緊急コラム #020
経済活動の再開が進む中での雇用動向─新型コロナウイルスの影響による女性非正規の雇用の減少が顕著─

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総務部長 中井 雅之

2020年9月2日(水曜)掲載

9月1日に公表された7月の主な雇用関係指標をみると、有効求人倍率[注1]は前月より0.03ポイント悪化して1.08倍となり、完全失業率は前月より0.1ポイント悪化して2.9%となっている。また、就業者数は前年同月差では76万人減と4か月連続の減少となっているが、季節調整値で前月と比較すると3か月連続の増加となっており[注2]、雇用情勢は厳しい状況が続いているものの、小康状態にあるようにみえる。

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて緊急事態宣言が出された4月に激増した休業者[注3]については、5月、6月と大幅に減少した後、7月は前月より16万人減の220万人となっている。前年同月差では34万人増まで縮小し、5月末の緊急事態宣言解除後、経済活動が徐々に再開されてきたことに伴い、休業者の水準も緊急事態宣言以前の状態に戻りつつあると考えられる(図表1)。

図表1 休業者の推移

図表1グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:休業者とは、就業者のうち、調査週間中に少しも仕事をしなかった者で、自営業主においては、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者。雇用者においては、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者。

就業者から休業者を差し引いた従業者は、7月には前月より1万人増の6435万人となっているが、前年同月差でみた減少幅は前月よりも57万人縮小しており[注4]、休業者から従業者に移る動き[注5]が続いていると考えられる(図表2)。

図表2 就業状態の比較(2020年4~7月と2019年4~7月)

図表2 表

資料出所:総務省「労働力調査」より作成。

注1:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも仕事をした者。

注2:休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者。

注3:週間就業時間は、月末一週間の就業時間。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

注4:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注5:就業率は、就業者数を15歳以上人口で割った比率。稼働率は、従業者数を15歳以上人口で割った比率として計算。

こうした動きもあり、7月の月末一週間の活用労働量(労働ニーズ)[注6]を前年同月と比較すると5.3%減と、減少幅は6月より1.6ポイント縮小している。

ところで、緊急事態宣言による経済活動抑制の影響は産業別に異なっていたことから、休業者の動向として、産業別に就業者に占める休業者の割合を休業者比率として、その推移をみたのが以下の図表3である。

図表3 産業別休業者比率の推移

図表3グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:休業者比率は就業者に占める休業者の割合として計算。

これによると、産業計の休業者比率は3月の3.7%から4月には9.0%と大幅に上昇したが、宿泊業,飲食サービス業では28.2%、生活関連サービス業,娯楽業では24.0%、教育,学習支援業では17.2%と特に上昇幅が大きかった。

その後、5月から7月にかけて各産業で休業者比率の低下がみられ、7月には3月以前の状態に戻りつつあるが、宿泊業,飲食サービス業、生活関連サービス業,娯楽業では他の産業と比較して高めとなっている。

このような休業者の増加を支えたのが雇用調整助成金[注7]などの政府の支援策[注8]と考えられる。8月28日時点における雇用調整助成金の支給決定件数は約86.6万件、支給決定額は約1.1兆円となり、過去に最も活用されたリーマンショック時の実績[注9]を既に大幅に上回っている。

緊急事態宣言解除後、経済活動が徐々に再開されてきたが、6月末から再び感染者数が増加する[注10]など難しい局面が続いており、経済環境も2020年4~6月期の実質GDP成長率がマイナス7.8%(年率換算でマイナス27.8%)となるなど、厳しい状況にある[注11]ことも反映して、雇用環境も当面厳しい状況が続くことが考えられる。そうした中、雇用者の動きを性別、正規・非正規別にみると、以下の図表4のようになっている。

図表4 正規・非正規別雇用者の対前年同月差の推移

図表4グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

注:雇用者には役員も含まれるため、正規の職員・従業員と非正規の職員・従業員の対前年同月差を合計しても、雇用者の対前年同月差とは一致しない。

これによると、雇用者数も就業者数同様に、前年同月と比較して7月まで4か月連続で減少しているが、男女とも正規の職員・従業員が概ね増加している一方、非正規の職員・従業員は減少を続けるという対照的な動きとなっており、特に、女性の非正規の職員・従業員の減少数が目立っている[注12]

完全失業率を男女別にみると(図表5)、女性の失業率は男性よりも低い水準となっているが、7月は男性の失業率が0.1ポイント低下して3.0%となった一方、女性では0.2ポイント上昇して2.7%となり、両者の差が縮まった。

図表5 男女別完全失業率の推移

図表5グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」

この背景として、非正規を中心に相対的に女性の多い産業が厳しい状況になっているため[注13]、女性の方がより雇用面での影響を受けていることが想定され[注14]、厳しい経済環境が続くと見込まれる中、今後も注視が必要である。

当機構では、新型コロナウイルスの雇用・就業への影響をみるため、関連する統計指標の動向をホームページに掲載しているので、そちらもご覧いただきたい(統計情報 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響)。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 ハローワーク(公共職業安定所)で受け付けた、有効期間内(原則受け付けた月から翌々月の末日まで。有効求職者については失業給付の受給期間は有効期間に含まれるなどの例外もある)の企業からの求人と仕事を求める求職者の割合を示す指標。1倍を上回ると求人超過(人手不足)となり、下回ると求職超過となる。

注2 就業者数を季節調整値でみると、4月に107万人減となった後、5月4万人増、6月8万人増、7月11万人増となっている。

注3 緊急コラム「新型コロナの労働市場インパクト─失業者は微増だが休業者は激増し、活用労働量は1割の減少─」(2020年5月29日)参照。

注4 総務省「労働力調査」追加参考表「就業者及び休業者の内訳」(PDF)新しいウィンドウ参照。

注5 緊急コラム「新型コロナの影響を受けて増加した休業者のその後―休業者から従業者に移る動きと、非労働力から失業(職探し)に移る動き―」(2020年6月30日)参照。

注6 従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算しており、必要な経済活動を行うための労働ニーズ(労働需要)が顕在化した労働量とみなすことができる。

注7 雇用調整助成金の特例の内容と支給実績は雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)新しいウィンドウを参照。 また、雇用調整助成金については、「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた日本と各国の雇用動向と雇用・労働対策(PDF:993KB)」(2020年5月8日、新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響等に関する調査、分析PT)も参照。

注8 月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料(PDF)新しいウィンドウ(令和2年8月27日)により、主な支援策の利用状況をみると、「資金繰り支援(実質無利子・無担保融資)」の融資件数は約134.6万件、融資額は約24.4兆円(8月25日時点)、「持続化給付金」の支給件数は約311万件、支給額は約4.0兆円(8月21日時点)と、各々利用が進んでいることが分かる。

注9 雇用調整助成金のリーマンショック時の支給実績は、2008年度約68億円、2009年度約6538億円、2010年度約3249億円となっている。

注10 国内の発生状況は次のページなどで情報発信されている。 国内の発生状況など|厚生労働省新しいウィンドウ

注11 7月の鉱工業生産指数が前月比8.0%上昇と2か月連続で上昇するなどの動きもある。

注12 正規・非正規別の雇用動向の分析として、高橋康二 緊急コラム「正規・非正規雇用とコロナショック─回復しない非正規雇用、底堅い正規雇用(6月「労働力調査」から)─」が参考になる。

注13 2020年7月における産業計の雇用者における女性比率は45.0%、非正規比率は34.3%、女性非正規雇用比率は23.3%となっているのに対し、宿泊業,飲食サービス業の女性比率は62.1%、非正規比率は71.8%、女性非正規雇用比率は53.0%、生活関連サービス業,娯楽業の女性比率は60.5%、非正規比率は54.2%、女性非正規雇用比率は40.1%となっている。

注14 コロナショックの女性への影響については、周燕飛 JILPTリサーチアイ第38回「コロナショックの被害は女性に集中─働き方改革でピンチをチャンスに─」で詳細に分析している。

関連リンク