緊急コラム #022
コロナショックの雇用面への影響は、特定の層に集中─女性、非正規の雇用動向を引き続き注視─

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総務部長 中井 雅之

2020年10月9日(金曜)掲載

10月2日に公表された8月の主な雇用関係指標をみると、有効求人倍率[注1]は前月より0.04ポイント悪化して1.04倍となり、完全失業率は前月より0.1ポイント悪化して3.0%となっている[注2]

また、就業者数は前年同月差では75万人減と5か月連続の減少となっているが、季節調整値で前月と比較すると4か月連続の増加となっており、徐々に就業機会が戻っているようにみえる(図表1)。新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて緊急事態宣言が出された4月には、労働力人口から非労働力人口に移る動きが見られていたが、その後は労働力人口に戻る動きが続いており、就業者、完全失業者いずれも概ね増加している。

図表1 雇用関係指標の前月との増減(季節調整値)

図表1 表

資料出所:総務省「労働力調査」

また、4月に激増した休業者[注3]については、5月、6月と大幅に減少した後、8月は前月より4万人減の216万人となり、ほぼ平年の水準に戻っている(図表2)。

図表2 休業者の推移

図表2グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:休業者とは、就業者のうち、調査週間中に少しも仕事をしなかった者で、自営業主においては、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者。雇用者においては、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者。

就業者から休業者を差し引いた従業者は、8月には前月より25万人増の6460万人となっているが、前年同月差でみた減少幅は前月よりも21万人縮小しており[注4]、休業者から従業者に移る動き[注5]が続いていると考えられる(図表3)。

図表3 就業状態の比較(2020年4~8月と2019年4~8月)

図表3 表

資料出所:総務省「労働力調査」より作成。

注1:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも仕事をした者。

注2:休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者。

注3:週間就業時間は、月末一週間の就業時間。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

注4:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注5:就業率は、就業者数を15歳以上人口で割った比率。稼働率は、従業者数を15歳以上人口で割った比率として計算。

こうした動きもあり、8月の月末一週間の活用労働量(労働ニーズ)[注6]を前年同月と比較すると3.7%減となり、減少幅は7月より更に1.6ポイント縮小し、労働面からみた経済活動も徐々に戻っているようにもみえる[注7]。なお、4月以降の活動労働量の減少について、就業者数の減少、休業者数の増加、労働時間の減少により要因分解を行うと(図表4)、特に4、5月における休業者の増加と全体を通した労働時間の減少要因が大きく、就業者数の減少要因を一定程度に抑えていることが見て取れる。

図表4 活用労働量(労働ニーズ)の前年同月比の要因分解(2020年)

図表4グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」により作成

注1:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注2:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも仕事をした者、休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者である。このため、従業者数の増減は、就業者数と休業者数の増減によって説明できる。

注3:週間就業時間は月末一週間の就業時間であり、出勤日数や所定労働時間の増減等の影響を受ける。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

ところで、雇用者の動きを正規・非正規別にみると、8月は正規の職員・従業員は前年同月差38万人増に対し、非正規の職員・従業員では同120万人減と、正規の増加と非正規の減少が3か月続いている。これを男女別にみると、引き続き、女性の非正規の職員・従業員の減少数が目立っている(図表5[注8]

図表5 正規・非正規別雇用者の対前年同月差の推移

図表5グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:雇用者には役員も含まれるため、正規の職員・従業員と非正規の職員・従業員の対前年同月差を合計しても、雇用者の対前年同月差とは一致しない。

この動きを8月について産業別にみると(図表6)、産業毎に差異があり、不動産業,物品賃貸業、教育,学習支援業、情報通信業、金融業,保険業、医療,福祉などでは前年同月と比較して増加しているが、製造業、宿泊業,飲食サービス業、建設業、卸売,小売業、生活関連サービス業,娯楽業、運輸業,郵便業などで減少している。

図表6 産業別雇用者数の対前年同月差の男女、正規・非正規別にみた要因(2020年8月)

図表6グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:雇用者には役員も含まれるため、正規の職員・従業員と非正規の職員・従業員の対前年同月差を合計しても、雇用者の対前年同月差とは一致しない。

総じて、増加している産業においては、正規により増加している傾向がある。一方、減少している産業においては、非正規により減少している傾向があり、特に、宿泊業,飲食サービス業、卸売,小売業、製造業などにおいて女性非正規の減少が目立ち、また、製造業では男性非正規の減少も目立っている。

完全失業率を男女別にみると(図表7)、女性の失業率は男性よりも低い水準となっているが、8月は男性の失業率が3.0%と前月から横ばいなったのに対し、女性では0.2ポイント上昇して2.9%となり、両者の差が0.1%ポイントにまで縮まった。

図表7 男女別完全失業率の推移

図表7グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

今回の新型コロナウイルスの影響については、対人業務が中心の産業を始め、大きな影響を受ける分野とそれ以外の分野の差が大きいことが指摘されているが、雇用面においても女性、非正規といった層への影響が統計上も現れており、今後も懸念される[注9]

当機構では、新型コロナウイルスの雇用・就業への影響をみるため、関連する統計指標の動向をホームページに掲載しているので、そちらもご覧いただきたい(統計情報 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響)。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 ハローワーク(公共職業安定所)で受け付けた、有効期間内(原則受け付けた月から翌々月の末日まで。有効求職者については失業給付の受給期間は有効期間に含まれるなどの例外もある)の企業からの求人と仕事を求める求職者の割合を示す指標。1倍を上回ると求人超過(人手不足)となり、下回ると求職超過となる。

注2 完全失業率が3%台となったのは、2017年5月の3.1%以来、3年3か月ぶり。

注3 緊急コラム「新型コロナの労働市場インパクト─失業者は微増だが休業者は激増し、活用労働量は1割の減少─」(2020年5月29日)参照。

注4 総務省「労働力調査」追加参考表「就業者及び休業者の内訳」(PDF)新しいウィンドウ参照。

注5 緊急コラム「新型コロナの影響を受けて増加した休業者のその後―休業者から従業者に移る動きと、非労働力から失業(職探し)に移る動き―」(2020年6月30日)参照。

注6 従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算しており、必要な経済活動を行うための労働ニーズ(労働需要)が顕在化した労働量とみなすことができる。

注7 内閣府「月例経済報告(令和2年9月)」(PDF)新しいウィンドウ(9月24日)では、雇用情勢については「感染症の影響により、弱い動きとなっているなかで、雇用者数等の動きに底堅さもみられる」と上方修正されている。また、日本銀行「第186回 全国企業短期経済観測調査(日銀短観)」(PDF)新しいウィンドウ(2020年9月)によると、全国企業の9月の業況判断DI(「良い」-「悪い」)は-28と6月期より3ポイント改善し、先行き(12月)も1ポイント改善する見込みとなっており、雇用人員判断DIは、3月(-28)から6月(-6)にかけて大幅に雇用の不足感が後退したが、9月は横ばいの-6となり、先行き(12月)は-10と、再び不足感が強くなる見通しとなっている。

注8 緊急コラム「経済活動の再開が進む中での雇用動向─新型コロナウイルスの影響による女性非正規の雇用の減少が顕著─」(2020年9月2日)参照。

注9 コロナショックの女性への影響については、周燕飛 JILPTリサーチアイ第38回「コロナショックの被害は女性に集中─働き方改革でピンチをチャンスに─」 及び JILPTリサーチアイ第47回「コロナショックの被害は女性に集中(続編)─雇用回復の男女格差─」で詳細に分析している。

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