メルツ政権、「ターボ帰化」廃止法案を提出へ

カテゴリー:外国人労働者

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2025年7月

メルツ政権は5月28日、最短3年の在留期間で帰化を認める現行の「ターボ帰化」制度を廃止する国籍法改正案(注1)を閣議決定した。アレクサンダー・ドブリント内務相(キリスト教社会同盟、CSU)は、今夏の成立を目指している。

ショルツ前政権の移民政策を転換

「ターボ帰化(Turbo-Einbürgerungen)」と呼ばれる在留期間3年での帰化を可能にする制度は、ショルツ前政権下の「国籍法現代化法(StARModG)(2024年6月施行)(注2)」により導入された。

同法では、ドイツ国籍を取得するための在留期間を、従来の8年から5年へ短縮した(国籍法第10条第1項)。さらに、教育や職業、市民活動での優れた実績、高度なドイツ語能力の証明などにより、ドイツ社会への統合が特に進んでいると認められる場合には、3年での帰化も可能となった(特別な社会統合実績、同条第3項)。この最短3年での帰化制度が、いわゆる「ターボ帰化」とされている。また、この改正により、出身国の国籍を保持したままドイツ国籍を取得することも可能となった。

今年5月に発足したメルツ政権は、ショルツ前政権下で進められた移民受け入れ政策を一転させ、より厳格な方向へと舵を切った。「ドイツ社会に持続的に溶け込むためには、十分な長期の在留期間が必要であり、ターボ帰化(3年)ではそれを満たさない」として、5月28日、ターボ帰化の廃止を盛り込んだ法案を閣議決定した。法案では、ターボ帰化の廃止を定める一方で、在留期間5年での帰化制度は継続される。

さらに、同日に閣議決定された別の法案では、難民条約上の「難民」には該当しないが、国際的な保護が必要とされる「補完的保護」の対象者について、ドイツへの家族呼び寄せを2年間禁止(停止)する措置が盛り込まれた。

現在、補完的保護の対象者としてドイツ国内に滞在している人は約40万人おり、その約4分の3はシリア出身者である。現状、彼らの家族として毎月約1,000人がドイツに移住している(注3)

帰化数は過去最多に

「ターボ帰化」廃止法案が閣議決定された直後の2025年6月10日、連邦統計局は帰化に関する最新の統計資料を公表した。それによると、2024年にドイツで帰化した人の数は29万1,955人に達し、前年比9万1,860人増(46%増)となり、2000年の統計開始以来、過去最多を記録した。

出身国別で、最も多かったのはシリア出身者で、全体の28%にあたる8万3,150人が帰化した。次いで、トルコが2万2,525人(8%)、イラクが1万3,545人(5%)、ロシアが1万2,980人(4%)、アフガニスタンが1万85人(3%)と続く。ただし、今回の集計にはザクセン=アンハルト州の一部地域のデータが含まれておらず、実際の帰化者数はさらに増える可能性がある。

連邦統計局によると、2024年の帰化者のうち、最も多かったケースは、従来通りの滞在期間を経て帰化したケース(国籍法第10条第1項)と、その配偶者・子どもが同時に帰化したケース(第2項)で、これらが全体の86%を占めた。他方、特別な社会統合実績を根拠として、在留期間の短縮が認められたケース(第3項)は7%であった。なお、前年(2023年)は、67%が10条第1項・第2項に基づく帰化であり、22%が第3項の特別な社会統合実績による帰化であった。

帰化までのドイツ滞在期間は、出身国により異なる。2024年の全体平均は11.8年で、前年の10.9年をやや上回った。シリア出身者は平均7.4年(前年6.8年)で、2015から2016年にかけて難民流入期に入国した人々が、要件を満たして、帰化を申請する傾向が続いている。対照的に、トルコ出身者は帰化時点で平均23.1年(前年23.3年)と、長期間にわたりドイツに滞在している者が多かった。ロシア出身者の滞在期間は平均14.5年(前年14.4年)、イラク出身者は平均8.7年(前年8.8年)、アフガニスタン出身者は8.9年(前年9.2年)であった。

なお、連邦統計局は今回の記録的な帰化者数の多さについて、2024年に施行された国籍法現代化法(StARModG)の影響を一定程度認めつつも、「ターボ帰化などの滞在期間の短縮よりも、出身国国籍の保持を可能とした新制度が、帰化希望者の増加により強く作用した」と分析している。

移民の4分の1がドイツからの移住を検討

メルツ政権による移民政策の方針転換が影響しているかどうかは不明だが、労働市場・職業研究所(IAB)が最近実施した調査(注4)によると、ドイツに住む移民のうち、およそ4分の1(26%)がドイツからの移住を検討しており、3%はすでに具体的な移住計画を立てていると回答した。移住を考える主な理由としては、政治への不満、高い税負担、行政手続きの非効率さ、差別の存在などを挙げている。特に、高学歴でドイツ語能力にも優れた層において、移住を検討する割合が高い傾向にあった。

IABは、高度な知識や技能を持つ外国人労働者の確保が求められるドイツにとって、「まさにこうした人々こそが必要な人材だ」と指摘し、高度外国人材をいかにドイツに引き留めるかが今後の課題だとしている。なお、同調査では「ドイツに永住したい」と回答した人の割合は57%であった。

参考資料

関連情報

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。