貨物鉄道労使、協約改定交渉で暫定合意
 ―ストライキを直前回避

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2022年9月

労働協約の改定交渉を続けていた全米の貨物鉄道会社の労使は9月15日、暫定合意を交わした。大統領緊急委員会(PEB)の勧告に基づく賃金の引き上げなどを各労働組合側が受け入れた。バイデン政権も仲介に乗り出し、翌16日にも実施される可能性があったストライキを直前に回避した。ただし、最終的な合意には各労組の組合員による承認が必要で、決着には至っていない。

全国調停委員会と大統領緊急委員会

全米の貨物鉄道会社の労使は2019年11月以降、労働協約の改定交渉を続けてきた。賃上げなどをめぐる労使の意見対立が解消できなかったことから、2022年2月に全国調停委員会(National Mediation Board、NMB)が調停に乗り出した。

州際通商(ひとつの州を超えた営業等)を行う鉄道・運輸事業の集団的労使紛争解決システムは、鉄道労働法(Railway Labor Act)に基づく。同法は、鉄道・運輸業界における協約締結交渉に関する紛争を調停する機関としてNMBの設置を定めている。また、労働争議が「必要不可欠な輸送サービスを国内のどの部分からも奪う形で州際通商を実質的に妨害する」恐れがある場合、大統領はその争議を調査し、報告するため大統領緊急委員会(Presidential Emergency Board、PEB)を設置できると規定する(注1)

NMBによる調停は6月17日に不調に終わり、その後30日間のストライキやロックアウトを禁じるクーリング・オフ期間内にも労使合意に至らなかった。このため、バイデン大統領は7月18日、3人の専門家らで構成するPEBを設置した。PEBは紛争の内容を調査したうえで、8月16日に解決策としての勧告を大統領に提出。勧告は2020年に遡って2024年までの年次昇給(協約発効時14.1%。5年間で複利24%の引き上げ)と賞与(5年間に毎年1,000ドル)の支給を実施することなどを盛り込んだ(注2)

12労組との交渉

鉄道業界の労使交渉は、30以上の主要貨物鉄道会社(ユニオン・パシフィック、BNSF、CSXなど)を代表する全国輸送会社会議委員会(National Carriers’ Conference Committee、NCCC)と、約11万5,000人の労働者を代表する12の労働組合(表1)との間で行われている。

表1:米国貨物鉄道の労使交渉に参加する労働組合
名称 主な職種
the American Train Dispatchers Association (ATDA) 米鉄道運行管理者労働組合 Train Dispatchers(鉄道運行管理員)
Brotherhood of Locomotive Engineers and Trainmen (BLET)機関士・乗務員労働組合 Locomotive Engineers(運転士・機関士)
Brotherhood of Maintenance of Way Employes Division of the International Brotherhood of Teamsters (BMWED)道路・線路保守労働組合 Maintenance of Way employees(保線係員)
Brotherhood of Railroad Signalmen (BRS)鉄道信号員労働組合 Railroad Signalmen(信号係員)
International Association of Machinists and Aerospace Workers (IAMAW) 国際機械工・航空・宇宙労働組合 Machinists(機械工)
International Brotherhood of Boilermakers, Iron Ship Builders, Forgers and Helpers (IBB)ボイラー技士・造船鉄工・鍛造工・助手国際労働組合 Boilermakers/Blacksmiths(ボイラー技士・鍛造工)
International Brotherhood of Electrical Workers (IBEW) 国際電気工労働組合 Electrical Workers(電気工)
National Conference of Firemen & Oilers, District of Local 32BJ, SEIU (NCFO)全国消防士・給油士会議 Firemen and Oilers(消防士・給油士)
International Association of Sheet Metal, Air, Rail and Transportation Workers – Railroad, Mechanical and Engineering Department (SMART-MD) 国際板金・航空・鉄道・運輸労働組合(鉄道・機械・エンジニア部門) Railroad shopcraft employees(鉄道技術労働者)
International Association of Sheet Metal, Air, Rail and Transportation Workers – Transportation Division (SMART-TD) 国際板金・航空・鉄道・運輸労働組合(輸送部門)*Railroad Yardmasters of America (RYA)操車係員労働組合を含む。 Train service employees(including Conductors)(鉄道サービス職(車掌含む))
Transportation Communications Union/IAM (TCU/IAM) 運輸通信労働組合 *Brotherhood of Railway Carmen(BRC)鉄道労働組合を含む。 Clerks and Carmen(鉄道員・整備士)
the Transport Workers Union of America (TWU)米運輸労働者労働組合 Carmen(整備士)

出所:大統領緊急委員会(Presidential Emergency Board、PEB)勧告などをもとに作成

NCCCは8月29日の運輸通信労働組合(TUC/IAM)及び鉄道労働組合(BRC)、国際機械工・航空・宇宙労働組合(IAMAW)を皮切りに、順次、各労組との間で暫定合意を交わした。だが、両者で約6万人の貨物鉄道組合員を擁する機関士・乗務員労働組合(BLET)と国際板金・航空・鉄道・運輸労働組合(輸送部門)(SMART-TD)は、病気休暇の提供などを求めて交渉が難航した。

PEB勧告から30日間という第2のクーリング・オフ期間内に労使が合意しないと、再びストライキなどの実力行使が可能になる。その場合、大統領は連邦議会に紛争解決を求め、議会が交渉期間の延長やストライキの禁止といった立法措置をとることができる。現地報道によると、1986年のメーン州中央鉄道に関する労使交渉では、議会がストライキ等の禁止期間を60日間延長した。また1992年に起きた全国的な鉄道ストライキに対しては、議会が共同決議を採択して強制的に終了させている。

ストライキへの懸念の高まりと政府の仲介

第2のクーリング・オフの期限(米国東部時間9月16日(金)午前0時)が迫り、ストライキの実施が現実味を帯びるにつれて、業界団体などは危機感を表明した。アメリカ鉄道協会(Association of American Railroads)は9月8日、交渉の決裂でストライキが実施されれば、全国的な鉄道網の停止が経済活動に甚大な影響を及ぼし、1日あたり20億ドル以上の損害を生じさせる可能性があるとの警告を発した(注3)。米国商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)、全米卸売業協会(National Association of Wholesaler-Distributors、NAW)、全米穀物飼料協会(National Grain and Feed Association、NGFA)などの経営者団体、業界団体は相次いで、ストライキを防ぐため、連邦議会に介入を求める声明を発表した(注4)

こうしたなか、ストライキ等の禁止期限が終了する前日の9月15日、NCCCとBLET、SMART-TD、及び鉄道信号員労働組合(BRS)が暫定合意に達し、すべての労組との交渉がひとまず決着した。BLETと SMART-TDによると、暫定合意にはPEBによる勧告の内容に加え、有給休暇1日分の追加付与や病気や怪我の治療等のための出勤免除措置などが盛り込まれた(注5)

ストライキによる物流・交通の混乱を避けたいバイデン大統領やウォルシュ労働長官らが事前に労使と協議するなどして仲介に乗り出し、合意に向けた交渉を後押しした。暫定合意後、バイデン大統領は「合意は労働者と企業の双方に利益をもたらす大きな取引になった。鉄道労働者の賃金は上がり、労働条件は改善され、医療費も安心できるようになるだろう」、連邦労働省は「すべての関係者が厳しい交渉のすえ、互恵的な合意に達したことを称賛する。鉄道システムはサプライチェーンに不可欠であり、決裂していたら全国の産業、旅行者、家族に壊滅的な影響を与えていただろう」と労使合意を評価する声明をそれぞれ発表している(注6)

全米小売業連盟(National Retail Federation、NRF)は「経済が不確実でインフレが激しい時期にストライキを行うことは、消費者の家計をさらに圧迫し、ビジネスの回復力を危険にさらす」と暫定合意に安堵するコメントを出した。経営者団体の全国鉄道労働会議(National Railway Labor Conference、NRLC)によると、新たな協約が締結されると、労働者には賃上げの遡及分を含めて平均1万1,000ドル以上が支払われるという(注7)

今後はすべての労組の組合員レベルで暫定合意を承認する手続きが必要となる。NRLCでは11月中旬までには承認を終えるとみているが、すでにIAMAWが暫定合意を否決するなど、最終的な決着には至っていない。

参考資料

  • 全国調停委員会、日本貿易振興機構、ブルームバーグ通信、各ウェブサイト

参考レート

関連情報

Adobe Readerのダウンロード新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。Adobe Readerをダウンロードしても、PDFファイルが正常に表示されない場合は「閲覧に必要なソフトウェアについて」をご覧ください。