失業保険特例措置の終了と雇用への影響を分析
 ―連邦準備銀行

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2022年9月

セントルイスとサンフランシスコの連邦準備銀行はこのほど、コロナ禍における失業保険給付の特例措置の終了に伴う雇用への影響について分析した論文(注1)をそれぞれ発表した。セントルイス連銀の論文は、特例措置の終了後、失業保険受給者数が100件減少するごとに、約35人分の雇用が増加していることを指摘し、「給付の終了に対して、強力かつ迅速な雇用の反応がみられた」と評価。一方、サンフランシスコ連銀の論文は、企業の採用率や求人率の動きに注目し、「特例措置の終了が雇用に及ぼす影響は軽微だった」との見方を示している。

特例措置の主な内容

コロナ禍でアメリカの雇用情勢は歴史的な悪化を記録した。感染拡大直後の2020年4月の失業率(季節調整値)は14.7%に高まり、非農業部門の就業者数(同)は前月比2,049.3万人も減少した。

そのような中で2020年3月27日に成立したコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security act, CARES法)では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた失業者等に対して失業保険給付の内容を拡充する三つの特例措置を導入した。

第1は「パンデミック失業支援(Pandemic Unemployment Assistance、PUA)」プログラムで、感染拡大の影響により働き続けることができない自営業者、フリーランサー、独立請負業者、パートタイム労働者等を対象に、失業保険給付の資格を一時的に拡大した。第2は「パンデミック緊急失業補償(Pandemic Emergency Unemployment Compensation、PEUC)」で、失業保険給付の受給期間満了者が就労能力を有し、勤務可能で、積極的に仕事を求めている場合、最長13週間の給付を継続して受けられるようにした。第3は「連邦パンデミック失業補償(Federal Pandemic Unemployment Compensation、FPUC)」で、失業者に対して毎週一律600ドルの追加的な給付を行うこととした。

特例措置の実施期限は2020年末までと定めていたが、同年12月27日成立の21年統合歳出法(Consolidated Appropriations Act of 2021)及び2021年3月11日成立の米国救済計画法(American Rescue Plan Act)で延長する措置などをとった(注2)。その過程でFPUCの加算額は週300ドルに縮減している。最終的に2021年9月6日をもって終了することとなったが、共和党出身の知事が治める26州(注3)では、特措措置が求人難の理由になっているとして、終了時期の前倒しを表明。州の裁判所が前倒しの執行を停止した2州(メリーランド州とインディアナ州)を除く24州が6~7月に打ち切っている。

100件の給付減少につき35人分の雇用が増加

セントルイス連銀が2022年4月に公表した論文(ワーキング・ペーパー)は、全米50州のうち、必要なデータを得られなかったアラバマ、ジョージア、サウスカロライナ、バーモントの各州を除く46州とコロンビア特別区(ワシントンD.C.)について、連邦労働省労働統計局(BLS)が実施する人口動態調査(CPS)の結果をもとに分析した。

2020年12月~2021年12月における毎月の雇用者数及び失業保険給付者数(継続申請件数)の増減について、各州が特例措置を終了した月とそれ以外の月とに分けて比較した。特例措置の停止に伴う雇用への純粋な影響を推計するため、失業保険を受給しながら働くケースは除外するなどして集計した。

各州の統計を総合すると、特例措置の終了後3カ月間(終了月を含む)に、失業保険の給付者数が100件減るごとに、雇用が約35人分増加していることが示された。州によって異なるマスク着用率やロックダウンの程度、感染者数、死亡者数、コロナ禍でとくに大きな影響を受けたレジャー・ホスピタリティ分野の雇用のシェアといった要素を考慮して計算しても、ほぼ同様の結果を得られた。論文は「給付の終了に対して、強力かつ迅速な雇用の反応がみられた」と指摘している。

「影響は軽微」とする分析も

他方、サンフランシスコ連邦準備銀行では2022年4月に「特例措置の終了が雇用に及ぼす影響は軽微だった」とする内容の論文を公表している。連邦労働省実施の「求人・離職率調査(JOLTS)で示される毎月の採用率(Hiring rate、雇用者数に対する採用者数の割合)などに注目した。

それによると、(1)2021年の7月から9月にかけて、特例措置を停止した州の採用率は相対的に増加したが、その大きさ(0.2ポイント)は毎月の通常の採用率(4~5%程度)に比べると非常に小さい、(2)求人率(Job openings rate、雇用者数と求人数の合計に対する求人数の割合)の上昇は、両グループ(特例措置の早期停止州とそれ以外の州)で不均衡の値を示していない、(3)失業率の低下に両グループの差はほとんどない、との試算結果を示している。

参考資料

  • サンフランシスコ連邦準備銀行、セントルイス連邦準備銀行、ブルームバーグ通信、連邦労働省労働統計局、各ウェブサイト

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