連邦政府職員5万人を解雇容易な雇用区分に
 ―人事管理局の規則改正案

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2025年5月

連邦人事管理局(OPM)は4月18日、約5万人の連邦政府職員を対象に「政策・キャリア職(Schedule Policy/Career)」という新たな雇用区分を設ける公務員規則改正案に関する「ファクトシート」を発表した(注1)。トランプ大統領が1月20日に出した大統領令(注2)を具体的に説明したもので、重要な政策の立案・決定にかかわる職員を、業績不振、不正行為、汚職、大統領令の妨害行為を理由に、速やかに解雇できるようにする方針を示した。これに対して、米政府職員総同盟(AFGE)は「連邦政府を腐敗させ、有能な公務員を政治的取り巻きに置き換えようとする、現政権による一連の意図的な動きの一つだ」と批判している。

新雇用区分導入のねらい

トランプ大統領は今年1月20日に出した大統領令「連邦政府職員内の政策に影響を与える役職の説明責任の回復」により、政策に影響を与える立場にある職員について、「現大統領または現政権の政策を個人的または政治的に支持する必要はない」ものの、「憲法上の宣誓と大統領のみに付与された行政権に従って、能力の限りを尽くして政権の政策を忠実に実行する必要」があり、「これに違反した場合は解雇の理由となる」とする方針を表明した。そのうえで、同様の趣旨で第一次トランプ政権時末期の2020年10月に設けた「スケジュールF」という雇用区分を、「政策・キャリア職」として再び導入する意向を示した。なお、「スケジュールF」は、バイデン氏への政権交代に伴い2021年1月に撤回され、当時、実際にこの区分に就いた職員はいなかった。

連邦政府には、上級管理職の一部にいわゆる政治任用の職員が約4,000人おり、政権交代に伴い入退職するが、それ以外のキャリア職員は政権交代があっても仕事を続ける。大統領令は、「近年、キャリアのある連邦職員が行政指導部の政策や指示に抵抗し、それを阻害した事例が数多くある」として、こうしたキャリア職員への不満を示した。そしてこれを、業績などを理由に解雇しやすくする「政策・キャリア職」を導入する理由の一つとして挙げている。

約5万人が対象に

OPMは4月18日に発表した大統領令の「ファクトシート」で、「政策・キャリア職」を導入するための公務員規則改正案の内容を具体的に示した。それによると、重要な政策の提唱・立案・決定、または機密任務を担うキャリア職員を対象に、「政策・キャリア職(Schedule Policy/Career)」という新たな雇用区分を設ける。これらの職員については、業績不振、不正行為、汚職、大統領令の妨害行為を理由に、速やかに解雇できるようにする方針である。

現行規則でも「許容しがたい業績」や不正行為に関与した職員に対して、停職、降格、一時帰休、解雇などの処分を下せる。ただし、こうした措置が恣意的に運用されないよう職員の権利を保護するため、不服申立てを含む手続きを定めており(注3)、処分に至るまでには一定の要件や時間を要する。「ファクトシート」に引用された会計検査院(GAO)の報告(注4)によると、業績不振の職員を解雇するには6カ月~1年かかり、不服申立てが行われた場合はさらに長引く。大統領令は「制度上の保護を利用して大統領の政策に反対し、自らの好みを押し付ける者がいる」などと主張し、その背景の一つとして「連邦職員を解雇するプロセスが長くて困難」なことを挙げている。

かつての「スケジュールF」の雇用区分について2022年9月にGAOが検証した資料(注5)によると、この区分に就く職員は、採用プロセスが簡素化され、また、処遇や解雇をめぐる「メリットシステム保護委員会(Merit Systems Protection Board)」への不服申立てなどの権利の対象外とされた。今回導入する「政策・キャリア職」についても、「ファクトシート」では「煩雑な、不利益措置に関する手続きや不服申立てを利用できない、任意(随意)雇用(At-Will Employees)の職員として勤務する」との方針を示している。

OPMによると、このたび「政策・キャリア職」に移行するとみられる者は約5万人で、全連邦政府職員の約2%に相当する。今後、最終規則案を公布したうえで、施行する予定としている。

労組は「公務員の政治利用は連邦政府を腐敗させる」と批判

連邦政府職員を組織する米政府職員総同盟(AFGE)は4月18日、「政策・キャリア職」を導入する公務員規則改正案は「連邦政府を腐敗させ、有能な公務員を政治的取り巻きで置き換えるという、現政権による一連の意図的な動きの一つだ」と批判するコメントを発表した(注6)。この中で「トランプ大統領が何万人もの連邦キャリア職員の仕事を政治利用しようとする行動は、政府の能力主義の採用システムを侵食し、アメリカ人が頼りにしている専門職の公務員を弱体化させるだろう」と問題視している。

「政策・キャリア職」の導入をめぐっては、すでに訴訟が係争中である。AFGEと米国州・郡・市職員連盟(AFSCME)は1月29日、コロンビア特別区連邦地方裁判所で、「違法な大統領令を通じて公務員を政治化する取り組みに異議を唱える」として、大統領やOPMを相手に、大統領令の差し止めなどを求める訴訟を起こした(注7)。訴状では「大統領が公務員の権利を保護する規制を一方的に撤廃するのは、権限を逸脱した違法行為だ」と主張。「自身の命令に従う忠実な人物を任命するため、キャリア公務員の解雇を容易にしようとするものだ」と非難している。

連邦政府職員の解雇・処遇をめぐる訴訟が多発

「政策・キャリア職の導入」の他にも、トランプ氏の大統領令に基づく各連邦政府機関での職員の解雇や処遇をめぐり、複数の訴訟が係争中である。

解雇された試用期間中の連邦政府職員がその無効を求めた裁判(注8)で、北カリフォルニア地区連邦地方裁判所は4月18日、OPMが連邦6機関の職員1万6,000人を、業績を理由に解雇したのは誤りだとする判決を出した。各機関は、解雇が業績を理由にしたものではないことを証明する必要があると指摘するとともに、これ以上の業績を理由とする解雇を禁じるよう命じた。

同連邦地裁は3月13日に解雇された職員の復職を命じる仮処分を出したが、連邦最高裁判所は4月8日に、訴訟終結まで復職の仮処分を停止するよう命じていた。4月18日の地裁判決に対して、被告側のOPMなどは4月23日、連邦第9巡回区控訴裁判所に控訴している。

さらに、トランプ大統領は4月24日、「連邦サービスの試用期間の強化」と題する大統領令を出した(注9)。各連邦政府機関に対して、試用期間終了の少なくとも60日前までに、試用期間中の職員と面談し、その業績が機関のニーズを満たしているかどうかを評価し、本採用(雇用継続)するかどうかを判断するよう求めている。

参考資料

  • AP通信、人事院(日本)、ブルームバーグ通信、米国政府職員総同盟(AFGE)、ホワイトハウス、ポリティコ、ロイター通信、各ウェブサイト

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