JILPTリサーチアイ 第48回
コロナ下の労働時間変動を読み解く─7月にかけての局面変化、回復遅れの所在─

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経済社会と労働部門 副主任研究員 高見 具広

2020年10月27日(火曜)掲載

本稿は、JILPTが8月1日~7日に実施した調査に基づき、新型コロナウイルスの感染拡大と政府による緊急事態宣言の期間を経て7月末にかけて、労働時間がどのように変動したのかを論じる[注1]。具体的には、コロナ禍の前にフルタイムで働いていた者において、緊急事態宣言中を底とした労働時間の落ち込み、その後の経済活動が戻る中での回復の遅れが、誰に見られるのかを検討することから、コロナ禍の諸相を議論する。

新型コロナウイルス感染拡大による雇用・労働への影響について、現時点(10月中旬時点で公表の公的統計)では、失業率の大幅な上昇という形では観察されていない。しかし、4月をピークとした休業者の大幅な増加が見られるなど[注2]、従業者の数(実際に働いている人口)は一時的に大きく減少した。

なお、コロナ禍による労働喪失の大きさは、統計上の失業・休業だけでは捕捉しきれず、労働時間の減少も大きな側面をなしている[注3]。ひとつには、企業の雇用調整として時間外労働(残業)の大幅な削減が行われたことがあり、緊急事態宣言が明けてからも削減傾向は続いている[注4]。また、残業だけでなく、1日の所定労働時間の短縮や、一時帰休による勤務日数削減といった形で、労働時間が大幅に削減されたケースもあった[注5]。もっとも、子どもの学校休校等の影響から、働く者の都合で労働時間を減らさざるを得なかった場合も少なくなかっただろう。

こうした労働時間の減少は、給与額減少などを伴い働く者の生活に大きなインパクトを与えた[注6]。もっとも、労働時間が維持されているか否かは、仕事の水準(量・質)が保たれているか否かを表す指標でもあり、心理的満足など働く者の厚生に直接関わるものでもある。このことから、コロナ下での労働条件維持を問う場合、所得水準のみならず、同時に、労働時間の水準を維持できたかも議論すべきであろう。

なお、4月・5月における雇用への甚大な影響は、その後、経済活動の再開につれて、休業者の大幅縮小、労働時間の回復によって、元に戻りつつある。しかし、女性や非正規雇用の雇用者数の減少が続くなど、特定の層に影響が集中する状況がうかがえる[注7]

本稿では、労働時間の変動に着目して、7月までのコロナ禍の雇用への影響を読み解く。JILPT調査の一次集計からは、実労働時間は4月・5月に大幅に縮小し、その後7月最終週にかけて回復基調にはあるものの、コロナ前の状態には戻りきっていない様子が示される[注8]。どのような層の労働時間が大幅に減少し、どのような層の回復が鈍いのか。本レポートでは、コロナ禍以前においてフルタイムで就業していた者を対象に考察してみたい。

労働時間の落ち込み・回復の様相─フルタイム層全体の傾向

まず、調査データをもとに、7月末までの週実労働時間の傾向を概観することからはじめよう。コロナ禍の前にフルタイムで就業していた者において(週実労働時間35時間以上の者をフルタイムとして扱う)、JILPT調査(5月調査、8月調査)で把握される「4月の第2週」「5月の第2週」「5月の最終週」「6月の第4週」「7月の最終週」の5時点において、継続雇用者の労働時間分布がどう推移したのかを見る[注9]図1)。

図1 各時点の労働時間分布 コロナ問題発生前フルタイム労働者(N=1785)

図1 グラフ

緊急事態宣言下である4月第2週の実労働時間を見ると、コロナ前の通常月と比べて「45時間以上50時間未満」「50時間以上」の割合が大きく減少し、全体的に労働時間が大きく減少したことが見て取れる。加えて、「20時間未満」「20時間以上、35時間未満」といった、労働時間が週35時間未満に減少した層も一定数見られるのが特徴で、5月第2週でその割合は一層高まっている[注10]

緊急事態宣言は5月25日までに段階的に解除されたが、同宣言が解除されて以降、継続雇用者全体の傾向からは、労働時間の回復基調も見受けられる。ただ、7月最終週時点の数値でも労働時間の水準はコロナ前に戻っておらず、所定労働時間が回復していないと推測される週35時間未満層も残存している。全体としてみると、コロナ禍の前にフルタイムで働いていた者の労働時間は、従前の水準に戻りきっておらず、回復は途上と言うことができる。

落ち込みと回復の属性による差

では、どういう層の労働時間がコロナ禍で特に落ち込んだのか。ここからは属性による違いに焦点を当てていこう。表1では、コロナ禍前にフルタイムで就業していた者において、属性ごとに、「コロナ前(通常月)の週実労働時間の平均」、および、コロナ下の5時点(「4月第2週」「5月第2週」「5月最終週」「6月第4週」「7月最終週」)における、コロナ前からの労働時間の変化量(週実労働時間の差)を示した。

表1をみると、誰もが一律に労働時間減少を経験したわけではなく、労働時間が大幅に減少した層、あまり減少しなかった層があることがわかる。具体的には、性別、子どもの有無[注11]、学歴、雇用形態、業種、職種、役職有無、コロナ前の個人年収、居住地域によって、労働時間の変動の様相に違いが見られる。例えば、業種別に見ると、「飲食店、宿泊業」「サービス業」などで4月・5月を中心に大きな落ち込みが見られる。職種別に見ると、「営業・販売職」「サービス職」「輸送・機械運転職」などで4月・5月を中心に減少が大きい。地域別に見ると、「首都圏」「関西圏」での4月・5月の減少は、「その他地域」に比べて大きい。

コロナ前の週実労働時間別に見ると、「50時間以上」層など、もともとの労働時間が長い層ほどコロナ下の減少幅が大きく、7月最終週時点でも傾向は変わっていない。コロナ禍によって企業の雇用調整として大幅な残業削減が行われたことを示しており、7月末にいたるまで、残業削減の状況に変わりがないと読むことができる。

表1 コロナ前(通常月)の週実労働時間、および、コロナ下の各時点におけるコロナ前労働時間との差 [コロナ問題発生前にフルタイムで就業していた者](N=1785)

コロナ前(通常月)の週実労働時間 各時点におけるコロナ前労働時間との差(時間数) N
4月の第2週 5月の第2週 5月の最終週 6月の第4週 7月の最終週
合計 45.5 -3.6 -5.7 -4.9 -3.9 -3.6 1785
年齢 20-29歳 45.0 -4.8 -6.7 -6.6 -4.6 -3.9 227
30-39歳 46.0 -4.4 -6.3 -5.3 -4.3 -4.1 384
40-49歳 46.0 -3.3 -5.4 -5.1 -4.3 -3.8 577
50-59歳 45.5 -3.2 -5.6 -3.9 -3.1 -2.7 460
60-64歳 43.4 -2.8 -4.4 -3.4 -3.1 -3.1 137
性別 男性 46.4 -3.4 -5.1 -4.0 -3.3 -3.0 1190
(うち、18歳未満の子あり) 47.0 -3.4 -4.8 -3.5 -2.9 -2.7 (386)
女性 43.7 -4.2 -6.9 -6.7 -5.2 -4.7 595
(うち、18歳未満の子あり) 43.1 -4.3 -6.2 -10.0 -7.8 -7.5 (109)
最終学歴 中学・高校卒 45.5 -3.1 -5.3 -4.5 -3.9 -3.6 529
専修学校・短大卒 45.4 -4.0 -6.9 -6.6 -5.5 -5.2 340
大学・大学院卒 45.6 -3.8 -5.5 -4.5 -3.3 -2.9 916
雇用形態 正社員 46.1 -3.5 -5.4 -4.6 -3.7 -3.4 1535
非正社員 42.0 -4.3 -7.6 -6.5 -5.2 -4.4 250
勤め先
業種
建設業 46.5 -2.3 -3.1 -2.3 -1.4 -1.4 133
製造業 45.4 -2.9 -4.9 -4.7 -4.4 -4.5 548
電気・ガス・熱供給・水道業 46.6 -1.4 -2.7 -3.8 -3.9 -4.2 32
情報通信業 44.7 -2.3 -3.3 -2.7 -2.6 -2.1 130
運輸業 47.8 -3.4 -6.1 -5.8 -4.7 -4.5 133
卸売・小売業 45.8 -4.6 -6.5 -5.3 -4.3 -3.6 210
金融・保険業 45.4 -5.0 -8.6 -6.0 -3.2 -2.3 109
不動産業 45.2 -5.0 -7.9 -3.9 -2.3 -2.0 42
飲食店、宿泊業 46.8 -9.0 -15.1 -11.0 -8.1 -6.7 36
医療、福祉 43.6 -1.1 -1.3 -2.6 -2.4 -2.3 157
教育、学習支援業 43.3 -4.8 -7.7 -5.6 -4.1 -2.5 32
郵便局・協同組合 41.6 -0.3 -0.3 -3.8 -3.8 -3.8 17
サービス業 45.9 -6.9 -10.4 -7.7 -5.4 -4.2 206
職種 管理職 46.6 -3.0 -4.9 -2.6 -1.6 -1.4 243
専門・技術職 45.8 -2.6 -3.3 -3.4 -3.2 -2.8 346
事務職 43.4 -2.7 -5.2 -4.8 -3.9 -3.5 478
営業・販売職 47.2 -6.2 -8.6 -7.0 -5.1 -4.1 242
サービス職 45.7 -8.1 -11.2 -8.0 -5.5 -4.4 119
保安・警備職 48.3 -3.8 -4.2 -3.8 -2.9 -1.7 12
生産技能職 44.9 -3.1 -6.1 -6.0 -5.6 -6.0 209
輸送・機械運転職 50.0 -5.0 -7.6 -8.1 -7.4 -6.5 51
建設作業・採掘職 48.8 -3.0 -3.4 -1.3 0.0 -0.4 28
運搬・清掃・包装作業 46.2 -1.4 -3.7 -3.8 -3.9 -4.1 57
勤め先
企業規模
29人以下 46.0 -3.4 -5.1 -3.9 -3.4 -3.4 349
30~299人 45.5 -3.7 -5.9 -5.3 -4.6 -3.9 599
300~999人 45.2 -3.1 -5.4 -4.9 -3.8 -3.4 261
1000人以上 45.5 -4.0 -6.0 -5.1 -3.7 -3.4 576
勤続年数 5年未満 45.1 -3.8 -5.8 -5.1 -4.0 -3.4 456
5年以上10年未満 45.9 -4.3 -6.4 -5.9 -4.6 -4.4 370
10年以上20年未満 45.7 -3.9 -6.1 -4.8 -4.0 -3.5 493
20年以上 45.5 -2.8 -4.7 -3.8 -3.3 -3.1 466
役職有無 役職なし 45.0 -3.7 -6.0 -5.3 -4.3 -3.9 1286
役職あり 46.8 -3.5 -5.0 -3.7 -2.9 -2.8 499
コロナ前の個人年収 300万円未満 43.6 -4.3 -6.8 -6.4 -5.0 -4.5 505
300~500万円未満 45.9 -3.2 -5.3 -4.6 -3.8 -3.4 650
500~700万円未満 46.8 -3.8 -5.8 -3.8 -3.0 -2.7 347
700万円以上 46.7 -3.4 -4.6 -4.2 -3.5 -3.4 283
居住地域 首都圏(1都3県) 46.0 -4.7 -6.7 -5.6 -4.1 -3.6 514
関西圏(3府県) 45.5 -4.6 -7.1 -5.5 -4.1 -3.8 236
その他地域 45.3 -2.9 -4.9 -4.4 -3.8 -3.5 1035
コロナ前(通常月)の週実労働時間 35時間以上、40時間未満 37.5 -2.7 -4.8 -1.8 -1.0 -0.7 325
40時間以上、45時間未満 42.5 -2.4 -4.1 -3.0 -2.2 -1.9 711
45時間以上、50時間未満 47.5 -4.0 -6.1 -5.7 -4.3 -4.0 394
50時間以上 56.8 -6.8 -9.4 -10.4 -9.6 -9.1 355

注1:就業・生活状況に関わる指標(雇用形態、業種、職種、企業規模、勤続年数、役職、居住地域)は、2020年4月1日時点のものである。

注2:「役職有無」は、係長相当職以上の役職に就いているかで識別した。

注3:「コロナ前の個人年収」は、連合総研4月調査(4月1~3日実施)における「過去1年間のご自身の賃金年収(税込)」をもとにした。

注4:「コロナ前(通常月)の週実労働時間」は、調査票ではカテゴリーでの回答項目だが、時間数として扱うにあたり、「35時間以上、40時間未満」=37.5時間のように計算し、「60時間以上」は62.5時間とした。

以下では、表1の数値をもとに、いくつかの属性別に、週実労働時間の推移を詳しく読んでみたい。まず、居住地域別にみると(図2)、首都圏(1都3県)、関西圏(3府県)の居住者では、その他の地域の居住者に比べて、緊急事態宣言下である「4月の第2週」「5月の第2週」の労働時間の落ち込みが大きかった。ただ、7月最終週時点の平均値をみると、地域差は解消したように読める。

図2 平均週実労働時間の推移-地域別- [コロナ前フルタイム労働者](N=1785)

図2 グラフ

図3 平均週実労働時間の推移-男女・18歳未満の子の有無別- [コロナ前フルタイム労働者](N=1785)

図3 グラフ

男女別にみると(図3)、もともとの労働時間の水準に男女差があったものの、加えて、女性の減少傾向は男性に比べて大きい。特に、18歳未満の子どもがいる女性(子育て世帯の女性)では、緊急事態宣言が解除された5月最終週以降も、労働時間の落ち込みが続いていることが読み取れる。これは、5月末まで広範に学校休校が続いていたことに加え、6月前半の学校再開後も分散登校や学童保育の利用制限等が続いたことから、子育て世帯の女性の労働供給に大幅な制約がかかり、フルタイム就業を妨げていた状況をうかがわせる[注12]

次に、コロナ前の雇用形態別に労働時間の推移を見てみよう。表1で示したとおり、正社員に比べて非正社員では、5月には労働時間の落ち込みがやや大きかったが、7月末時点ではその差が解消に向かっているようにも見える。しかし、これはもう少し詳細に検討する必要がある。というのは、正社員の労働時間減少が、多分に残業削減の動きを反映したものであり、単純に下がり幅を比べるだけでは、正社員も非正社員も一見同じように労働時間が減っているように見え、所定労働時間の調整(一時帰休等)に関わる雇用形態間格差をつかみきれていないと思われるからである。そこで、正社員における残業有無を区分し、「残業のない正社員」と「非正社員」の傾向を比べることから雇用形態間格差の状況を検討したい(表2:網掛け部分)。

正社員におけるコロナ前(通常月)の残業有無は、週実労働時間45時間を境界線として便宜的に区分した[注13]表2では、比較対象である非正社員(コロナ前週35時間以上就業者)について、「パート、アルバイト」「契約社員、嘱託」「派遣労働者」という内訳も示した。また、参考として、週35時間未満就業者(短時間労働者)の傾向も示している。

表2 コロナ下の各時点における、コロナ前労働時間との差-雇用形態・コロナ前週実労働時間別(コロナ前フルタイム)-(N=1785)

コロナ前
(通常月)の
週実労働時間
各時点におけるコロナ前労働時間との差(上段:変化量(時間数)、下段:変化率) N
4月の第2週 5月の第2週 5月の最終週 6月の第4週 7月の最終週
正社員[合計] 46.11 -3.53 -5.43 -4.61 -3.72 -3.42 1535
-7.7% -11.8% -10.0% -8.1% -7.4%
正社員(週45時間以上就業者)
[残業あり正社員]
51.87 -5.18 -7.42 -7.40 -6.33 -6.03 706
-10.0% -14.3% -14.3% -12.2% -11.6%
正社員(週35~45時間未満就業者)
[残業なし正社員]
41.20 -2.14 -3.72 -2.24 -1.50 -1.20 829
-5.2% -9.0% -5.4% -3.6% -2.9%
非正社員(週35時間以上就業者) 42.02 -4.34 -7.57 -6.46 -5.20 -4.41 250
-10.3% -18.0% -15.4% -12.4% -10.5%
パート、アルバイト 41.79 -6.76 -9.64 -10.52 -8.19 -6.51 91
-16.2% -23.1% -25.2% -19.6% -15.6%
契約社員、嘱託 42.38 -2.76 -4.88 -4.06 -3.48 -3.08 125
-6.5% -11.5% -9.6% -8.2% -7.3%
派遣労働者 41.32 -3.68 -11.91 -4.41 -3.53 -3.68 34
-8.9% -28.8% -10.7% -8.5% -8.9%
参考:非正社員(週35時間未満就業者)N=338
パート、アルバイト
(週20~35時間未満就業者)
26.36 -4.29 -5.82 -4.39 -2.24 -1.55 189
-16.3% -22.1% -16.7% -8.5% -5.9%
パート、アルバイト
(週20時間未満就業者)
14.14 -2.21 -4.13 -1.33 0.30 1.33 149
-15.7% -29.2% -9.4% 2.1% 9.4%

注1:正社員における残業有無の識別については、実労働時間の調査項目が5時間刻みのカテゴリーであることから、法定労働時間である週40時間を含む「週40時間以上、45時間未満」までを、便宜的に「残業(時間外労働)なし」として区分し、週実労働時間45時間以上の層を「残業(時間外労働)あり」とした。なお、「正社員」のうち、週実労働時間35時間未満の者は、分析対象から除外している。

注2:「契約社員、嘱託」「派遣労働者」は、比較のため、週実労働時間35時間以上の者に限定している。

注3:非正社員(週35時間未満就業者)については、フルタイムの者と同一の条件のサンプルに限って集計している。

表2をみると、まず、コロナ禍の前に週45時間以上就業していた「残業あり正社員」では、労働時間の大幅減少傾向が7月末まで続いている。これは、残業削減の傾向が変わっていないことを示唆している。

次に、所定労働時間の維持に関わる雇用形態間格差を、「正社員(週35~45時間未満就業)[残業なし正社員]」と「非正社員(週35時間以上就業)」とを比較することで読もう。「残業なし正社員」に比べて、「非正社員」の労働時間は、4月第2週以降、大幅に落ち込んでいることがわかる。また、その回復度合いを見ると、7月最終週時点で、「残業なし正社員」は、平均1.20時間、減少率2.9%という減少幅に回復しているのに対し、「非正社員」は平均4.41時間、減少率10.5%と、大きな落ち込みが続いている[注14]

このように、7月末時点で、残業以外の部分では正社員の労働時間が回復した一方で、フルタイムで働いていた非正社員では回復の遅れが目立っており、所定労働時間に関わる企業の雇用調整(パートのシフト調整を含む)が依然続いていることがうかがえる[注15]。なお、雇用形態による違いは、就いている業種による違い等とも関連することから、次の計量分析で結論を得たい。特に、前述の高橋(2020)において、緊急事態宣言中までのコロナ禍の中心が「雇用形態より産業」にあった可能性が指摘されており、その点をふまえて局面の推移を読むこととしたい。

誰の労働時間が回復していないのか─規定要因の変遷を読む

コロナ禍で誰の労働時間が落ち込んだのか。そして、誰の労働時間の回復が鈍いのか。産業・職業特性や地域・家庭の状況など様々な要素が絡んでおり、シンプルな結論を示すことは難しいが、労働時間変動の「震源」が、時点によってやや移り変わっている可能性がある。例えば、4月・5月では、感染拡大の深刻度の地域差や、緊急事態宣言を受けた行政の要請もあり、首都圏や関西圏を中心とした落ち込み、特定の業種・職種への打撃が特に大きかった可能性がある。しかし、緊急事態宣言が解除され、社会情勢が移り変わる中、特定の地域や業種・職種への影響の集中という局面から変化しつつあるのではないか。かわって、個々の働き手の労働市場での立場の強さ・弱さが、労働条件維持に関わる要件として前面に現れてきている可能性がある。例えば、非正規雇用、(子育て世帯の)女性、低所得層などへの影響の集中が明瞭になってきていると推測される。

こうした仮説を検証するため、4月第2週以降の5時点(「4月第2週」「5月第2週」「5月最終週」「6月第4週」「7月最終週」)における労働時間について、コロナ前の通常月からの変化(時間数)を被説明変数とする規定要因分析(OLS)を行った。説明変数は、年齢、性別、18歳未満の子ども有無、女性と子ども有無の交差項、学歴、雇用形態、業種、職種、従業員規模、勤続年数、役職の有無、コロナ前の労働時間、コロナ前の年収、居住地域である[注16]

表3 コロナ下の各時点の労働時間:コロナ前からの変化に関する規定要因(OLS)

分析対象 コロナ問題発生前フルタイム労働者
被説明変数 【4月の第2週】
コロナ前と比べた労働時間の変化量(時間数)
【5月の第2週】
コロナ前と比べた労働時間の変化量(時間数)
【5月の最終週】
コロナ前と比べた労働時間の変化量(時間数)
【6月の第4週】
コロナ前と比べた労働時間の変化量(時間数)
【7月の最終週】
コロナ前と比べた労働時間の変化量(時間数)
B 標準
誤差
B 標準
誤差
B 標準
誤差
B 標準
誤差
B 標準
誤差
定数 9.849 1.864 ** 11.695 2.407 ** 22.866 2.451 ** 21.825 2.135 ** 21.057 2.094 **
年齢 .036 .022 .025 .028 .065 .029 * .041 .025 .040 .025
女性ダミー -1.264 .531 * -2.151 .685 ** -2.346 .698 ** -1.868 .608 ** -1.726 .596 **
18歳未満の子ありダミー .045 .513 .305 .662 .670 .674 .664 .587 .726 .576
女性×18歳未満の子あり -.590 .977 -.037 1.261 -5.234 1.284 ** -4.171 1.119 ** -4.357 1.097 **
最終学歴(基準:中学・高校卒)
専門・短大卒 -.765 .555 -1.440 .716 * -1.630 .730 * -1.196 .636 -1.366 .623 *
大学・大学院卒 -.921 .487 -1.057 .629 -1.107 .640 -.443 .558 -.406 .547
非正社員ダミー -.805 .633 -1.524 .817 -1.878 .832 * -2.011 .725 ** -1.614 .711 *
勤め先業種(基準:製造業)
建設業 .464 .869 .962 1.122 1.319 1.143 2.151 .995 * 2.280 .976 *
電気・ガス・熱供給・水道業 1.391 1.439 1.579 1.857 .706 1.891 .362 1.648 -.028 1.616
情報通信業 .718 .816 .904 1.053 .934 1.072 .560 .934 .830 .916
運輸業 -.398 .970 -1.165 1.252 -.730 1.274 .429 1.110 .475 1.089
卸売・小売業 -.683 .728 -.559 .940 .215 .958 .482 .834 .805 .818
金融・保険業 -1.269 .876 -3.068 1.131 ** -.801 1.151 .908 1.003 1.684 .984
不動産業 -1.698 1.296 -3.053 1.672 .134 1.703 1.248 1.484 1.409 1.455
飲食店、宿泊業 -3.645 1.487 * -7.710 1.919 ** -4.848 1.954 * -2.908 1.703 -1.935 1.670
医療、福祉 1.868 .795 * 3.334 1.027 ** 1.627 1.045 1.238 .911 1.058 .893
教育、学習支援業 -1.609 1.458 -2.590 1.882 -1.101 1.916 -.222 1.670 .945 1.637
郵便局・協同組合 1.094 1.984 2.800 2.560 -1.770 2.607 -1.600 2.271 -1.534 2.228
サービス業 -3.256 .736 ** -5.063 .950 ** -3.084 .967 ** -1.233 .843 -.315 .827
職種(基準:事務職)
管理職 -.566 .814 -1.091 1.051 1.331 1.071 2.470 .933 ** 2.670 .915 **
専門・技術職 -.495 .614 .526 .793 .602 .808 .609 .704 .769 .690
営業・販売職 -2.802 .682 ** -3.081 .880 ** -1.690 .897 -.448 .781 .133 .766
サービス職 -3.861 .901 ** -3.567 1.162 ** -1.010 1.184 .194 1.031 .610 1.011
保安・警備職 1.522 2.351 4.758 3.035 3.877 3.090 2.879 2.692 3.201 2.641
生産技能職 -1.356 .769 -2.374 .993 * -2.129 1.011 * -1.599 .881 -2.200 .864 *
輸送・機械運転職 -1.921 1.378 -1.808 1.778 -2.149 1.811 -2.167 1.578 -1.518 1.547
建設作業・採掘職 -2.035 1.700 -1.345 2.194 .658 2.234 2.213 1.946 1.978 1.909
運搬・清掃・包装作業 1.203 1.215 1.249 1.568 1.090 1.597 .316 1.391 -.278 1.364
勤め先従業員規模(基準:29人以下)
30~299人 -.797 .556 -1.488 .717 * -2.011 .730 ** -1.439 .636 * -.680 .624
300~999人 -.084 .681 -.893 .879 -1.661 .895 -.727 .780 -.309 .765
1000人以上 -.739 .610 -1.254 .787 -1.601 .801 * -.446 .698 -.239 .685
勤続年数 -.015 .024 -.024 .030 -.069 .031 * -.060 .027 * -.058 .026 *
役職ありダミー .145 .585 1.059 .755 .497 .769 .076 .670 -.285 .657
コロナ前の労働時間数 -.232 .029 ** -.283 .038 ** -.545 .039 ** -.538 .034 ** -.529 .033 **
コロナ前年収(基準:300~500万円未満)     
300万円未満 -1.309 .532 * -1.159 .687 -1.633 .699 * -.977 .609 -.913 .597
500~700万円未満 -.905 .570 -1.247 .736 .318 .749 .344 .653 .347 .640
700万円以上 -.436 .720 .189 .929 -.626 .946 -1.201 .824 -1.364 .809
居住地域(基準:その他地域)     
首都圏(1都3県) -1.502 .457 ** -1.484 .590 * -1.413 .601 * -.542 .523 -.444 .513
関西圏(3府県) -1.569 .571 ** -1.937 .737 ** -1.172 .751 -.417 .654 -.336 .641
F値   6.488 **   7.41 **   9.429 **   9.807 **   9.644 **
R2乗   0.127   0.142   0.174   0.18   0.177
調整済みR2乗   0.107   0.123   0.156   0.161   0.159
N   1785   1785   1785   1785   1785

**1%水準で有意,*5%水準で有意。

結果を見よう(表3)。5時点を詳細に比較するのは難しいため、緊急事態宣言下であった「5月の第2週」と、直近である「7月の最終週」の結果の比較を中心に推移を読んでいきたい。規定要因の変遷について、以下のようなポイントが見いだせる。

1点目は地域差である。4月第2週、5月第2週という緊急事態宣言下の結果を見ると、「首都圏」「関西圏」の係数値は「その他の地域」に比べて統計的有意な負の値を示しており、労働時間の減少量が大きいことが読み取れる。例えば、首都圏では、5月第2週時点で、その他地域に比べて平均約1.484時間の落ち込みがあった。しかし、6月第4週、7月最終週では、統計的有意性は消滅しており、4月・5月に見られた地域差は解消に向かったと言うことができる。

次に、業種や職種による差を見てみたい。これも、地域差と同様、緊急事態宣言中、特に5月第2週において、「金融・保険業」「飲食店、宿泊業」「サービス業」といった業種、「営業・販売職」「サービス職」「生産技能職」といった職種において特に大きな労働時間の落ち込みがあったことが確認される。例えば、「飲食店、宿泊業」では、5月第2週時点で、製造業に比べて平均約7.710時間もの落ち込みが見られた。この時期、労働時間の減少は、特定の業種・職種に大きく偏って存在していたと言える。しかし、その後の推移を見ると、7月最終週時点で負に有意な値を示す業種・職種は「生産技能職」を残すにとどまっている。つまり、業種・職種による労働時間の減少の差は解消に向かい、特定の業種・職種への影響の集中が続いている状態ではないと示唆される[注17]

こうした地域差、業種・職種間格差の縮小とともに、前面に現れてきた別の格差が存在する。ひとつは、男女差である。女性が男性に比べて労働時間の減少幅が大きいことは、4月第2週以降、どの時点でも示されており、それは緊急事態宣言の解除後も変わっていない。加えて注目されるのは、「女性×18歳未満の子あり」という交差項が、5月最終週以降、統計的有意な負の値を示すことである。例えば、7月最終週時点において、子育て世帯の女性は、子どものいない男性に比べて、平均して約6.083時間(1.726+4.357)もの労働時間の落ち込みがある。女性全般の苦境はコロナ禍で一貫しているが、緊急事態宣言解除後、趨勢として労働時間が回復基調にある中で、子育て世帯女性は、7月末時点でも労働時間を戻しにくい位置にあったことがうかがえる。家庭内の家事・育児負担の偏りなどが影響していよう。

次に、「非正社員ダミー」が、5月最終週以降、負で統計的に有意な結果を示していることも注目される。緊急事態宣言の時期までは、コロナ禍の中心は業種・職種にあり、雇用形態による格差は明瞭に現れなかったが、その後、正社員ほど労働時間の水準を戻したのに対し、非正社員では回復の傾向が鈍いと読むことができる。つまり、表2で見られた4月・5月(緊急事態宣言の時期)における雇用形態間の差は、業種・職種や地域等による差として説明できたが、その後、局面の変化とともに、雇用形態による企業の雇用調整の違いが前面に現れてきていることが読み取れる[注18]

コロナ前の所得階層による違いは、傾向を読みにくいところもあるが、4月第2週、5月最終週では「300万円未満」層において労働時間の減少傾向が強い。その後の時点では統計的有意性が消滅しているが、所得階層の影響は雇用形態と強い相関があることも関係しており、注視する必要がある[注19]

なお、コロナ前の実労働時間は、一貫して負で統計的有意な結果を示している。もともとの労働時間(残業)が長い人ほど労働時間が減少する傾向は変わっていないと読むことができる。残業削減の傾向が継続していることを示していよう[注20]

おわりに

本稿では、コロナ前にフルタイム就業していた者を対象に、労働時間の側面から、コロナ禍で影響を受けた層の所在を検討した。全体として、コロナ禍で労働時間は大幅な落ち込みを見せたが、その落ち込み方は一様ではない。

誰が労働時間の落ち込みを経験したのか。分析の結果、まず、緊急事態宣言の時期においては、首都圏・関西圏や、特定の業種・職種(行政の要請を受けて営業自粛・営業時間短縮を余儀なくされた飲食店や娯楽業など)を中心とした落ち込みが確認された。労働時間面から見るかぎり、コロナ禍は、この時期、特定の地域、特定の業種・職種を中心に襲った大打撃であった。

そうした地域差、業種・職種による差は、緊急事態宣言の解除後、収束に向かいつつある。かわって前面に浮かび上がってきたのが、女性(特に子育て世帯の女性)、非正規雇用といった層の回復の遅れであった。なお、正社員においても、残業削減の傾向は引き続いており、影響は残っている。

女性就業に大きな影響があったことは、周(2020)で指摘されている通りである。女性はコロナ禍で一貫して厳しい位置にいるが、本稿では、男性を含め多くの者が影響を受けた緊急事態宣言下よりも、その後の局面において、子育て負担がフルタイムでの労働市場参加を引き続き困難にし、労働時間の回復から「取り残された」層として際立ってきていることが読み取れた。

雇用形態による差についても、緊急事態宣言解除後の局面で姿を現し始めている。緊急事態宣言中は、いわば緊急措置として経済活動を人為的に制限した局面であったが、宣言解除後の局面は、経済活動が徐々に再開する中、業績悪化や先行き不透明感がみられる企業では、必要に応じて雇用調整をしなければならない状況であったと言え、それが労働時間の変動にも反映されている[注21]。そして、7月末時点の調査データを見るに、雇用形態が労働時間の回復度合いを規定するようになっており、企業現場において、正社員から先に所定労働時間を元に戻すなどの調整の動きがあった可能性が見出された[注22]

労働市場における立場の強さ・弱さによる影響の違いは、格差の増幅につながる恐れがある。たしかに、正社員でも大幅な残業削減があったことをふまえると、見方によっては、正社員も非正社員もコロナ禍で「労働時間(および収入)が減少した」と受け取れるかもしれない。ただ、生活保障や貧困を考えるときには、その中身・水準が問題になる。正社員の残業代減少も実際の生活に影響を与えるが、女性や非正社員を中心に、所定労働時間に関わる減少(パートのシフト調整を含む)が長く続いているとしたら、より切実に生活への支障が出る可能性がある[注23]。実際、本データからは、コロナ前の年収が低い者ほど、コロナ禍で収入減少を経験していた[注24]。企業の雇用調整や家庭の都合等で、そうした層が従前の労働時間水準を保てていないことが関係していると考えられ、労働市場における格差の存在から目を離せない。

コロナ禍で甚大な影響を受けている層を引き続き見極め、支援のあり方を考える必要があるだろう。

脚注

注1 調査設計や全体の集計は、8月26日公表の記者発表『「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(一次集計)結果(8月調査)』(PDF:1.0MB)を参照のこと。調査の個票データは、渡邊木綿子氏より提供いただいた。また、山本雄三氏(九州国際大学准教授、JILPT新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査 分析PT委員)、高橋康二氏(JILPT副主任研究員)、石井華絵氏(JILPTアシスタントフェロー)より、有益な助言を得た。記して感謝を申し上げたい。なお、本稿の主張は筆者個人のものであり、所属機関を代表するものではない。

注2 総務省「労働力調査」で把握されている休業者は、「就業者のうち、調査週間中に少しも仕事をしなかった者」として定義される。

注3 中井雅之(2020a)「コロナショックの雇用面への影響は、特定の層に集中─女性、非正規の雇用動向を引き続き注視─」(10月9日緊急コラム)参照。総務省「労働力調査」に基づき、4月以降の活用労働量の減少について、就業者数の減少、休業者数の増加、労働時間の減少により要因分解を行うと、特に4、5月における休業者の増加と全体を通した労働時間の減少要因が大きいとする。

注4 厚生労働省「毎月勤労統計」によると、残業などを表す所定外労働時間は、5月に対前年比30.7%減と大幅に落ち込み、6月23.9%減、7月16.2%減、8月13.1%減と、減少傾向が続く。JILPTが6月に実施した企業調査でも、正社員に対する雇用調整として「残業の削減」を行った割合は、4月35.4%、5月36.6%にのぼる。

注5 報道によれば、工場や公共交通等において、従業員を交替で一時帰休させる(各自の週の勤務日数を減らす)措置をとった例が少なからず見られた。また、勤務日数の削減以外にも、企業現場では、時短営業や通勤対策の観点から、1日の所定労働時間を削減するなどの対応もみられた。

注6 厚生労働省「毎月勤労統計」によると、5月の所定外給与(残業代などを示す)は、前年同月比26.3%減で、過去最大の下げ幅であった。その後、6月24.5%減、7月17.1%減、8月14.0%減と、減少傾向が続く。高橋康二(2020)「労働時間の減少と賃金への影響──新型コロナ「第一波」を振り返って」JILPTリサーチアイ 第37回でも、コロナ禍による労働時間減少と給与減少との結びつきが確認される。

注7 前述の中井(2020a)参照。

注8 記者発表資料(8月26日)図表5(8ページ)を参照。

注9 本稿での分析対象サンプルは、4月・5月・8月の調査全てに回答し、この間同一の勤め先に勤続している者である。その点、転職・離職によって労働時間が減少したケース(例えば、パート就業への転職、失業、非労働力化など)は対象に入ってこない。このことから、本稿は、コロナ禍による社会全体での労働時間減少(喪失)を捉えようとするものではなく、同一企業での雇用が維持されている者における労働時間変動を分析するものである。この点の留意は必要である。また、分析の継続性の観点から、前稿(高見具広「在宅勤務は誰に定着しているのか─「緊急時」を経た変化を読む─」JILPTリサーチアイ第46回)と同じサンプルを扱っている。

注10 調査データに見られる短時間労働層の増加は、労働力調査における「休業者」激増と呼応する部分があろう(労働力調査は月末一週間の動きを捕捉しているため、本調査とは、同月でも把握時点がやや異なるため傾向が異なる面はある)。本稿では、「20時間未満」層に、実労働時間0時間の者も含めて集計しているが、分析サンプル(N=1785)では、4月第2週時点で0.0%、5月第2週時点で1.3%、5月最終週時点で2.2%、6月第4週時点で1.0%、7月最終週時点で0.9%が、週実労働時間0時間と回答している。本稿では、雇用が続く限り、極端に短い労働時間(20時間未満)と質的な差異は小さいものと考え、区別せず扱うこととした。

注11 ここでは、末子年齢をもとに、18歳未満の子どもがいるかどうかを指標とした。

注12 失業、休業や賃金減少、パートなどの労働時間減少も含めた、コロナ禍による女性の雇用危機全般については、周燕飛(2020)「コロナショックの被害は女性に集中(続編)─雇用回復の男女格差─」で詳細な分析がなされている。

注13 実労働時間の調査項目が5時間刻みのカテゴリーであることから、法定労働時間である週40時間を含む「週40時間以上、45時間未満」までを、便宜的に「残業(時間外労働)なし」とみなして区分した(実際には、所定労働時間との関係で多少の残業がある人が含まれる)。また、週実労働時間45時間以上の層を「残業(時間外労働)あり」とみなした。

注14 非正社員(週35時間以上就業)の内訳を見ても、「パート、アルバイト」「契約社員、嘱託」「派遣労働者」の労働時間は、4月第2週以降、大幅に減少している。特に大きな影響が7月まで残っているのが「パート、アルバイト」であり、7月最終週でも平均6.51時間の落ち込み(減少率15.6%)である。

注15 表2では、短時間労働者の傾向も参考として示している。「パート、アルバイト(週20~35時間就業)」については、7月末時点でも、残業なし正社員に比べて労働時間の減少率が大きいが、35時間以上の非正社員層に比べると、減少時間数、減少率ともに小さい。

注16 説明変数は、全て、コロナ前もしくは4月1日時点の状況である。コロナ前の労働時間をコントロールしているのは、長い労働時間の者ほど、労働時間の減少の余地が大きいことが考えられるためで、その影響を統制し、属性による差を検討するためである。

注17 この点は、中井雅之(2020b)「経済活動の再開が進む中での雇用動向─新型コロナウイルスの影響による女性非正規の雇用の減少が顕著─」緊急コラム(9月2日)でも、緊急事態宣言下の4月時点の労働力調査では、休業者の業種差が大きいが、その後、急速に業種間格差が解消に向かったことが示されており、同様の方向の結果が得られたと言える。

注18 コロナ禍の非正規雇用へのインパクトを見定めるには、非正規雇用ほど雇用が維持されない傾向も含めて検討する必要がある。雇用形態による雇用維持の違いについては、前述の高橋(2020)を参照のこと。

注19 実際、雇用形態の変数を除くと、各時点とも「300万円未満」層が負で統計的有意になり、低所得層ほど労働時間が減らされやすいのは、雇用形態の違いで一定程度説明できることがわかる。

注20 なお、残業時間の減少傾向が続いていることは、企業の方針(残業削減策)のほか、残業を行うほどの仕事の水準(仕事量)が回復していないことが関係していると考えられる。

注21 本稿でも、前述の高橋(2020)が指摘した通り、緊急事態宣言下においては、影響の中心は「雇用形態より産業」だったことが見出された。苦境に立たされた企業・業種では、正社員も含めて一時休業などの労働時間短縮措置が取られた時期であったと言える。しかし、6月以降の数値からは宣言解除後の局面変化が示唆された。

注22 もっとも、フルタイムで働く非正規雇用には女性が多く、両者の層が重なる部分が多分にある。例えば、「パート、アルバイト」で労働時間の減少が大きいのは、子育て世帯の女性が多く就いていることも関係しよう。ただ、計量分析からは、相互に独立して労働時間減少に影響することが示されており、雇用形態自体にも労働時間削減に絡む要素があることが考えられる。例えば、時給制を取ることの多いパート労働者においては、企業が労働時間調整をしやすいこと等が背景としてあろう。

注23 周(2020)は、女性の収入減少が食費の切り詰めにつながっていると指摘する。

注24 今回の分析サンプル(N=1785)において、月収が3割以上減った経験(5月・8月調査の2時点から把握)を持つ層は、「300万円未満」層では17.0%にのぼる(「300~500万円未満」層では9.5%、「500~700万円未満」層では12.1%、「700万円以上」層では7.8%が該当。全体平均は11.9%)。詳細は省くが、雇用形態別に見ても、非正社員、特に「パート、アルバイト」で月収が3割以上減った割合が高い。

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