基礎情報:アメリカ(2003年)
7. 労働法制の概要

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

7-1. 労働条件法(労働基準法、安全衛生法等)

Fair Laobr Standard Act(FLSA):

FLSAは1938年に制定され、最低賃金や労働条件(最低賃金、時間外労働手当て、年少者の労働など)を規定する。この法律はブルーカラー職に適用され、管理職(週155ドル以上の給料で管理が主な仕事)、専門職(週170ドル以上の給料で、仕事に教育機関などが証明する専門知識が必要)などのホワイトカラー、または外部セールス員などの職に就く者にはこの法律は適用されない。救済方法は、未払い給料の支払い、損害賠償、弁護費用、裁判費用、10000ドルの罰金、そして禁固刑もある(賃金の項参照)。2003の3月労働省はFLSAのホワイトカラーexempt(免除)規定項目の見直しを発表した。この見直しには、ホワイトカラーと規定する条件の一つである週給の引き上げ(週給を425ドルに引き上げる)やduties(職務)規定の変更などが含まれる。職務規定は管理職や専門職などの分類をし、最低賃金や時間外労働手当が免除されているかどうかを決定するもので、この見直しによりホワイトカラー免除規定である「仕事の20パーセント以下がnon-exempt work(非免除の仕事)」という表現が削除されることになるが、議会で否決され、見直しの実施には至っていない。

Occupational Safety and Health Act(OSHA):

この法律は1970年に制定され、安全で衛生的な職場環境を提供し、ケガをしたり、健康を害するような危険な仕事状況、仕事方法、材料・原料、物質などからの保護を目的とする。企業はOSHA基準の理解を求められ、社員に対しOSHA基準に関する情報の提供や通知の義務があり、職場の安全や衛生基準を満たしているかを点検し、危険物の撤去や保護、そして職業上のケガや病気を記録し報告する義務を負う。公企業や社員が10人またはそれ以下の企業またはStandard Industrial Classification(SIC)の分類に属する企業(SIC: 55-67、72-73、78、81-84、86、88-89など)はOSHAの義務から免除されるが、OSHA連邦法で免除されても州法が適用される可能性は十分ある。

アメリカでも家庭内暴力が問題となり、最近企業は家庭内暴力を防止・予防に関するポリシーやプログラムの作成を促進しており、多くの企業で少なくとも現在ある職場内暴力防止・予防プログラムに家庭内暴力を組み入れている。企業が採用している家庭内暴力予防・防止プログラムには
1) 家庭内暴力に関しての社員教育、
2) 職場の安全策の具体化や社員安全プログラムの作成援助、
3) 避難所や相談所の紹介、
4) 管理職や警備員の教育、
5) 活動制限や保護請求を得るための援助、
などがある。

Equal Pay Act:

1963年に制定された平等賃金法で、実質上同等な仕事をしている男女間の報酬を規定する。同一企業内の二つの仕事が、技術・熟練度、努力、責任、労働条件などの項目について実質上同等であるなら実質上同等な仕事として認められる。救済方法はFLSAと同じである。

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7-2. 雇用対策法(高齢者対策法、雇用均等法等)

Age Discrimination Employment Act(ADEA):

1975年のAge Discrimination Act of 1975は連邦政府から補助を受けているプログラムなどにおいて年齢による差別を禁止している。これはすべての年齢の人に適用されるが、年齢の差異や年齢以外の特定な使用は、この制定法要求に適合する限り、認められている。また1967年のAge Discrimination in Employment Actは、40歳以上の人や特定の応募者を雇用、昇進、解雇、補償、雇用任期、条件、また特別の権限などからの差別を禁止している。先任権、実質評価、その職にのみ必要とみられる特定の資格、そして根拠のある解雇などに基づく雇用上の決定はこの法律の適用から除外される。

Title VII、Equal Employment Act:

1972年の雇用均等法により修正された1967年の公民権法第7章で、個人の人種、膚の色、宗教、性別、または出身国などの理由による、採用、解雇、昇進、報酬、教育、任務(仕事の割り当て)、仕事上の取り扱い、または他の雇用条件や状態などにおける差別を禁止する。雇用差別の告発調査および違法行為に対する告訴はEqual Employment Opportunity Commission(EEOC、雇用平等委員会)が行い、出身国に関しての差別、宗教に関しての差別、性別に関する差別、雇用者選択手続き統一ガイドライン、職場での性的嫌がらせ、雇用差別と出産・妊娠に影響をおよぼす危険などの法律解釈に関するガイドラインもEEOCから発行されている。救済方法としては、その雇用差別はなかったものと仮定した、復職、未払い給料の支払い、および先任権の提供などによる"修復"(元の状態の補償)が含まれる。また、1991年制定の公民権法では、意図的な性的および宗教に基づく差別(および心身障害者保護法)による被害者は、保障的損害賠償と懲罰的損害賠償を請求できる。請求額の上限は社員が100人以下の企業に対しては5万ドル、社員が101人から200人の企業に対しては10万ドル、社員が201人から500人までの企業に対しては20万ドル、社員が500人以上の企業に対しては30万ドルである。

Americans with Disability Act:

1990年制定の心身障害者差別禁止法で、25人以上の社員を有する企業に対し、Rehabilitation Act(心身障害者職場復帰法、連邦政府と契約のある企業およびその下請け企業に適用される)により規定されている心身障害者に対する雇用差別を禁止するもので、
1) 身体的および精神的状態、および
2) 現実に知覚できる心身障害による雇用差別
より保護される。企業は職場に車椅子が入れるようにできるかどうかの雇用上の調整を試みることを要求され、調整が可能であるなら(企業の規模も考慮される)採用しなければならない。

Family and Medical Leave Act:

1993年制定の家族および医療休業法で企業は資格のある社員に対し、12カ月間に12週間までの家族および医療上の理由による無給の休暇を与えなければならない(福利厚生の項参照)。

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7-3. 雇用保障法

Employmnet at Will(使用者自由裁量)主義により、雇用関係を解消でき、このことは法律上なんの規定違反とはならないが、Just Cause(正当な理由)がない場合はこの限りではない。たとえば、解雇の理由が雇用均等法で禁止する性や人種などに基づく場合はこの限りではない。連邦法には雇用保障を実質的に規定するものがないので、多くの州の裁判所がEmployment at Willの適用を修正している。そのなかには
1) 雇用ポリシーに雇用保障が明記されている場合、
2) 企業が雇用保障を口頭や書面契約した場合や、企業の行為により社員が雇用保障があると信じている場合、
3) 法令に違反する行為を拒否した理由で社員が解雇された場合
などについては多くの州で給料の支払や再雇用を認めている。

労働コストの上昇に対応するため、企業は技術の導入やプロダクションの海外移転を図っているが、組合はこれに対し仕事や収入の保障条件の交渉や少なくとも企業の対応に対するルール(年功ルールで誰が最初に解雇されるかおよび企業の仕事の外注を規制するなど)の確立を図っている。しかし多くの場合、企業は雇用保障や収入保障には反対で、その理由として
1) 労働コストの上昇、
2) 経済状況に対処することの制限、
3) 管理者自由裁量を制限、
などをあげる。組合の交渉をする雇用保障にはワークシェアリングがあり、これにより不景気時に一時解雇より労働時間の縮小を図るもので、この条項は17パーセントの協約に見られ、ほとんどすべてのアパレル産業で見られる。また収入保障にはSupplemenal Unemployment Benefit(SUB)Garanteed Annual Wage Planがある。SUBは最初に自動車産業で交渉されたもので、1995年には14パーセントの協約でSUBがみられ、Wage Guaranteeは16パーセントの協約で提供されている。

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7-4. 労使関係法(労働組合法、労働争議調整法等)

National Labor Relation Act(NLRA):

NLRAは1935年に制定され、Wagner Actとも呼ばれる。NLRAにより労働者の団結権と組合加入権そして交渉権が保障された。またこの法律により、組合を組織するか否かの選挙プロセスが確立し、使用者が労働者の組合組織活動を妨害することなどの「不当労働行為」が禁止された。また、NLRAは労働者が交渉代理人を選択する手続きも確立した。NLRAは労働者の団結権と使用者の不当労働行為を規定し実施するためにNational Labor Relations Board(NLRB)を設立した。

NLRBの中心的な役割は、組合が労働者の代表になるかどうかの選挙を行うことと不当労働行為があったかどうかの判断を下すことである。NLRAは私企業の労働者を保護するが、連邦政府や州政府の職員にはこの法律は適用されない。しかしほとんどの州には州政府や地方政府に雇用される労働者の団結権などを保障する州法が存在し、Civil Service Reform Act (1978)が連邦政府職員に適用される。またこの法律はWorld BankInternational Monetary Fund(IMF)などの国際組織には適用されないが、外国の在米企業に対しては適用される。この法律による保護から除外されている労働者は
1) Supervisors
2) managerial employees
3) agricultural laborers
4) independent contractors
5) domestic servants
6) children or spouses of a sole proprietor (実質的株式を保有する経営者の子供または配偶者), 
7) confidential employees (労使関係に携わる管理職者を補助する者), 
8) employee of a "carrier" (鉄道会社や航空会社の労働者)
などである。

Labor Management Relation Act(LMRA):

1947年に制定されたこの法律はTaft-Hartley Actとして知られ、1935年制定したNLRAを修正したものである。労働者の権利をみとめたNLRAは労働者により好意的な法律であったので、労働者の権利と使用者の権利のバランスを取るためにTaft-Hartley Actは制定され、この法律により組合の不当労働行為が規定されることとなった。そしてこの法律によりclosed shop(組合員だけが雇用される)やautomatic check off(組合費の自動天引き)などが違法となった。このLMRAも1959年にLabor Management Reporting and Disclosure Act (Landrum-Griffin Act)により修正される。

Labor Management Reporting and Disclosure Act(LMRDA):

LMRDAは主に組合内部の問題(発言やミーティングの自由、組合内の選挙手続きや3年ごとの役員選挙の保障、組合費や組合役員についての報告や発表の要求など)を規定する。また、LMRDAはLMRAを修正し、労働争議時のいろいろのピケや二次的ボイコットを制限する。

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7-5. 労働福祉法(財形法等)

Employee Retirement Income Security Act(ERISA)

1974年制定の退職年金保障法は、社員のヘルスケア、病気・怪我保険や退職資産蓄財関連のベネフィットを規制する法律で、この法律により社員の年金資金運用の失敗を防ぐ。この法律は私企業の年金プランの資産の配分、適任性、運用上の責任やその他財産の融資、付与、管理などを規制し、企業に対し社員の健康・福利厚生プランや年金プランそしてそれらのプランの説明や報告書をDOL(労働省)に提出することを要求する。(賃金の項参照)

Pension Portability Act(PPA):

1992年制定の年金軽便法で、これは緊急失業保険ベネフィットを拡大したものである。この法律は、社員に退職金貯金を奨励するもので、年金に関する軽便が、
1) 一括払いの退職金を退職口座に移すことの許可、
2) 社員に彼らのベネフィットの一部の変更をすることの許可、
3) 社員に前もって一括払いの退職金を退職口座に移行すると税金上の利点があることの説明、
などにより図られる。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:アメリカ」