EU離脱以降の外国人労働者の流出入と影響
EU離脱後の急激な外国人流入数の拡大を受けて、政府が実施した各種の流入削減策により、就学や就労を目的とする入国者が急速に減少している。この間のEU域外からの労働者の顕著な増加や、EUからの労働者の減少により、業種ごとの労働者の出身別の構成や賃金水準に変化が生じていると見られる。
純流入数は前年から約7割減少
統計局が11月に公表した外国人等の流出入データによれば、流入者数から流出者数を除いた純流入数は、2025年6月までの12カ月間に20万4000人(流入者数89万8000人、流出者数69万3000人)で、前年(64万9000人)から約7割減少した。EU離脱以降、EU域外からの外国人の流入拡大が続いていたが、2023年3月の純流入数94万4000人をピークに、流入者数の急速な減少と流出者数の増加が並行して生じている。全体の純流入数は、EU離脱前の平均的な水準に戻ったものの、EU出身者は2022年半ば以降、流出が流入を上回って推移しており、非EU出身者のみが増加している。
図表1:出身(国籍)別流出入者数の推移

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注:1年以上の滞在(予定)者に関する推計。各期のデータは直近12カ月(YE:year end)のもの。またPは暫定値、Rは改定値。
出所:Office for National Statistics 'Long-term international migration: Year Ending June 2012 to Year Ending June 2025
'
介護労働者やその家族の流入が減少
非EU出身者の増加の大半は、就学または就労目的の入国者による。このうち就学目的の純流入数は、2023年6月の38万2000人をピークに2025年6月には14万4000人に、また就労目的の純流入数は2023年12月の43万人から同じく2025年6月には10万4000人に、それぞれ減少している(図表2)。これには、2024年の制度改革において、就学・就労目的による入国者の多くを占めていた家族帯同の多くを禁止(注1)したことや、専門技術者の受け入れに関する給与水準要件の引き上げなどが実施されたことが影響していると見られる。
図表2:非EU出身者の入国目的別純流出入数の推移

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注:「その他」には、人道的受け入れ(ウクライナ、香港等)、難民申請者を含む。
出所:同上
内務省の公表する入国許可発行数のデータによれば、就労関連では保健・介護ビザの減少がとりわけ顕著だ(図表3)。EU離脱後の労働力不足を補うことを目的とする2022年の緩和措置により、介護労働者の受け入れが可能となって以降(注2)、保健・介護ビザの発行数が急速に増加した。しかし、主申請者以上に家族が多くを占める状況を受けて、2024年の制度改正で家族帯同が禁止されることとなり、さらにこの7月の制度改正では、介護労働者自体についても新規受け入れが停止されるに至った。これらを受けて、保健・介護ビザの発行数は、2023年第3四半期の10万4160人から2025年第3四半期には1万1689人とおよそ9分の1に縮小している。
図表3:専門技術者、専門技術者(保健・介護)の主申請者・家族向け入国許可の推移

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出所:Home Office 'Immigration System Statistics, year ending September 2025
' (Entry Clearance Visas - Applications and Outcomes)
労働者の出身別の構成や賃金水準に変化も
外国人労働者の流出入の変動は、業種ごとの労働者の出身別の構成にも影響を及ぼしていると見られる。歳入関税庁の公表するデータから、2024年末までの5年間における出身別労働者数の変化を見ると、EU域外の労働者が186万6100人増加しているのに対して、イギリス人労働者の増加は2万4100人に留まり、EU域内からの労働者については32万1600人減少している。非EU労働者は業種を問わず増加しており、特に保健福祉業、事務・補助サービス(注3)、宿泊・飲食業、卸売・小売業などの相対的に賃金水準の低い業種で増加が顕著だが、このうち保健福祉業を除く3業種については、EU労働者や国内労働者の減少が見られ、非EU労働者への転換が生じたことが推測される(図表4)。
図表4:業種別・出身別労働者数の変化(2019年12月~2024年12月)

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出所:HM Revenue and Customs 'UK payrolled employments by nationality, region and industry, from July 2014 to December 2024
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出身別労働者の相対的な賃金水準にも変化が見られる(図表5)。イギリス人労働者は従来、EU労働者に比して高い賃金水準にあったが、EU離脱に伴う制度変更が行われた2021年を挟んで、この関係が逆転しており、これには上述の低賃金業種におけるEU労働者の減少も一因となっていることが推測される。一方、非EU労働者については2015年以降、イギリス人労働者より高い賃金水準で推移してきたが(注4)、EU離脱に伴う制度変更(受け入れ可能な職種レベル・給与水準の引き下げ等)を経て、2022年末にはほぼ同水準となっている。
図表5:出身別賃金中央値の変化

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出所:同上
注
- 就学目的の場合、大学院以上のコース参加者のみに家族帯同を許可。また就労目的の入国では、保健・介護ビザ(後述)による入国者の家族帯同を禁止。(本文へ)
- 従来、一般の介護労働者は職種レベルが要件に満たないとされ、上級介護労働者(senior care worker:管理責任を職務に含む介護労働者)のみ受け入れが認められていたが、労働力不足職種に掲載することで、2022年に受け入れ可能となった。(本文へ)
- 労働者派遣業を含むと見られ、派遣された労働者が実際に従事している業種は不明。(本文へ)
- 外国人労働者の流入削減策の一環として、2010年以降、専門技術者として受け入れ可能な職務レベルの下限が、従来の中等教育修了相当(全国資格枠組み(NQF)レベル3)から2012年には高等教育修了相当(同レベル6)へと段階的に引き上げられた。離脱後の制度では、労働力不足への懸念から一旦レベル3への緩和が行われたものの、この7月の制度改正により再びレベル6に引き上げられることとなった。(本文へ)
参考資料
- Gov.uk
、Office for National Statistics
各ウェブサイト
2025年12月 イギリスの記事一覧
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