調査シリーズNo.270
正社員・非正社員の中間区分と
非正社員から正社員への転換の実態
―「無期雇用労働者の待遇等に関する調査(企業調査・労働者調査)」
および
「雇用形態の転換の実態に関するインタビュー調査」より―
概要
研究の目的
- パートタイム・有期雇用労働法のいわゆる「5年後見直し」にあたり、労働契約法の2012年改正により導入された「無期転換ルール」に基づき無期雇用に転換した非正社員(特に、無期雇用フルタイム)の処遇、その後のキャリアの実態、意識等を把握するため、「無期雇用労働者の待遇等に関する調査(企業調査・労働者調査)」を実施した(厚生労働省雇用環境・均等局有期・短時間労働課および労働基準局労働関係法課からの要請)。
- 労働力不足(正社員不足)の進行が示唆され、また不本意非正規率が低下する中で、非正社員から正社員への転換の実態の最新状況を把握するため、「雇用形態の転換の実態に関するインタビュー調査」を実施した(プロジェクト研究)。
- 本調査シリーズは、上記2つの調査の結果を概観するとともに、それぞれについて若干の分析を加え、従来の正社員と非正社員を接続することが期待される中間区分の実態や、非正社員から正社員への転換の実態に関する知見を更新することを目的とする。
研究の方法
(1) 無期雇用労働者の待遇等に関する調査(企業調査・労働者調査)(以下、アンケート調査)
- 調査対象
- 全国の企業規模10人以上の企業15,000社およびそこで働く無期雇用労働者50,000人
- 調査方法
- 郵送配布、郵送・ウェブ回答
- 調査実施時期
- 2024年8月6日~9月24日
- 有効回収数
- 企業票3,944社(有効回収率26.3%)、労働者票8,154人(有効回収率16.3%)、企業・労働者のマッチングが可能な件数7,557件
(2) 雇用形態の転換の実態に関するインタビュー調査(以下、インタビュー調査)
- 調査対象
- 59歳以下の男女で、過去3年以内に非正社員から正社員への転換を経験し、調査時点で正社員として働いている方 20名。
- サンプリング・協力依頼
- 上記条件に該当者する方をインターネット・モニター会社を通じてリクルーティング。調査概要を説明した上でインタビューへの協力を依頼。
- 調査実施時期
- 2025年3月10日~3月23日
主な事実発見
(アンケート調査から)
- 正社員(「いわゆる正社員」+「多様な正社員」)を雇用している企業の割合は、産業や企業規模によって大きく異ならないが、多様な正社員や正社員以外の労働者を雇用している企業の割合は、大企業ほど高い傾向にあった。特に、勤務地限定正社員については、企業規模によって雇用している割合が大きく異なっていた。
- 企業に雇用区分ごとの人事管理等をたずねると、配置転換、転居を伴う転勤、教育訓練、賞与、退職金等に関しては、正社員が最も実施割合・適用割合が高く、次いで多様な正社員、無期雇用フルタイムおよび有期雇用フルタイム、無期雇用パートタイムおよび有期雇用パートタイムという順であった。昇進についても同様で、最も上限が高いのが正社員であり、次いで多様な正社員、無期雇用フルタイムおよび有期雇用フルタイム、無期雇用パートタイムおよび有期雇用パートタイムという順であった。
- 上記の「正社員」>「多様な正社員」>「正社員以外のフルタイム労働者」>「正社員以外のパートタイム労働者」という順序が当てはまらない例としては、残業義務、定期昇給等が挙げられる。具体的には、労働時間限定正社員には残業義務がない場合が多い、正社員以外の労働者の定期昇給に関しては、フルタイムとパートタイムの違いよりも無期雇用と有期雇用の違いが大きい、といった状況が確認できた。
- 有期雇用から正社員以外の無期雇用区分に転換した労働者が、さらに正社員に転換する仕組みがあるかを企業にたずねたところ、フルタイムでは、いわゆる正社員に転換する仕組みがある企業が69.5%、多様な正社員に転換する仕組みがある企業が14.4%であり、パートタイムでは、それぞれ56.9%、13.0%であった(図表1)。しかし、有期雇用から正社員以外の無期雇用区分に転換した労働者の活用方針として、「いずれ正社員として登用する可能性がある」と回答する企業は、フルタイムで2割強、パートタイムで1割強にとどまっていた(図表2)。有期雇用からの転換者をさらに正社員に転換する仕組みがあることは確かだが、それが有期雇用からの転換者の活用方針とまではなっていない企業が多いということになる。
図表1 有期雇用から無期雇用への転換者を正社員に転換する仕組みの有無(MA、%)

注:正社員以外の無期雇用労働者の中に有期雇用からの転換により無期雇用になった労働者がいる企業のみ回答。
図表2 有期雇用から無期雇用への転換者の活用方針(MA、%)

注:正社員以外の無期雇用労働者の中に有期雇用からの転換により無期雇用になった労働者がいる企業のみ回答。
- 無期雇用労働者の時間あたり賃金(所定内)をみると、中央値が高い順に、いわゆる正社員、職務限定正社員、勤務地限定正社員、労働時間限定正社員、無期雇用フルタイム、無期雇用パートタイムであった。また、正社員の中をみると、「入社時は有期」の方が賃金は低かったが、無期雇用フルタイム、無期雇用パートタイムの中ではそのような傾向はみられなかった。
- いわゆる正社員、多様な正社員においては、雇用形態・働き方の転換を希望している者は少数派であった。他方、正社員以外の無期雇用労働者においては、無期雇用フルタイム、特に「入社時は有期」の無期雇用フルタイムにおいて正社員への転換を希望している者の割合が高かった。正社員以外の労働者として働いている理由、仕事や生活への満足度、キャリア希望を総合すると、「無期転換ルール」によるフルタイムの転換者の中に、不本意な理由で正社員以外の労働者となり、仕事や生活への満足度が低く、正社員への転換を希望する者が多く含まれている可能性がある。
- 正社員以外の無期雇用労働者が正社員への転換を希望するという時に、いわゆる正社員よりも、多様な正社員を希望する者が多かった。特に、「入社時は有期」の無期雇用フルタイムにおいては、全体の2割以上が多様な正社員への転換を希望していた。
(インタビュー調査から)
- インタビュー調査対象者(=正社員転換者20名)には、家事・育児・介護等の事情で非正社員であったが、家庭事情の変化により正社員となった女性が多く含まれていた。人手不足や、女性の活躍を推進する政策が導入される中で、かつてであればパートタイムでの就業を続けていたであろう女性が、正社員に転換するケースが増えている可能性がある。また、人手不足が関係してか、勤務先からの打診や(もともと正社員を希望していた者の)転職成功等、需要側の状況変化によって正社員転換したと考えられる対象者も少なくなかった。
- 正社員転換者の多くが年収の増加を経験していた。なかには、転換前もフルタイムで就業していたにもかかわらず、年収が200万円以上増加しているケースもあった。このことは、正社員転換が賃金の改善を伴う場合が多いことを示すとともに、昨今においても正社員と非正社員の賃金の違いが大きいことを示している。
- 200万円以上の大幅な年収増加を経験している4件は、いずれも転職による転換であった。他方、年収が減少している2件も転職による転換であった。
- 転換後の仕事満足度が非常に高かった3件は、いずれも大企業セクターにおける社内転換であった。同じ企業で同じ職種を続けることが多いため、年収が大幅に増加することは少ないが、もともと勤務先やそこでの仕事内容を好んでおり、職場の人間関係等においても問題が少ないからこそ転換するため、転換後の仕事にも大いに満足できている、と理解することができる。
- 正社員転換先で勤続してキャリアアップを希望しているケースには、正社員転換を通じて本人が転換先で自信と責任感を強めていたり、信頼を得たりしているという共通点があった。
- 正社員転換者20名のうち、労働契約法に基づく無期転換がステップとなって正社員に転換したのが1名であるのに対し、勤務地限定正社員に転換したのが4名であった。これら4名については、勤務地限定正社員区分があることにより、正社員転換が容易になったり、定着が可能になったりしていると考えられる。
政策的インプリケーション
従来の正社員と非正社員を接続することが期待される中間区分の実態や、非正社員から正社員への転換の実態等に関して、今後の政策立案に資する知見をまとめると、次のようになる。
第1に、公的統計の概観により、2018年以降に無期転換が増加していること、女性において正社員が増加し有期雇用の非正社員が減少していること、女性や50代において無期雇用の非正社員が増加していることが確認された。
第2に、アンケート調査から、職務・勤務地・労働時間に限定のない「いわゆる正社員」、それらに何らかの限定がある「多様な正社員」、非正社員の人事管理等についてみると、配置転換、転居を伴う転勤、教育訓練、賞与、退職金等の多くの項目において、いわゆる正社員が最も実施割合・適用割合が高く、次いで多様な正社員、フルタイムの非正社員、パートタイムの非正社員という順であった。昇進上限の高さについても同順であり、これらの項目に関しては、無期雇用の非正社員の特徴は見出せない。
第3に、アンケート調査から、定期昇給のように長期雇用を前提とする人事管理の仕組みについてみると、無期雇用の非正社員に対する適用割合が、有期雇用の非正社員に対する適用割合を上回っていた。有期雇用の非正社員からの正社員転換の機会と、無期雇用の非正社員(有期雇用からの転換者)からの正社員転換の機会を比べても、(機会があるかどうかに注目するならば)無期雇用の非正社員からの方が開かれていた。無期雇用の非正社員の特徴として、長期雇用の下で定期昇給を享受しやすいこと、正社員への転換機会がより開かれていることが指摘できる。
第4に、インタビュー調査で昨今の正社員転換の状況をみると、家庭事情の変化のような労働供給側の事情の変化、人手不足のような需要側の状況の変化によって説明できるものが多く、職業訓練や資格取得が関係していると考えられるケースは少数であった。調査対象が異なるため厳密な比較はできないが、この点は、類似のインタビュー調査(資料シリーズNo.126所収)で、正社員転換を導いた要因として「職業資格の取得」がトップであったのと対照的である 。
第5に、多様な正社員区分が、非正社員からの転換の受け皿として重要な役割を果たしている可能性が示唆された。インタビュー調査では、20名の正社員転換者のうち4名が勤務地限定正社員として働いており、転勤がない正社員区分であることによって、正社員転換が容易になったり定着が可能になったりしていると考えられた。アンケート調査からも、無期雇用の非正社員が正社員転換を希望するという時に、職務・勤務地・労働時間に限定のない正社員よりも、それらに何らかの限定がある正社員を希望することの方が多いことが示された。
第6に、非正社員の無期転換者という増加しつつある形態が、非正社員から正社員へのキャリアアップのステップとなっている実態は、必ずしも十分に確認できなかった。インタビュー調査において、労働契約法に基づく無期転換を経由して正社員に転換していたのは、20名のうち1名にとどまっていた。アンケート調査からも、機会があるかどうかに注目するならば、無期雇用の非正社員から正社員への転換機会は開かれているが、無期転換者を正社員に登用する方針を持つ企業は少数であった。具体的な数字は判明していないが、非正社員から正社員への社内転換の主流は、依然として有期雇用の非正社員からの転換である可能性が高い。
政策への貢献
「無期雇用労働者の待遇等に関する調査(企業調査・労働者調査)」については、厚生労働省雇用環境・均等局有期・短時間労働課が、労働政策審議会(職業安定分科会・雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会)(2025年9月12日)にて速報値を報告している。
本文
分割版
研究の区分
プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」
研究期間
令和6~7年度
執筆担当者(執筆順)
- 高橋 康二
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
- 岡本 武史
- 一橋大学大学院社会学研究科 博士課程
- 平尾 静
- 労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
- 森山 智彦
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
- 西野 史子
- 一橋大学大学院社会学研究科 教授
- 福井 康貴
- 名古屋大学大学院環境学研究科 准教授
- 平本 奈央子
- 国士舘大学経営学部 講師
関連の研究成果
- 資料シリーズNo.126『壮年期の非正規労働―個人ヒアリング調査から―』(2013年)
- 調査シリーズNo.122『改正労働契約法に企業はどう対応しようとしているのか―「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」結果―』(2014年)
- 調査シリーズNo.151『改正労働契約法とその特例に、企業はどう対応しようとしているのか 多様な正社員の活用状況・見通しは、どうなっているのか―「改正労働契約法とその特例への対応状況及び多様な正社員の活用状況に関する調査」結果―』(2016年)
- 調査シリーズNo.171『「改正労働契約法とその特例への対応状況 及び 多様な正社員の活用状況に関する調査」結果』(2017年)
- 資料シリーズNo.195『「改正労働契約法への対応状況に関するインタビュー調査」結果』(2017年)
- 調査シリーズNo.202『「無期転換ルールへの対応状況等に関する調査」結果』(2020年)
- 調査シリーズNo.214『「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」(企業に対するアンケート調査 及び ヒアリング調査)結果』(2021年)
- 調査シリーズNo.224『多様化する労働契約の在り方に関する調査(企業調査、労働者WEB調査)』(2022年)
- 調査シリーズNo.251『同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査(企業調査)』(2025年)
- 調査シリーズNo.252『「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」(労働者Webアンケート調査)結果』(2025年)
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