基礎情報:アメリカ(2003年)
1. 概況

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

1-1 基礎データ

国名:
アメリカ合衆国 (United States of America)
人口:
2億8,875万人 (2002年12月)
経済成長率:
3.1% (2003年)
GDP:
10兆9,839億ドル (名目、2003年)
一人あたりGDP:
3万6,509ドル (名目、2002年第3四半期)
労働力人口:
1億4,241万人 (2002年11月、季節調整なし)
失業率:
5.6% (2004年2月)
日本の直接投資額:
16兆2,571億円 (対世界に占めるシェア:44.6%、2002年)
日本の直接投資件数:
205件 (2001年度)
在留邦人数:
31万5,976人 (2002年10月1日、50州)

資料出所:外務省新しいウィンドウ

1-2 2003年度の主な動き

2003年度のアメリカの労働関係には、大きな動きは見られなかった。特筆すべき事柄については、次の3点が挙げられよう。

まず2003年の労使交渉では、高騰する医療費に対し、労使がどのように負担するかが焦点となった。従業員や退職者に医療負担の引き上げを求める企業が増加し、具体的には、これまで医療費を全額使用者負担としていたノースウエスト航空が2003年1月1日より従業員に医療プラン運営費用の2割負担を求め、化学大手のデュポン社では2003年に入り、従業員が支払う保険料を13%引き上げ、65歳以上の退職者が支払う保険料を135%引き上げた。2003年後半には、自動車大手3社の協約交渉でも同じく医療保障が大きな争点となった。しかしここでは、賃金の引き上げ率や対象者への毎月年金額の引き上げ幅の減少などの点で組合側が譲歩したものの、その他についてはほぼ前回の協約水準をかろうじて確保した結果に終わった。また、そもそも時給従業員を多数雇い、従業員の医療保険や年金を基本的に負担しようとしない企業が増加し、ウォルマートのように急成長する企業が出現した。ウォルマートとの競争に対抗するため、南カリフォルニア3社のスーパーマーケット使用者が、2003年10月の労使交渉で従業員の医療保険負担の増加を求めたところ、5カ月に及ぶ長期ストライキへと発展した。結局、労働組合側の大幅な譲歩による従業員の医療保険負担の増加という結果に終わったが、新協約の締結にあたり、従来の従業員と新規に雇用された従業員との間に医療保険負担や処遇格差が生じる2段階方式が取られ、新たな協約パターンが設定された。いずれにしても2003年の労使交渉は、厳しい経営環境の中で退職者や従業員の医療保険負担の引き上げやリストラ、ストック・オプションの見直しなどを焦点とする、労働者にとって例年に増して厳しいものであった。この背景には、労働組合組織率の長期的な低下による交渉力の弱体化が一因となっている。産業構造の変化により、製造業分野の組合員数の大幅な低下をはじめ、全体的に組織率は、長期的な低下傾向にあり、2003年もその傾向は変わっていない。また組織率の低下ばかりではなく、労働組合は、様々な形で劣性を強いられている。2003年は、経済の低迷によって多くの企業が業績不振に陥り、航空業界や鉄鋼業界は、ワークルールの変更を含む労働条件の大幅な引き下げの実施、あるいは検討を迫られた。

2003年度の主要な動向の2点目は、政府が運営する公的医療保険制度(メディケア)が、1965年の制度発足以来、38年ぶりに大改革されたことである。この制度改革の背景には、企業の医療保険と同様、制度運用負担の急増による政府対応の要請がある。主な改革の内容は、これまで原則として保険適用外であった処方箋薬代を新たに保険適用の範囲として拡大し、民間医療保険会社の参入を促し、市場競争力の強化を目指している。また管理医療(マネージド・ケア)を導入して医療の効率化を行い、プラン選択の幅を拡大させることによって受給者のコスト意識の向上を図った。このように最終的には、医療保険の財政支出を抑制することを狙いとしているが、改革にかかる国債投入額は、今後10間で少なくとも約4000億ドルと見積もられており、アメリカの財政赤字にとってかなりの重荷となる。今後は、現役労働者の負担増加も予想され、関係者の懸念の声が高い。

2003年の主要問題の3点目は、経済や生産性の伸長と対照的な雇用回復の遅れである。2003年11月にアメリカ商務省が発表した7~9月の実質国内総生産(GDP)は、前期比で8.2%(年率)増加した。またアメリカ労働省が2003年12月に発表した7~9月の非農業部門の労働生産性は、前の四半期と比較して9.4%(年率)上昇し、20年ぶりの高い伸び率となっている。これに対し、2003年11月の失業率は、5.9%であり、2003年を通じて6%で高止まりが続き、雇用の回復の遅れが顕著な結果となった。この雇用なき回復(ジョブレスリカバリー)対策として、アメリカ政府は、雇用創出のための様々な方針を打ち出している。主な内容は、失業率上昇の歯止め策として、経済を刺激する効果を目的とする減税案を長期に渡り実行し、更に労働力の強化と保護を図るため雇用訓練プログラムや教育分野の再構築を図った。加えて、失業保険プログラムの見直しも実施した。また1999年から2002年までの過去3年間に内務、司法、労働、教育など9の省庁によって実施された44の職業訓練プログラムに対する費用対効果を評価した報告書を作成し、それをもとに2003年度は、このうち貧困家庭の為の職業訓練援助プログラムの予算措置の大幅拡大を実施するなどの対応を行った。

このほか2003年は、雇用の流動化とともに雇用のグローバル化がますます促進した。製造業部門の雇用の海外流出に加え、新たな特徴としては、証券アナリストやソフトのプログラマーなど中級階級以上のホワイトカラーの仕事の移行が急速に進み(委託先は、主にインドなどの途上国)、国内の雇用の空洞化が問題となった。例を挙げるとアメリカの病院で昼間撮影したCTスキャンの画像を、夜間インドに送って分析を行い、翌日の朝までに分析結果がアメリカ国内の病院に届いているというような仕事の流れが主流になりつつあり、雇用なき回復への影響が顕著となった。こうした現状を背景として、労働市場の再構築やより高い労働者のコミットメントを引き出す雇用システムの構築が進んだ。雇用システムの再構築がすすんだ結果、アメリカの7割近くの労働者は、仕事を変えることは自分たちの意思で行うものと考えている。また、仕事を1年から2年で変えることはキャリア形成に悪影響を与えると考えている労働者は、1999年時点で62%だったが、2003年時点では、47%に減少した。また、1つの企業内で3年から5年で仕事を変えたいと考えている労働者は1999年の26%から2003年には半数近い45%に増加した。その他、キャリアで最も重要なのは、「成功と昇進」とした労働者は35%しかおらず、86%の労働者は、「仕事の達成と家庭とのバランス」が重要であるとしている。また、96%の労働者は、フレックスタイム、仕事の分担、または在宅勤務などにより家族とのかかわり合いを考慮する企業に魅力を感じている。このようにここ数年間で労働者の意識は大きく変化しており、それに伴い、労使の取り組み課題も変化している。企業は、新しい労働の価値観をもった労働者の採用、維持、動機づけをするために、従来の人事労務や賃金システムでは対応できず、労働者をひきつけるためには、賃金だけでなく、いろいろ変化に富んだ仕事の付与、慎重なチーム編成、市場で通用する技術トレーニング、チャレンジングな仕事の付与、仕事と私生活の関係に配慮する等の様々な努力を要求されている。

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1-3 労働関連行政機関

合衆国労働省が制定し、執行する連邦法は180以上に上る。これらは行政義務のものであり、1000万人の雇用者、1億2500万人の労働者の労働状況を規制するものである。以下のリストが主に参考に利用される法規制等である。

Title VII (公民権法第7章) にかかわる雇用差別および雇用平等促進は「Equal Employment Opportunity Commission (EEOC)」が、また、The Taft-Hartley Act制定法などを含む問題など広く労使関係を扱う委員会は「National Labor Relations Board (NLRB)」があり、労働省から独立した組織になっている。その他、労働問題を扱う独立した委員会にはNational Mediation Board (NMB)「国立仲裁委員会」がある。

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