1997年 学界展望
労働経済学研究の現在─1994~96年の業績を通じて(1ページ目)


はじめに

駿河

本誌では1982年以来3年ごとに労働経済学研究に関する展望討論会を行ってきた。今回は第6回目に当たり、1994年以降に発表された研究論文を取り上げている。

ここで取り上げる論文は、編集部があらかじめ用意したリストと討論会参加者が持ち寄った多数の文献を基礎としている。多数の文献の中から、比較的文献の多いテーマを取り上げ、それを基に論文を選んだ。対象は主として学術誌に掲載された研究論文である。単行書は論文集的なものに限って取り上げ、他は書評などに譲ることにした。

この3年間は、バブル経済崩壊後の低成長・景気停滞期を背景としており、雇用不安や日本型雇用慣行変化についての問題が話題になることが多かった。実際、国際的にはまだ低いものの、完全失業率は1996年に3.5%を超える戦後最高の率を記録した。そこでまず、大きなテーマとして雇用と労働需要を取り上げた。その中で、日本的雇用慣行に関する終身雇用・長期雇用、新卒需要や雇用調整を含む労働需要、円高による海外生産の増加と国内雇用の問題の三つをサブテーマとした。

賃金構造に関する研究はどの時期でも多く見られるが、今回もテーマの一つとした。昇進についての論文が多く見られたのが今回の一つの特徴で、昇進を中心に昇進・査定・技能・移動として一つのテーマを立てた。

1996年に雇用機会均等法10年を迎えたこと、不況期になり女子学生の就職が厳しい状態であること、日本の男女間賃金格差が非常に大きいという指摘を海外から受けていることなどを背景に女性労働に関する論文が多かったのも今回の特徴である。したがって、女性労働を中心に福利厚生を絡ませて大きなテーマとして選んだ。サブテーマとして、低出生率との関連で家族構成と就業行動、均等法や育児休業制度などに関係した雇用管理、主婦パートの就業調整を中心に福利厚生と税制・社会保障の影響の三つを取り上げた。ほかにも取り上げるべきテーマはいくつかあるが、時間や紙面の関係上、別の機会に譲った。

全体に各論文に対して厳しいコメントが多かったかもしれないが、取り上げた論文は各テーマのもとでわれわれが一定の評価をしたものばかりであり、ご容赦願いたい。もちろん、ここで取り上げたテーマについても、重要であるにもかかわらず見落とした論文があるかもしれない。それらについては読者からお教えいただけると幸いである。

参考文献

1. 長期雇用、終身雇用

  1. 中馬宏之・樋口美雄(1995)「雇用環境の変化と長期雇用システム」猪木武徳・樋口美雄編『日本の雇用システムと労働市場』日本経済新聞社、第1章
  2. 八代尚宏・大石亜希子(1995)「経済環境の変化と日本的雇用慣行」『日本労働研究雑誌』No.423
  3. 小野旭(1995)「昇進と企業内賃金構造」一橋大学『経済学研究』第36巻

2. 労働需要

  1. 宮川努・玄田有史・出島敬久(1994)「就職動向の時系列分析」一橋大学経済研究所『経済研究』第45巻第3号
  2. 浦坂純子・大日康史(1996)「新卒労働需要の弾力性分析―3時点間のパネル推定」『日本経済研究』No.32
  3. 駿河輝和(1996)「日本企業の雇用調整:企業利益と解雇」Discussion Paper Series No.1996-2, Osaka Prefecture University, 中馬宏之・駿河輝和編『雇用環境の変化と労働市場』(仮題)東京大学出版会、近刊
  4. 村松久良光(1995)「景気変動と雇用調整:日本に関する研究展望」京都大学『経済論叢』第155巻第1号
  5. 鎌田彰仁「中小企業の創業と雇用問題」『日本労働研究雑誌』No.425新しいウィンドウ
  6. Hashimoto, K. and J. A. Heath(1995)“Estimating elasticities of substitution by the CDE production function : an application to Japanese manufacturing industries.” Applied Economics Vol.27

3. 海外生産活動と国内雇用

  1. 深尾京司(1995)「日本企業の海外生産活動と国内労働」『日本労働研究雑誌』No.424新しいウィンドウ
  2. 深尾京司(1996)「国内か海外か─わが国製造業の立地選択に関する実証分析」一橋大学経済研究所『経済研究』第47巻第1号
  3. 伊沢俊泰(1996)「日本企業の海外進出と労働力コスト―電気機器産業の企業について」『季刊労働法』179号
  4. 佐野哲(1996)「産業空洞化と製造業」『季刊労働法』179号

4. 賃金構造(女子・パート賃金は徐く)

  1. 石川経夫・出島敬久(1994)「労働市場の二重構造」石川経夫編『日本の所得と富の分配』東京大学出版会
  2. 石川経夫・李昇烈(1996)「製造業下請制の賃金効果」『日本労働研究雑誌』No.430新しいウィンドウ
  3. 大竹文雄(1994)「1980年代の所得・資産分配」『季刊理論経済学』Vol.45、No.5
  4. 玄田有史(1994)「高学歴化、中高年齢化と賃金構造」石川経夫編『日本の所得と富の分配』
  5. 玄田有史(1996)「『資質』か『訓練』か?」『日本労働研究雑誌』No.430新しいウィンドウ
  6. 神代和欣(1996)「大競争時代の賃金決定」『日本労働研究雑誌』No.436新しいウィンドウ
  7. 中村二朗(1995)「わが国の賃金調整は伸縮的か」猪木武徳・樋口美雄編『日本の雇用システムと労働市場』日本経済新聞社
  8. 樋口美雄(1994)「大学教育と所得分配」石川経夫編『日本の所得と富の分配』
  9. 村松久良光(1995)「企業規模間の分業構造と賃金構造:日本と西欧の比較」『南山経済研究』Vol.9、No.3
  10. Brunello, Giorgio, Ken Ariga, Yoshihiko Nishiyama, and Yasushi Ohkusa(1995) “Recent Changes in the Internal Structure of Wages and Employment in Japan.” Journal of the Japanese and International Economies Vol.9
  11. Hart, Robert A. and Seiichi Kawasaki(1995) “The Japanese Bonus System and Human Capital.” Journal of the Japanese and International Economies Vol.9
  12. Ohkusa, Yasushi and Souichi Ohta(1994) “An Empirical Study of the Wage-Tenure Profile in Japanese Manufacturing.” Journal of the Japanese and Intenational Economies Vol.8
  13. Tachibanaki, Toshiaki and Souichi Ohta(1994) “Wage Differentials by Industry and the Size of Firm, and Labour Market in Japan.” Tachibanaki, Toshiaki(ed.) Labour Market and Economic Performance (Macmillan)
  14. Tsuru, Tsuyoshi and James B. Rebitzer(1995) “The Limits of Enterprise Unionism : Prospects for Continuing Union Decline in Japan.” British Journal of Industrial Relations Vol.33, No.3

5. 昇進・査定・技能・移動

  1. 有賀健、ジョルジュ・ブルネッロ、真殿誠志、大日康史(1996)「企業ヒエラルキーと人的資本形成」伊藤秀史編『日本の企業システム』東京大学出版会
  2. 伊藤秀史、照山博司(1995)「会社役員の意識と目的」橘木俊詔、連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』東洋経済新報社
  3. 伊藤秀史、照山博司(1995)「ホワイトカラーの努力インセンティヴ」橘木俊詔、連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  4. 大竹文雄(1995)「査定と勤続年数が昇格に与える影響」『経済研究』Vol.46、No.3
  5. 太田聡一(1995)「非対称情報下における昇進モデルと『日本的』昇進慣行」『日本経済研究』No.30
  6. 大橋勇雄(1995)「会社の中の学歴社会」橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  7. 小林良暢(1995)「課長への道」橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  8. 鈴木不二一(1995)「ホワイトカラーのキャリアと労働組合」橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  9. 橘本俊詔(1995)「役員への途と役員の役割」橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  10. 冨田安信(1995)「理工系出身者の仕事意識と処遇」橘本俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  11. 中村恵(1995)「ホワイトカラーの異動」猪木武徳・樋口美雄編『日本の雇用システムと労働市場』
  12. 野田知彦(1995)「会社役員の昇進と報酬決定」橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  13. 野田知彦(1995)「理工系、文系と昇進」橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  14. 松繁寿和(1995)「電機B社大卒男子従業員の勤続10年までの異動とその後の昇進」橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  15. 三谷直紀(1995)「ホワイトカラーの賃金・昇進制度と労働インセンティヴ」橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』
  16. Abe, Yukiko(1994) “Specific Capital, Adverse Selection, and Turnover : A Comparison of the United States and Japan.” Journal of the Japanese and International Economies Vol.8
  17. Endo, Koshi(1994) “Satei (Personal Assessment) and Interworker Competition in Japanese Firms.” Industrial Relations. Vol.33, No.1
  18. Hashimoto, Masanori(1995) “Investment in Employment Relations in Japanese Firms.” Journal of the Japanese and International Economies Vol.9
  19. Higuchi, Yoshio(1994) “Effects of Job Training and Productivity Growth on Retention of Male and Female Workers in Japan.” Tachibanaki, Toshiaki(ed.) Labour Market and Economic Performace (Macmillan)
  20. Ohashi, Isao and Hisakazu Matsushige(1994) “The Growth of the Firm and Promotions in the Japanese Seniority System.” Tachibanaki, Toshiaki(ed.) Labour Market and Economic Performance (Macmillan)
  21. Rebick, Marcus E. (1995) “Rewards in the Afterlife : Late Career Job Placements as Incentives in the Japanese Firm.” Journal of The Japanese and International Economies Vol.9

6. 家族構成と就業行動

  1. 今田幸子(1996)「女子労働と就業継続」『日本労働研究雑誌』No.433新しいウィンドウ
  2. 大淵寛(1995)「女性のライフサイクルとM字型就業」総務庁・人口世帯研究会監修『女性のライフサイクルと就業行動』第2章
  3. 小椋正立(1994)「2020年までの日本人人口予測」『日本経済研究』No.27
  4. 小島宏(1995)「結婚、出産、育児および就業」総務庁・人口世帯研究会監修『女性のライフサイクルと就業行動』第4章
  5. 駿河輝和(1995)「日本の出生率低下の経済分析」『大阪府立大学 経済研究』第40巻2号
  6. 高山憲之・有田富美子(1996)「共稼ぎ世帯の家計実態と妻の就業選択」高山憲之・有田富美子『貯蓄と資産形成』岩波書店、第4章
  7. 水野朝夫・吉田良生(1995)「低出生力・労働時間短縮と労働供給」水野朝夫・小野旭編『労働供給制約と日本経済』大明堂、第2章
  8. 松浦克己・滋野由紀子(1995)「日本の年齢階層別出産選択と既婚女子の就業行動」『季刊社会保障研究』第31巻2号

7. 女性の雇用管理

  1. 塚原康博(1995)「育児支援政策が出生行動に与える効果について―実験ヴィネットアプローチによる就業形態別出生確率の計量分析」『日本経済研究』No.28
  2. 冨田安信(1994)「女性が働き続けることのできる職場環境―育児休業制度と労働時間制度の役割―」『大阪府立大学 経済研究』第40巻1号
  3. 冨田安信(1996)「再雇用制度が女性の賃金に与える効果」『大阪府立大学 経済研究』第41巻4号
  4. 中村二朗・中馬宏之(1994)「ヘドニック賃金アプローチによる女子パートタイム労働者の賃金決定」『日本労働研究雑誌』No.415新しいウィンドウ
  5. 永瀬伸子(1994)「既婚女子の雇用就業形態の選択に関する実証分析―パートと正社員―」『日本労働研究雑誌』No.418新しいウィンドウ
  6. 永瀬伸子(1995)「「パート」選択の自発性と賃金関数」『日本経済研究』No.28
  7. 樋口美雄(1994)「育児休業制度の実証分析」社会保障研究所編『現代家族と社会保障』東京大学出版会、第9章
  8. 牧野文夫(1995)「女子の高学歴化と職業選択」総務庁・人口世帯研究会監修『女性のライフサイクルと就業行動』第3章
  9. 三谷直紀(1996)「均等法施行後の女性雇用」『日本労働研究雑誌』No.433新しいウィンドウ
  10. 脇坂明(1996)「コース別人事管理の意義と問題点」『日本労働研究雑誌』No.433新しいウィンドウ

8. 福利厚生と税制・社会保障の影響

  1. 安部由紀子・大竹文雄(1995)「税制・社会保障制度とパートタイム労働者の労働供給行動」『季刊社会保障研究』第31巻2号
  2. 金子能宏(1997)「高年齢者雇用政策と雇用保険財政」『経済研究』(近刊)
  3. 田近栄治・金子能宏(1995)「厚生年金の財政と世代間負担―フェア年金の構想―」『季刊社会保障研究』第30巻4号
  4. 逆瀬川潔(1996)「中小企業における退職金制度の課題」逆瀬川潔『中小企業の労働問題』日本労働研究機構、第4章
  5. 西久保浩二(1995)「転換期を迎える日本型福利厚生」『日本労働研究雑誌』No.429新しいウィンドウ
  6. 樋口美雄(1994)「税・社会保険料負担と有配偶女性の収入調整」『高齢化社会における社会保障周辺施策に関する理論研究事業』長寿社会開発センター。八田達夫・八代尚宏編『「弱者」保護改策の経済分析』日本経済新聞社1995年に収録。
  7. 堀勝洋(1996)「女性と年金」『季刊社会保障研究』第31巻4号
  8. 丸山桂(1995)「税制改革とパート労働者の就業選択」『日本労働研究雑誌』No.429新しいウィンドウ
  9. 山上俊彦(1996)「大都市サラリーマンOBの就業行動」『日本労働研究雑誌』No.438新しいウィンドウ