調査シリーズNo.202
「無期転換ルールへの対応状況等に関する調査」結果

2020年5月28日

概要

研究の目的

2013年4月より改正労働契約法が全面的に施行され、有期労働契約が更新されて通算5年を超えた場合には、有期契約労働者自身の申込みにより、「無期労働契約(期間の定めのない契約)」へ転換できるとする、いわゆる「無期転換ルール(労働契約法第18条)」が導入された。これに基づき2018年4月から本格的に、有期契約労働者の無期転換申込権が発生すると見込まれている。また、同法の附則第3条では、施行後8年を経過した場合の第18条の施行状況を勘案した検討等も規定されている。こうした中、企業等とそこで働く有期契約労働者及び無期労働契約への転換者を対象に、アンケート調査を行い喫緊の対応動向等を把握した。

研究の方法

企業等(※)2万社と、そこで働く有期契約労働者及び無期労働契約への転換者約5.5万人。

※「平成28年経済センサス活動調査」の企業等情報(「会社企業」と「それ以外の法人」。農林漁業と公務を除く。常用雇用者10人以上)を母集団として、産業・規模別に層化無作為抽出。

主な事実発見

1:企業等に対する調査結果より

有期契約労働者を雇用している(定年後の再雇用者のみを除く)企業等(n=1,858)を対象に、無期転換ルールに対応するうえで課題になっていることがあるか尋ねると(複数回答)、割合が高い順に、①「有期労働契約と無期転換後、正社員の間の仕事や働き方、賃金・労働条件のバランスと納得感の醸成」(26.3%)、②「業務量の変動等に伴う人員数や労働時間、労働条件等の調整」(21.7%)、③「定年のあり方」(19.8%)、④「人件費の増加とそれに見合う生産性の向上」(18.6%)、⑤「契約管理や就業規則の複雑化と社内(当事者や管理者等)への周知・浸透」(17.7%)、⑥「(定年後再雇用者以外の)高齢者の取扱い」(14.9%)等が挙がった。総じて、何らかの課題があるとする企業等の割合は63.6%と算出され、「特に課題はない」との回答は27.1%となった(図表1)。

こうした結果を規模別にみると、①や⑤については特に大規模企業等で割合が高く、「1,000人以上」でともに4割を超えている。また、⑤のほか、「有期契約労働者の活用のあり方・考え方の見直し(人事制度改定を含む)」や「事業の再編(事業所閉鎖)等に伴う雇用調整のあり方」「無期転換後のモチベーションを維持するための方策」等を挙げた割合は、大規模企業等になるほど高まる傾向が見て取れる。一方、②や④等については、規模に依らず一定の回答割合が見られ、大規模・小規模企業等ともに共通する課題となっている様子がうかがえる。

図表1 無期転換ルールに対応するうえでの課題

図表1画像クリックで拡大表示

2:労働者に対する調査より

  1. 無期転換申込権の状態

    「有期契約労働者計」(n=3,074)を対象に、現在の会社で無期労働契約(正社員を含む)への移行(無期転換)を申込む権利がどのような状態にあるか尋ねると、「無期労働契約に申込む権利が発生し、既に移行を申し込んだ」とする割合が3.1%で、「無期労働契約に申込む権利は発生したが、移行は申込んでいない」割合が14.8%、また、「無期労働契約に申込む権利は発生していない」割合が31.4%で、自身の権利の状態が「分からない」割合が44.1%等となった。

  2. 無期転換ルールに基づく転換希望とその理由

    法定では原則、現行の働き方や賃金・労働条件のまま、契約期間の定めだけが無くなることを明記した上で、無期転換ルール(【更新等により有期労働契約が通算5年を超えた場合に、労働者自身の申込みにより、無期労働契約へ移行(無期転換)されるもの】と説明)に基づき、「無期労働契約(期間の定めのない契約)」へ転換することを希望するか尋ねると、「有期契約労働者計」(n=3,074)のうち「希望する」割合が26.6%に対し、「希望しない」割合は33.1%で、「分からない」との回答が34.6%等となった(図表2)。

    そのうえで、「希望する」場合(n=818)の理由としては(複数回答)、①「雇用不安が無くなるから」の割合がもっとも高く(83.7%)、これに、②「長期的なキャリア形成の見通しや、将来的な生活設計が立てやすくなるから」(39.9%)や、③「その後の賃金・労働条件の改善が期待できるから」(27.3%)、④「法定された権利だから」(16.1%)、⑤「社会的な信用が高まるから」(13.2%)等が続いた。

    一方、「希望しない」場合(n=1,018)の理由としては(複数回答)、割合が高い順に、(1)「高齢だから、定年後の再雇用者だから」(31.7%)、(2)「現状でも雇用は比較的、安定しているから」(28.6%)、(3)「契約期間だけ無くなっても意味がないから」(27.5%)、(4)「現状に不満はないから」(25.3%)、(5)「辞めにくくなるから(長く働くつもりはないから)」(20.2%)、(6)「責任や残業等、負荷が高まりそうだから」(20.0%)等となった。

    こうした結果を年齢層別にみると、若年層ほど「希望する」割合が高まり、「満29歳以下」で35.7%となっている。これに対し、年齢層が上昇するほど「希望しない」割合が高まり、「満60歳以上」で45.9%となっている。そのうえで、「希望する」理由として(複数回答)、①はどの年齢層でも8割を超えてもっとも高い。一方、「希望しない」理由として(複数回答)、(1)は「満60歳以上」で特に高い。また、(5)~(6)のほか、(8)「無期労働契約ではなく、正社員になりたいから(無期労働契約に移行してしまうと、正社員になりにくくなる恐れがあるから)」については、若年層ほど概ね高まる傾向が見て取れる。

    図表2 無期転換ルールに基づく転換希望とその理由

    図表2画像クリックで拡大表示

政策への貢献

本文

全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

情報収集

研究期間

平成30年度~令和元年度

担当者

荻野 登
リサーチフェロー(調査当時:労働政策研究所副所長)
新井 栄三
調査部(政策課題担当)次長
渡邊 木綿子
調査部(政策課題担当)主任調査員補佐(調査当時)

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.133)。

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