連邦職員大規模削減の大統領令を当面容認
 ―連邦最高裁

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連邦最高裁判所は7月8日、大統領令による連邦政府職員の大規模な人員削減方針を差し止めた下級審の判断を、訴訟が続く間は取り消すとの判断を示した。これにより、トランプ政権は当面の間、連邦政府機関における人員削減を進められることになった。このほか、連邦政府職員の人事労務管理や労使関係をめぐり、連邦政府と労働組合等の間で、職員の試用期間や政治任用の拡大、団結権・団体交渉権の適用除外の拡大などの司法上の争いが続いている。

「RIF計画」と労組の反発

トランプ大統領は2月11日に出した大統領令(注1)で、連邦政府機関の効率化や生産性の向上を徹底的にはかるため、各機関の長に対して大規模な人員削減(Reductions In Force、RIF)を実施するよう指示していた。具体的には、行政管理予算局(OMB)が連邦政府の労働力の規模を削減する計画を策定する。計画策定にあたっては、各機関に対して、職員4人の退職等による削減につき1名を採用するよう求める(適切な移民・法執行・移民関連の職員を除く)。各機関は政府効率化省(DOGE)と協議のうえ、採用する職員を最も必要な分野に配置する。

ホワイトハウスが同日発表した大統領令に関する「ファクトシート」(注2)によると、現役の軍人と郵政公社職員を除く連邦政府職員は240万人にのぼる。2022年度の職員報酬は総額約3,000億ドル(年金除く)としている。大統領令により、こうした連邦政府の規模の縮小・合理化・歳出削減をはかる方針である。

大統領令に対して、連邦政府職員を組織する米政府職員総同盟(AFGE)などは4月28日、「DOGEやOMBによる計画の実施はこれらの組織の権限を越えている」こと、「連邦議会の承認を得ずに、政府機能の再編や職員の大量解雇を無計画に行う」ことは違法だなどと主張し、その取り消しを求め、北カリフォルニア地区連邦地方裁判所に提訴した。同地裁は5月22日、国務省、労働省など19の連邦政府機関に関する原告の主張を認め、大統領令とそれに基づく行政文書の仮差し止め命令を出していた(注3)

連邦最高裁が下級審の判断を覆す

連邦最高裁判所は7月8日、同地裁による差し止め命令を「訴訟継続中は取り消す」との判断を示した。理由の詳細は明示されていないが、「政府側が勝訴する可能性が高い」と述べられている(注4)。これにより、連邦政府は当面の間、人員削減を進めることが可能になった。

地裁命令を覆す最高裁判断に対して、労働組合などは反発している。AFGEは「連邦職員に影響を与える重大な判断であり、現政権がRIFと連邦機関の再編という、物議を醸す計画の推進を可能にした」と批判。そのうえで「AFGEは、これらの人員削減が連邦法に違反するという立場を維持し、継続的な法的訴訟に備える」と主張した。米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)も「トランプ政権と、説明責任を負わないDOGEは、何十万人もの連邦職員の生活に混乱を引き起こし、さらなる苦痛を最高裁判所が加えた」と非難する会長談話を発表している。

人員削減の規模

大統領令や連邦最高裁の判断を受け、それぞれの連邦政府機関は人員削減計画を進めようとしている。各機関によるRIF計画の全貌は明らかになっていないが、CNNが独自取材や他のメディアの情報をもとに7月14日現在でまとめた、全米における連邦政府機関の人員削減規模(すでに解雇された、あるいは解雇の対象になっている職員の数)は、少なくとも約5万1,000人にのぼる(図表1)。

図表1:連邦政府機関の人員削減規模(2025年7月14日時点)(単位:人)
連邦機関名 削減規模(人)
国際開発庁(USAID) 10,000 程度
博物館・図書館サービス機構(IMLS) 75
消費者金融保護局(CFPB) 1,500
グローバルメディア局(USAGM) 1,400
アメリコー(AmeriCorps) 650
住宅都市開発省コミュニティ計画・開発局(HUD-CPD) 780 程度
中小企業庁(SBA) 2,700 程度
教育省(DOE) 1,378
連邦預金保険公社(FDIC) 1,200
保健福祉省食品医薬品局(FDA) 3,500 程度
保健福祉省疾病予防管理センター(CDC) 1,622
地質調査所(USGS) 1,000 程度
国務省(DOS) 1,353
農務省林野部(USFS) 3,475
一般調達局(GSA) 1,000 程度
内国歳入庁(IRS) 7,315
エネルギー省(DOE) 1,000 程度
保健福祉省国立衛生研究所(NIH) 1,200
中央情報局(CIA) 1,200
海洋大気庁(NOAA) 675 程度
財務省財政サービス局(BFS) 169
保健福祉省メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS) 300 以上
国立公園局(NPS) 1,000
サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA) 130 以上
製版印刷局(BEP) 48
国土安全保障省科学技術局(DHS S&T) 10
通貨監督庁(OCC) 73
労働省(DOL) 170
連邦航空局(FAA) 400
国防総省(DOD) 5,400
連邦緊急事態管理庁(FEMA) 200 以上
造幣局(Mint) 8
運輸保安庁(TSA) 243
国土安全保障省市民権・移民局(USCIS) 50 未満
合計 51,224 程度

出所:CNNウェブサイト(Tracking Trump’s overhaul of the federal workforce新しいウィンドウ)より作成

最も多いのは国際開発庁(USAID)で、およそ1万人に達する。トランプ政権はUSAIDを大幅に縮小し、国務省に統合する方針を示している。次いで、内国歳入庁(IRS、約7,300人)、国防総省(5,400人、試用期間中の職員)が多く、保健福祉省食品医薬品局(FDA)、農務省林野部(USFS)がともに約3,500人、中小企業庁(SBA)も約2,700人を数える。

教育省については、トランプ大統領が3月20日に大統領令を出し、その解体と州への権限委譲を進める方針を示した(注5)。この方針に基づき、人員削減を進めている。

なお、退役軍人省(VA)は約47万人の職員のうち約8万人を削減する計画を立てていたが、7月7日に撤回した。ただし、VAでは2025年7月から9月末までに採用凍結等の自然減や早期退職などにより、約1万2,000人が減少する見込みだとしている(このほか2025年1~5月に、同様の要因により、すでに約1万7,000人が減少している)(注6)

同時進行する訴訟の状況

トランプ政権による連邦政府の効率化、人員削減方針等に対して、上述のRIFだけでなく、①試用期間中の職員の解雇、②解雇容易な雇用区分の設定、③国家安全保障に係わる連邦政府職員の団結権・団体交渉権の適用除外、をめぐり、労働組合などが司法上の争いを続けている(注7)

①の試用期間中の職員の解雇をめぐる訴訟が続く中、OPMは6月24日、「連邦サービスの試用期間の強化」に関する改正連邦規則を施行した(注8)。4月24日の大統領令に基づく措置で、各連邦政府機関に対して、試用期間終了前に該当職員と面談し、業績が機関のニーズを満たしているかどうかを評価したうえで、本採用の可否を判断するよう義務づけた。

②に関しては、トランプ大統領が7月17日、政策立案や政策提唱を担当するノンキャリアの職員に対して、「スケジュールG」という、いわゆる政治任用で解雇容易な雇用区分を新たに設ける大統領令を出した。「スケジュールG」の職員は、大統領の政策課題を忠実に実行するために雇用され、任命した大統領の退任に伴い、原則として退任することが期待されるとしている(注9)。なお、キャリア職に対しても、1月20日の大統領令に基づき、OPMが4月23日、「政策・キャリア職(Schedule Policy/Career)」という解雇容易な雇用区分を新たに設ける規則案を公表している(注10)。この雇用区分は第一次ドランプ政権末期に「スケジュールF」として導入されたものの、事実上実施されず、民主党バイデン氏への政権交代により撤廃されていた。

③をめぐっては、北カリフォルニア地区連邦地方裁判所判事が6月24日、国家安全保障に係わる連邦政府職員を団結権・団体交渉権の適用除外とした大統領令について、違憲の可能性が高いとして、執行の仮差し止め命令を出した。だが、二審の第9巡回区控訴裁判所は7月14日、三人の判事の審理により、政府側の主張を検討する間、仮差し止め命令を一時的に停止する判断を示している(注11)

参考資料

  • ザ・ヒル、退役軍人省、ブルームバーグ通信、米政府職員総同盟(AFGE)、米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)ホワイトハウス、ロイター通信、CBS、CNN、各ウェブサイト

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