労働力不足職種への外国人受け入れ制度を見直しへ

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2025年12月

移民政策に関する諮問機関は10月、検討を進めている労働力不足職種への外国人労働者受け入れに関する制度改正について、中間報告をまとめた。職種の見直しでは、現在受け入れ可能な基準に満たない中技能レベルの職種について、産業戦略における重要性などを踏まえて82職種を候補として選定。また政府の方針を受けて、国内労働者の採用・育成プランの提示を受け入れ業種等に求めることや、3年毎のリストの見直し、さらに政府がこのルートによる入国者に永住資格の申請を認めない場合には、受け入れ期間を最長5年とすることなどを提言している。

労働力不足職種リストへの掲載に国内労働者の採用・育成プランを要件化

EU離脱後、労働力不足職種リスト(注1)に掲載された職種への外国人労働者の受け入れについては、給与水準要件の引き下げによる優遇措置が採られてきた。政府が2025年5月に公表した移民制度改革に関する白書(注2)は、給与水準の引き下げは国内労働者の採用を一層困難にし、外国人労働者への依存を強める悪手としてこれを批判、制度を見直す方針を明らかにし、7月には、新たに導入する「臨時労働力不足職種リスト」(Temporary Shortage List)への掲載職種の選定や受け入れ条件の検討を、諮問機関Migration Advisory Committee(MAC)に諮問していた。MACはこれを受けて、検討は2段階で行うとの方針を示し、第1段階では職種候補の選定や制度概要の検討を、さらに第2段階で関係省庁や業界などからのエビデンスに基づく職種の絞り込みを、それぞれ実施するとした。今回公表された中間報告は、このうち第1段階の検討結果をまとめたものだ。

職種候補の検討にあたっては、政府の掲げる外国人の流入削減や国内労働者の活用拡大と、経済成長や生産性向上などに必要な労働力の確保の間のバランスが考慮された。現行の労働力不足職種リスト(注3)の掲載職種や、政府が6月に公表した「産業戦略」(注4)における重点分野(先進的製造業、クリーンエネルギー産業など8分野)(注5)及び重要インフラ整備に重要となり得る職種(注6)などを基に、現在原則として受け入れが認められていない中程度の技能レベル(資格枠組みにおけるレベル3~5相当(中等教育修了~学位未満))の職種に対象範囲を限定、さらに各職種の就業者数の50%以上が重点分野で雇用されていることを原則として、82職種を選定した(文末参考表参照)。分野別には、クリーンエネルギー関連が43職種、インフラ整備関連が30職種、先進的製造業関連が20職種などとなっている(分野による重複あり)。

制度運用については、各職種のリストへの掲載期間は3年を上限とし、原則3年ごとにリストの見直しを行うことを提言している。リストへの掲載には、重点分野の業種や関係省庁が作成する国内労働者の活用や訓練投資に関するプラン(後述)において、各職種の受け入れの必要性を示すことが求められるが、リストの見直しの際には、プランに基づく取り組みの進捗を評価の上、掲載継続の当否を判断するとしている。また、このルートを通じた入国者に永住資格の申請を認めるか否かは政府の判断によるが、認めない場合は、ビザの有効期間は3~5年が妥当であるとして、5年を超える延長は提言しないと述べている(注7)。ただし、より高レベルの専門技術者相当の職種(レベル6以上)へのビザの転換については、労働者の向上を促す観点から認めることに賛同している(注8)

第2段階では、労働力不足の有無の確認や、重点分野の関連業種や関係省庁からのエビデンスなどを通じて、さらなる職種の絞り込みが行われる。各重点分野を所管する各省庁は、関連の業界団体との協力により、国内労働者の活用の最大化や訓練投資、また労働者の搾取の防止策などを盛り込んだ文書「ジョブ・プラン」(Jobs Plan)の作成を主導することとされ、リストに掲載を希望する職種がある場合は、この文書において言及することが求められる。

報告書の公表からほどなく、第2段階の中核となる作業として開始されたエビデンスの募集(注9)では、各省庁と業界団体のそれぞれに対して、職種毎の不足状況やその特徴、改善に向けた取り組みの状況等に関するエビデンスの提供を求めている(図表)。MACは独自の分析も交えて検討を進め、2026年7月には最終的な結論を示すとしている。

図表:第2段階のエビデンス募集(業界団体向け)の主な内容
労働力不足の状況とその要因
  • 背景(職種の特徴等)
  • 労働力不足の状況(期間、地域的特徴の有無、未充足の求人の規模、不足の集中度)
  • 要因(充足が困難な理由と採用・慰留の障害、教育制度における障害の有無、職業に固有の要因(職業の性質、賃金水準、労働条件、就業場所等))
雇用動向と5~10年後の予測
  • 労働力需給と不足の試算(Skills Englandの予測とは異なる(または追加の)データを使用する場合、その手法や結果の相違)
  • 需要変動の要因(需要増は労働者数の維持のためか、職業/産業の拡大に対応したものか)
  • 地域差はあるか
  • 労働力需給に影響している政策や政府の方針は何か
  • 労働供給には季節性はあるか
労働力不足に対する取り組み
  • 過去の取り組み(充足の困難さを克服するための特定の障害に関連して業界が行った取り組み、国内労働者の訓練のために業界が行った取り組み、業界内の訓練の開発に対する雇用主の関与、取り組みの効果とエビデンス)
  • 今後の取り組み(今後の取り組みのプランと過去の取り組みとの相違点、意図された効果を確保する方法とその計測手法、想定している取り組みの期間、資金の支出や新規コースの募集開始や増員したコースの開始や就職時期)
  • 結論(リストに掲載されない場合の影響、なぜ外国人労働者の受け入れで対応すべきか、国内・国外労働者の搾取リスクを管理する方法)

出所:Migration Advisory Committee 'Guidance for representative bodies新しいウィンドウ'より抜粋。

参考:臨時労働力不足職種リストの職種候補と過去3年間のビザ発行数
職種
コード
職種 2022/23 2023/24 2024/25
1243 物流管理者 44 83 84
1257 レンタルサービス管理者・経営者 2 3 1
1258 コンサルティングサービス役員 5 7 51
3111 実験技師 85 94 57
3112 電気・電子技師 65 89 65
3113 エンジニアリング技師 280 467 341
3114 建設・土木技師 8 37 35
3115 品質保証技師 77 123 120
3116 計画・工程・生産技術者 88 127 116
3119 他に分類されない科学・エンジニアリング・生産技術者 57 73 25
3120 CAD・描画・設計技術者 136 100 96
3131 ITオペレーション技術者 90 209 77
3132 IT利用者サポート技術者 216 296 112
3133 データベース管理・ウェブコンテンツ技術者 88 177 40
3213 医科・歯科技師 64 54 161
3411 芸術家 127 48 16
3412 著述家・ライター・翻訳家 68 61 37
3413 俳優・エンターテイナー・司会者 12 39 13
3414 ダンサー・振付師 9 7 5
3415 音楽家 8 15 7
3417 写真家、視聴覚・放送設備オペレーター 44 40 35
3421 インテリアデザイナー 58 69 33
3422 衣服・ファッション・アクセサリーデザイナー 40 47 19
3429 他に分類されないデザイン職 34 41 44
3512 船舶・ホバークラフト海技士 133 224 407
3520 法務補助職 51 63 16
3532 保険引受人 60 59 47
3533 金融・会計技術者 183 176 64
3534 顧客口座管理者 256 281 180
3541 見積人・査定人・鑑定人 41 39 23
3543 プロジェクト管理補助 91 91 123
3544 データアナリスト 132 142 251
3549 他に分類されないビジネス補助職 243 261 107
3552 営業上級職 548 858 572
3554 マーケティング補助職 970 1,408 636
3556 営業アカウント・事業開発マネージャー 1,519 1,162 895
3571 人的資源・労務管理職 255 280 175
3573 情報技術トレーナー 5 6 13
3581 基準・規制検査者 58 85 5
3582 安全衛生管理者・担当者 63 72 40
4121 与信管理者 - - 9
4122 経理・給与管理・給与計算担当者 - - 120
4129 他に分類されない財務管理職 - - 47
4132 年金・保険事務補助職 - - -
4159 他に分類されない事務管理職 - - 72
4214 会社秘書・事務職 12 27 17
5211 薄板工 50 86 43
5212 金属プレート工、鍛造工、鋳型工および関連職 78 223 1
5213 溶接工 257 587 251
5214 配管工 8 122 19
5221 金属工作機械工 55 85 41
5223 金属加工機械設置・整備工 260 200 159
5224 精密機械製作・修繕工 10 17 1
5225 空調・冷蔵機器設置・修繕工 15 17 17
5231 輸送用機械技師・機械工・電気工 215 736 400
5234 航空機整備工・関連職 13 36 25
5235 船舶ぎ装・修理工 5 42 77
5241 電気機械技師・整備工 57 163 91
5242 通信・関連ネットワーク架線・修繕工 278 208 120
5243 テレビ・ビデオ・音響機器技師・修繕工 - 4 3
5244 コンピュータ・周辺機器設置・修繕工 31 90 19
5245 保安システム設置・修繕工 15 27 29
5246 電気技師・整備工・修繕工 36 71 27
5249 他に分類されない電気・電子関連職 37 68 313
5250 熟練金属・電気・電子工監視員 19 16 21
5311 鉄筋工 50 25 16
5312 石工および関連職 24 100 11
5313 れんが積み工 109 450 163
5314 屋根ふき工 8 164 45
5315 配管工・暖房・換気設備敷設・修繕工 25 74 32
5316 大工・指物師 351 459 216
5319 他に分類されない建設・建物関連職 90 475 107
5321 左官 28 299 28
5322 床張り工・壁タイル張り工 9 129 32
5323 塗装工・装飾工 22 73 37
5330 建設・建築監督者 50 103 75
5441 ガラス・セラミック製造・装飾・仕上げ工 4 - 1
8113 化学薬品および関連加工設備オペレーター - - 9
8133 エネルギープラントオペレーター 17 7 12
8134 上水・下水プラントオペレーター 5 8 3
8143 検査工・試験工 - - 9
9249 他に分類されない基礎的販売職 - - 1

注:職業名はMAC資料からの仮訳。各年度の発行数は、職業分類の改定に伴い一部の職種で新旧職種間の換算を行っており、実際の発行数とは異なる場合がある。また2024年度については、2024年第2・第3四半期のデータの不足から、2024年第4四半期~2025年第2四半期の3期分のデータを年換算している。

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