態に関して、上記のオコナー訴訟では、「ドライバーはウーバーから長たらしく細かい遵守事項を課せられ、その遵守事項をどれだけ履行しているかによって評価され、解雇の危険にさらされる(遵守事項には、顧客への接し方、車両の清潔さ、迎車及び乗客を目的地まで運ぶ際の迅速さ、顧客に対して許される発言の範囲などがある)」。それにもかかわらずドライバーを自営業者と扱うのはおかしいとの主張がなされている。

また、乗客が支払う運賃、ドライバーに支払われる歩合率、そしてプラットフォームが取る仲介手数料について、プラットフォーマーであるウーバーが一方的に設定及び変更する権限を持っている。このような状況のなか、ウーバードライバーのなかには、ウーバーが提示する運賃、歩合率、手数料割合及びウーバーが示す収入水準を信じてローンを組み、ウーバーが指定する年式の車両を購入して営業を開始したのにもかかわらず、一方的に運賃が引き下げられ、ウーバーの手数料割合が引き上げられるため、ウーバーが約束した収入を確保できず、ローンすら支払えないという苦境を訴える者もいる。

なお、ウーバー社は、ドライバーの募集に際し年収900万円などと表示していたことが誇大広告に当たるとして、米連邦取引委員会から提訴されていたが、同委員会に22億円を支払うことが確定した。委員会は、ウーバー社の自動車ローンプログラムについても、過大に安く表示されていると指摘している。決定では、22億円の支払命令の他に、ドライバーの収入及び自動車ローンやリースプランについても虚偽の宣伝をしないよう明記された。

レイバープラットフォームの労務提供者は、以上のような労働環境のなか、労働者ではなく自営業者と扱われ、労働者であれば享受できるはずの労働法の保護や社会保険が適用されない。その結果、事故が起きた際の労災保険の不適用、解雇された場合の失業保険の不適用、解雇規制の不存在、報酬を含む労働条件の突然の一方的切下げ、団体交渉拒否、収入の不安定さ、あらゆる経費の自己負担という状況に置かれている。

5. 労働者保護法制の各国の状況

以上見てきたように、プラットフォームで働く労務提供者は、自己の報酬について決定権限がなく、仕事の諾否の自由も乏しく、サービスの提供の仕方について指導され、一方的に解雇される立場にある。このような労務提供者については、完全な自営業者と扱うことはできず、労働者としての何らかの保護を及ぼすことが適切と言える。では、このようなプラットフォームワーカーについてどのような法的保護が考えられるだろうか。各国の労働者保護法制の状況を概観する。

まず、アメリカは日本と同様に、労働者か否かという択一的二分論である。アメリカにおいては労働法の規定が概括的であり、柔軟な労働者性の判断が可能と言われる。そして、裁判所は、管理性基準、経済的現実基準、ハイブリッド基準、ボレロ基準など複数の基準を用いて柔軟な労働者性判断を行っている。

これに対して、ヨーロッパはアメリカの逆とされ、フランスでは、一定の職種について立法で「労働者」と定める手法を採り、その他に「労働者と同視される者」というカテゴリーがある。

また、ドイツでは、「労働者」と「労働者類似の者」というカテゴリーがあり、使用従属性が認められる者を「労働者」、経済従属性が認められる者を「労働者類似の者」とする。「労働者類似の者」には、有給休暇、育児介護休暇の権利が認められ、協約の適用がある。

イギリスは、「被雇用者」と「労働者」があり、「労働者」には解雇規制などが適用されないが、最低賃金や有給休暇が適用される。

ヨーロッパでは「労働者」に準じる者という第三の類型を創設して、「労働者」には該当しないが、完全な自営業者とは言えない者の保護を図っている。

6. 日本における状況

日本においては、労働基準法、労働契約法、労働組合法が「労働者」について定め、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法は、労基法上の「労働者」を各法の労働者としている。

労基法9条は、「『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」とする。すなわち、最低賃金法や、労災保険法等の各種労働法の保護が受けられる労基法上の「労働者」とは、「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」であり、これは「使用従属性」が認められる者を意味するとされる。そして、「使用従属性」の有無は、「指揮監督下の労働」と「賃金の支払い」の有無から判断するとされ、「指揮監督下の労働」は、①仕事の依頼・業務指示に対する諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督の有無、③時間的場所的拘束性、④本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているかという点から判断される。また、「賃金の支払い」は、労務の対価といえるかという点から判断される。そして、「労働者性」が問題となる限界事例においては、補強要素として、①事業者性の有無、②専属性の程度、③選考過程、源泉徴収の有無、社会保険料の負担の有無、服務規律の適用の有無等が考慮される。

労働者性が問題となる裁判等においては、このような要素を検討して労働法の保護を受ける「労働者」に当たるか否かが判断されるのであるが、トラック運転手やバイク便運転手など、勤務時間や勤務場所に特定性のない事案において、時間的場所的拘束性が認められないとして労働者性が否定されている。

判例も、労災保険の適用を巡り傭車運転手の労働者性が争われた横浜南労基署長事件(平成8年11月28日)において、運転手がトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事し、会社は運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には業務の遂行に関し特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的・場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、運転手が会社の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないと述べて傭車運転手の労働者性を否定した。判例は、その上で「報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、上告人は、専属的に旭紙業の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。」とも述べている。

このような労働者性の判断については、時間的・場所的拘束性の要素について重視しすぎており、労働者概念が狭くなりすぎているとの批判がある。

確かに、このような判断基準に基づいて労働者性が判断される場合、シェアリング・エコノミーで働く労働者は、時間的・場所的拘束性が認められないとして労働者性が否定される可能性が高いと言えるだろう。

そして、日本においては、アメリカと同様、労働者性は、「労働者」に当たるか否かという二者択一である以上、労働者性が否定される場合、一切の保護を受けられないという事態が生じることとなる。

7. 労働者保護の方向性

それでは、日本においては、労働者か否かという限界事例に置かれる者にどのような保護を及ぼすべきか。「労働者」該当性を追及すべきか、「労働者に準じる者」という第三類型を創設すべきか、または最低賃金法や労災保険法など法律ごとに個別に「労働者」を定めるべきか、いくつかの方向性が考えられる。

ヨーロッパにおける「労働者類似の者」等、「労働者」に準じる第三類型は、労働者概念を広げるという作用を持つ反面、認められる権利については限定的となる。

これに対して、アメリカ型の「労働者」か否かという択一的二分論では、労働者性の認定が柔軟になされる場合には労働者の保護が広がる場合があるが、認定が厳格な場合には労働者の保護が狭まることとなる。前述のように、アメリカにおいては労働法の規定が概括的で、柔軟な労働者性の判断が可能であり、裁判所も管理性基準、経済的現実基準、ハイブリッド基準、ボレロ基準など基準を発展させ、複数の基準を用いて柔軟な労働者性判断を行ってきた。上記の各種裁判においても労働者性を肯定する判断がなされている。

日本は、アメリカと同様の択一的二分論であるが、アメリカと異なり、労働者概念が狭いという批判がある。プラットフォームワーカーに対しても、上記のように時間的・場所的拘束性を重視して判断がなされる場合、労働者性が否定される可能性が高い。

8. 労働者保護のあり方について

このような日本の労働者性を巡る判断の傾向に鑑みた場合、「労働者」該当性の追及は困難であるとして、「労働者に準じる者」という第三類型を創設し、そのカテゴリーでの保護を追及すべきことになるのだろうか。

私見を述べると、現代の労働環境の変化に合わせた適切な労働者保護のためには、新たな保護の方向性は択一的なものではなく、総合的なものがよいのではないかと思われる。すなわち、労働者概念の拡張と、第三類型の創設、または個別法における労働者の個別定義の創設を総合的に行うことが、多様化する働き方に即した適切な方向性と言えるのではないだろうか。

まず、労働者概念を拡大する場合、方向性としては、現在のシェアリング・エコノミーなどでの多様な働き方を認め、時間的・場所的拘束性の要素を緩和し、「経済的従属性」などの要素を加味して「使用従属性」を柔軟に認めるということになるだろう。この際、労基法が罰則規定を定めており刑法としての側面を有することから、適用範囲について慎重な検討が必要となる。

もっとも、プラットフォームワーカーは、複数のプラットフォームを利用して労務提供を行うことが可能であり、労働者がそのような働き方をしている場合には、使用従属性、経済的従属性も低いとして労働者性否定の方向に進むことが多いであろう。

このような場合に、「労働者に準じる者」という第三類型の必要性が認められることになる。この第三類型を設ける場合に注意しなければならないことは、今までは労働者性の限界事例において「労働者」と認められていたような労働者が、安易に労働者に「準じる者」とされることがないようにしなければならないということだろう。

さらに、現在、最低賃金法や労災保険法などの個別法は、労基法上の「労働者」を各法の「労働者」としているが、各種法律の趣旨・目的に照らして個別に「労働者」の定義を行うことも考えられる。

そのうえで、それでも労働者概念からこぼれ落ちる者にどのような保護を及ぼすべきか、さらに問題となる。この点、下請法や家内労働法の活用が考えられるが、家内労働法は適用対象者が「物品の製造、加工等若しくは販売又はこれらの請負を業とする者」と狭いため、何らかの改善が必要となろう。

現在の労基法の労働者の定義は、今から70年前の1947年に作られたものである。労働者概念も時代の変化に応じて変わるべき時に来ているのかもしれない。

プロフィール

川上 資人(かわかみ・よしひと)

弁護士(東京共同法律事務所)
日本労働弁護団 会員、「交通の安全と労働を考える市民会議」事務局。
2002年早稲田大学卒業、卒業後は、青年海外協力隊・村落開発普及員としてアフリカのニジェール共和国に赴任。農業協同組合の設立支援などを行う。帰国後はあしなが育英会に勤務。戦争や病気などで親を亡くした子どもたちのインターナショナルサマーキャンプなどを担当。その後、派遣労働の経験を通して労働問題に関心を持ち、2015年弁護士登録。

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