1997年 学界展望
労働経済学研究の現在─1994~96年の業績を通じて(2ページ目)


1. 長期雇用、終身雇用

論文紹介(駿河)

中馬宏之・樋口美雄「雇用環境の変化と長期雇用システム」

日本の入・離職率は国際的に見て低いほうの部類に入るが、突出して低くはない。むしろアメリカが突出して高い。日本の平均勤続年数はアメリカより高いがドイツとはさほど変わらない。いろいろな指標(長期勤続者割合、平均勤続年数、残存率)をとっても日本の定着率が極端に高いということはない。むしろアングロサクソン系の国で定着率が低い。30-45歳層のデータを見ると、ヨーロッパでは、長期勤続者が多数存在する反面、最近転職した人も多く、二極分解している。比較的流動的な人の割合が高い。対して、日本は長期雇用者の割合が高い。

次にKanemoto and MacLeord(1989)のモデルを拡張した2期間モデルを使用して理論分析をしている。モデル分析から次のような命題を導いている。技術進歩の上昇は、長期雇用者比率の上昇をもたらす。労働力不足の予想は、短期雇用者比率の上昇をもたらす。将来生産物需要の不透明度拡大は、短期雇用者比率の上昇をもたらす。

このモデルに沿って、実証分析をして、次のような結果を提出している。全体に有意でない変数がかなり多い。将来の不透明度は規模計や大企業で短期雇用者比率を有意に引き下げるという理論と逆の結果が出ている。技術進歩低下は規模計と小企業で短期雇用比率を引き上げている。将来の労働力不足の予想(若年失業率の低下)は中企業のみで有意に短期雇用比率を上昇させていた。

八代尚宏・大石亜希子「経済環境の変化と日本的雇用慣行」

日本的雇用慣行の変化を、企業が固定的な雇用者を流動的な雇用者に置き換える「雇用ポートフォリオ」の組み替えとしてとらえた。「賃金センサス」は、雇用者全体に占める長期勤続者比率の高まりを示している。たしかに中高年層での長期化傾向が見られるが、若年層は1980年代後半以降勤続年数の短縮化を示している。すなわち、二極分解が生じている。最近の勤続年数の上昇は勤続要因ではなくほとんどが年齢構成要因の変化で説明される。

「就業構造基本調査」で見ると、雇用者全体に占める非正規雇用者割合は、過去10年間ですべての年齢層で増加。離職率は、1980年代後半以降緩やかに上昇している。企業の経済合理的なメカニズムにより日本的雇用慣行が形成されたと考えると、企業を取り巻く外的環境の変化に合理的に反応することにより、将来流動化傾向が生じる。外的環境の変化として次のことが考えられる。

  1. 長期的経済成長の鈍化
  2. 労働力需給の逼迫
  3. 女性雇用者比率の高まり

実証分析の結果次のことが確かめられた。労働生産性の伸びが低くなると、非正規雇用者比率は高くなる。生産年齢人口の伸びが低下すると、非正規雇用者比率は高くなる。企業特殊的人的資本の重要な産業ほど、正規雇用者比率が高い。技術導入が盛んであるほど、年齢間賃金格差が大きい。

将来予想される労働力需給の逼迫は、長期的に年齢間賃金格差を縮小し、また平均離職率を高める。女性雇用者の増加は、供給面からの雇用の流動化をもたらす。

小野旭「昇進と企業内賃金構造」

終身雇用制度の一つの特徴は、子飼い重視の雇用慣行である。この論文は、「賃金構造基本調査」により、生え抜きと非生え抜き間で昇進の速度がどのくらい違うか、また時間的にどのような変化が起こっているかを調べている。その結果次のような結果が得られた。[1]1980-90年では、管理職に占める生え抜きの割合上昇。[2]生え抜きは各管理職に到達する昇進速度が速い。[3]生え抜き、非生え抜き間で平均年齢に大きな差があるのは、下位職種。上位のポストほど能力に重点を置いた人材登用で、生え抜きの要因は重要度が低くなる。[4]生え抜きのほうが非生え抜きよりも平均年齢が上昇し、昇進の遅れが目立つ。両者間の年齢差は縮小している。[5]他企業経験は昇進に不利に作用するが、近年この不利益が緩和されつつある。[4]と[5]の結果から、非生え抜き・他企業経験者に対する差別処遇が後退しつつあることを示唆しており日本的雇用慣行の変質の前兆と解釈している。

駿河

最初は、長期雇用と終身雇用というテーマで、日本の雇用慣行が変質したとか、変わったとか、将来変わっていくだろうという議論が最近、非常に数多く行われています。新聞などを見ますと、終身雇用は終わったというような書き方をしていて、いつ終わったのだろうかと思うわけです。日本の雇用慣行変化をめぐる議論というのは、いろいろありますが、全体としてまだ未整備の状態です。その中で学術的かつ客観的に慣行変化の問題を扱っているという意味で、この三つの論文を取り上げました。

最初の二つ、中馬・樋口、八代・大石論文は、年功賃金の変化についても少し触れていますが、主として正規・非正規、あるいは長期雇用者・短期雇用者の比率が今後どう変わるかということを検討しています。今後、雇用を取り巻く経済環境の変化として、技術進歩の停滞、若年人口の減少、生産物市場の競争が激しくなって生産物需要が不透明化するとか、経済成長が鈍化する。こういうことが長期的に予想されています。

両論文とも、日本の雇用慣行が、その時代の雇用を取り巻く経済環境に対して非常に合理的に対応した結果、現在の日本の雇用慣行が生まれたとしています。そうすると、経済環境が変化した場合に、雇用慣行はどういうふうに変化していくのかという議論の立て方をしていて、適切だと思います。理論を最初に考案して検証をやっています。両方とも多少不明確なところもありますけれども、非正規労働者、あるいは短期雇用者の比率が増加するということを予想しています。

それから、一般にデータで見ますと、長期雇用慣行の変化を明確にとらえているようなデータというのはなかなかないんですね。平均勤続年数はむしろ上昇しているとか、離職率というのは最近やや上昇していますけれども、オイルショック前はもっと離職率が高かった。その中で小野論文は、終身雇用の重要要因である子飼い重視、あるいは生え抜き重視の慣行というのを取り上げて、データで昇進についてチェックしています。生え抜きは昇進に有利であるというのは変わりませんが、時系列的に見ると、生え抜き重視の慣行というのが弱まってきている。そのことが日本の雇用慣行の変質の兆しであると受けとめているわけです。

以上が大体のまとめです。

討論

金子

まず、中馬・樋口論文の特徴は、従来、マスコミでは、よく景気の不透明感とか、先行き不透明感と言われているけれども、その不透明という言葉を経済学的に不確実性として導入していて、その不確実性下で企業が利潤を最大化するということを前提に企業の労働需要を導くというスタイルをとっているんですね。そういう意味では、マスコミ、あるいは一般の話題として取り上げられている経済環境の変化、この論文の用語では雇用環境の変化と言っていますけれども、そういうものをうまくモデルの中に取り入れているような気がするんです。

駿河

先ほど言いましたけれども、将来の雇用環境、経済環境の変化のとらえ方としては、私も適切と思っています。特に合理的な行動の結果として、将来こうなるというのが予想されているという点が非常にいいと考えています。ただし、計量の実証結果は必ずしもよくないと思うんです。

奥西

中馬・樋口論文と八代・大石論文は、似たようなテーマを取り上げていて、全体の構成も似ていますね。ただ、大きな違いは、中馬・樋口論文のほうは理論面でも、実証面でも、より広いフレームワークをつくって、そこから出発しているのに対して、八代・大石論文は各個撃破というか、非常に焦点を絞って切り込んでいることです。そのどちらがいいかは多分微妙なところで、個々の推計式を別物と考え、推計式によって取り上げる変数を変えるなどしたほうが結果がうまく出るということが、この二つの例からする限りは出ているんですが、それをうまいととるのか、あるいは一種のプリテストと言うと失礼になりますが、よく当てはまる変数を選んだという面はないのかといったあたりが私は気になりました。

また、内容的なことでは、流動化の議論をするときには、流動化の中身を具体的にどういう側面でとらえるかということが大事だと思うんですね。この点を特に中馬・樋口論文はかなり丁寧に論じられています。そこで、一つのとらえ方として、正規・非正規の比率で見るというのは、私はわかるんですが、ただ、最近の動きを見ていると、景気が悪いことの影響が大きいと思いますが、中高年を中心に企業にしがみつく傾向がかなり強く出ていると思うんです。ちょっと言葉は悪いですが。

金子

でも、それは高年齢者雇用安定法を含めて制度がそれを助長している面もあるでしょう。

奥西

特に中年層の場合には労働者がかなり自発的にしがみついていると思いますよ。

金子

だから、この中高年を二つに分けて、40代後半から55歳ぐらいまでと、法が保護しようとしている55歳以上の年齢層とに分けて考えて、45~55歳のほうは奥西さんの指摘がまず当てはまると仮定しましょう。そうすると……。

奥西

だから、仮に景気が先行き悪いとしたとき、勤続年数や移動率でとった企業への定着度は強まる可能性があると思うんです。

駿河

年齢層によって異なってくるというと、要するに二極分解しているということですか。

奥西

要は流動化というのをどういう指標でとらえるかによって、経済環境が変わったときに流動化の状況はどうなるかという議論は影響を受けるんじゃないかということを言いたかったのです。その中で、正規・非正規の比率をとるというのは一つの考え方としては理解できます。

そのときに取り上げたい問題は、技術進歩の問題なんですが、八代・大石論文では、ポートフォリオモデルを提起していて、長期雇用者というのは企業にとって大きな固定費用の負担を伴うものなので、リスキーな存在であるというとらえ方をしているわけです。しかし、費用面だけでなく便益面も見るべきであって、技術進歩の創造力やそれへの対応力において、短期雇用者と長期雇用者のどちらがより適しているかということを考えると、別の評価も可能だと思うんですね。実際、たとえば、中馬・樋口論文では、技術進歩率が高まるならば、長期雇用の比率は高まるだろうという含意を出しているわけです。

そうすると、これからの日本企業の技術進歩率はお先真っ暗だと言ってしまうのか、いやこれから労働力人口も伸び悩むか、あるいは減るなかで、日本経済が生きていくとすれば技術進歩率を高めるしかないという積極的な展望に立てば、むしろ長期雇用の重要性を強調すべきだという議論だってできると思うんです。だから、一概に短期雇用が増えるという見方に関しては、私はいろいろ留保をつけたいと思っています。

駿河

経済環境の変化で前提とされているところが、必ずしもそうとは限らないということですね。一つは、技術進歩が案外停滞せずに伸びてくるかもしれない。もう一つは、たとえば生産物需要の不透明度、これもほんとうに高まってくるのかという点も少し疑問がありますね。

それから、八代・大石論文の雇用ポートフォリオ理論もあまり明快なものではないですね。論文には詳しい内容を書いていないですけれども、人的資本では、技能形成や訓練とかということが必要であるとか、労働努力とか、働かせるためにはインセンティブが必要であるとか、そういう意味では、金融資産と人的資産とはかなり違う面がありますから、その辺をきちんと議論する必要があるのではないかと思いました。

それから、最初に言われたデータの面ですけれども、中馬・樋口論文は被説明変数に長期雇用者と短期雇用者の入職者の比をとっているんですね。ですから、フローの値をとっています。それに対して八代・大石論文は、ストックのほうですね。正規労働者数と非正規労働者数、これをストックでとっていますから、二つのデータの変動の差は大きい。ストックのほうは大分安定しています。フロー変数は、離職者は考えずに入職者だけですから、その辺で問題点がある可能性はありますね。それと、正規・非正規の比率だけでは、それが短期雇用者であるとか、非正規雇用者の数が増えていくというのはわかるんですけれども、必ずしも雇用慣行の変質とは、直接的には関係がないという可能性がありますね。

金子

その雇用慣行というのは、賃金を含めての雇用慣行ですか。

駿河

主として長期雇用、終身雇用のことです。

金子

そうすると、インセンティブの面があるわけですね。今お聞きしたのは、長期雇用というとき、たとえば、長期雇用のために退職金が勤続年数をある程度超えると非常に増加する仕組みになっていますね。その長期雇用が変化するとしたならば、インセンティブのメカニズムも変わると思うんですね。その点については、これらの論文は、あまり明示的には扱っていないような気がするんです。

駿河

ただ、全体的に、「日本的雇用制度研究会中間報告」などを見ても、終身雇用がドラスティックに崩れていくというふうに考えている企業というのは少ないですね。どちらかというと、部分的には変わっていくという可能性はありますけれども、終身雇用を重視する企業もかなり多いという印象ですね。

では、小野論文のほうはいかがですか。「子飼い重視」という点を取り上げているので、おもしろいことはおもしろいんですけれども。ただ、技能形成の点から見ると、長期雇用は非常に重要であるとは言われますけれど、子飼い重視がどのくらい重要であるかは少し疑問ですね。

それともう一つは、前の二つの論文と違いまして、子飼い重視であるとか、生え抜き重視と言っているときに、経済的な合理性、経済的な意味づけが少し弱いんじゃないかという印象がしました。

奥西

この論文は昇進と賃金の両面において、生え抜きであるか否かがどれだけ重要な意味を持っているかということを「賃金構造基本統計調査」の個票データを使ってたいへん丁寧に分析したものですね。ただ、昇進のところで1点気になったのは、たとえば小野論文の6頁を見ると、昇進について単に勤続が長い、短いだけではなくて、生え抜きであるか否かが重要ではないかという点を指摘し、その検証が第1の目的であると言われているのですが、実際の分析のところでは、勤続年数自体は説明変数に入っていないため、生え抜き要因が勤続年数から独立して効果があるかどうかというのはよくわからなかったのですが。ここの書き方からすると、勤続が長いほどたしかに昇進において有利だけれども、生え抜きであることが加わると、さらに一層有利になると読めるのですが、その点はいかがですか。

金子

実証分析では明確にはなっていない?

奥西

と私は思ったんだけれども。

金子

たとえば勤続年数については2次関数で近似して、ダミー変数でクロスさせてもよかったかもしれません。あるいは勤続年数のパラメーター自体が生え抜きの度合いに依存する関数にしてもよいかもしれない。ひとひねりしたほうがいいのではないかということですね。

奥西

もしこれが中心課題であるのならばですが。今のままだと、たしかに生え抜きは非生え抜きより有利である。しかし、それは勤続年数が長いから当たり前じゃないのかと解釈する余地もあるのではないでしょうか。

駿河

そうすると、勤続年数のところが全くコントロールできていないため、勤続年数の効果か生え抜きの効果かがよくわからない。単に年齢と生え抜き、非生え抜きだけをコントロールしている。

奥西

もちろん、学歴もありますけれども。ちなみに賃金のところでは、勤続のほかに生え抜き要因を入れたけれども、必ずしも期待したような結果が出なかったという結論ですね。だから、その辺が少し気になったんです。

金子

いずれにしても、生え抜きと非生え抜き間の昇進の速度の比較研究というのは、個票を使ったものに関しては、ほぼ最初ですね。先駆的業績という位置づけはできると思うんです。

先駆的業績として認めるとして、なぜこれだけ生え抜きの問題が重要なのかというと、先ほど大企業では終身雇用制は変わらないと言っている一方で、マスコミでは流動化、あるいは規制緩和と併せて流動化の議論がありますね。労働市場を流動化させた場合には、生え抜きと非生え抜き間の昇進の速度に差があってはいけないはずですね。いわゆる日本的雇用慣行に対するアンチテーゼが、共通認識になってきたからこそ、この分析はあえてこの時期にやってみなければいけなかったと考えられるんですけれども。

駿河

「日本的雇用制度研究会中間報告」を見ますと、今後どういう採用方法をとるかという質問に対して、一番重視しているのが、新規大卒男子を重視するというところがほとんどなんです。そういう意味では、急速な変化というのはあまり見られないのではないですか。

金子

女子労働問題とも関係あるんですけれども、そうすると、やはり男女雇用機会均等法の影響はあまり大きくないと考えられるのか。それとも、男子を重視すると言われたのですが、もう一つ、大卒総合職重視で彼らを生え抜きとして訓練し、よりよい人材に育てて会社の繁栄に結びつけるというスタイルを今後もとり続けるというふうに翻訳したほうがいいんでしょうかね。

駿河

生え抜きの中に女子が入るかどうかということは疑問なんですね。

金子

個人的見解ですが、これからは入ると思いたいんです。小野論文では女子の生え抜きは取り上げられていませんが、女子管理職の学歴構成の変化や管理職の年齢構成の変化を均等法施行前後で比較することは中村恵さんの研究、女子パートの生え抜きを考えると基幹型パートの育成が問題になりますが、脇坂明さんの研究があります。だから、今後この分析を拡張するとしたら、男女雇用機会均等法が施行されて、さらにそれを拡充する方向にあるんだから、生え抜きと非生え抜き間の昇進の速度をさらに男女別にやってみるとか、分析を発展させる方法はいくらでもあると思うんです。

駿河

この分野は、マスコミではよく取り上げられる割に、学術的研究は比較的少ないというので、今後こういう雇用慣行についてのいろいろな側面からの研究というのがもっと必要でしょう。

金子

特にマイクロデータをとってですね。

奥西

賃金についても一言いいですか。小野論文では、賃金についてもかなり詳しい分析をされているのですが、ちょっと引っかかったのは、サンプルを職階によって分け、そのサブ・サンプルごとに賃金関数を推計されている点です。こうしたやり方をすると、昔、アメリカの分断的労働市場の研究で問題になったトランケーション・バイアスが出てくる可能性があると思うのです。それを簡単に図に表したものをお配りしたんですが(図1)、横軸に年齢をとって、縦軸に賃金をとる。仮に6個の観測値が×印のように散らばっているとします。それらに回帰式を当てはめると、この実線のような右上がりの直線が引けます。その傾きが年齢の効果です。横軸に勤続をとっても、おそらく似たようなことが言えるでしょう。

図1 トランケーション・バイアス

ところが、このサンプルの中で役職者だけを取り出すと、役職者というのはおそらく○印で囲ったような分布になっている。そうすると、役職者と非役職者を分けて賃金関数を推計すると、図の点線のように傾きがいずれも小さくなってしまう。しかも、横軸に勤続をとった場合は、たとえば中途採用で役職者になる人はかなりいるし、そういう人は賃金も高いでしょうから、図の△印のようなサンプルも入れて推計すると一層勤続の効果は低くなる。

高賃金の中途採用役職者の存在によって勤続の効果が小さくなるというのは、たしかに実態を反映しているのですが、小野さんは、結論的に、勤続の賃金に対する効果は非常に小さい、だから、勤続が持つ賃金へのプラス効果を通じた定着効果というのは、あまり評価できないのではないかという結論を導かれているのです。しかし、図1で示したような問題が起きている可能性もありますので、私としてはもう少し留保をつけたほうがいいのではないかと思います。

特に、昇進と絡めると、そのことは一層強く言えると思うんですね。中途採用で役職につく人は、たしかに増えているし、かなりいるとは私も思いますけれども、長期勤続が昇進において有利だということははっきりしているわけで、昇進したら賃金が高くなるということもこれまたはっきりしています。そのことを踏まえると、勤続が持つ企業定着促進効果というのは、小野さんが言われるほどほんとうに小さいのだろうかという疑問を持ちました。

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