資料シリーズ No.195
「改正労働契約法への対応状況に関するインタビュー調査」結果

平成29年4月21日

概要

研究の目的

改正労働契約法をめぐる企業の対応状況については、平成25年注) と平成27年注)の過去2度に渡り、アンケート調査を実施してその動向を把握してきた経緯がある。しかしながら、直近の調査でも、無期転換ルールへの「対応方針は未定・分からない」企業が未だ少なくないのも実情である。そして、対応方針を決定する上で必要な支援としては(複数回答)、「他社の事例・取組についての紹介」がもっとも多く挙げられている。こうした現状を踏まえ、本調査では、改正労働契約法の第18条や第20条への対応に係る検討の一助に資するため、個別企業労使を対象に、具体的な見直しの実施(検討)状況についてのインタビュー調査を行うことにした。

研究の方法

平成28年6~11月に掛けて、訪問インタビュー調査を実施した。調査対象は、労働組合の産業別組織や経営者団体からの紹介を通じ、また、公表資料等を基に選定した12組合・7企業(うち労使同席4)の計15事例である。有期契約労働者の雇用比率が高い業種を網羅するとともに、中小~大規模まで含まれるよう配慮した。

主な事実発見

  • 無期転換ルール(有期契約労働者の無期転換申込権)の効力が、本格的に発揮されてくるであろう平成30年4月以降へ向けて、関連する制度や規定等を具体的に整備する企業が現れるとともに、既に勤続を重ねてきた有期契約労働者への前倒し適用等による、無期契約への移行者(単純・無期転換者)も、徐々に出始めている現状が浮き彫りになった(図表1)。

図表1 インタビュー調査結果の概要(一部抜粋)

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  • 無期転換ルールへの対応方策は、有期契約労働者の多様な活用実態に呼応して多様だが、例えば「無期転換される者の範囲」を切り口に、何らかの無期転換を考える上での対応パターンを集約すると、

    (ⅰ)ある時点以降、対象となる有期契約区分を、(個別・有期契約労働者の選択に依らず)一斉に無期転換するパターン

    (ⅱ)法定通りあるいは法定を上回るタイミングで、無期転換申込権を順次、付与していく(実際に無期転換を希望するかどうかは、個別・有期契約労働者の選択に委ねる)パターン

    (ⅲ)(別段の定めを設けて)無期転換を事実上、(従来からの)正社員登用制度に一致させようとするパターン

    (ⅳ)上記いずれかの複合パターン(例えば(ⅱ)+(ⅲ)等)

    の4種類に類型化される(図表2)。

  • このうち、(ⅲ)のパターンで、無期転換後の労働条件を確実に変更する必要があるのであれば、就業規則や労働協約等に「別段の定め」を置き、変更後の労働条件(無期転換先は既存の正社員区分とする旨等)を予め、規定・周知しておく必要がある。だが、今回のインタビュー調査では中小企業群を中心に、そこまで踏み込んだ対応は検討されておらず、この点、無期転換申込権の性質や、「別段の定め」の必要性等についての理解が、未だ充分でない(没却している)恐れも危惧された。

図表2 何らかの無期転換を考える上での対応パターン

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政策的インプリケーション

  • 今回のインタビュー調査では、無期転換ルールを巡り、特段の上限を示さずに更新を繰り返し、既に通算5年を超える有期契約労働者が、一定程度みられてきた(更新に対する合理的な期待が生じている恐れもある)現状を踏まえた当面の対応方針と、今後、新たに採用する有期契約労働者が増大していく中でのそれは、異なってくる可能性もあることが示唆された。そうした局面の変化を的確に捉えるためにも、その動向を継続的に把握していく必要があると思われる。
  • 有期・無期の契約労働者間の不合理な労働条件の相違を禁止するルールを巡っては、会社側から「①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を総合考慮すれば、不合理とまで認められるほどの相違はない(現状通りで問題ない)」といった見解が多く聴かれ、また、労組側からも「取り組みの更なる追い風になるほどの規定では無い(観念的、訓示的な規定と捉えている)」等の指摘が漏れた。
  • また、同ルールは無期転換後の労働条件について、有期契約当時のそれとの相違を、禁止する規定であると受け取られているケースも少なからず確認された。更に、その対象は「通勤手当、食堂の利用、安全管理等」のみであると、狭小化して理解されているケースもあった。この点、有期・無期の契約労働者間に於ける、期間の定めがあることによる、不合理な労働条件の相違を禁止するルールには、未だ不分明な部分があるとも言える。個別企業労使が第20条を基に、紛争予防的な見直しを行いやすくするためには、その内容の明確化や具体的な例示等が、求められていると考えられる。

本文

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研究の区分

研究期間

平成28年4月~平成29年3月

担当者

荻野 登
労働政策研究・研修機構 副所長
新井 栄三
労働政策研究・研修機構 調査部主任調査員(政策課題担当)
渡辺 木綿子
労働政策研究・研修機構 調査部主任調査員補佐(政策課題担当)(執筆)

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