基礎情報:アメリカ(2003年)
8. 社会保障(拠出率、保障内容)、その他、参考資料

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

8-1. 労災補償

Workers' Compensationは、職業上の怪我、病気、死亡などに対して補償を行い、企業はその補償にあてるための基金を拠出する。Workers' Compensationの目的は怪我などをした社員に金銭的な補償をするもので、怪我をした社員の医療費や怪我により失った所得が補償される。この法律は基本的に企業に対する賠償や懲罰的代償の請求は排除し、企業に怪我、死亡、職業病、や社員の不注意や怠慢が原因ではない安全基準違反に対する医療補助と所得の一部の返還を義務づけている。またこの法律は連邦職員、港湾関係者などの一部を除き、基本的には州法にゆだねられている。したがって、保険料、保障内容などは、州によって異なる。ほとんどの労働者が保険の適用対象になっているが、州により、農業労働者、家事使用人、臨時労働者、小企業の労働者などが適用除外となる場合がある。保険料は、使用者が全額負担するものがほとんどであり、保険額は業種によって異なるが、賃金の2.3パーセントである。保険給付には、職業上の傷病の治療費、休業補償、障害補償、遺族補償などがある。Workers'Compensationプログラムにより、1988年には、約30.8 billionドルが治療費、休業補償、遺族補償などに支払われ、企業はこのプログラムに約43 billionドルを拠出した。このプログラムにより全国の約91.3 millionの労働者が保護されている。この中には連邦プログラムのLongsoremen and Harbor(港湾労働者)Workers' Compensation ActFederal Balack Lung benefitプログラムの人数も含まれる。

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8-2. 年金

アメリカの年金制度は、公的年金と私的年金から構成されている。公的年金は国や地方自治体などが運営する年金を指し、私的年金はそれ以外の年金で、企業が運営する企業年金と個人が加入する個人年金を指す。

公的年金

公的年金制度は、公務員、鉄道職員などを対象とする個別制度と、老齢・遺族・障害者年金とよばれる一般的制度に大別される。一般的制度は、社会保障制度(Old-Age, Survivors, Disabled, Health Insurance: OASDHI)と呼ばれ、財源は社会保障税(Social Security Tax)である。社会保障税(12.4パーセント)は、企業と労働者が折半し、賃金の6.2パーセントをそれぞれ負担することが義務づけられており、自営業者の場合は全額本人が負担する。公的老齢年金は、原則65歳から満額支給されるが(2022年までに段階的に67歳に引き上げられる)、希望により62歳から減額受給することが可能である。また、被扶養者(配偶者・子・孫)には、原則として基本年金額の50パーセントが支給される(ただし、家族給付上限規制がある)。

公的年金制度の改正

2000年4月に成立した高齢者の働く自由法(Senior Citizens' Freedom to Work Act)により、これまで所得限度額を超える年金以外の所得がある場合には減額されていた老齢年金について、支給開始年齢(現行65歳)を超える受給者については、年金以外の所得にかかわらず満額の年金が支給されることとなった。

企業年金

企業による従業員のための年金・財産形成制度は、確定給付型と確定拠出型に大きく分けられる。

Defined benefit plan (確定給付型年金):

労働者が受ける給付があらかじめ定式化されており、基金の運用や物価の動向による変動のリスクは企業側が負う。

Defined contribution plan (確定拠出型年金):

企業の負担があらかじめ定められており、労働者が実際に受け取る利益は、その期間中の収益率によって異なる。確定拠出型年金には、貯蓄奨励制度、利益分配制度、ストック・オプション、従業員持ち株制度(ESOP)などがあり、このうち税法401条k項の要件を満たしたものは、一般に401kプランと呼ばれ、税制上の優遇措置が設けられている。

従業員退職所得保障法(Employee Retirement Income Security Act: ERISA)

加入者および受給者を保護する観点から、企業年金がその設立、運営および終了に当たって充足すべき基準を規定している。これにより、確定給付型制度を提供する企業年金が支払い不能となった場合、政府機関である年金給付保障公社(Pension Benefit Guarantee Corporation: PBGC)により、一定限度の給付が保障されている。この法律が制定された1974年にはDefined benefit planがほとんどで、Defined contribution planの401(k)などは存在しなかったが、30年後の今日では401(K) Planが支配的である。

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8-3. 健康保険

アメリカには日本のような国民皆保険制度が存在せず、公的な健康保険制度は65歳以上を対象にしたメディケア(Medicare)と、低所得者を対象とした医療扶助制度であるメディケイド(Medicaid)に限られる。そのため、アメリカにおいて健康保険は従業員に対する重要な福利厚生施策の1つである。この場合の健康保険は、日本のように、健康保険に加入した従業員に対して企業が一定率の拠出を行うのではなく、会社の規模、福利厚生の充実度、従業員のポストなどにより補助率が異なっている。医療保険で企業が負担する保険料は平均して給与の1割を占めており、どの健康保険制度に加入するかによって企業の負担するコストが異なる。健康保険には主に次の3タイプがある。これら3タイプの保険制度のうち、現在はPPOとHMOを合わせて、全体の6~7割近くを占めている。

補償型 (fee-for-service)

患者は医療費をいったん立て替え払いした後、保険会社に請求する。後日、保険会社が一定額を控除し、残りを受益者に送金する。患者がどこの医療機関に行っても、基本的には保険の対象となるため、3タイプのなかで最も保険料が高い。

PPO (Preferred Provider Organization: 優先供給者組織)

患者は決められたネットワークに加盟している医療機関で診療を受ける。ネットワーク以外の医師も利用可能だが、その場合は患者の自己負担額が増大する。保険料は、補償型とHMOの中間になる。

HMO (Health Maintenance Organization: 健康維持組織)

患者は登録された医療機関でしか診療を受けられない。企業の負担する保険料は最も安い。

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8-4. 失業保険

Unemployment insuranceは、1935年のSocial Security Act (社会保障法)により、連邦の定めた基準下で各州がそれぞれ独自に制度を運営する。保険料は、連邦失業保険税と州失業保険とからなる。アラスカなどの3州を除き、保険料は事業主がすべて負担する。課税算定基礎は、各労働者に支払う賃金額(年間7000ドルまで)の6.2パーセントを連邦税として課される。ただし、州失業保険税を支払った者については、そのうちの5.4パーセントが控除されるため、現在の実質的な税率は0.8パーセントである。失業給付額は、一般に本人の週給額の50パーセント程度に定められており、給付期間は最長26週とする州が多い。受給資格の要件は、過去1年間に一定期間以上にわたって雇用され、一定額以上の賃金が支払われたことである。この保険により失職者(本人に責任のない失業)に対して金銭が支払われる。ほとんどの州が州法により26週間の支払い期間を設けている。

合衆国財務省の超過資金8 billionドルがTemporary Extended Unemployment Compensation Act of 2002により支出可能になり、いくつかの州では職業教育(求職活動向上のためのソフトウェア、企業の人材要求の把握)、技術向上(失業保険税などをコントロールする新しいコンピューターシステム)やサービス向上(失業保険手続きアシスタントの向上)などのため失業保険信託資金の超過資金を使いはじめた。この資金を使うには州議会の承認が必要である。

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8-5. 外資政策

海外からの派遣者に関しての優遇措置はまずアメリカ滞在のためのビザがある。日本国籍の人が短期の商用や観光の目的で渡米する場合、有効なパスポート、往復または次の目的地までの航空券を所持し、アメリカでの滞在が90日未満であればビザは必要ではない。観光や商用で渡米する人がこのプログラムを利用する場合は、滞在期間を延長することや滞在資格を変更することはできない。

州・市町村レベルにおいては税制措置などの特別プログラムを実施しているところがある。Michigan州では、冬季の高速道路整備の約束などを自動車関連部品工場等に対して行い、ユーティリティコストと呼ばれる電気、ガス、水道代に関しての優遇、また従業員の選考・研修を行い、土地提供に対する優遇などを行っている。市町村によってはこのための事業所を作り、募集と情報提供を主に行っている。また、日本に誘致のための支社を作り情報提供と援助を行い、その上都道府県・市町村との国際交流事業を通じても個別企業の誘致の可能性を図っている。

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8-6. 参考資料

参考文献:

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  2. 中窪裕也(1995年). アメリカ労働法、弘文堂
  3. Business Week, Has the UAW Found a Better Road?, New York; July 15, 2002
  4. Blostin Allan P. (2003) Distribution of Retirement Income Benefits.Monthly Labor Review, April.p3-9.
  5. Cook, Mary F. (2001). The Complete Do-It-Yourself Human Resources Department, Paramus, NJ: Prentice Hall.
  6. Family and Medical Leave Policies and Practices of U.S. Establishments. (2000). Department of Labor.
  7. Hakim, Danny. (Nov.8, 2002). Changing of Guard at UAW, New York Times, New York.
  8. Hurst and Hudson (2000). National Assessment of Vocational Education.
  9. Houseman、Susan N. and Anne E. Polivka, The Implications of Flexible Staffing Arrangements for Department of Labor Statistics (June, 1998). Job Security, Working Paper 317, Office of Employment Research and Program Development, U.S. Department of Labor.
  10. Mayne, Eric, Industry Mourns Steve Yokich, Words Auto World, Detroit; Sep. 2002
  11. Nelson, William J. (1991). Workers' Compensation: Coverage, Benefits, and Costs, 1988. Social Security Bulletin、Vol. 54, No.3
  12. National Assessment of Vocational Education. (2002). U.S. Dept. of Education.
  13. National Center for Education Statistics (2003). Overview of Public Elementary and Secondary Schools and Districts: School Year 2001-02. U.S. Dept. of Education
  14. Unemployment Insurance (October 7, 2002). Employment & Training Reporter, Vol. 34. No.6.

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