基礎情報:アメリカ(2003年)
6. 労働行政

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

6-1. 主な雇用対策―職業紹介制度(公共紹介、民営紹介)

Bush合衆国大統領は2001年6月20日の「21世紀労働力サミット」において、「21世紀労働力オフィス」を開設し、「21世紀労働力会議」を開始することの大統領令を発令した。その目的は合衆国の労働者がダイナミックなグローバル経済でどのような職種を選ぶかに関わらずキャリア成功を遂げることができるための必要なツールを身につけさせることであると考えられた。これは、21世紀経済に適応すべく、産業の基本的改革がなされ、高度な複合技術と高等教育が必要であると考えられたことによる。労働省長官Elain L. Chaoは数々のプロジェクトや会議を以って大統領発令の実現を試みている。2003年度の労働省の雇用と研修管理部門が掲げる予算の大項目は次の通りである。

  • Training and Employment Services(TES)分散化学校教育、技術修得や関連した研修、等を実施し、研修プログラム修了者の雇用や収入を増やすことを目的とする。現在と未来の労働者、特に低所得者、失職・離職者、無職・無就職者、そして就職を望む雇用待機者を対象としている。
  • Community Service Employment for Older AmericansこのファンドはSenior Community Service Employment Program(SCSEP)の運用に充てられる。(Title V of the Older Americans Act Amendments of 2000法令による承認がある。)これは55歳以上の低所得者を対象にしたパートタイムの雇用プログラムである。
  • State Unemployment Insurance and Employment Service Operationsこのファンドは、新たな就職を探すまでの失職者・無職者、もしくは元の職場に戻る待機者に対する一時的な収入の援助である。雇用者と雇用希望者の要望がマッチするための援助も行い、雇用関連の連邦政府活動やFederal State Unemployment Insurance Programや、州政府運用のState One-Stop-Career Centerの連携ネットワークに充てられる。
  • Federal Unemployment Benefits and Allowances(FUBA)このファンドは、Trade Adjustment Assistance(TAA)貿易調整援助に充てられ、増大する輸入に逆影響を被った就労者に対し、保険給付金、研修、求職活動、または転居手当て等を支払うものである。北アメリカ大陸自由貿易条約(NAFTA)による諸国との貿易に影響を受けた労働者に対しても同上の給付金等を支払う。

労働省雇用と研修管理部局では、以下の個別プログラムを上記ファンドの運用にて、複合的に実施する。

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6-2. 雇用、収入、援助促進

WIA Adult Formula Grants:

Workforce Investment Act 1998によって興されたプログラム。One-Stop-Career Centerや成人プログラムが代表である。これは、当初全米10箇所に作られたセンターで、雇用、教育、研修サービスをまとめて行う施設である。JTPA、VETERANS, JOBS, 失業者保険、雇用サービス、職業リハビリ、成人教育等が行われる。雇用に関するリクルート、研修、採用のプロセスを、雇用者、非雇用者共に簡略化させるという狙いである。現在雇用されている者、元社会福祉金受給者、限定英語能力者などが顧客となる。

Welfare-to-Work

現存継続するファンドであるので2003年度には含まれていない。上記One-Stop-Career Centerに投入される。顧客が援助無しの職に継続的に雇用され、昇進可能性を保持できるよう確認する。

Wagner-Peyser Act(Employment Service/One-Stop-Career Centers) and America's Job Bank:

プログラムはLabor Exchange Program(労働交換プログラム)、再雇用サービス、就職情報提供、失業保険申請手続き等がある。地域の労働市場情報の周知、また、雇用者側の雇用希望者に求める具体的な技術、反対に雇用希望者が提供できる技術などを明らかにする援助をする。O*NETなどの職業言語の促進援助をする。America's Job Bankとはインターネットでの求人・応募システムである。

Apprenticeship Training, Employer and Labor Services

これは企業主体の研修プログラムで、Office of Apprenticeship Training, Employer and Labor Services (OATELS)が「(認証)全国アプレンティス(徒弟)システム」を23州で実施している。27州およびDC,プエルトリコ、ヴァージンアイランドでは、州政府と連邦政府連携で州政府に認定権限を与えている。調査と研究がおこなわれ、アプレンティスシステム開発を行い、研修等を行う。

その他

Work Incentive Grantsのプログラムで心身障害者に対してのOne-Stop-Career Centersを完備する。州政府および地域社会での労働投資プログラムを他の組織との協力で実行する。ETA労働省雇用および研修管理部局は技術補助や法令に関する会議を開催する。

アメリカ原住民プログラムに登録している成人に対してプログラム終了後の雇用を促進する。友人を通しての援助プログラムである。

高齢者コミュニティーサービス雇用プログラムに参加している高齢者に対し、継続・無補助の雇用を促進する。ハンドブックやTAGなどを通して技術的な援助を行い、遠隔訓練をコンピューターにより行う。これもOne-Stop-Career Centersの一部である。

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6-3. 若者のキャリアへの転換を成功させるためのプログラム

Youth Formula Grants

高校卒業後の若者就職支援ファンドで、14歳から18歳の高校卒業資格または同等の資格をもたないもの、19歳から21歳のコーホート、の就職と雇用継続を目的としたものである。地域の雇用と研修管理部局が技術アシスタンスの行事活動(会議など)をし、地域と若者の団体に高等学校卒業およびGED取得に繋がる雇用投資システムを強調する。コンピューターホームページでベストの方法をデータベースで公表している。「ユースサミット」開催でフォーカスグループを作り、方法周知とする。

Job Corps

高等学校卒業認定プログラムで、全国に122センターが存在し、本年度開講センターもある。職業斡旋や研修、高等学校卒業のためのプログラムを提供し、チャータースクールなどの開講をしたり、オンラインで実際の高等学校との連携を図る。

Youth Opportunity Grants

低所得者層地域での中途退学、大学入学、就職、に対しての対策に費やされる。全米6つの貧困地域に対してこの援助が行われる。地域社会の若者団体(youth councils)を通してフォーカスグループを作り、若者からの活動提案を基に問題解決にあたる。

アメリカ原住民若者支援プログラム:

保留地区に住む原住民とアラスカ原住民地区に住む人を対象のものである。友人関係(peer-to-peer)技術アシスタンスや、研修等を行う。

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6-4. 失業保障プログラム

保険支払いに関するプログラム支援である。

外国人労働者に対する労働認定プログラムである。ここではコンピューターとFAXによるH-1B登録者の検定促進を行う。Trade Adjustment Assistance(TAA)(前出)は輸入のために逆に影響を被った者に、またNAFTA条約による被害者に対しても補償を行う。

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6-5. 再教育のためのプログラム

失職・離職した労働者に対する活動でOne-Stop-Career Centers、インターネット、企業や地域、宗教団体などのサービスを通して、
1) 失職・無職者へのアウトリーチ援助(外部団体の援助リスト作成や、照会サービス)、
2) インターネット、電話、他の複合技術によるサービスへのアクセス向上。

それらを、会議開催、企業とのコミュニケーション、州政府労働投資審議会などと連携し、
1) 地域で必要とされている技術を地域で養成できているものであるか調べ、
2) 研修をすることのできる認可された団体のリスト作り、
3) 失職・無職者に対する研修、
4) 急速対応アシスタンス、
5) 雇用者に対しての認識(WARNAct)、
6) 具体的なジョブサーチ、そのためのワークショップ、カウンセリング、また適当な職務への照会、
などが行われる。

Trade Adjustment Assistance/NAFTA-TAA Trainingでは輸入により逆に影響を被った労働者のための求職活動、および転居費用を拠出する。また、研修、求職活動、転居費用もNAFTA条約に影響を受けたと見られる労働者に拠出する。州政府のこれら研修に関する管理資金もこれに含まれる。

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6-6. 能力開発(公共職業訓練制度、能力開発補助制度)

アメリカ合衆国では、1998年Carl D. Perkins職業・技術教育法令、その前身であるSmith-Hughes法令(1917年)を基に、職業教育に関する法令施行が行われた。ことにプログラム実施に関して、「学校から就労への機会法令1994年(School-to-Work Opportunities Act of 1994)」 がそのベンチャー資金提供となり多くのプログラムを実施させた。合衆国教育省の予算のうち、2002年では2.5パーセント近い配分が職業教育に費やされている。

中学・高校においての学生のための職業意識の向上の啓発活動、職場体験、資格取得のための取り組みには、職業・技術の専門学校、一般公立学校の中での職業教育クラスや独立した職業教育施設がある。アメリカ合衆国には総数94112校の公立小学校、中学校(8年生まで)があり、そのうち職業専門教育を行っている学校は1023校である。そのうち生徒の在籍があるものは328校(同上、p1)である(すなわち、多くの場合、一般公立校から生徒が職業・技術専門の授業開講をする建物に通学移動をする形式をとるため、職業・技術専門校には在籍生徒はいない。)職業・技術クラスの内容は、キャリア教育、初歩的技術または作業員のための教育や研修を含む。

公立高等学校のほぼ66パーセントにあたる11000校が職業・技術教育を行っている。一般高等学校課程9450校の他に1800校の職業高等学校がある。職業高等学校には2種類存在し、一般科目と共に職業教育科目の履修を可能とする高等学校と、地域の職業学校や職業教育センターで、そこでは職業教育科目のみの履修が可能であり、一般高等教育科目は在籍登録をする生徒のホームの学校で履修する、という形をとる。職業教育の多くは前者のタイプの高等学校にて履修される。

高等学校における職業教育には以下の3プログラムなども含まれる。

キャリアアカデミー:
1970年代に高等学校中途退学者になると見られる「アットリスク学生」を対象に始まり、現在では広いキャリアテーマに関して2年から4年間シリーズの職業教育と大学予備学習教育を「高等学校内の学校」として実施している。契約している一般企業での就業体験、研修旅行、キャリアに関するアサインメントをこなす。全国的には2000から2500種類に上るキャリアアカデミーと呼ばれるプロジェクトが行われている。
ユースアプレンティス(徒弟)制度:
複数年間に渡る職業と一般教育に実際の実習経験を重ねたものである。この際の実習は入門レベルであり、高等学校卒業後の就職に連携することを目的とし、限定された特別の職業に限り実施される。1996年には5校のうち1校でこのユースアプレンティス制度が実施されている。
テクプレッププログラム:
高等学校の最後の2年間とコミュニティーカレッジ(短期大学)の2年間に渡る4年間を技術キャリアに進むための職業教育とアカデミック教育のコースに費やすというものである。この原案は殆ど実施されず、実際はコミュニティーカレッジでの履修を高等学校での履修単位として認める形になっている。

こうした職業訓練修了者に対し、修了証明書または資格が出される。たとえば、Information Technologyの修了書をHigh-tech Cisco Academies, Microsoft A+, Novellから、自動車整備資格をNational Institute for Automotive Service Excellenceから取得できるプログラムがある。(このような産業技術資格プログラムの修了者の数はコミュニティーカレッジ以外では、Microsoft Certified Systems Engineer(MCSE)は1997年から2000年までに3万5000人から28万人以上に増加した。

高等学校以降の教育は主にコミュニティーカレッジ(短期大学)と一般大学に分けることができる。特にコミュニティーカレッジは、The Perkins Act法令で指定されたバッカロレエイト学位授与機構以前にて一般アカデミック教育と技術教育を提供するという条件に添う機構であり、The Perkins Actの資金の40パーセントが注がれている。コミュニティーカレッジはこの資金で、学位プログラム、修了証書プログラム、職業関連科目、無単位コース、また契約による研修を注文作成する。コミュニティーカレッジでは職業短期大学の学位(associate of arts(AA), associate of science(AS), associate of applied science(AAS)を与え、一般アカデミック単位も含め60単位程度の履修とされる。通常2年間以上の履修となる。修了資格を授与するプログラムは種種雑多で、修学期間も一定していない。大抵がフルタイムの学習で24単位から30単位、一年間の受講で職業技術の向上を目指す。

コミュニティーカレッジでは上記のほかに、私企業の発行する産業技術テストに合格するための準備クラスがある。なお、コミュニティーカレッジの職業教育受講者(33.6パーセント)はその後、学士号取得のために4年制大学への編入をすると考えられている。

一般大学での就職支援は主に大学組織内のキャリアプレースメントセンターにおいてなされる。ここでは、1)就職希望者の能力、技術等を測り適正を調べ、2)企業の募集広告が提供され、3)履歴書作成などのアシスタントが得られ、4)履歴書、推薦書をファイリングし、5)企業からの人事担当者の希望により閲覧させ、6)面接のための施設を提供する。キャンパス内の夏期間のアルバイトなどもここで扱うことが多い。キャリアカウンセラーが常駐し、適正テストや求職活動に関するアドバイスが必要に応じて提供される。図書室があり、求職、履歴書作成、カバーレターの書き方、面接の効果的な受け方などのワークショップ、履歴書批評、面接のビデオでの練習、ジョブフェアなどが行われる。

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6-7. 雇用平等(性、年齢、障害、人種、宗教)

Equal Employment Opportunity(EEO) lawsは、特定の職場での雇用における差別を禁止したものである。このEEO lawsは6つの制定法から成り立っている。

  1. Title VII of the Civil Rights Act of 1964 (Title VII) —人種、肌の色、宗教、性、および出身国による雇用上の差別を禁止している。
  2. Equal Pay Act of 1963(EPA) —同じ企業で、実質的に同等の仕事を行う男女に対して、性による賃金差別を禁止している。
  3. Age Discrimination in Employment Act of 1967(ADEA) —40歳以上の個人に対する雇用における年齢差別を禁止している。
  4. Title I and Title V of the Americans with Disabilities Act of 1990(ADA) —私企業、州政府、市町村政府機関において、資格を持つ障害者に対する雇用差別を禁止している。
  5. Sections 501 and 505 of the Rehabilitation Act of 1973 —連邦政府機関において、資格を持つ障害者に対する差別を禁止している。
  6. Civil Rights Act of 1991 —雇用差別に対し金銭により損害を補償するものである。

Equal Employment Opportunity Commissionは独立した連邦政府機関であり、上記の法律の行政、司法監督および教育、技術的援助の任務を負っている。なお、EEOCの監督下ではない差別禁止法で、連邦政府機関への雇用応募者、雇用者に対するものもCivil Service Reform Act of 1978(CSRA)がある。CSRA は、人事にかかわる権限を持つものが、人種、肌の色、出身国、宗教、性別、年齢また障害により雇用応募者や雇用者を差別することを禁じている。また、その個人の職務遂行になんら影響をもたらすとは考えられない個人の特徴や行為(婚姻状態や政治活動など)に基づく特定の人事決定を禁止している。さらにOffice of Personnel Management(OPM)は差別禁止条項の解釈に、個人の性的選択に関する差別も含んでいる。CSRAはこのほか、連邦政府機関労働者および応募者が、ホイッスルブロア(警笛)、苦情、補償の権利を要求する際に受ける報復行為を禁止している。CSRAはOffice of Special CounselおよびMerit Systems Protection Boardによって運用されている。職場にはEEOCのポスター掲示が義務付けられている。

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6-8. 女性・若年者・高齢者・障害者・外国人・労働力移出対策

雇用に関するこれらのグループへの支援策は、上記それぞれを参照されたい。女性に関しては、労働省長官Elain L. Chaoの主導のもと、2003年には数多くの女性をはじめとするプロジェクトが実行された。特に女性企業家向けの会議やプロジェクト、女性のためのイベント、財務管理能力開発のための催し物、健康、労働省の新企画(Compliance Assistance)、そして、大統領令11246(雇用差別禁止令)の監督、女性の軍事退職者やその家族へのサポートプログラム、E-initiatives for Women情報伝播など、47の大規模なプロジェクト等を興した。

外国人の施策に関しては、Immigration and Nationality Act(INA)が、外国人労働者の合衆国入国および活動に関して規制している。合衆国政府の方針は、その外国人が雇用を望む職に対して、広範に採択されている額およびそれ以上の賃金で働くことを望む資格のあるアメリカ人労働者の数が充分でないことが証明された場合に限り、労働許可が外国人に対して発行されるポリシーである。基本的に、合衆国経済(に利益をもたらす経済活動)における職に対して、一時的もしくは永久に外国人を雇用することを許可するという外国人就労許可プログラムである。外国人に対する許可が、逆にアメリカ人の就労に影響を及ぼさない場合に限り、就労が許可される。なお、外国人就労許可に関しては以下の4つの政府部局が関わっている。Federal Department of Labor, State Department of Labor, U.S. Citizenship and Immigration Services(CIC), Department of State.また、就労ビザの種類には6種類あり、H-1B(専門職またはファッションモデル)、H-1C(看護師)、H-2A(季節農業従事者)、H-2B(農業を除く一時労働者)、D-1(報道関係者)そして、永久就労許可者の分類がある。

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6-9. 安全衛生(使用者の義務)

2004年1月Bush大統領はSafety, Health and Return-to-Employment(SHARE)という名称のプログラムを出し、連邦政府が主体となり、3つの分野に関してのゴール設定をし、モニターをすることを開始した。
1) 職場における怪我や疾病率の低下、
2) 疾病による職場復帰までの時間、または死亡による時間的損害のケース率の低下、
3) 怪我や疾病の迅速な報告、
4) 怪我や病気により生産が行われなかった日数の減少
を目指した。それぞれに具体的数値が出された。これらの実行に際し、Office of Workers' Compensation Programsはインターネット上で労災補償の手続きに関して、また現場での必要な情報の提供、そして復帰のための情報を提供している。怪我、疾病の際の報告書もAgency Query System(AQS)によりオンラインで行えるようにしている。企業が個別にどのようなゴールを設定すべきかの相談に応じられる体制を作っている。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:アメリカ」