若年低所得層向け職業訓練「ジョブ・コア」を停止
 ―連邦労働省、効果疑問視

カテゴリー:雇用・失業問題若年者雇用人材育成・職業能力開発

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2025年7月

連邦労働省は5月29日、低所得の若年層を対象とする職業訓練プログラム「ジョブ・コア(Job Corps)」の運営を6月30日までに停止すると発表した(注1)。同省は4月に発表した報告書で、その効果に疑問を呈していた。ジョブ・コア運営事業者らは停止措置が違法だとして提訴。ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は6月25日、「訴訟継続中は停止措置を差し止める」と判断したが、今後の運営継続は依然として不透明な情勢である。

「ジョブ・コア」とは

ジョブ・コアは、連邦政府の予算により、全米各地の請負事業者(職業訓練事業者)が低所得層や学校中退者など16~24歳の若者に職業訓練を実施する制度である。

参加者(学生)には、住まいや食費なども提供される。5月29日現在、全米99カ所で、約2万5,000人が訓練を受けている。訓練期間は1~2年で、修了者(卒業生)には高校卒業または同等の資格(GED: General Educational Development、高校卒業程度認定資格)が付与される。

トランプ政権による見直しと停止の決定

連邦労働省は4月25日、「ジョブ・コアの透明性に関するレポート」を発表した(注2)。それによると、2023年度のジョブ・コアのプログラムにおいて、①平均卒業率は38.6%にとどまること(注3)、②訓練修了者1人あたりの年間総費用が平均約15万5,600ドルにのぼること、③訓練修了者の就職先が低賃金(平均年収約1万6,600ドル)に偏っていること、などをあげ、その費用対効果を疑問視。さらに、ジョブ・コアの実施施設において、暴力行為や薬物使用などの深刻な案件が約1万5,000件と多発していることといった問題点を指摘した。

このレポートに基づき、連邦労働省は5月29日、ジョブ・コアの運営を6月30日までに停止すると表明した。ロリ・チャベス・デレマー労働長官は「ジョブ・コアは、教育、訓練、コミュニティを通じて、若者がより良い生活への道を築くのを支援するために設立された」ものだが、「驚くほど多くの重大なインシデントの報告および財政分析の結果、プログラムは、本来の目的を果たしていない」として、停止する方針を示した。訓練中の学生は地元の州で、職業訓練プログラムを受けられるよう支援するとしている。

なお、トランプ大統領は2026年度予算案に関連し、ジョブ・コアを「米国の若者を支援するための失敗した実験」と発言し、その廃止を求めている。

ジョブ・コア運営側の反論

連邦労働省が示した上述のデータに対して、ジョブ・コアの運営事業者らでつくる全米ジョブ・コア協会(National Job Corps Association)は以下のように反論している(注4)

まず、低い修了率や高額の一人あたり費用は、新型コロナウイルス感染症対策の影響によるもので、通常の修了率は歴史的に60%を超えており、一人あたりの総費用も5万ドル程度にとどまっていたと主張している。

訓練修了者が低賃金の雇用に就いているとの指摘に対しては、2023年度の平均賃金は時給17.13ドルと、連邦最低賃金(時給7.25ドル)の2倍以上の仕事に就き、年間3万1,000ドル以上の賃金を得ていると反論している

さらに、「深刻な案件」には、停電や悪天候、運動による怪我、他の学生に対する虚偽の告発、許可なく施設を離れることなども含まれ、ほとんどの施設で暴力行為が常態化しているわけではない、と連邦労働省の報告内容に疑問を呈した。

地裁が事業停止を差し止め

全米ジョブ・コア協会は6月3日、連邦労働省の停止決定を不服として、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提訴した。ジョブ・コア事業の停止は「何万人もの学生の生活を混乱させ、全国のジョブ・コア修了者に依存しているコミュニティや業界に経済的な課題をもたらす恐れがある」と主張し、連邦労働省の行為は法的権限を超えているとして、ジョブ・コア事業の停止措置を禁じるよう求めた。

これを受け、同地裁の判事は6月4日、議会の承認を得ることなく同事業を停止することを禁じる仮差し止め命令を出した。さらに、同25日には、連邦労働省が一般からの通知や意見を求めず、また議会に通知せずに停止措置をとったのは、同事業を定めた労働力革新・機会法(WIOA)に違反すると指摘し、訴訟継続中の同事業の停止を禁じる差し止め命令を出した。これによって、事業は当面継続されるが、存続の可否は今後の裁判の結果次第であり、依然として不透明である。

なお、これとは別に、ジョブ・コアの学生7人が6月18日、連邦労働省に対して「合理的な意思決定を経ず、より緩やかな代替案も検討せず、ジョブ・コア事業を停止する措置を講じたのは行政手続法に違反する」として、停止措置の取り消しなどを求めてコロンビア特別区(ワシントンD.C.)連邦地方裁判所に提訴している。

参考資料

  • CNN 全米ジョブ・コア協会 ブルームバーグ通信、連邦労働省、各ウェブサイト

参考レート

関連情報