緊急コラム #025
新型コロナの影響を受けた2020年の雇用動向

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総務部長 中井 雅之

2020年12月28日(月曜)掲載

12月25日に公表された11月の主な雇用関係指標をみると、有効求人倍率[注1]は前月より0.02ポイント上昇して1.06倍となり、完全失業率は前月より0.2ポイント低下して2.9%と4か月ぶりに3%を下回った(図表1)。

図表1 完全失業率、有効求人倍率の推移

図表1 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」

このように足元では雇用指標に若干の改善がみられるものの、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により、雇用情勢の悪化が続いてきた。年末に当たり、2020年の雇用動向を振り返ってみたい。

まず、就業者数をみると、11月は前年同月差55万人減と8か月連続の減少となっているが、減少幅はそれまでの70~90万人台から縮小し、季節調整値でみても前月より43万人増とこれまでより大きな増加幅となっている(図表2)。これで5月から11月までで76万人増と、4月の107万人減の7割程度就業者が戻っている計算になる。

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて緊急事態宣言が出された4月には、労働力人口から非労働力人口に移ることで結果的に失業が抑制されていた。その後は労働力人口に戻るとともに、就業者、完全失業者いずれも増加傾向となっていたが、11月には完全失業者は減少している(図表2)。

図表2 雇用関係指標の前月との増減(季節調整値)

図表2 表

資料出所:総務省「労働力調査」

また、4月に激増した休業者[注2]については、5月、6月と大幅に減少した後[注3]、11月は前年同月差15万人増の176万人となり、ほぼ平年の水準に戻っている[注4]図表3)。

図表3 休業者の推移

図表3 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:休業者とは、就業者のうち、調査週間中に少しも仕事をしなかった者で、自営業主においては、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者。雇用者においては、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者。

ところで、就業者のうち、調査週間中(毎月の末日に終わる1週間)に少しも仕事をしなかった者が休業者であり、就業日数を減らして働いた者は休業者ではなく従業者に含まれる。4月、5月の緊急事態宣言下において、経済活動の自粛とともに出勤日数が短い従業者が大幅に増加した後、従業者の出勤日数は増えつつあるものの、元に戻っていないことを以前にも指摘したが[注5]、これについて最近の動向を見ておきたい。

月末一週間の就業日数別に就業者数の前年同月差の推移をみると[注6]、出勤日数5~7日の従業者数については、一貫して減少する中で、10月まで減少幅が縮小してきたが、11月は前年同月差217万人減と再び減少幅が拡大した。一方、1~4日の従業者数は増加傾向がみられ[注7]、9月、10月に一旦は減少したものの、11月は前年同月差152万人増と、相対的に大きな増加幅となっている(図表4)。このように、出勤日数の減少傾向は未だに続いていることが分かる。

図表4 月末一週間の就業日数別就業者数の前年同月差の推移

図表4 表

資料出所:総務省「労働力調査」

注:就業日数については不詳もあるため、日数の差を合計しても就業者計とは一致しない。

さらに11月の動きについて産業別にみると、出勤日数5~7日の減少数は、製造業(66万人減)、宿泊業,飲食サービス業(27万人減)、卸売業,小売業(24万人減)、サービス業(23万人減)で大きくなっている。このうち、製造業、宿泊業,飲食サービス業、サービス業では就業者全体の減少が目立つとともに、製造業、卸売業,小売業では、出勤日数1~4日の増加数が大きくなっている(図表5)。就業者数については、新型コロナの影響度の差を反映して、産業間の跛行性がみられているが、出勤日数についても同様の傾向がみられる。

図表5 産業別月末一週間の就業日数別就業者数及び前年同月差(2020年11月)

図表5 表

資料出所:総務省「労働力調査」

こうした動きを総合して、活用労働量(労働ニーズ)[注8]の推移をみると、11月の月末一週間の活用労働量は前年同月比で3.4%減と、8月から11月にかけて3%台の減少となっている。4月、5月と10%前後減少した後、8月まで減少幅が縮小してきたが、9月以降は活用労働量からみた経済活動の戻りが鈍くなっているようにみえる(図表6)。

図表6 就業状態の前年同月との比較(2020年4~11月)

図表6 表

資料出所:総務省「労働力調査」により作成。

注1:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも(1時間以上)仕事をした者。

注2:休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者。

注3:週間就業時間は、月末一週間の就業時間。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

注4:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注5:就業率は就業者数を15歳以上人口で割った比率。稼働率は従業者数を15歳以上人口で割った比率として計算。

4月以降の活動労働量の減少について、就業者数の減少、休業者数の増加、労働時間の減少により要因分解を行うと(図表7)、特に4、5月においては休業者の増加要因が大きいが、6月以降は徐々に小さくなっている。また、全体を通して労働時間の減少要因が大きく[注9]、就業者数の減少を一定程度に抑えていることが見て取れる。

図表7 活用労働量(労働ニーズ)の前年同月比の要因分解(2020年)

図表7 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」により作成

注1:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注2:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも(1時間以上)仕事をした者、休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者である。このため、従業者数の増減は、就業者数と休業者数の増減によって説明できる。

注3:週間就業時間は月末一週間の就業時間であり、出勤日数や所定労働時間の増減等の影響を受ける。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

なお、雇用者の動きを正規・非正規別にみると、11月は正規の職員・従業員は前年同月差21万人増となったのに対し、非正規の職員・従業員では同62万人減と、正規の増加と非正規の減少が同時に生じている状況が6か月続いている[注10]。非正規の減少を男女別にみると、男女とも減少幅はこのところ縮小しているものの、引き続き、女性の非正規の職員・従業員の減少数が目立っている(図表8[注11]

図表8 男女別、正規・非正規別雇用者の対前年同月差の推移

図表8 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:雇用者には役員も含まれるため、正規の職員・従業員と非正規の職員・従業員の対前年同月差を合計しても、雇用者の対前年同月差とは一致しない。

最近の経済動向をみると、2020年7~9月期の実質経済成長率(二次速報)は、前期比5.3%プラス(年率換算22.9%プラス)となるなど、経済には持ち直しの動きもみられる[注12]。一方で、経済活動の水準的としては、6月以降も前年の活動水準に戻っていないなど、企業の経営環境は厳しい状態が続いている[注13]。そうした中で、12月においても第3波と呼ばれる感染拡大が起こっており、先行きの不透明感が増している。

今回の新型コロナウイルス感染症の雇用面への影響については、特に、対人業務が中心の産業で働く割合の高い、女性、非正規といった層に集中的に表れてきた[注14]が、感染抑制を考えると、こうした産業への更なる影響が懸念されるため、引き続き雇用動向を注視していくことが必要である。

当機構では、新型コロナウイルス感染症の雇用・就業への影響をみるため、関連する統計指標の動向をホームページに掲載しているので、そちらもご覧いただきたい(統計情報 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響)。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 ハローワーク(公共職業安定所)で受け付けた、有効期間内(原則受け付けた月から翌々月の末日まで。有効求職者については失業給付の受給期間は有効期間に含まれるなどの例外もある)の企業からの求人と仕事を求める求職者の割合を示す指標。1倍を上回ると求人超過(人手不足)となり、下回ると求職超過となる。

注2 緊急コラム「新型コロナの労働市場インパクト─失業者は微増だが休業者は激増し、活用労働量は1割の減少─」(2020年5月29日)参照。

注3 緊急コラム「新型コロナの影響を受けて増加した休業者のその後―休業者から従業者に移る動きと、非労働力から失業(職探し)に移る動き―」(2020年6月30日)参照。

注4 総務省「労働力調査」追加参考表「就業者及び休業者の内訳」(PDF)新しいウィンドウ参照。

注5 緊急コラム「6月も前月より休業者は大幅に減少し従業者は大幅に増加─活用労働量(労働ニーズ)は前月より増加しているがそのスピードは遅い─」(2020年7月31日)参照。

注6 出勤日数0日の就業者は休業者に相当する。

注7 2019年の4月は月末一週間のうち休日が3日と例年より多くなっている影響により、就業日数3日の従業者数が多くなっているなどイレギュラーな動きが見られているので、比較するときには注意が必要である。

注8 従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算しており、必要な経済活動を行うための労働ニーズ(労働需要)が顕在化した労働量とみなすことができる。

注9 コロナ禍における労働時間の減少については、高見具広 JILPTリサーチアイ第39回「フルタイム労働を襲ったコロナショック─時短、在宅勤務と格差」(2020年7月1日)及び JILPTリサーチアイ第48回「コロナ下の労働時間変動を読み解く─7月にかけての局面変化、回復遅れの所在」(2020年10月27日)参照。また、労働時間の減少の賃金への影響については、高橋康二 JILPTリサーチアイ第37回「労働時間の減少と賃金への影響―新型コロナ「第一波」を振り返って」(2020年6月18日)及び JILPTリサーチアイ第45回「コロナ禍のなかでの賃金の推移─5月・8月パネル調査の分析から─」(2020年9月11日)参照。

注10 非正規の減少は9か月連続となっている。

注11 緊急コラム「経済活動の再開が進む中での雇用動向─新型コロナウイルスの影響による女性非正規の雇用の減少が顕著─」(2020年9月2日)及び「コロナショックの雇用面への影響は、特定の層に集中─女性、非正規の雇用動向を引き続き注視─」(2020年10月9日)参照。

注12 内閣府「月例経済報告(令和2年12月)」新しいウィンドウ(2020年12月22日)も参照。

注13 JILPT「第2回 新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査【10月調査】(一次集計)結果」(PDF:1.1MB)(2020年12月16日公表)も参照。

注14 コロナショックの女性への影響については、周燕飛 JILPTリサーチアイ第38回「コロナショックの被害は女性に集中─働き方改革でピンチをチャンスに─」 及び JILPTリサーチアイ第47回「コロナショックの被害は女性に集中(続編)─雇用回復の男女格差─」で詳細に分析している。また、「新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査」も参照。ひとり親については、「新型コロナウイルス感染症のひとり親家庭への影響に関する緊急調査」 結果(PDF:538KB)(2020年12月10日)の結果も参照。

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