ギグ・ワーカーを個人請負労働者とする州法を合憲と判断
 ―加州最高裁

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2024年8月

カリフォルニア州最高裁判所は7月25日、アプリを通して単発でライドシェアやフードデリバリーの業務に従事する「ギグ・ワーカー」を個人請負労働者として扱うとした州法「プロポジション22(Prop22)」を有効とする判断を示した。同州は「個人請負」の定義を厳格化し、労働法により雇用労働者としての権利を保護する者の範囲を拡大する州法(ギグエコノミー規制法)を2020年1月に施行した。これに対してウーバー社などが主導して、ギグ・ワーカーを個人請負労働者として扱う州法(Prop22)が住民投票によって制定された。その後、Prop22の合法性をめぐり、訴訟が続いていた。

「個人請負」か「雇用労働者」か

スマホアプリを通して単発で輸送や配達等の業務に従事する「ギグ・ワーカー」をめぐっては、米国各地で、「ギグ・ワーカー」を個人請負労働者に分類して、労働法で最低賃金や残業代、失業保険などを保護する対象から外すかどうか、外す場合、労働に従事する者としての権利や保護をどのように確保するのかが、議論されている。

カリフォルニア州では2020年1月に、州法AB5(通称ギグ法、ギグエコノミー規制法)を施行した(図表1)。これにより、個人請負労働者の定義を厳格化し、ギグワーカーの多くを州労働法で保護する対象にしやすくした。具体的には、①契約上も実際も、業務手法について使用主体から管理や指示を受けていない、②使用主体の通常業務の範囲外の職務に従事している、③遂行した業務と同じ性質の独立、確立した仕事に、慣習的に従事している――という3つの条件に当てはまらない者は雇用労働者とみなし、州労働法による保護の対象にする規定を設けた。

図表1:カリフォルニア州のギグ・ワーカー保護に関する州法制定と訴訟の経緯
年月 経緯
2020年1月1日 ギグ・ワーカーを雇用労働者として扱いやすくする州法(AB-5法、ギグ法)を施行
2020年11月3日 運転・配達のギグ・ワーカーを個人請負と扱う州法(Prop22)を住民投票で可決。
2021年8月20日 州高等裁判所(第一審)が「Prop22」を違憲と判決
2023年3月13日 州控訴裁判所が州高裁判決を覆し、「Prop22」の大部分を合憲と判決
2024年7月25日 州最高裁判所が「Prop22」を合憲と判決

出所:現地報道等より筆者作成

これに対してギグ・ワーカーを用いてサービスを提供するプラットフォーム企業のウーバー・テクノロジー社(以下、「ウーバー社」)やリフト社などは、「ギグ法」の対象から、ライドシェアやフードデリバリーに従事するギグ・ワーカーを除外し、個人請負として扱うことを認める法律の制定を要求。こうした企業が主導する形で「Prop22」という法案がつくられ、2020年11月に行われた住民(州民)投票で賛成多数により可決された。

「Prop22」ではギグ・ワーカーに対する一定水準の報酬の支払い、労働時間の制限、健康保険や傷害保険への加入なども定めている。だが、国際サービス従業員労組(SEIU)カリフォルニア州評議会などは、労働者を保護する権限を会社側に委ねるのは違憲だなどとして、同法の無効化を求めて州高等裁判所(第一審)に提訴。カリフォルニア州アラメダ郡の高等裁判所(第一審)は2021年8月20日、ギグ・ワーカーを個人請負として扱うことを認める州法について、州憲法に反し違憲とする判決を出した。判決は、州憲法違反の理由として、労働者を労働者災害補償保険の対象として保護する、立法府の権限を制約することなどをあげた。

ウーバー社や業界団体などはこれに反発して控訴した。州控訴裁判所は2023年3月、第一審の判断を覆し、「Prop22」の大部分を合憲とする判決を下した。訴訟は州最高裁判所に持ち込まれ、2024年7月25日に判決が下された。州最高裁判決は、「Prop22」は労働者保護に関する議会の憲法上の権限を不当に侵害するものではないとの見解を示し、その合憲性を認定。3年以上に及ぶ法廷闘争がひとまず決着した。

ギグ・ワーカーの権利をどう保護するか

以上の経緯によりギグ・ワーカーに対する保護のあり方をめぐって大きな注目を集めた「Prop22」の法廷闘争は、他の州でも類似の法案が検討されるきっかけとなった。

現在、米国のいくつかの州や市の中には、ギグ・ワーカーを個人請負事業主として扱いながらも、その労働条件や安全性を確保するため、最低報酬や有給休暇の付与などを州法や条例等で定める動きが生じている。

ニューヨーク市は、ライドシェア(配車)サービスに従事するギグ・ワーカーを保護する規則を2019年2月1日から施行した。具体的には、1日あたり1万回以上運行する認可企業(ウーバー、リフトの両社などが該当)を対象とし、1分及び1マイルあたりの最低報酬の提供を義務づけた(注1)

また、食品や料理を宅配するギグ・ワーカーを保護する法律を2021年9月23日に市議会で可決した。同法のうち、透明性、柔軟性確保に関する条項(配達の移動距離、推定時間、ルート、報酬、チップ等の情報の事前開示、ワーカーによる1回あたりの最長移動距離の指定、特定の橋梁やトンネルの通行を拒む権利の保障など)は2022年4月22日に施行された。最低報酬に関する条項は2023年7月12日に施行されたが、プラットフォーム企業側が提訴したため、訴訟期間中は同条項の施行を停止し、州最高裁判所が同年11月22日の判決で企業側の主張を退けたため2023年12月4日から適用された。

ワシントン州シアトル市も、ギグ・ワーカーに最低報酬を確保する条例を2024年1月13日に施行した(注2)。同市では、有給病気休暇の提供をアプリ企業に義務付ける条例も2023年5月1日からフードデリバリーのドライバーに対して、2024年1月13日からは他のギグ・ワーカーに対して施行している。

さらに、現地報道によると、ニューヨーク州では2023年11月2日、マサチューセッツ州では2024年6月27日に、それぞれ州当局とウーバー社及びリフト社が、ギグ・ワーカーを個人請負労働者として扱いつつ、最低報酬の確保や福利厚生を提供する制度の導入で合意した。これまで両州当局は、両社がドライバーを個人請負事業主に分類することで、州法で定めた最低賃金支払い義務などを回避していると主張し、提訴していた。今回の合意により、会社側が和解金を支払うとともに、上述の新制度を導入する見込みとなった。

マサチューセッツ州は、ギグ・ワーカーを個人請負労働者として扱う州法の制定をめぐる住民投票を2024年11月3日に実施する。あわせて、国際サービス従業員労組(SEIU)支部が主導し、ギグ・ワーカーに労働組合結成の権利を与える州法制定に関する住民投票も行う予定である。

参考資料

  • 日本貿易振興機構、ブルームバーグ通信、ロイター通信、各ウェブサイト

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