最低賃金、2026年4月より時給12.71ポンドに引き上げ

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  • 国別労働トピック:2025年12月

政府は、2026年4月からの最低賃金額を時間当たり12.71ポンド(4.1%増)とする方針を示した。若年層向けの額については、18~20歳を8.5%増の10.85ポンド、16~17歳及びアプレンティス(見習い訓練参加者)向けを6.0%増の8.00ポンドにそれぞれ引き上げる。

引き続き賃金中央値の3分の2を維持

法定最低賃金制度は現在、成人(21歳以上)向けの「全国生活賃金」と、これを下回る年齢層に対する「全国最低賃金」として、年齢層別に2種(18~20歳、16~17歳)及びアプレンティス向けの計4種類の最低賃金で構成される(図表1)。政府の諮問機関である低賃金委員会(Low Pay Commission)が、経済や雇用、賃金水準の動向などを勘案の上、毎年の改定額を検討している。

政府が11月、秋季予算(注1)の公表に併せて示した各最低賃金の2026年4月の改定額は、低賃金委が提示した案(注2)を受けて、全国生活賃金について前年から4.1%増の時間当たり12.71ポンド、全国最低賃金の18~20歳向け額が8.5%増の10.85ポンド、16~17歳及びアプレンティス向けが6.0%増の8.00ポンドとなった。全国生活賃金の改定額は、フルタイム労働者の場合で年間977ポンドの収入増に相当する、と低賃金委は試算している。

図表1:最低賃金額の推移 (単位:ポンド)
画像:図表1
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注:全国生活賃金は2016年4月、25歳以上向けの新たな最低賃金額として導入された。これに伴い、従来の全国最低賃金(21歳以上)は21-24歳に対象が限定された。その後、全国生活賃金の適用年齢は、2021年4月に25歳から23歳、さらに2024年4月には21歳に引き下げられた。また、アプレンティス向けの額は、2022年に16-17歳向けと同額となった。

全国生活賃金については、2016年の導入当初から統計上の時間当たり賃金額(中央値)に対する比率が目標値として設定され(注3)、コロナ禍後の一時期を除いて、導入以降ほぼ一貫して平均賃金を上回る上昇率が維持されてきた(図表2)。次回改定でも、政府は賃金中央値の3分の2を維持する方針であることから、低賃金委は想定される賃金上昇を考慮の上、基準を下回らないと予測される改定額を提示した。一方、政府は年齢差別に当たるとの考え方から全国最低賃金のうち18~20歳向けの廃止と全国生活賃金の適用に向けた検討を低賃金委に要請していたが、低賃金委は来年度については維持することを提言した。このところの労働市場の停滞(注4)のほか、教育や訓練を受けておらず就労もしていない無業の若者(いわゆるニート)の増加、また若年層が多く働く飲食業や小売業などでの求人の顕著な落ち込みなどから、若年層の雇用状況への懸念があることが理由とされる。低賃金委は、将来的な引き上げを考慮して改定率を調整し、経済状況や若者向けの施策状況にもよるとしつつ、2027年に適用年齢を20歳に、さらに2028年あるいは2029年に18歳に引き下げることを代案として提言している。

図表2:平均賃金額、最低賃金額の上昇率の推移 (単位:%)
画像:図表2
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出所:(平均賃金)’Labour market overview, UK: November 2025新しいウィンドウ’、(消費者物価指数)’CPI ANNUAL RATE 00: ALL ITEMS 2015=100新しいウィンドウ

また、このところの低賃金業種における雇用減少への最低賃金引き上げの影響について、低賃金委は、最低賃金労働者の多い地域では雇用の減少が他地域よりむしろ緩やかであることなどを挙げ、最低賃金の引き上げは雇用に大きな影響を及ぼしていないと分析、社会保険料やエネルギーコストが影響している可能性を指摘している。

なお、統計局が10月末に公表した、労働者の賃金水準の分布に関するレポート(注5)によれば、2025年4月時点で賃金中央値の3分の2(時間当たり11.97ポンド)を下回る低賃金労働者が労働者全体に占める比率は2.5%で、調査が開始された1997年以降で最も減少している。一方、全国生活賃金額近辺(ピーク部分)の労働者の比率は、2024年以降増加している(図表3)。年々の最低賃金額の引き上げや、2024年に適用年齢の下限が23歳から21歳に引き下げられたこと、さらに民間の運動である「生活賃金」(後述)との額の差が狭まってきたことなどの影響で、全国生活賃金額近辺の賃金水準の労働者が増加している可能性が推測される(注6)

図表3:時間当たり賃金額による最低賃金近辺の労働者比率 (単位:%)
画像:図表3
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注:各年とも4月時点。表示額の上下20ペンスの労働者比率を平均したもの。なお、賃金額は時間外賃金を除く。

出所:Office for National Statistics "Low and high pay in the UK: 2023新しいウィンドウ”、 "Low and high pay in the UK: 2024新しいウィンドウ”、 "Low and high pay in the UK: 2025新しいウィンドウ

生活賃金は最低賃金を超える引き上げ

前後して、10月下旬には生活賃金(living wage)が改定された(注7)。生活賃金は、最低限の生活水準を維持するために必要な生活費に基づく賃金額を算出して、雇用主に支払いを求める運動で、市民団体や教会、労働組合などが参加して設立されたLiving Wage Foundationが推進を担っている。最低賃金制度とは異なり、雇用主は自主的に参加することで「生活賃金雇用主」としての認証を受けることができる。Living Wage Foundationによれば、認証雇用主は現在1万6000組織超で、労働者50万人近くが生活賃金の適用を受けているとされる。

生活賃金額は、住居費や物価の格差を考慮し、ロンドンとそれ以外の地域で異なる額が設定されている。10月下旬に発表された今年の改定額は、ロンドンで時間当たり14.80ポンド(0.95ポンド、6.9%増)、ロンドン以外で13.45ポンド(0.85ポンド、6.7%増)で、最低賃金額を上回る上昇率となった(図表4)。改定額の算定を担ったシンクタンクResolution Foundation(注8)は、主に生活必需品・サービス(食品、水、ガス、電気など)を中心とする物価の高止まりと、前年に実施した算出方法の変更(注9)の影響により、引き上げ幅が決定されたとしている。なお、Living Wage Foundationの試算によれば、今回の改定により、法定最低賃金と生活賃金の差額はフルタイム労働者で年間2418ポンド、ロンドンでは5050ポンドとなる。

図表4:生活賃金・最低賃金額の推移 (単位:ポンド)
画像:図表4
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参考資料

参考レート

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