障害者・就労困難者向け給付の厳格化の動き

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2025年12月

障害者や就労困難者に対する社会保障給付の引き締めに関する改正法が、9月に成立した。コロナ禍以降の非労働力人口の増加や、財政逼迫を背景に、給付の支給条件の厳格化や支給内容の見直し等を通じて、給付受給による非労働力化を防止しつつ給付支出の削減をはかることが企図された。しかし、当初案に盛り込まれていた障害者向け給付の大幅な削減が与党内部から強い反発を招いたため、政府はこれを撤回する形での法案成立を余儀なくされることとなった。

障害等への給付引き締めで就労促進と支出削減を企図

コロナ禍以降の非労働力層の拡大や、財政の逼迫を背景に、政府は障害者・就労困難者向けの給付が就労の妨げとなっているとして、是正に取り組む意向をかねてから示していた(注1)。政府の分析によれば、健康問題を理由とする非労働力人口はおよそ300万人で、2019年以降で80万人増加しており、また障害・健康問題に関連した給付の受給者も400万人超(稼働年齢人口の10分の1相当)にのぼる。こうした状況への取り組みの一環として、2025年3月に開始されたパブリック・コンサルテーションにおける方針文書(注2)では、低所得世帯全般を対象とした給付であるユニバーサル・クレジット(注3)と、所得の多寡を問わず一定の障害がある場合に支給される個人自立手当(Personal Independence Payment)に関する制度改正を行うとの方針が示された(注4)

このうちユニバーサル・クレジットについては、基本となる支給額(単身の場合月400.14ポンド、またカップルの場合は月628.10ポンドなど)(注5)以外に、障害や健康問題がある場合に加算される額(月423.27ポンド)(注6)が大きいことが、就労困難を訴えるインセンティブを申請者に与えているとの見方から、政府は基本支給額の実質ベースでの増額を図る一方で、障害等による加算については改定を凍結のうえ支給要件も厳格化(注7)し、かつ22歳未満層は加算分の支給対象から除外するなどの内容を盛り込んだ。また個人自立手当(注8)については、より重い健康問題を抱える層に支給対象を限定するとして、障害の度合いに関する要件を引き上げる方針を示した(注9)。政府はこれらの制度改革により、2029年度までに年間48億ポンド(うちユニバーサル・クレジットで10億ポンド、個人自立手当で35億ポンド)の給付支出の削減が見込めるとの試算を示していた。

多くの与党議員が反対、個人自立手当の改革は先送りに

改革案により、多くの受給者が給付を断たれるとの見通しから、受給者や支援団体がこれに強く反発したほか、研究者やシンクタンク、あるいは議会の雇用年金委員会などからも懸念が聞かれた(注10)。とりわけ、個人自立手当の要件厳格化が、就労困難度が高く給付を必要とする多くの受給者を支給対象から除外し(注11)、結果として貧困の拡大につながりかねないことが問題とされた。

政府は、コンサルテーションの終了を待つことなく、一連の内容を盛り込んだ法案を6月半ばに議会に提出した(注12)が、ここでも与党議員の120人あまりが政府の改革案に反対の立場を示し、法案の採択が困難となった。このため、既存の受給者等についてユニバーサル・クレジットの障害等加算の減額を行わないことや、個人自立手当の制度改正を一旦撤回すること(注13)などの譲歩を経て、法案は9月初めに成立に至った(Universal Credit Act 2025新しいウィンドウ)。主な制度改正としては、ユニバーサル・クレジットの基本額について今後4年間、インフレ率を上回る改定を行うこと(2029年度までにインフレ率プラス4.8%を想定)、また障害等による加算を2026年4月以降の新規申請者から現行の約半額(月217.27ポンド)に減額のうえ改定を凍結すること、ただし既存の受給者、顕著な障害の基準を満たす者、終末期と判断された者については、従来の支給額を継続すること、など(注14)。個人自立手当の削減策が撤回された結果として、当初想定されていた48億ポンドの支出削減はほぼ消失することととなった(注15)

参考資料

参考レート

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