介護業における「公正賃金協定」を導入へ

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2025年12月

政府は9月、介護業における賃金の最低基準などを設定する制度(「公正賃金協定」制度)の導入について、パブリックコンサルテーションを開始した。専門の公的機関を設置のうえ、業界の労使団体等との協議を通じて合意を図ることを想定するもので、交渉内容には賃金・労働条件のほか、訓練・人材育成など広範な内容を含めることを提案している。

賃金・労働条件の改善でより多くの国内労働者の就業を

介護労働者をめぐっては、多くが最低賃金レベルの賃金水準で、雇用形態も相対的に不安定であることなどが、高い離職率と労働力確保の困難さを招いてきたとされている。代替的な労働力として、ここ数年は外国人介護労働者の受け入れが緩和されたものの、流入者の急増(とりわけ家族の帯同)や不正な事業者による制度の濫用などから、この7月には受け入れが停止されることとなった。政府は、国内労働者の就業の拡大を図るには、介護業をより魅力あるものとする必要があるとの考え方から、その取り組みの中核として、業界内の賃金水準や労働条件の最低基準などを労使協定にまとめ、法的拘束力を持たせる「公正賃金協定」(fair pay agreement)の制度を導入することとした(注1)

コンサルテーション文書(注2)で示されたイングランドに関する政府案(注3)は、協議組織(Adult Social Care Negotiating Body)を公的機関として設置し、事務局が協定案を作成のうえ、労使同数から成る代表(注4)による交渉や、介護サービスの提供主体である地方自治体の意見も踏まえつつ、合意を図ること想定している。協定が対象とする労働者は、専らまたは主に高齢者や障害者向けの介護の提供に携わる18歳以上の被用者(自営業者、家族などによるインフォーマルな介護の従事者は除外)で、交渉内容には賃金・労働条件のほか、訓練・人材育成やキャリア、組織文化(差別、ハラスメント等)、手当等(交通費補助など)などを含めることが提案されている。また、交渉は毎年行うとする案が示されているが、交渉事項は国務大臣からの付託の内容にもより、年によって異なり得る(注5)。交渉期間については、6カ月間が目安として示されている。

協議機関が協定の内容で合意に達した場合、国務大臣がこれを承認すれば規則として法制化され、適用対象となる労働者の報酬や雇用条件を規定する。これには、介護労働者の雇用契約の更新を含むが、協定における賃金・労働条件等の内容が既存の雇用契約を下回る労働者については、既存の雇用契約が維持されることとされている。このほか、必要に応じてガイダンスや実施準則(code of practice)等による周知が図られる。また、協議機関が合意に達することができず、議論が膠着状態にあると労使代表の過半数が認める場合には、第三者による紛争処理を受けることとされ、政府案は一般的な労使紛争と同様、助言・斡旋・仲裁局(ACAS)がこれに当たることを提案している。

「公正労働機関」が協定遵守を取り締まり

介護事業者による協定の遵守に関する取り締まりは、新たに設置が予定されている公正労働機関(Fair Work Agency)(注6)が実施を担う。取り締まりにあたっては、最低賃金制度と同種の手法(未払い賃金の支払い命令、罰金、記録保持義務等の適用等)が想定されている。

初回の協定の発効は2028年を予定しており、政府はこれに関連して、地方自治体が賃上げによる費用増に対応するための予算として5億ポンドを確保している。しかし、業界団体や地方自治体、シンクタンクなどからは、実際の費用増に対応するには到底足りないとして批判的な声も聞かれる(注7)

参考レート

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