金融危機がもたらす影響と対応:アメリカ
相次ぐ人員削減、10月の失業率は6.5%の高水準
—失業保険給付の期間延長に60億ドル強

金融危機の震源地であるアメリカでは、自動車、電気など製造業から金融、情報通信などサービス業まで広範な分野で人員削減策が発表されている。10月の失業率は6.5%に達した。この水準を記録したのは14年7カ月ぶりだ。政府は10月初旬に最大7000億ドルの公的資金を支出する金融安定化法を成立させた。雇用対策では、失業保険給付の期間延長が決定され、このために60億ドル強の予算が計上されている。GM(ゼネラルモーターズ)など自動車メーカーへの支援策をどうするかがいま焦点となっている。

金融危機の発端は2006年12月

今回の「金融危機」の実体経済への影響の端諸は、2006年12月頃だと言える。当時、オウンイット・モーゲージ・ソリューションやモーゲージ・レンダーズ・ネットワークといったサブプライム住宅ローンを専門的に手掛ける比較的小規模の金融機関が資金繰りに行き詰まり業務を全面的に停止した。各社は2007年2月に相次いで連邦破産法11条を申請した。さらに3月には、サブプライムローン分野で全米2位のニュー・センチュリー・ファイナンシャルが経営破綻の可能性を理由にニューヨーク証券取引所から上場廃止を宣告され、4月、連邦破産法11条を申請した。

その後も金融機関の破綻が続出していった。ベアスターンズの救済のためにJPモルガン向け資金供与が行われたのが2008年3月、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の国有化が2008年9月15日、この1週間後にリーマンブラザーズが経営破綻し、金融危機が本格的に顕在化した。

今年1月から就業者数は減少

これらの金融部門における「危機」を労働市場全般の動向と照らし合わせると、2006年12月の約半年後の2007年8月が一つの転機だった。連邦労働省が9月7日に発表した雇用統計で、同年8月の非農業部門就業者数が季節調整後で前月比4000人の減少となり、2003年8月以来4年ぶりに雇用減となったのである。この発表を受けニューヨーク株式市場は、7日午前、売りに急反落し大幅安の展開となった。当時、エコノミストなどの指摘によるとサブプライムローンの焦げ付き急増を背景に、金融、建設で雇用情勢が悪化し、実体経済にも影響が出始めているとのことだった。

雇用統計発表の影響は大きく、長期金利は下落し、9月18日に米連邦準備制度理事会(FRB)は、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を4.75%へと0.5%の大幅利下げに踏み切った。2006年6月以来、FF金利誘導目標は5.25%に据え置かれており、利下げは03年6月以来、4年3カ月ぶりのものであった。ただし、就業者数減の数値は、連邦政府・地方自治体の雇用急増を要因として、翌月に8万9000人増へと大幅上方修正された。

雇用統計を振り返ると、実際に就業者数が増加から減少に転じたのは2008年1月である(図1図2参照)。

また、同時期の失業者数と失業率の推移を示したものが図2および図3である。2008年4月以降の上昇が目立ち、10月には失業率は6.5%に達している。6.5%を記録したのは1994年3月以来(14年7カ月ぶり)だ。

図1

資料出所:労働統計局資料より作成

図2

資料出所:労働統計局資料より作成

図3

資料出所:労働統計局資料より作成

シティグループ、5万人強の人員削減発表

今年9月以降10月末までに相次いで発表された人員削減、解雇、レイオフ事例については当機構海外労働情報2008年11月の記事で既に伝えた。その後も自動車メーカーが減産などによる事業再編を発表している。

GMは11月10日、2009年の第一四半期の10工場に関する減産を発表、時間給労働者約5500人に影響が出る見込みである。ランシングデルタタウンシップ工場(ミシガン州)、オシャワ工場(カナダ・オンタリオ州)、ハムトラムク工場(ミシガン州)、ウレンツビル工場(モンタナ州)など10工場で、1月12日から2月9日にかけてラインの速度を落とし減産する予定。また、これ以外に特定の工場名は挙げられていないが、金型工場で減産が予定されており、1900人の労働者が影響を受けると見込まれている。さらに、給与労働者についても5億ドルの人件費削減を目標として2008年末までに人員削減を行なう予定と発表されている。

他の業界でも、国際クーリエサービス会社・DHL(9500人)、オペレーティグシステム提供会社・サンマイクロシステムズ(6000人)やシティグループ(5万2000人)が大規模な人員削減を発表した(表1参照)。

表1:最近の主な解雇、レイオフ事例
<自動車>
企業名 人数 備考 公表日
GM 約1200人 対象:時間給労働者
オハイオ州モレーン
10月3日
1260人 ウィスコンシン州ジェーンズビル(時間給労働者:1200人、給与労働者:60人) 10月14日
1520人 ミシガン州グランドラピッズ、自動車部品のプレス工場(時間給労働者:1340人、給与労働者:180人) 10月14日
1500人 対象:時間給労働者ミシガン州とデラウェア州の一部工場 10月16日
クライスラー 1825人 対象:時間給労働者 10月23日
5000人(目標) 対象:給与労働者、契約労働者 10月24日
フォード   ミネソタ州セントポール工場の12月の稼働を休止 10月16日
ダイムラー社 1200人 対象:給与労働者 10月14日
3500人 対象:生産労働者
米国・カナダで合計
10月14日
<その他>
企業名 人数 備考 公表日
GMACファイナンシャル・サービス 5000人 金融 200の支店を閉鎖 9月3日
フェデラル・モーグル社 4000人 自動車部品   9月17日
シェリング・プラウ社 1000人 医薬品製造販売 薬販売を中心に 9月29日
イーベイ社 1000人以上 ネット販売   10月6日
マイクロンテクノロジー社 約3000人 半導体製造   10月10日
ペプシ社 3300人 飲料製造 6工場の閉鎖 10月14日
ヤフー社 1500人 ネットサービス 対象:フルタイム従業員数(総員約15000人) 10月21日
ナショナル・シティ・バンク 4000人 金融   10月21日
メルク社 2900人 医薬品製造 全世界で7200人を削減=総従業員の12% 10月22日
ゼロックス社 3000人 事務機器等 総従業員の5% 10月23日
ワールプール社 1300人 家電製造 全世界で5000人を削減 10月28日
アメリカン・エキスプレス 7000人 クレジットカード会社 全世界での実施予定規模 10月31日
フィデリティ投資社 1290人 投資信託運用 全世界で44400人をのうち2.9%あるいは1290人を削減予定 11月6日
DHL 9500人 国際クーリエサービス   11月10日
サンマイクロシステムズ 6000人 オペレーティングシステム等提供 米国内従業員数33400人のうち15%から18%削減予定 11月14日
シティグループ 52000人 金融 全世界での実施予定規模 11月17日
ニューヨークメロン銀行 1800人 金融 従業員43000人の4%に相当(32000人がアメリカ国内の従業員) 11月20日
ワシントンミューチュアル 1600人 金融 サンフランシスコ地域にて 11月26日

資料出所:Daily Labor Report, BNA, Sep. 10, 22, 29, Oct. 7, 14, 15, 21, 22, 23, 24, 27, 29, 31, Nov. 10, 12, 17, 18, 26, 28 2008, Wall Street Journal, Oct. 14, 22, 24, New York Times, Oct. 15, 22, 23, 時事通信社 JIJI-WEB, 10月17日より作成

自動車メーカー支援策が最大焦点に

金融危機の実体経済への影響に対する政府の施策は今年のはじめから行なわれている。今年1月、発表された2007年12月雇用統計は、失業率が2年ぶりに5%台を記録したというものであった。米国経済の景気悪化が懸念されはじめた頃である。この事態を受けブッシュ大統領は1月18日、所得税と法人税の減税を柱とする予算規模GDPの約1%相当の1500億ドル規模の緊急景気対策を発表した(当機構海外労働情報2008年2月の記事参照)。個人所得税を消費刺激のために還付する戻し税や企業の設備投資の優遇税制を中心とする内容だった。

この景気刺激策に際して、民主党から、貧困層向けの食料品購入券増発、失業保険給付延長、それに公共投資の追加を盛り込むように要求が出されていた。このうち失業保険給付期間の延長については、6月30日と11月21日の2度にわたって決定している。

6月に成立した法律では、従来の失業給付期間を満了してしまった労働者に対して、13週間の給付延長措置が取られることになった。また、11月に成立した法律では、さらに7週間の給付延長措置が決定した。加えて、失業率が6%以上の州に対して、さらに13週延長され合計で20週の給付延長措置が取られることになった。2つの延長措置は2009年3月までのもので、予算規模として前者が1億1000万ドル、後者は60億ドルが見込まれている。ちなみに現在失業率が6%を超えている州は、ロードアイランド州やワシントンDCなど18州である。11月現在、110万人の労働者が6月に決定された給付延長期間を満了してしまうと推計されていた。

失業保険給付延長の推進派は、最も費用対効果の効率のいい景気刺激策であると主張する。給与所得がなくなってしまって選択肢がほとんどない労働者が給付を得ることによって消費に直接つながるものであるからだと指摘する。その一方で、反対する共和党を中心に、給付延長は職場復帰の妨げとなるという指摘もある。

この他に、金融部門救済を目的として金融機関への資金供与する金融安定化法が10月3日、可決成立した。最大7000億ドルの公的資金で住宅ローン担保証券(MBS)など金融機関の不良資産の買い取りを盛り込んだものである。

11月21日に成立した失業保険給付延長措置とともに議論されていたのが、アメリカ自動車メーカー救済のための250億ドル融資案である。エネルギー効率の高い自動車の開発費用として低利融資枠というかたちでの250億ドルの支援は決定されているものの、これだけでは今後の短期的な資金繰りの問題は残ったままである。12月2日までに各社からの経営再建策を提示、支援の可否が決定されるのは早くとも12月8日とされている(12月2日に記事作成)。

参考資料

  1. “Daily Labor Report”, BNA, Jun. 20, Nov. 10, 20, 21, 24, 2008
  2. Bureau of Labor Statisticsウェブサイト、Archived News Releases for Employment Situation新しいウィンドウへ

参考

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