ライドシェアのギグ・ワーカーによる「労組」結成が可能に
 ―カリフォルニア州

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  • 国別労働トピック:2025年9月

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は8月29日、ライドシェアの運転業務に従事するギグ・ワーカーに労働組合(ドライバー組織)の結成と「団体交渉」を認める州法「TNCドライバー労使関係法(AB-1340法)」の制定について、プラットフォーム企業側と労働者側の当事者双方が合意に達したと述べ、その成立を支持すると発表した。同法案にはプラットフォーム企業側(ウーバーテクノロジーズ社及びリフト社)が反対していたが、自動車事故保険料の企業負担軽減を条件に賛成に転じた。労働者側もこの条件を受け入れたことから、同法案が成立する見通しとなった。ドライバーは雇用労働者ではなく個人請負労働者として扱われるが、報酬や福利厚生などについて、企業側と「団体交渉」を行えるようになる。こうした州法の制定は、マサチューセッツ州に次ぎ全米で2例目となる。

「Prop22」で「個人請負」に分類

カリフォルニア州で運転業務に従事するギグ・ワーカーは、2020年11月の住民投票の結果を受けて成立した「Prop22」といわれる州法に基づき、個人請負労働者として分類されることになった。同州では同年1月施行の「AB-5法」により、ギグ・ワーカーを雇用労働者に分類しやすくして保護する方向性を強めていたが、会社側が「Prop22」の制定を推進し、ライドシェアなどの運転業務をその適用除外とした。

その後、「Prop22」の有効性をめぐって司法上の争いが続いたが、2024年7月、州最高裁判所は「Prop22」を合法とする判断を示した(注1)。こうした中、ギグ・ワーカーを支援する労働組合などは、ドライバーらが何らかの形で、その報酬や勤務条件、福利厚生などを企業側と交渉できる新たな仕組みを検討していた。

「TNCドライバー労使関係法(AB-1340法)」が成立へ

連邦法である全国労働関係法(NLRA)において、労働組合を結成できるのは雇用労働者のみで、個人請負労働者とされるギグ・ワーカーにその権利はない。このため、同州では後述のマサチューセッツ州法を踏まえ、連邦法とは異なる枠組みで、ギグ・ワーカーがプラットフォーム企業と交渉、協議する仕組みを取り入れることとした。

このたび成立する見通しになったカリフォルニア州の「交通ネットワーク会社(TNC)(注2)ドライバー労使関係法(Transportation Network Company (TNC) Drivers Labor Relations Act、通称AB-1340法)」(注3)は、ギグ・ワーカーとしてライドシェア業務に従事するTNCのドライバーに対して、TNCドライバー組織(TNC driver organizations)を結成し、その活動に参加し、選任した代表者を通じて会社側と交渉する権利、相互扶助や保護を目的とした共同活動を行う権利を付与すると規定した。

TNCドライバー組織が州の唯一の交渉代表(認定ドライバー交渉組織=Certified driver bargaining organization)として正式に認定されるには、次の要件が求められる。まず、「アクティブ」なTNCドライバーの少なくとも30%以上の支持を得る必要がある。「アクティブ」とは、過去6カ月間に州内で20回の乗車を完了した者とする。競合する組織にも30%の支持がある場合、または一方の組織に対して30%のドライバーが代表を望まない場合、その証拠の提出を条件に、州は「代表選挙」を実施し、過半数の支持を得た組織を交渉代表とする。

なお、TNCは四半期ごとに、「アクティブ」なTNCドライバーのリスト(氏名、運転免許証番号、連絡先など)を、州の公共労使関係を監督する「公共雇用関係委員会(Public Employment Relations Board、PERB)」に提出する。「アクティブ」なドライバーの少なくとも10%の支持を得たドライバー組織は、PERBからリストの提供を受け、組織化に活用できる。

AB-1340法は、ドライバー組織とプラットフォーム企業の両者に対して、誠実な交渉を義務付けるとともに、「不当行為(Unfair practice)」を禁じる。例えば、TNCがそのドライバーに組織の結成、参加、支援を控えるよう求めることや、組織のメンバーに対して仕事上の差別を行うことなどを禁じている。

事故保険補償の企業負担軽減と引き換えに

会社側がこうした「労働組合」の結成や「団体交渉」を認めたのは、プラットフォーム企業に義務づけられた自動車保険の事故保険料の補償額を、別の州法案(SB-371)で減額される見通しになったことによる。

既存の州法では、企業に対して、無保険または保険料不足のドライバーが事故に遭った際の保険料として、事故1件あたり100万ドルの補償を義務づけていた。会社側はこれを、ドライバーと乗客双方のコストを膨らませると批判していた。州法案SB-371は、最低補償金額を1人あたり6万ドル、事故1件あたり30万ドルへと引き下げた。労働者側がこの条件を受け入れたことで、上述したAB-1340の成立に会社側が合意し、両法案が成立する見込みとなった。

ギャビン・ニューサム・カリフォルニア州知事は「労働者と企業の間の歴史的な合意であり、カリフォルニア州だけが実現できるものだ。労働界と産業界はともに歩み、違いを乗り越え、何百万人もの州民にとってライドシェアをより手頃な価格にしながら、何十万人ものドライバーの力を高める共通の基盤を見いだした」とコメントした(注4)

AB-1340の制定を推進した国際サービス従業員労働組合(SEIU)カリフォルニア支部のティア・オール事務局長は、「10年にわたり組織化の闘いを続けてきたギグ・ワーカーたちは、歴史に名を刻んだだけでなく、企業の貪欲さではなく、労働者のニーズを中心とした未来を創造する方法を私たちに示してくれた」と労組結成に向けたギグ・ワーカーの取り組みを讃えた(注5)

ウーバーテクノロジー社のカリフォルニア州公共政策担当者のラマーノ・プリエト氏も今回の合意を「乗客のコストを下げるとともに、ドライバーの発言力を強化するという今回の妥協は、業界、労働者、(州議会)議員が協力し、現代の人々の生活、働き方、移動を反映した真の解決策を提供できることを示した」と評価している(注6)

両法案は9月9日までに、州議会上下両院で可決された。今後、州知事の署名を経て成立する。ブルームバーグ通信によると、同州には80万人以上のギグ・ワーカーがライドシェアドライバーの職務に従事している。

前例のマサチューセッツ州法

運転業務に従事するギグ・ワーカーに「労働組合」の結成を認めたのは、全米でマサチューセッツ州が最初である。同州では2024年11月5日の住民投票で、個人請負労働者として運転業務に従事するギグ・ワーカーに対して、プラットフォーム企業と賃金や労働条件、福利厚生について「団体交渉」する権利を認める法案を賛成多数で可決した(賛成54.08%、反対45.92%)(注7)。SEIU支部(32BJ)などが州法制定を支援した。

同法案では、マサチューセッツ州における「アクティブ(過去6カ月間に平均値(中央値)以上の回数の乗車を完了すること)」なライドシェア運転手の25%の署名を集めれば労働組合(ドライバー組織/Driver Organization)を結成できると規定した。認められた組織は、企業との交渉においてドライバーを代表し、自発的な組合費を独占的に徴収する権利を有する。一方、会社側に対して、共同で交渉できる協会(Associations)を結成できるよう定めた。

両者による団体交渉協定(Collective Bargaining Agreement)は、前四半期に少なくとも100回の乗車を完了したドライバーの少なくとも過半数と、州労働長官によって承認される必要がある。協定の有効期間は3年間としている。

ブルームバーグ通信によると、マサチューセッツ州とカリフォルニア州に続き、複数の州が現在、同様の法律を検討している。

「個人請負労働者」としての権利保護の動き

近年、米国のいくつかの地域では、ギグ・ワーカーの個人請負労働者としての法的地位を変えずに、その賃金(報酬)・労働条件、福利厚生などの権利を確保する動きがみられる(注8)。例えば、ニューヨーク市は2021年2月にライドシェア(配車)サービス、2023年7月に食品・料理の配達業務(フードデリバリーサービス)に、それぞれ従事するギグ・ワーカーを対象とする「最低報酬」を制定した(注9)。ワシントン州シアトル市も2021年1月にライドシェア、2024年1月に、フードデリバリーサービスのギグ・ワーカーをそれぞれ対象にした「最低報酬」を定めている(注10)

また、ワシントン州では2024年7月、ライドシェアサービスのドライバーに対して、同州の有給家族・医療休暇(Paid Family and Medical Leave、PFML)を試行的に適用する制度を導入している(注11)

参考資料

  • カリフォルニア州知事室、国際サービス従業員労組(SEIU)、シアトル市、ニューヨーク市長室、ブルームバーグ通信、ポリティコ、マサチューセッツ州州務長官室、ロイター通信、Ballotpedia、各ウェブサイト

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