調査シリーズNo.218
ものづくり産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応した人材の確保・育成や働き方に関する調査結果
概要
研究の目的
IoT(Internet of Things、モノのインターネット化)やAI(人工知能)といったデジタル技術の活用が世界的に進んでいる。こうした技術は、企業が事業を継続するうえで、生産性の向上や安定した稼働をもたらすとともに、競争力のさらなる強化につながる可能性がある。加えて、世界的に広がった新型コロナウイルス感染症は、多くの製造業に供給と需要の両面から影響を及ぼしたが、このような、環境や状況の急激な変化に対応しつつ、生産活動の両立を図る上では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が鍵となると考えられる。
DXを進めるために、実際にものづくりを行う現場では、デジタル化に対応できる人材の確保・育成としてどのような取り組みを行っているのか。デジタル化に対応する働き方と、それに伴う人材確保、育成の現状を把握するとともに、今後に向けた課題等を把握する企業アンケート調査を行った。
研究の方法
企業アンケート調査(郵送方式)。
- 調査対象
- 全国の日本標準産業分類(平成25年10月改訂)による項目「E 製造業」に分類される企業のうち、
〔プラスチック製品製造業〕〔鉄鋼業〕〔非鉄金属製造業〕〔金属製品製造業〕〔はん用機械器具製造業〕〔生産用機械器具製造業〕〔業務用機械器具製造業〕〔電子部品・デバイス・電子回路製造業〕〔電気機械器具製造業〕〔情報通信機械器具製造業〕〔輸送用機械器具製造業〕の従業員数30人以上の企業20,000社。
総務省の経済センサス活動調査(平成28年版)の確報集計での企業分布に従い、民間信用調査機関所有の企業データベースから業種・規模別に層化無作為抽出した。 - 調査期間
- 2020年12月3日から12月16日。
- 有効回収数
- 3,679社(有効回収率18.4%)。
主な事実発見
- ものづくりの工程・活動において、1つの工程・活動でもデジタル技術を活用している企業の割合は54.0%と半数以上。同割合は企業規模が大きくなるほど高くなり、「300人以上」では7割近く(68.9%)にのぼる(図表1)。
図表1 ものづくりの工程・活動において、1つの工程・活動でもデジタル技術を活用している企業の割合(規模別) ※デジタル技術を「コロナ以前から活用している」または「コロナを契機に活用している」工程・活動が1つでもある企業 n=1,988
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- デジタル技術を活用していく上での課題(複数回答)としては、「デジタル技術導入にかかるノウハウの不足」(52.2%)、「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の不足」(43.3%)、「デジタル技術導入にかかる予算の不足」(40.7%)などの回答割合が高い。「デジタル技術導入にかかる予算の不足」の割合は、企業規模が小さくなるほど高くなっている一方、「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の不足」、「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の育成のためのノウハウの不足」などの割合は企業規模が大きくなるほど高い(図表2)。
図表2 デジタル技術を活用していく上での課題(複数回答)(規模別)n=3,679
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- デジタル技術の活用や導入において先導的な役割を果たすことができる人材に必要なこと(複数回答)では、「自社が保有する設備・装置や、担当する工程(開発・設計、製造、品質管理等)での仕事を熟知している」(65.3%)の回答割合が6割以上を占める。「自社が保有する技術や製品について熟知している」(57.2%)、「デジタル技術を自社の事業で活用・応用できる能力(生産性向上、技術革新など)」(50.5%)などの割合も高い(図表3)。
図表3 デジタル技術の活用や導入において先導的な役割を果たすことができる人材に必要なこと(複数回答)※デジタル技術の活用に向けたものづくり人材の確保について「デジタル技術を活用しないので確保する必要はない」と答えた企業以外の企業が回答 n=2,821
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- 新型コロナウイルス感染症の拡大が自社の業績に与えた影響を尋ねると、「向上した」が0.7%、「やや向上した」が1.7%、「影響はない」が13.2%、「やや悪化した」が38.4%、「悪化した」が44.6%で、悪化した企業が8割以上を占める。規模別にみると、すべての規模で「やや悪化した」と「悪化した」を合わせた割合が8割以上となっている(図表4)。
図表4 新型コロナウイルス感染症の拡大が自社の業績に与えた影響(規模別)n=3,679
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- 新型コロナウイルス感染症の拡大による自社のものづくり人材の育成・能力開発への影響として考えられること(複数回答)では、「人材育成・能力開発への影響は特にない」(32.6%)の回答割合が3割以上を占める一方、影響として考えられることでは、「オンラインを活用した研修が増える」(31.5%)、「作業手順書やマニュアルの整備が進む」(22.8%)、「よりOJTを重視するようになる」(12.7%)などの回答割合が高い(図表5)。
図表5 新型コロナウイルス感染症の拡大による自社のものづくり人材の育成・能力開発への影響として考えられること(複数回答) n=3,679
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政策的インプリケーション
工程・活動を限定しなければ全体の半数以上の企業がデジタル技術を活用している一方、企業規模による差もみられた。また、デジタル技術の活用を進める上での課題としては、活用のノウハウの不足、活用を先導する人材の不足、予算の不足をあげる企業が多くなっている。今後もデジタル化に対応できる人材へのニーズは高まることが考えられるが、デジタル技術の活用や導入においては自社の設備・工程、技術、製品を理解し、現場の現状を分析できる人材が必要であることが示唆されている。日頃から自社の置かれた環境や技術などを熟知できる人材の養成が求められる。
政策への貢献
「令和2年度ものづくり基盤技術の振興施策」(2021年版ものづくり白書)に活用。また、人材開発行政にかかる政策立案のための基礎資料として活用される。
本文
研究の区分
情報収集
研究期間
令和2~3年度
調査実施担当者
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 調査部リサーチフェロー
- 藤本 真
- 労働政策研究・研修機構 人材育成部門 主任研究員
- 荒川 創太
- 労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員
- 田中 瑞穂
- 労働政策研究・研修機構 調査部調査員
※所属肩書きは、調査シリーズ発行時点のもの
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.132)。