2000年 学界展望
労働経済学研究の現在─1997~99年の業績を通じて(1ページ目)


第1部 はじめに

玄田

労働経済学が一体どういう方向に向かっていて、どういう問題にチャレンジしているかを、経済学以外の労働研究者にもご理解いただけるような議論ができればと思っています。

今回取り上げる論文は、1996年10月から99年10月半ばまでに刊行されたもので、原則として、刊行されていて、一般に手に入る論文です。最近も多くの調査・報告がなされ、その中にすぐれた研究が多数ありますが、未公刊調査は今後の公表への期待も込め、対象には含めていません。

順番として、まずいくつか個別テーマを設定し、その研究動向を議論したいと思います。ミクロ的にもマクロ的にも多くの労働環境の変化があり、その背景や今後の動向を明らかにしてほしいという経済学への期待が高まっています。今回もリストにあるように多くの研究が出ていますが、われわれが一体どこまで期待にこたえているのかも率直に議論していただきたいと思います。

討論論文リスト

日本労働研究雑誌に掲載された論文は、当機構「論文データベース」で全文をご覧になれます。

1. 雇用システムと労働市場(阿部)

  • 櫻井宏二郎(1999)「偏向的技術進歩と日本製造業の雇用・賃金」『経済経営研究』日本開発銀行設備投資研究所、Vol.20-2
  • 玄田有史(1999)「雇用創出と雇用喪失」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  • 中馬宏之(1997)「経済環境の変化と中高年層の長勤続化」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  • 三谷直紀(1997)「高齢者就業と自営業」『企業内賃金構造と労働市場』勁草書房

2. 仕事と家庭(玄田)

  • 永瀬伸子(1997)「女性の就業選択─家庭内生産と労働供給」、中馬宏之・駿河輝和編『雇用慣行の変化と女性労働』東京大学出版会
  • Nakamura, Jiro and Atsuko Ueda(1999) “On the Determinants of Career Interruption by Childbirth among Married Women in Japan,” Journal of the Japanese and International Economies, Vol.13, No.1
  • 森田陽子・金子能宏(1998)「育児休業制度の普及と女性雇用者の勤続年数」『日本労働研究雑誌』No.459

3. 高齢者関係(川口)

  • 大橋勇雄(1998)「定年退職と年金制度の理論的分析」『日本労働研究雑誌』No.456
  • 小川浩(1998)「年金が高齢者の就業行動に与える影響について」『経済研究』Vol.49、No.3

4. 失業・転職・離職(川口)

  • 阿部正浩(1999)「企業ガバナンス構造と雇用削減意思決定─企業財務データを利用した実証分析」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  • 太田聰一(1999)「景気循環と転職行動:1965~94」、中村二朗・中村恵編『日本経済の構造調整と労働市場』日本評論社
  • 照山博司・戸田裕之(1997)「日本の景気循環における失業率変動の時系列分析」、浅子和美、大瀧雅之編『現代マクロ経済動学』東京大学出版会

5. 所得分配(玄田)

  • 川口章(1999)「コース選択と賃金選択─統計的差別は克服できるか」『日本労働研究雑誌』No.472
  • 堀春彦(1998)「男女間賃金格差の縮小傾向とその要因」『日本労働研究雑誌』No.456

6. 賃金・昇進制度・技能形成(三谷)

  • 馬駿(1997)「技能形成のためのインセンティブシステム─日本の電機企業M社の事例研究を通して」『日本労働研究雑誌』No.450
  • 中馬宏之(1999)「技能蓄積・伝承システムの経済分析」『日本労働研究雑誌』No.468

7. 政策・法の評価(三谷)

  • 中馬宏之(1998)「『解雇権濫用法理』の経済分析─雇用契約理論の視点から」、三輪芳朗・神田秀樹・柳川範之編『会社法の経済学』東京大学出版会
  • 大竹文雄(1999)「高失業率時代における雇用政策」『日本労働研究雑誌』No.466