ベトナム労働法の現状
第2回「労働条件②」
 ―時間外労働、有給休暇、労働契約の終了、懲戒処分

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上東 亘 (渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー)

1. 時間外労働

(1) 時間外労働上限の緩和

これまで政府当局に対して残業時間制限の上限緩和を求める意見が多くあったことを受け、改正法は第107条第2項において、ひと月あたりの残業時間の上限規制を従来の30時間から40時間へと緩和した。

もっとも、旧法第106条に規定されている原則年間200時間までの残業時間上限には変更はない。この点に関連して、改正法では、例外的に年間300時間までの残業が認められる場合を以下のとおり明確に列挙している(下線部が改正点である)。すなわち、

  • ① 繊維、縫製、皮革、靴、電気、電子製品の輸出のための製造・加工、農産物、林業、製塩、水産物の加工
  • ② 電気の発電・供給、電気通信、石油精製、給・排水
  • 高度の専門性、技術水準が求められる業務で、労働市場が適時に十分な労働力を供給できない場合
  • 原料、製品の季節性の理由のために緊急で遅延できない業務を処理する必要がある場合、又は事前に予期せぬ客観的な事由により、若しくは天候・自然災害・火災・戦災の被害、電力不足・原料不足・生産ラインの技術的な問題により生じた業務を処理するためである場合
  • 政府が規定するその他の場合

がこれにあたる(改正法第107条第3項)。

④について、旧法下の政令第45/2013/NĐ-CP号(以下、「政令第45号」という。)第4条第a号では、単に「緊急で遅延できない業務」としていたが、改正法では、政令の規定が労働法に格上げされるとともに、「緊急で遅延できない業務」の発⽣原因は、原料・製品の季節性や、災害・⽕災・電⼒不⾜等の不可抗⼒の場合であることを具体化しており、旧法下と比較して、例外的に年間300時間までの残業が認められる場合が限定されているともいえる。

上記に加えて、政令第145号第61条は、以下の場合も年間300時間までの残業が認められると規定している。

  • ① 国家機関の公務に直接関係する客観的要因から生じる緊急の遅延できない業務を行う場合(改正法第108条の場合を除く)
  • ② 公共サービス、医療サービス、及び教育又は職業訓練サービスの提供の場合
  • ③ 通常の労働時間が週44時間を超えない企業において直接製造し、経営業務を行う場合

(2) 労働者の時間外労働に対する同意の取得方法

改正法下の政令第145号第59条第1項は、時間外労働の際に労働者の同意を得なければならない事項を規定している。具体的には、使用者は、労働者に対して、

  • ① 時間外労働を行う時期
  • ② 時間外労働を行う場所
  • ③ 時間外労働時間にする仕事

の3項目について、同意を得なければならないとされる。旧法ではこの点につき詳しい規定が無かったために、時間外労働の同意書にどのような事項が含まれるべきか不明であったが、改正により明確になったといえる。

(3) 時間外労働が連続した場合の代休措置

旧法では、労働者に、1か月間のうちに時間外労働の日が多く続いて休めない期間がある場合、その労働者が代休を取得できるよう使用者は人員を配置しなければならない、と規定されていた(旧法第106条第2項第c号)。そして、旧法下の政令第45号第4条第3項第a号によれば、1か月に7日間連続で時間外労働が続いたとき、使用者は労働者に代休を取得させると規定されていた。

しかし、改正法ではこれらが削除されているため、このような代休の付与は不要になったと解される。

(4) 時間外労働の通知

旧法下では、使用者は、要件を満たして労働者に年間200時間を超えて300時間までの時間外労働をさせる場合には、事前に当局に書面で通知しなければならなかった(政令第45号第4条第2項第b号)。

これに対し政令第145号第62条第2項では、当該通知は、時間外労働が開始された後15日以内に省級の労働傷病兵社会問題局に送付しなければならないとされている。当該通知の書式も、政令第145号の付属文書として定められた。したがって、改正法下では、使用者は、当局の確認を待たずに労働者に時間外労働を行わせることが可能となっている。

2. 有給休暇

(1) 祝日と慶弔休暇の日数

改正法第112条第1項により、年によって建国記念日(9月2日)の直前又は直後に祝日が加えられることとなり、2連休となる。つまり、新たに設けられる祝日は年ごとに異なり、同月1日又は3日となる。この改正より、ベトナムの祝日は年間合計10日から11日に増加した。

また、労働者は、旧法第116条第1項により、結婚の際に3日、子供の結婚の際に1日、実の父親、実の母親、配偶者の実の父母、配偶者又は子供の死亡の際に3日間の有給休暇取得が認められていた。これに加え、改正法第115条第1項により、養父、養母、養子が死亡する際にも、3日の有給休暇が認められている。

(2) 有給休暇の清算時期

旧法では、未消化の有給休暇について、退職、失業又はその他の理由がある場合に賃金により清算することが認められていた(旧法第114条第1項)。

改正法ではこの「その他の理由」が削除され(改正法第113条第3項)、清算可能なタイミングが退職時に限定されたとの見方もある。もっとも、年末や年度末等に清算をすることが労働者に有利であれば問題にならないとも考えられる。

(3) 年次有給休暇の給与計算方法

旧法と政令第05/2015/NĐ-CP号(以下、「政令第05号」という。)第26条第2項では、有給休暇中の賃金は、有給休暇取得時の前月分の給与を日割りしたものとされていた。これに従い、前月と当月の給与が異なる場合に、当月に有給休暇を取得したとき、当月の給与の計算において、単に当月の月給をそのまま支給すると不正確となる。そのため、この場合には、まず当月分の給与を日割計算して取得有給休暇日数分を控除し、前月分の給与を日割りして当月の有給休暇日数分支給するということになり、計算が煩雑であった。この計算は政令第148/2018/NĐ-CP号により改正され、その後の改正法下の政令第145号第67条第2項で踏襲された。すなわち、有給休暇中の賃金は有給休暇取得時の労働契約上の給与とされ、現在は前月の給与を考慮せず、有給休暇日数を確認のうえ、当月の月給をそのまま支給して問題ないこととなっている。

また、退職時に未消化の有給休暇は金銭で清算されることになるが、この場合の基礎となる給与について、旧法下では、6か月以上勤務した場合とそうでない場合を区別して、最大で6か月間の直前の労働期間の給与の平均値としていた(旧法第114条、及び政令第05号第26条第3項)。これに対し、政令第145号第67条第3項では、一律に退職前月の労働契約に基づく給与としている。

(4) 労働期間に1か月未満の端数が生じた場合の年次有給休暇

年次有給休暇日数は労働者の勤続期間に応じて付与されるが、旧法では、勤続期間に1か月未満の端数が生じた場合の年次有給休暇日数の取扱いに関する規定は存在しなかった。

これに対し、政令第145号第66条第2項では、この場合に、労働者の総労働日数と有給休暇取得日数の合計が、労使間で合意されたひと月あたりの通常の勤務日の50%以上となるとき、年次休暇日数を計算するために、その1か月未満の端数は1か月に切り上げると定めている。

3. 労働契約の終了

(1) 労働契約の終了事由

改正法では、旧法と比較して、労働契約の終了事由が追加されている。

まず、ベトナムにおいて就労する外国人労働者について、以下の場合に労働契約が終了することが規定された。

① 法的に有効な裁判所の判決若しくは決定又は管轄国家機関の決定により、退去強制処分を受けた場合(改正法第34条第5項)
② 労働許可証が失効した場合(改正法第34条第12項)

また、労働契約において試用期間の合意が含まれている場合で、試用期間中の勤務が要求水準を満たさなかったとき、又は一方当事者が試用に関する合意を解除したときも労働契約が終了する(改正法第34条第13項。試用期間については連載第1回「3. 試用期間」を参照)。

さらに、法人たる使用者が、省級人民委員会に属する経営登録に関する専門機関から、法的代表者又は法的代表者の権利若しくは義務を委任された者が不在であることの通知の発行を受けた場合も労働契約が終了する(改正法第34条第7項)。この改正の背景には、旧法下で、労働者が使用者たる企業の代表者と連絡が取れなくなったときに、労働契約を終了できず、社会保険等の⼿続ができなかったという問題があったとされる。

(2) 使用者による一方的な労働契約の終了

旧法では、使用者が一方的に労働契約を解除できるのは、

  • ① 労働者が労働契約で定められた業務を遂行しないことが頻繁にある場合
  • ② 労働者が、病気や事故のため、継続して12か月間(無期限労働契約の場合)、6か月間(有期限労働契約の場合)、又は契約期間の2分の1以上(12か月未満の季節的業務又は特定業務の労働契約の場合)にわたり治療を受けたが、労働能力を回復できない場合
  • ③ 自然災害、火災又は政府が規定するその他の不可抗力事由により、使用者があらゆる克服措置を実行したが、やむを得ず生産規模の縮小及び人員削減を行う場合
  • ④ 労働者が、兵役等の一時的休職事由が終了した後も欠勤する場合

に限定されていた(旧法第38条第1項)。

改正法は、上記①に関し、「労働者が、労働契約に定められた業務を常時完遂せず、そのことが使用者の規程における業務完了程度評価基準に従って確定された場合」と定めている(改正法第36条第1項第a号)。もっとも、業務完了程度評価基準の作成は、旧法下でも要求されていたもので(政令第05号第12条第1項)、改正による実質的な変更はないといえる。

また、改正法では、一方的解除事由として、

  • ⑤ 労働者が定年に達した場合
  • ⑥ 労働者が正当な理由なく連続5営業日以上欠勤した場合
  • ⑦ 労働者が労働契約締結時に誠実に情報を提供せず、その雇用に影響を与えた場合

が追加された(改正法第36条第1項)。

上記⑤については、後述の「定年」の項も参照されたい。

上記⑥については、旧法では懲戒処分で対応しなければならなかったが、改正法では一方的解除事由として事前通知せずに解除できるようになったため、労働者に無断欠勤が続き音信不通となった場合の対応がしやすくなったと評価できる。

上記⑦については、旧法では、採用時の経歴詐称等が労働契約の解除事由とはされていなかったものの、ベトナムではこれが問題となることが多かったため改正されたという経緯であった。

なお、使⽤者が⼀⽅的に労働契約を解除する場合、労働契約を終了する前に労働者に対して労働契約の終了を通知しなければならないとき(上記①、②、③、⑤、及び⑦)と、事前通知を要しないとき(上記④及び⑥)がある(改正法第36条第2項及び同条第3項)。前者の事前通知の期間については、旧法から実質的な変更はないが、特殊な場合については後述のとおりである。

(3) 労働者による一方的な労働契約の終了

旧法第37条は、無期労働契約の労働者は45日前の通知をもって、また有期労働契約の労働者は一定の事由がある場合に一方的に労働契約を終了できるとしていた。これに対し、改正法では、労働者は、契約期間に関わらず、改正法第35条に従って一定の期間を置いて事前通知することで一方的に労働契約を解除することができる。

具体的な事前通知期間としてはそれぞれ、

  • ① 無期労働契約の下で労働に従事する場合、少なくとも45日前
  • ② 12か月以上36か月以下の期間の有期労働契約の下で労働に従事する場合、少なくとも30日前
  • ③ 12か月未満の期間の有期労働契約の下で労働に従事する場合、少なくとも3営業日前

までに、使用者に通知することとされている(改正法第35条第1項)。連載第1回「2. 労働契約 (2) 労働契約の種類」で述べたとおり、改正法では労働契約の種類は2種類となったものの、この事前通知期間は3つに区分されていることに注意されたい。なお、労働者が転職を理由に解除をするとき等、この事前通知が遵守されないことがあるといわれる。

次に、労働者が事前通知を要しないで即時解除ができる例外事由として改正法第35条第2項で下記各事由が定められている。旧法第37条第1項の列挙事由(有期契約労働者の一方的解除事由)と比較すると、削除や追加されたものが見受けられる。

  • ① 労働契約で合意した業務に従事できない場合、勤務地に配置されない場合、又は労働条件が保証されていない場合
  • ② 労働契約に定めた給与全額の支給がされない場合、又は給与の支給が遅延する場合
  • ③ 労働者が、使用者から虐待、暴行若しくは侮辱的な発言・行為、健康・人格・名誉に影響を与える行為を受けた場合、又は労働の強要を受けた場合
  • ④ 職場においてセクシャルハラスメントを受けた場合
  • ⑤ 妊娠中の女性労働者が認可を受けている医療機関の指示に基づき業務を休止しなければならない場合
  • ⑥ 定年に達した場合
  • ⑦ 使用者が誠実に情報を提供せず、それが労働契約の履行に影響を及ぼす場合

上記③は、旧法下の政令第05号で既に定められていた内容で、法律に格上げされた改正といえる。

上記⑦は、使用者による労働条件や職務内容の説明に虚偽があった場合に、労働者側からの解除を可能にする趣旨である。

(4) 特殊な業種における一方的な労働契約の終了の際の通知期間

特殊な業種・職種において、使用者又は労働者が一方的に労働契約を終了する場合の事前通知に関し特別な定めがある(政令第145号第7条)。特に注目すべきは、企業法及び企業の生産、経営に投資する国家資本の管理、利用に関する法に規定される企業管理者が、この特別な対象に含まれている点である。ここに定められる業種・職種の労働契約を使用者又は労働者が一方的に終了する場合、

  • ① 無期限の労働契約及び12か月以上の有期労働契約の場合は、少なくとも120日前
  • ② 12か月未満の有期労働契約の場合は、少なくともその4分の1に相当する期間

の事前通知を、使用者又は労働者に対してする必要がある。ベトナム法人の管理職との労働契約を終了するときには、これに該当するか注意を要する。

(5) 定年

改正法第169条第2項では、定年退職の年齢が段階的に引き上げられることが規定されている。2021年から、定年年齢は、男性について満60歳3か月、女性について満55歳4か月となり、その後毎年、男性について3か月ずつ、女性について4か月ずつ引き上げることとなっている。そして、今後、男性については2028年までに62歳となり、女性については2035年までに60歳となる旨、規定されている。

定年に達すると年金を受給することになるが、高年齢労働者(定年後も労働を継続する者)として労働を継続することも可能である(改正法第148条)。改正法第149条第1項は、高年齢労働者との有期労働契約における更新回数制限を撤廃したため、有期契約を繰り返して雇用を継続することができる(連載第1回「2. 労働契約 (3) 無期転換」を参照)。

なお、改正法では、前述のとおり、定年に達すると、使用者と労働者の双方が労働契約の解除権を有するとされている(改正法第35条第2項第e号、及び同第36条第1項第đ号)。ただし、定年を理由に労働契約を解除する労働者は使用者に対し事前通知する義務を負わない一方、これを解除する使用者は定年に達した労働者に対し事前通知する義務があることに注意を要する(改正法第36条第2項)。

(6) 懲戒解雇

改正法では、就業規則で規定されるセクシャルハラスメントを行った場合には、懲戒解雇となる(改正法第125条第2項。就業規則の定めについては、連載第1回「4. 就業規則 (2) 記載事項」を参照。セクシャルハラスメントについては、連載第3回を参照。)。

また、労働者が、正当な理由なく、最初に無断欠勤した日から数えて30日間に合計5日、又は365日間に合計20日無断欠勤した場合、旧法第126条でも改正法第125条でも懲戒事由とされており、懲戒手続を取らなければならない。他方、改正法では、前述のとおり「労働者が、正当な理由なく5営業日以上連続して無断欠勤した場合」が使用者による一方的解除事由となっている(改正法第36条第1項第e号)。そのため、後者の連続無断欠勤のケースでは懲戒手続を履践せずに、事前通知することなく契約を終了することができる。この「懲戒事由」と「使用者による一方的解除事由」の両者の文言の違いに注意されたい。

(7) 有期労働契約の期間満了による契約終了

旧法では、有期労働契約が期間満了によって終了する場合、使⽤者が労働者に対し、契約の期限が満了する15⽇前までに契約の終了について通知する必要があった(旧法第47条第1項)。

改正法では、契約終了の通知は契約期間満了時でよいとされ、事前通知の義務はなくなった(改正法第45条)。しかし、実務上、契約期間満了前に通知することが望ましい。

(8) 退職⼿当及び失業⼿当

使⽤者は、原則として、労働契約終了の際に、それまで12か⽉以上常時勤務していた労働者に対し、退職の事由に応じて退職⼿当(通常一般の退職のケース)⼜は失業⼿当(組織変更、吸収合併等特別な理由による退職のケース)を⽀払う必要がある(旧法第48条、及び同第49条、並びに改正法第46条、及び同第47条)。これに関し、改正法では、次の場合には退職⼿当の⽀払は不要となっている(改正法第46条第1項)。

  • ① 労働者が社会保険に関する法令の定めるところにより年⾦を受給する条件を満たした場合
  • ② 労働者が正当な理由なく5営業⽇以上連続して無断欠勤したことにより労働契約が終了される場合

このうち②については、改正法では、前述のとおり、懲戒手続を経なくても使用者が労働契約を一方的に解除できる場合としてこれが規定されているが、この場合には退職⼿当の⽀払が不要となり、使用者に有利となっている。

5. 懲戒処分

懲戒解雇については、前述のとおりであるが、ここではそれ以外の懲戒処分一般に関して留意すべき改正点について述べる。

(1) 懲戒事由と就業規則

旧法では、10名以上の労働者を雇用する使⽤者は、⽂書により就業規則を作成しなければならず(旧法第119条第1項)、就業規則は当局に登録することで有効とされていた(旧法第122条)。そして、就業規則で規定された違反⾏為以外の⾏為を理由に労働者に対して懲戒処分を行うことは禁⽌されていた(旧法第128条第3項)。これらの規定からすると、就業規則を作成することが求められていない労働者10名未満の使⽤者も就業規則を作成して登録しなければ、懲戒処分の根拠となる就業規則の規定が存在しないことになり、懲戒処分ができないと考えられていた。

これに対して、改正法では、就業規則を作成していなくても、労働契約⼜は法令に規定されている違反⾏為を行った労働者に対して懲戒処分を行うことができるとされている(改正法第117条及び同第127条第3項)。

(2) 懲戒手続と労働組合

旧法では、労働規律違反を犯した労働者に対して懲戒処分をするには、当該労働者と事業場の労働組合の代表者が参加した会議を開催し、使⽤者が労働者の違反を⽴証する必要があった(旧法第123条第1項)。事業場に労働組合がない場合には、直属の地域の上部労働団体がこれに該当した(旧法第3条第4項)。そのため、事業場に労働組合が無い企業では、懲戒処分の手続の際に、当該上部労働団体から代表者を呼ぶ必要があった。

改正法でも懲戒⼿続は同様に必要だが、労働者を代表する組織からの会議参加は、懲戒処分を受ける労働者が構成員である「基礎レベル労働者代表組織」からのみ必要とされる(改正法第122条第1項第b号)。「基礎レベル労働者代表組織」とは、事業場の労働組合及び企業における労働者の自主組織をいうと定義されている(改正法第3条第3項)。そして、事業場に「基礎レベル労働者代表組織」が設⽴されていない場合、地域の上部労働団体が「基礎レベル労働者代表組織」にあたるという規定が無いため、上部労働団体の代表者を懲戒処分手続に呼ぶ必要がなくなったと解することができる。この理由は、旧法ではベトナム労働総同盟(Vietnam General Confederation of Labor, VGCL)傘下の労働組合のみが労働者代表組織として認められていたのに対して、改正法ではベトナム労働総同盟傘下に属しない、企業における労働者組織の設⽴が認められるようになったためである(労働組合については連載第3回を参照)。

(3) 懲戒処分と損害賠償請求の時効

旧法においては、労働者が使用者に損害を与えた場合の損害賠償請求に関する手続及び時効期間は、他の懲戒処分の場合と同様であった(旧法第124条及び同第131条第2項)。

しかし、政令第145号によると、損害賠償請求の処理の手順及び手続は、他の懲戒事由と同様であるものの、損害賠償請求の時効は、労働者が使用者に損害を生じさせる行為を行った日から6か月と定められている(政令第145号第72条第1項)。他の懲戒処分の時効は、原則、違反行為から6か月であり、違反行為が使用者の財産や技術上の秘密の漏えい等に関する例外的な場合に時効の延長(12か月)が認められるのに対し(改正法第123条第1項)、損害賠償請求の時効にはこの延長の例外規定が無いことに注意を要する。

プロフィール

写真:上東 亘氏

上東 亘(かみひがし わたる)

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 パートナー
Asia Pacific International Law Firm(APAC)ハノイオフィス出向等を通じて、合計4年間程度ベトナムに駐在。その他、ILOベトナム国別事務所External Collaborator、労働政策研究・研修機構 ベトナム労働情報研究会委員など就任。主な著作として、「ILOによるベトナム労働法・労働組合法に関連する技術協力の概要―2013年から2015年にかけての14の政令制定に対する支援の評価―」自由と正義 Vol.67 No.12(2016)、「JILPT海外労働情報19-03 ベトナムの労働を取り巻く現状」(労働政策研究・研修機構、2019)<共著>など。

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