資料シリーズNo.262
製造業におけるAI技術の活用が職場に与える影響
―OECD共同研究―

2023年1月6日

概要

研究の目的

本研究の目的は、製造業5社の事例を通して、職場におけるAI技術の活用実態を明らかにすることである。

主な研究課題として、AI技術の機能とは何か、AI技術は従業員のタスクをどのように変化させたのか、AI技術は仕事を代替しているのか、それとも補完しているのか、そしてAI技術の開発・運用をめぐる労使間の話し合いはどのようになされたのかなどを追究した。

研究の方法

ヒアリング調査

主な事実発見

(1) AI技術の概要

AI技術の概要を整理したものが図表1である。AI技術の機能は多様である。製造ラインのトラブルの復旧案を提示する機能(E社)、社内公募におけるマッチング度合いをレコメンドする機能(F社)、国外のウェブサイトと製品やサービスの受注との関連度を算出する機能(G社)、外観検査における良否判定をおこなう機能(H社、I社)とに区分できる。

導入時期をみてみると、すでに活用から4年目の技術(E社)と活用間もない1年~2年の技術(F社、G社、H社、I社)とがみられる。

また、導入職場と活用する従業員層を整理すると、製造ラインの保全従業員層が活用している技術(E社)、全職場に導入されているが、活用しているのは一部の従業員に留まっている技術(F社)、マーケティング部門(以下「MK部門」という)の特定の従業員が活用している技術(G社)、製造ラインの外観検査を担当する数名の従業員が活用している技術(H社、I社)とに分けられる。

図表1 AI技術の概要

AI技術の概要
製造業 AI技術の機能 導入時期 導入職場 従業員層
E社(鉄鋼) ライントラブル復旧案を提示 2018年 製造ライン 保全従業員
F社(電機) 社内公募マッチングレコメンド 2020年 全職場 一部従業員
G社(制御機器) ウェブサイトと受注の関連度 2021年 MK部門 特定従業員
H社(電気機械) 外観検査における良否判定 2021年 製造ライン 検査員
I社(計測機器) 外観検査における良否判定 2021年 製造ライン 検査員

(2) 共通してみられた事実発見

AI技術の機能、導入時期、導入職場と活用する従業員層に違いがあるものの、各社において共通してみられた事実発見は以下の通りである。

第一に、AI技術を活用する従業員のタスクの一部は減少している。

第二に、AI技術は彼らの仕事を代替するものではなく、彼らの仕事を補完するものであった。

第三に、AI技術は一定の業務効率化をもたらしている。

第四に、開発者にはAI技術に関する新たなスキルと知識が要請されている。

第五に、その開発者の採用数は増加傾向にある。

第六に、AI技術は従業員の賃金に影響を与えていない。

第七に、AI技術の開発や運用をめぐる労使協議は実施されていない。AI技術を活用する部門内での話し合いもしくは個別従業員との話し合いはなされている。とはいえ、労使協議においては、AI技術などのデジタル技術の推進を含む中期経営計画をめぐる協議・説明はなされている。

(3) 個別事例にみられた事実発見

各事例において個別にみられた事実発見は以下の通りである。

第一に、従業員の日常の仕事内容において、業務効率化による他業務への注力化(E社、I社)、トラブル対応範囲の拡大(E社)、新たな分析業務の創出(G社)がみられた。

第二に、製造ラインにおけるAI技術の活用については、生産性の向上がみられた(E社、H社、I社)。

第三に、開発者を除く、AI技術を活用する従業員層の新たなスキルや知識として、AI技術の操作スキル(E社、G社、H社)、分析スキル(G社)、AI技術の導入をめぐる開発部門と製造部門との部門間の調整スキル(H社)がみられた。

第四に、MK部門の従業員が増加傾向にある(G社)。ここではIT情報産業からの人材の移動がみられた。

第五に、人を対象としたAI技術の活用については、データの取り扱いや倫理的懸念の検討がなされていた(F社、I社)。

(4) 主な論点

主な論点として、次の諸点を挙げた。

第一に、AI技術の普及による雇用増減への影響に関して、開発者が増加傾向にあるが、同時に、新たな業務を担う従業員層の増減についても注視する必要がある。

第二に、製造業においてもAI技術は仕事を代替するものではなく補完するものであったが、派遣従業員などの非正規従業員を含めた検討が必要である。

第三に、新たなスキルと知識の獲得のあり方として、職場を軸とした人材育成や中途採用を通じ人材の獲得が試みられており、さらに中途採用については同一産業からの移動と他産業からの移動というパターンがみられた。人材育成やその獲得方法はより詳細に観察される必要がある。

第四に、人を対象とするAI技術の活用の際には、倫理的懸念への対応がより重要であると考えられる。

第五に、労使関係が果たすべき役割は依然として重要である。現段階ではAI技術が組合員の雇用に影響を与えるものではないため、AI技術の開発、導入、運用をめぐる労使協議は実施されていない。しかし、AI技術が従業員の雇用に影響を与えうる段階になった際、その合意形成に向けた労使の果たす役割は大きい。

政策への貢献

AI技術などのデジタル技術の普及に対応する、今後の労働政策のあり方に資する基礎資料の提供に貢献しうる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な働き方と処遇に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等人事管理に関する研究」

研究期間

令和3~4年度

執筆担当者

岩月 真也
労働政策研究・研修機構 研究員

研究担当者

天瀬 光二
労働政策研究・研修機構 副所長
新井 栄三
労働政策研究・研修機構 調査部長
岩月 真也
労働政策研究・研修機構 研究員
荻野 登
労働政策研究・研修機構 リサーチフェロー
呉 学殊
労働政策研究・研修機構 統括研究員
小松 恭子
労働政策研究・研修機構 研究員
松上 隆明
労働政策研究・研修機構 リサーチアソシエイト
森山 智彦
労働政策研究・研修機構 研究員

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