JILPTリサーチアイ 第55回
コロナショックの被害は女性に集中(続編Ⅱ)─雇用持ち直しをめぐる新たな動き─

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働き方と雇用環境部門 主任研究員 周 燕飛

2021年2月19日(金曜)掲載

コロナ禍が、世界中で猛威を振るうようになって早や1年が経った。第38回リサーチアイ「コロナショックの被害は女性に集中」(6月26日)では、緊急事態宣言の影響で景気が急悪化した2020年4~5月期において、女性の労働時間と収入の落ち込み幅が男性よりも大きいことを報告した。続いて第47回リサーチアイ「コロナショックの被害は女性に集中(続編)」(9月25日)では、景気がやや持ち直した6~7月期でも女性雇用の回復が男性より鈍いことを報告した。そこから一転して、経済回復がさらに進んだ8~11月期では、男性の労働時間や収入が頭打ち状態になったのに対して、女性の方は引き続き改善している。本稿は、その雇用持ち直しをめぐる新たな動きとその要因を探った。

男女間の雇用にこれまでとは逆の動き

欧米諸国と比較すると、日本ではコロナ禍の雇用への影響はかなり低く抑えられているが、その被害が立場の弱い層に集中していることは、他国と共通した課題である。女性はとりわけ、飲食、宿泊業等対人サービス型産業の就業割合が高く、非正規雇用が多い。このため、男性よりも雇用被害が集中するという、いわゆる「She-cession(女性不況)現象」が、複数の調査から確認されている[注1]

JILPTが行った雇用者調査によれば、景気が悪化した4~5月期において女性の労働時間と収入の落ち込み幅が男性よりも高く、景気が持ち直した6~7月期でも女性の雇用回復が男性より鈍かった[注2]。また、NHKとJILPTが実施した6万8千人の雇用者に対する大規模全国調査によれば、2020年4月以降の約7か月間に、解雇や労働時間の激減を経験した者の割合は、男性が18.7%であるのに対し、女性は26.3%となっている[注3]

図1 男女別雇用者数、完全失業者数の推移(2020年3月=100)

図1(グラフ)

出典:労働政策研究・研修機構「新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響」より作成。元データは、総務省統計局「労働力調査(基本集計)」によるもの。

一方、経済が急回復した8~11月期では、これまでとは異なる動きが見られている。男女別雇用者数の推移をみると、8~11月期では、男性はコロナ前(2020年3月)の98%程度と横ばいであったのに対して、女性は緩やかな回復を続けており、11月ではコロナ前の99.7%の水準まで回復している。完全失業者数についても、同様な傾向が見られる。女性の8月の失業者数は、コロナ前対比129.8%の高い水準から、11月はコロナ前対比110.3%の水準にまで改善している。一方、男性の失業者数は、8月以降も増加しており、11月はコロナ前対比で120.4%の水準に悪化した(図1)。

男女間の雇用動向に逆の変化が起きたことは、JILPTが12月中旬に行った「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」からも確認できる(図2付表1)。4月1日時点で就業していた民間企業の会社員4,307人(20歳-65歳未満)を対象に、11月末の就業状況を調査したところ、解雇や雇止め、企業倒産による「非自発的失業者」の割合は、女性がはじめて男性を下回っている。JILPTが同じく行った5月の調査では、非自発的失業は、女性の方が男性を上回っていた(2.7% vs. 1.8%)のに対して、12月の調査では一転して男性の方(2.9%)が女性(2.3%)よりも高くなった。

職に就いているのに実際は仕事をしていなかった「休業者」の割合についても、男女間格差が縮小している。11月末現在、女性の休業者割合は1.8%、男性の休業者割合は0.4%となっており、男女間格差が依然として存在しているものの、格差の幅は5月末時点の3.7ポイント差から1.4ポイント差に縮んだ。18歳未満の子どもを育てている女性の休業者割合(育児休業を含む)も4.2%に下がり、7月末に比べて1.9ポイントの改善が見られている。

図2 失業者・休業者になった民間雇用者の割合(%、2020年5月~11月)

図2(グラフ)

出典:JILPT「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(5月調査、8月調査、12月調査)より筆者が集計。詳細な結果は付表1を参照されたい。資料はこちら

注1:いずれの時点の集計対象者も、4月1日時点民間企業で働く会社員4,307人である。

注2:a 解雇/雇い止め/倒産失業 b 働いておらず、求職活動をしている(除くa) c 雇用されているが、就業時間がゼロ d 働いておらず、求職活動もしていない

注3:子育て女性とは、18歳未満の子どもを育てている女性のことである。

男性の労働時間や収入は頭打ち、女性は引き続き改善

労働時間と賃金の持ち直し幅についても、女性が男性に追い上げている。図3付表2は3月から11月末まで継続して働いた者の平均労働時間と月収の推移をみたものである。男性と比べて、女性の平均労働時間は、4~5月期の落ち込み幅が大きかったこともあり、6~7月期の持ち直しも男性より鈍かった。ところが、8~11月期では、男性の週あたり平均労働時間は、通常月の96%程度で横ばいに推移しているのに対して、女性は緩やかな改善を続けた結果、労働時間の回復度合いに対する男女間格差はほぼなくなっている。11月第4週には、男女ともに労働時間は通常月の97%程度に回復している。

税込月収についても、雇用回復の男女間格差は縮小に向かっている。11月の平均月収(見込額)をみると、女性全体では通常月よりわかずかに高い水準にまで回復している。一方、男性の平均月収は通常月と比べて2.6%減(11月見込)となっており、6月以降、更なる回復が見られていない[注4]

8月調査では雇用回復の鈍かった子育て女性においても、労働時間と月収には比較的大きな改善がみられる。子育て女性の週あたり平均労働時間は、5月第2週に通常月の77.3%まで落ち込んだが、その後に追い上げ、11月第4週には通常月の94.7%まで持ち直している。子育て女性の平均月収も通常月の98.1%(11月見込み)まで回復した。

図3 労働時間と月収の推移(2020年3月~11月、通常月=100)

図3(グラフ)

出典:付表2の集計結果をもとに作成。

労働力の需要側と供給側の双方に変化

雇用回復のペースに男女逆転が起きた背景には、労働力の需要側と供給側の双方に変化があったと考えられる。

まず、日本経済は2020年4~5月期の歴史的な落込みのあと、緊急事態宣言の解除(5月25日)に伴い、その反動で景気が急回復したことから、労働需要もかなり戻った。実際、2020年7~9月期の国内総生産(GDP)は前期比の年率換算で22.9%という記録的な伸びを示した後、10~12月期も7.97%の高成長が予測され、7~12月の景気回復が鮮明である[注5]。そこで、国の消費喚起策「Go To トラベル」(2020年7月22日~)と「Go To イート」(2020年10月~)事業の導入は、景気拡大への追い風となり、外食、旅行等対人サービス型産業の労働需要が相当程度にまで復調した。

それに加え、国が企業に休業手当分を補助する「雇用調整助成金」の大幅な拡充、休業手当を支払わない企業の従業員が申請できる「休業支援金・給付金」(賃金の8割補償、日額上限11,000円、2020年7月~)の新設等を通じて、被害の大きい産業や非正規雇用者への経済的支援を強化している。これらの施策は、労働需要側の要因として、雇用回復における男女間格差の縮小に貢献した可能性がある。

一方、労働供給側の要因としては、家事や育児負担がおおむねコロナ前の水準に戻ったことが挙げられる(図4付表3)。小中高校や保育園の臨時休園・休校による家事、育児負担急増の影響は、緊急事態宣言解除後、徐々に解消されてきた。小中高校と保育園の全面再開に伴い、自ら就業を控える女性が減少したことも女性の雇用回復につながったと思われる。

図4をみると、炊事や洗濯、掃除に費やす1日あたり家事時間は、コロナ前の通常月に比べて、緊急事態宣言期間中(4月7日~5月25日)は男女ともに6~10%ほど増加していたが、12月現在では女性が通常月の102%、男性が通常月の105%にまで下落している。女性の家事時間は男性の2倍以上で、家事負担が女性に偏っている状況には変わりないものの、女性が家事に費やす時間は通常水準に戻りつつあると言えよう[注6]。子どもの世話(衣食の世話、遊び相手、勉強の面倒見など)に充てられる時間についても、同様な傾向が確認できる。

図4 家事時間、育児時間数の変化(コロナ前の通常月=100)

図4(グラフ)

出典:付表3の集計結果をもとに作成。

注:図4の下部は、新型コロナウイルス感染症の発生から現在に至るまでの間に、新型コロナに関連して、雇用や収入に「大いに影響があった」と回答した者に関する集計結果である。

ちなみに、コロナ禍で雇用や収入に「大いに影響があった」と回答した女性に限定した場合、宣言期間中では家事、育児時間が通常月より10~23%の大幅な増加を経験したものの、12月現在では男性と同じく通常月の105%程度に戻っている。

女性雇用が再度悪化する場合に必要な政策

日本女性の雇用状況は、2020年4~5月期に非常に厳しい状況にあったものの、現在は最悪の局面を脱しつつある。しかしながら、そこで気になるのは、新型コロナウイルスの感染再拡大で、政府は2度目の緊急事態宣言(2021年1月7日~3月7日予定)を発令したことによる影響である。

2度目の緊急事態宣言下においては、保育園の登園自粛を呼びかける自治体があるものの、1度目の宣言期間中のように全小中高校や保育園に臨時休校(園)の措置は行われていない。そのため、女性雇用を阻害する供給側の要因は、ひとまず回避できている。

一方、労働需要側では、女性雇用を再び悪化させるリスクを孕んでいる。緊急事態再発令で飲食、宿泊関連等国内のサービス消費が再び落ち込んでいるからである。また、米欧でも日本同様感染の再拡大が見られ、輸出は昨年10~12月期の9%程度の伸びから、2021年1~3月期では0.76%の伸びに急減速する見通しである[注7]

女性の雇用が再度悪化する場合、雇用調整助成金等、国の経済支援に頼る従来の対応策だけでは限界に近付いている。

1つ目は財源の限界である。1975年に鉄鋼等の正社員の利用を念頭に作られた雇用調整助成金は、年6千億円規模の保険料収入では賄えず、2020年末時点の試算ですでに1.7兆円の財源不足に陥っている。時限的な特例法によって、本来は失業保険や育児休業給付等に充てるべき雇用保険の積立金から不足分を穴埋めしているが、その積立金も2021年度に底をつく見通しである。枯渇した雇用保険の積立金を立て直すため、いずれかの時点で雇用保険料率が引き上げられ、企業と労働者双方の負担増に跳ね返ってくる可能性が高い。

2つ目は労働者のスキル維持と職業移動をめぐる限界である。雇用調整助成金や休業支援金は、あくまで短期的な雇用対策である。休業が長引くと、職業スキルと仕事のモチベーション維持が困難になることが予想される。また、長いスパンでみると、長引く不況業種にとどまるよりも、好況業種に転職したほうが良い場合があるが、雇用調整助成金がその職業移動を阻害する恐れがある。

コロナ禍の長期化を見据えて、雇用調整助成金と休業支援金といった直接的な経済支援から「ジョブ・クリエーション支援」に重心を移す時期が差し掛かっている。「仕事を増やすこと」や「ミスマッチを解消すること」、「新成長分野を育てること」に官民の総力を挙げて取組むことが、いま求められている。例えば、老朽化した道路や橋のリノベーション、5Gの実現に向けたインフラ整備、電気自動車(EV)の普及を促す公共投資は、雇用を増やすだけではなく、新成長分野を育む効果も絶大である。また、大企業志向の強い日本では、中小のベンチャー企業は人材難の問題に直面することが多い。休業手当の受給者を、こうした人材難の成長型中小企業に出向させ、本人が希望するなら転職も可能となるようなマッチングサービスもあれば良い。

備考)本稿の主張・提言は筆者個人のものであり、所属機関を代表するものではない。本稿の分析に用いられる調査データは渡邉木綿子氏より提供されたものである。記して感謝を申し上げたい。

付表1 失業者・休業者になった民間雇用者の割合(%、5月~11月)

付表1画像

出典:JILPT「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(5月調査、8月調査、12月調査)より筆者が集計。資料はこちら

注:a 解雇/雇い止め/倒産失業 b 働いておらず、求職活動をしている(除くa) c 働いておらず、求職活動もしていない d 雇用されているが、就業時間がゼロ
子育て男性(女性)とは、18歳未満の子どもを育てている男性(女性)のことである。

付表2 週あたり労働時間と税込月収の推移(2020年3月~11月、平均値)

付表2画像

出典:JILPT「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(8月調査、12月調査)より筆者が集計。資料はこちら

注1:民間企業の雇用者(休業者を含む)が集計対象である。通常月と3月~7月の数値は、3月1日~7月末まで通して働いていた4,179人、8月~11月の集計値は、8月1日~11月末まで通して働いていた4,194人に関するものである。

注2:各月の労働時間は、それぞれ3月全体、4月の第2週、5月の第2週、6月・7月・8月・9月・10月・11月の最終週の平均労働時間を指している。7月と11月の月収は見込み額である。

注3:労働時間と税込月収入が12の階級をもとに大まかに算出。ただし、労働時間は60時間以上では60時間とし、税込月収は50万円以上では50万円とし、その他では階級ごとの中央値としている。

付表3 平日、平均家事時間数と育児時間数の変化(単位:分)

付表3画像

出典:JILPT「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(12月調査)より筆者が集計。資料はこちら

注1:家事時間-炊事、洗濯と掃除をこなす時間/育児時間-子どもの世話に充てられる時間

注2:家事時間と育児時間が8の階級をもとに大まかに算出。ただし、3時間以上では180分とし、その他では階級ごとの中央値としている。

脚注

注1 周燕飛(2020)「コロナ禍の格差拡大と困窮者支援─女性、非正規労働者、低収入層に注目して─」『貧困研究』第25号、4-13

注2 第38回JILPTリサーチアイ「コロナショックの被害は女性に集中」(6月26日)、第47回JILPTリサーチアイ「コロナショックの被害は女性に集中(続編)」(9月25日)

注3 JILPT(2020)「新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査結果概要」(2020年12月4日)

注4 直近月の月収が通常月に比べて3割以上減少した者の割合は、男性が8.1%、女性が8.0%となっており、男女間の差が見られない。

注5 民間エコノミスト36人の予測平均である(朝日新聞「GDP 年7.9%成長予測」(2021年2月11日))。

注6 NHK・JILPT共同調査からも同様な結果が得られている。

注7 日本経済新聞「GDP、5.4%減予測─緊急事態延長で下振れ」(2021年2月11日)