最賃委、二段階引上げ勧告も15ユーロに届かず

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  • 国別労働トピック:2025年7月

労使代表と学識者で構成する最低賃金委員会は6月27日、最低賃金の時給を2026年と2027年の二段階で、それぞれ13.90ユーロと14.60ユーロへ引き上げるよう連邦政府に勧告した。現地報道(注1)によると、発表直前まで労使代表間の調整が続き、勧告を全会一致で決定したのは、記者会見の予定時刻まで残りわずか50分というタイミングだった。なお、連立与党の一角を担う社会民主党(SPD)が目標としていた時給15ユーロには届かなかった。

上げ幅は2年で13.9%増と過去最大

勧告によると、最低賃金は現行の時給12.82ユーロから、2026年1月1日に13.90ユーロ、2027年1月1日に14.60ユーロへと、二段階で引き上げられる予定である(図表1)。現行額を基準とすると、2年間で13.9%の引上げとなり、2015年の法定最賃導入以来、最大の引上げ幅となる。

最低賃金委員会は、今回の引き上げについて、「労働市場や経済動向、そして労働者の保護という最低賃金本来の機能を総合的に考慮した結果」と説明している。

図表1:最低賃金時給の引き上げの推移(2015年~2027年)
画像:図表1

注:22年10月の引上げのみ、最低賃金委員会の勧告を経ずに政府主導による法案審議によって引上げられた。

出所:政府広報をもとに作成。

今回の勧告は「時給15ユーロ」には届かなかったものの、この水準に達するかどうかに大きな注目が集まっていた。背景の一つには、最低賃金委員会が今年1月に新たな手続規則を公表し、EU最低賃金指令への対応として、「フルタイム雇用労働者の賃金中央値の60%」を参照指標等として導入したことがある。ドイツ労働総同盟(DGB)によると、この指標に基づけば、ドイツの最低賃金は2026年までに15.27ユーロに達するとの予測があった。

もう一つの要因は、メルツ連立政権の発足前に発表された連立協定書である。同協定では、連立パートナーである社会民主党(SPD)の強い意向を反映し、「2026年までに時給15ユーロへの到達が可能」とされていた。

いずれにせよ、今回、労使代表委員の双方が評価していたのは、政治的な干渉を受けることなく、最低賃金委員会が“全会一致”で勧告を決定したという点であった。

前回(2023年6月)の最低賃金委員会による勧告は、労働側代表委員が反対したまま、議長が議決権を行使し、多数決で決定された。その前年の2022年10月には、最低賃金委員会の勧告を経ることなく、政治主導によって最低賃金が時給12ユーロに引上げられており、この金額を今後の算定に含めるか否かをめぐって、労使の意見が最後まで平行線をたどったことが主な要因であった。2015年の法定最低賃金導入以来、勧告が全会一致とならなかったのはこの時が初めてであり、今回の勧告が再び「全会一致」で決定されたことは、関係者の間で高く評価されている。

労働社会相は勧告受け入れの方針を表明

ベアベル・バス労働社会相(SPD)は、今回の勧告について「労使双方が歩み寄り、解決策を見出せたという事実そのものが、極めて重要な価値を持つ」と歓迎の意を示した上で、「しっかりとした賃上げであり、満足できる内容だ」として、勧告を受け入れる方針を明らかにした。

一方、社会民主党(SPD)は、メルツ政権発足前から最低賃金を時給15ユーロに引き上げることを強く主張していたため、今回の勧告がその水準に達しなかったことを受け、2022年10月のように政治主導での引き上げが再び行われる可能性も取り沙汰された。

しかし、6月27から29日にかけて開催されたSPD党大会では、クリングバイル副首相兼財務相とともに、バス労働社会相が共同党首に選出された上、バス氏自身がすでに今回の勧告に同意していることから、政治主導による再介入の可能性は低いと見られている。

メルツ首相も最賃委員会の勧告を尊重

メルツ首相(キリスト教民主同盟、CDU)は、最低賃金をめぐる議論について「最低賃金委員会が客観的なデータに基づいて決定を下したのであれば、連立政権としてこれ以上の議論は不要だ」と述べ、今回の勧告に対する政治的な関与を否定した。首相は以前から「2026年に最低賃金を時給15ユーロに引き上げることは可能」との見解を示していたが、同時に「それは政府が強制すべきものではなく、最低賃金委員会の判断に委ねるべきだ」との姿勢も明確にしていた。

600万人が恩恵との試算も

今回の勧告に基づいて最低賃金が改定された場合、約600万人がその恩恵を受けると見込まれている。一方で、勧告前には農業関連の業界団体から「季節労働者を最低賃金の適用対象外とすべき」との強い要望があり、ライナー農業・食料・故郷相も例外措置の導入に前向きな姿勢を示していた。しかし、労働社会相や最低賃金委員会の反対により、この提案は最終的に見送られた。

参考文献

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