JILPTリサーチアイ 第50回
若年者に厳しい新型コロナの雇用・収入面への影響─JILPT個人調査の年齢別分析

新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT委員
富士通株式会社シニアアドバイザー
酒光 一章[注1]

2020年12月2日(水曜)掲載

新型コロナ感染症拡大に対し、GOTOキャンペーンが進められる一方で、感染者(PCR陽性者)の増大を懸念・警戒する声があがるなど、封じ込めが大事か、経済との両立が大事かの議論がたたかわれている。この文脈で、しばしば、若者が新型コロナ感染症を軽視し、感染を広げているという指摘がなされる。

若者が封じ込めよりも両立優先と考えているとすれば、その一つの理由は、若者の新型コロナによる重症化リスクが小さく、死亡者もほとんど出ていないことであろう。

しかし、これに加え、若者ほど自粛等に伴う経済面での悪影響が出ていることが関係しているとすると、単に、若者が感染症を軽視しているというだけの問題ではなくなる。

このため、新型コロナの雇用・収入面への影響の年齢による違いについて、主としてJILPTの「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」[注2](以下「JILPT個人調査」という。)を用いて検討する。

若者ほど失業率の上昇が大きい

「個人調査」の分析に入る前に、まず総務省「労働力調査」により年齢別の雇用動向を確認する。本年の4~9月と昨年の同時期を比較すると、完全失業率の上昇幅、就業率の低下幅がいずれも若年者ほど大きく、若年者ほど雇用が減っていることがうかがわれる。中でも15~19歳の失業率の上昇が著しい。

図1 完全失業率の変化(2020年4~9月平均、前年同期ポイント差)

図1 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

図2 就業率の変化(2020年4~9月平均、前年同期ポイント差)

図2 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

また学生アルバイトへの影響が大きい。学生アルバイトは、ここ数年強い増加傾向にあったが、新型コロナ感染拡大後に雇用が激減し、4月では前年同月と比べおおむね半減した。飲食店・小売業・サービス業などの営業自粛・時間短縮などが影響したと考えられる。学生アルバイトは、それがなくなった場合でも、完全失業者としてカウントされない場合も多いと考えられるが、アルバイト収入は生活していく上で必要不可欠となっている場合も多く、深刻な事態といえる。

図3 学生アルバイトの増減(前年同月比増減率、万人)

図3 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:「通学のかたわらに仕事をしていた」者であって、年齢が15~24歳の者を学生アルバイトとした。

なお、完全失業率について、諸外国と比較してみると、アメリカは日本と同様、若年層で失業率の上昇が大きい。フランス、イギリスも若者の失業率の上昇が大きい。これに対し、韓国は男性では若年層の失業率の上昇が大きいが、女性では30代後半以降の失業率の上昇が大きい。ドイツでは女性においては若年の失業率が高まっているが、男性はむしろ若年の方が失業率の上昇が小さい。

図4 完全失業率の変化(前年同期ポイント差、アメリカ、韓国、ドイツ、フランス、イギリス)

図4 グラフ-アメリカ

図4 グラフ-韓国

図4 グラフ-ドイツ・フランス・イギリス

資料出所:ILOSTAT

若年者ほど収入が減少している者が多い

「労働力調査」では、在職者が所得その他に関しどのような影響を受けているかについて、これ以上の情報を得ることが難しい。このため、以下では「JILPT個人調査」(主として8月調査)を使って、雇用や収入などへの影響が年齢別にどのような違いがあるかを見ていく。

なお、「JILPT個人調査」の調査対象は、大別すると民間雇用者とフリーランスに分かれるが、本稿では民間雇用者に関する分析を行う。

まず、新型コロナ感染症に関連して雇用や収入にかかわる影響があったかについてみると、若年ほど雇用・収入面への影響があったとするものが多い。

図5 コロナの影響があった者の割合 (n=4307)

図5 グラフ

資料出所:「JILPT個人調査」(以下資料出所のないものについて同じ)

注:コロナの影響があった者の割合とは、「大いに影響があった」「ある程度、影響があった」者の割合の合計。

雇用や収入にかかわる影響があったとした者について、具体的にどのような影響があったかを見ると、「収入の減少」をあげる者が若年者に多い。影響があった者自体が若年者ほど多いことと併せ考えると、若年者ほど新型コロナの影響により収入面での悪影響が生じているという結果となっている。

図6 具体的な影響(雇用や収入にかかわる影響があったとした者)(n=1760)

図6 グラフ

実際に収入面に影響が出ているかを確認すると、コロナ前の通常月と比べて直近の所得が減少したという者は若年ほど多いことがわかる。程度を考慮して収入が3割以上減少した者について見ても同様であり、特に20歳代、30歳代で3割以上収入が減少したという者が多い。

図7 収入が減少した者の割合 (n=4307)

図7 グラフ

図8 収入が3割以上減少した者の割合 (n=4307)

図8 グラフ

なお、感染の終息の見通しや新しい生活様式に伴う変化など、雇用や収入以外の不安については、若年層より中高年層で大きい。ここからもコロナに対する考え方が年齢によりかなり異なることがわかる。

図9 新型コロナ感染症拡大に関する不安 (n=4307)

図9 グラフ

属性をコントロールしても20歳代、30歳代において収入面への影響が大きいという結果は変わらない

以上から、若年層ほど収入面を中心に悪影響が出ていることが確認できた。

しかしながら、新型コロナの影響については、すでに報告されている一次集計を見ても、雇用形態、産業、職業などによる差が大きく、非正規労働者、飲食・宿泊業、サービス職、運輸職などで影響が大きいことがわかっている[注3]。したがって、年齢による影響の違いは、このような産業・職業などの、年齢による違いを反映している可能性がある。

このため、以下のモデルにより年齢による違いが、年齢そのものによる違いなのか、各年齢の属性の違いによるものであるかを検証した。なお、変数はすべてダミー変数であり、カッコ内は基準としたものである。

  • モデル1 性(男)、年齢階級(50~59歳)のみを用いて推計
  • モデル2 性×年齢階級(男50~59歳)のみを用いて推計
  • モデル3 性(男)、年齢階級(50~59歳)に加えて他のコントロール変数を用いて推計

モデル1及びモデル2はこれまでのクロス集計による分析結果を確認する意味合いになる。

モデル3が、属性をコントロールしたモデルであり、純粋に年齢による影響を見るものである。使用したコントロール変数(ダミー変数)は、雇用形態(正社員)、7月の在宅勤務の有無(なし)、都道府県(東京)、学歴(高卒)、産業(製造業)、職業(事務職)、企業規模(9人以下)、昨年の年収(なし)である。

被説明変数(すべてダミー変数)は以下のとおりである。(該当した場合に1、非該当の場合に0)

  • コロナの雇用・収入への影響の有りとした者
  • コロナの雇用・収入への影響として収入の減少を挙げた者[注4]
  • 直近の月収がコロナ前の通常月の月収に比べ減少した者
  • 直近の月収がコロナ前の通常月の月収に比べ30%以上減少した者

推定方法は、線形確率モデル(OLS)とした[注5]

データは「JILPT個人調査」の個票データ(民間雇用者, n=4307)である。

推定結果は、のとおりである。モデル1では明確に20歳代、30歳代で有意にコロナの影響が生じていることが確認できる。また、性と年齢をクロスで見た場合のモデル2でもほぼ同様の結果が得られている。

各種属性をコントロールしたモデル3を見ても、モデル1と同様に20歳代、30歳代で有意な影響が出ているという結果が得られており、係数の大きさもモデル1に比べ若干低下するものの大きな違いはない。

したがって、20歳代、30歳代でコロナの収入面の悪影響が出ているという傾向は、年齢以外の属性の違いでは説明がつかず、何らかの要因により、収入面の影響が若者(20歳代、30歳代)にしわ寄せされていると考えることができる。

モデル3に基づき、属性コントロール後の年齢による具体的な影響を見ると、以下のとおりである。なお、比較対象は50歳代である。またいずれも有意である。

  • コロナによる雇用・収入への影響ありとする者の割合は、20歳代で6%、30歳代で5%高くなる。
  • コロナによる収入への影響ありとする者の割合も、20歳代で6%、30歳代で5%高くなる。
  • 実際に月収がコロナ前より減少したとする者の割合は、20歳代で7%、30歳代で8%高くなる。
  • 実際に月収がコロナ前より30%以上減少したとする者の割合は、20歳代で6%、30歳代で3%高くなる。

年齢別の影響の違いが生じている背景

「労働力調査」、「JILPT個人調査」という全く異なる調査のいずれにおいても、中高年層に比して若年に厳しいという結果が出ており、現在、若年層ほど厳しい状況になっているということに関してはある程度確からしいと考えられる。

但し、もう少し細かく見ると、「労働力調査」による雇用面の影響が未成年層や学生アルバイトに集中している一方、「JILPT個人調査」による収入面の影響は、20歳代、30歳代と若干幅が広い。

雇用面の影響が未成年や学生に集中している要因としては、宿泊業、飲食店など今回影響の大きかった業種や影響の大きい雇用形態(非正規労働)で働いている者が多いことが考えられる。

図10 新型コロナの影響の大きい産業で働く労働者の割合

図10 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」より筆者作成

注1:2020年4月~9月平均の就業者の前年同期差減少幅の大きい6産業(宿泊業・飲食サービス業、製造業、卸売・小売業、分類不能の産業、生活関連サービス業・娯楽業、建設業)を新型コロナの影響の大きい産業とした。

注2:労働者の割合は2019年の各年齢の産業別就業者の構成比から算出した。

先に見たようにアメリカ、イギリス、フランスなどでも若年層に影響が大きく出ており、比較的他の国とも共通の特徴となっている。

収入面についても、産業構成等の違いが影響している可能性があるが、前節でみたように産業・職業等をコントロールしても20歳代、30歳代で収入への影響が大きいという結果が得られている。この要因の一つとして考えられるのは残業の影響である。厚生労働省「毎月勤労統計調査」で見ると、2020年4~9月において、所定内給与はほぼ前年と同水準である一方、所定外給与は前年に比べ▲17%[注6]と大幅に減少している。給与に占める所定外給与の割合は20歳代、30歳代で高く、逆に高齢層では小さい。このことが収入面での影響が20歳代、30歳代で特に大きいことの背景の一つになっていると考えられる。

図11 きまって支給する給与に占める所定外給与の割合

図11 グラフ

資料出所:厚生労働省「賃金構造基本調査」(令和元年)

高齢層は、感染症の重症化・死亡リスクが高いと考えられている一方で、雇用・収入面の影響が少なくなっている。この理由として、雇用に関しては産業・職業構成の影響が考えられ、収入面に関してはもともと所定外給与の割合が少ないことを反映していると考えられる。

終わりに

新型コロナ感染症対策に関し、封じ込めを重視すべきか、経済との両立を重視すべきかの議論がたたかわれており、この中で、特に若者が感染症を軽視していると指摘されることがある。

この一つの理由として、若者が新型コロナ感染症の重病化リスク、死亡リスクが低いことがあげられる。しかし、上記分析によると、若者ほど雇用・収入へのしわ寄せを受けている。つまり単にコロナを軽視しているだけではなく、経済を立て直す必要性が若者ほど高いことも理由の一つになっている可能性がある。

表 OLS推定結果

被説明変数:コロナの影響あり
OLSタイプ モデル1 モデル2 モデル3
推定値 標準誤差 推定値 標準誤差 推定値 標準誤差
女性 0.019 0.015 0.024 0.020
20~29歳 0.077 0.024 ** 0.062 0.025 *
30~39歳 0.060 0.022 ** 0.050 0.023 *
40~49歳 -0.008 0.021 -0.008 0.021
60~64歳 -0.046 0.031 -0.048 0.032
20~29歳男性 0.075 0.033 *
30~39歳男性 0.055 0.030 .
40~49歳男性 -0.022 0.029
60~64歳男性 -0.071 0.042 .
20~29歳女性 0.081 0.033 *
30~39歳女性 0.068 0.032 *
40~49歳女性 0.012 0.030
50~59歳女性 0.003 0.032
60~64歳女性 -0.013 0.045
他のコントロール変数 なし なし あり
定数項 0.378 0.017 *** 0.385 0.022 *** 0.315 0.077 ***
Adjusted R^2 0.006 0.005 0.048
F-Value 6.094 *** 3.525 *** 2.972 ***
n 4307 4307 4307
被説明変数:コロナの影響(収入の減少)
OLSタイプ モデル1 モデル2 モデル3
推定値 標準誤差 推定値 標準誤差 推定値 標準誤差
女性 -0.013 0.013 -0.002 0.017
20~29歳 0.084 0.021 *** 0.058 0.022 **
30~39歳 0.067 0.019 *** 0.051 0.020 *
40~49歳 0.014 0.019 0.009 0.018
60~64歳 -0.028 0.027 -0.030 0.027
20~29歳男性 0.091 0.028 **
30~39歳男性 0.078 0.026 **
40~49歳男性 0.030 0.025
60~64歳男性 -0.052 0.037
20~29歳女性 0.079 0.029 **
30~39歳女性 0.055 0.028 .
40~49歳女性 -0.004 0.026
50~59歳女性 0.001 0.028
60~64歳女性 0.004 0.040
他のコントロール変数 なし なし あり
定数項 0.218 0.015 *** 0.212 0.019 *** 0.114 0.066 .
Adjusted R^2 0.007 0.006 0.066
F-Value 6.698 *** 4.09 *** 3.792 ***
n 4307 4307 4307
被説明変数:月収の減少
OLSタイプ モデル1 モデル2 モデル3
推定値 標準誤差 推定値 標準誤差 推定値 標準誤差
女性 -0.010 0.014 -0.024 0.017
20~29歳 0.108 0.021 *** 0.075 0.023 ***
30~39歳 0.098 0.020 *** 0.075 0.021 ***
40~49歳 0.020 0.019 0.011 0.019
60~64歳 -0.039 0.028 -0.043 0.028
20~29歳男性 0.135 0.029 ***
30~39歳男性 0.119 0.027 ***
40~49歳男性 0.037 0.026
60~64歳男性 -0.058 0.038
20~29歳女性 0.096 0.030 **
30~39歳女性 0.090 0.029 **
40~49歳女性 0.018 0.027
50~59歳女性 0.018 0.029
60~64歳女性 0.005 0.041
他のコントロール変数 なし なし あり
定数項 0.231 0.016 *** 0.218 0.020 *** 0.264 0.068 ***
Adjusted R^2 0.012 0.012 0.076
F-Value 11.39 *** 6.845 *** 4.263 ***
n 4307 4307 4307
被説明変数:月収の3割以上減少
OLSタイプ モデル1 モデル2 モデル3
推定値 標準誤差 推定値 標準誤差 推定値 標準誤差
女性 0.026 0.010 ** 0.003 0.012
20~29歳 0.088 0.015 *** 0.061 0.016 ***
30~39歳 0.042 0.014 ** 0.031 0.015 *
40~49歳 0.005 0.014 0.003 0.014
60~64歳 0.008 0.020 -0.003 0.020
20~29歳男性 0.085 0.021 ***
30~39歳男性 0.038 0.020 .
40~49歳男性 -0.006 0.019
60~64歳男性 0.018 0.027
20~29歳女性 0.109 0.021 ***
30~39歳女性 0.066 0.021 **
40~49歳女性 0.036 0.019 .
50~59歳女性 0.019 0.021
60~64歳女性 0.014 0.029
他のコントロール変数 なし なし あり
定数項 0.074 0.011 *** 0.078 0.014 *** 0.142 0.049 **
Adjusted R^2 0.011 0.011 0.079
F-Value 10.65 *** 6.096 *** 4.367 ***
n 4307 4307 4307

*** P<=0.1% ** 0.1%<P<=1% * 1%<p<=5% . 5%<p<=10%

脚注

注1 本稿の内容、見解等はすべて執筆者個人の責任において発表するものであり、執筆者の所属する組織の見解等を示すものではない。

注2 本稿は、JILPT(2020)「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」の二次分析に当たる。本調査は、4月以降のパネル調査となっているが、本稿では主として8月調査の個票データを分析した。同調査の一次集計結果は新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査【8月調査】(一次集計)結果(PDF:1.0MB)を参照。

注3 「JILPT個人調査」(一次集計)図表2、図表7など。新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査【8月調査】(一次集計)結果(PDF:1.0MB)

注4 図6は【雇用・収入面の影響があった者】に対する割合であるが、これで推計すると【雇用・収入面の影響があった者】の割合の違いが影響してしまうため、推計に当たっては民間雇用者全数で行った。

注5 被説明変数が2値変数の場合の推定には、プロビット分析、ロジスティック回帰などの方法もよくつかわれる。線形確率モデルは、理論上、被説明変数(確率)の予測値が0未満になったり、1を超えたりすることを排除できないが、係数がそのまま確率への平均効果を表すなどメリットも大きいことから、ここでは線形確率モデルに基づいて推計した。(参考 Angrist and Pischke (2009), "Mostly Harmless Econometrics" (アングリスト/ピスケ『「ほとんど無害な」計量経済学』), 3.4.2)

注6 4~9月の所定外給与の前年同月増減率の単純平均(産業計、5人以上)。