(香港特別行政区)董長官無投票再選確定

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年5月

失業率6%を突破

董建華香港特別行政区政府(SAR)長官の無投票再選が、2002年2月28日の立候補締め切り時点を経過して確定した。2期目の正式就任は7月1日であるが、これでさらに5年間、香港政府のトップとしての舵取を委ねられることになった。

SAR長官選挙は、3月24日の選挙委員会(定数800人)の委員の無記名投票で行われる予定だったが、董長官は2月19日の政府の選挙事務所への立候補届け出時点で、702人の選挙委員の推薦を獲得しており、立候補には選挙委員会委員100人以上の推薦が必要とされることから(各委員の推薦は1名に限られる)、他の候補の立候補は事実上不可能となった。そこで、董長官の事実上の再選が決まり、立候補締め切りの2月28日午後5時時点での同長官の無投票再選が確定したわけである。

董長官は、3カ月前の中華大学アジア太平洋研究所の世論調査では、支持率21.2%で香港住民の人気は高くなく、リベラル派の民主党や労組出身の立法会議員等で構成される反董再選連合も結成されていたが、すでに2000年の時点で江沢民中国国家主席の支持を受けており、選挙委員会委員に名を連ねる親北京派の財界人の強力な支持を獲得して、この選挙委員会制度にも助けられ、対立候補なしの無投票再選を果たすことになった。したがってこの結果に対しては、マルティン・リー民主党党首等は、董長官が700人以上の委員の推薦を獲得したこと自体、一国二制度のもとの香港の長官選挙の非民主性を表していると強く批判している。1996年の初当選の時は、董長官は、定数400人の選出委員会(選挙委員会の前身)の320票を獲得して、初代長官に当選した。

董長官は公務員制度の改革や厳しい労働市場のもとの雇用の促進を2期目の公約に掲げてきたが、事実上の再選が決まった翌日の2月19日、2期目の重要政策として、労働人口を含む人口問題への取り組み、財政赤字の削減、産業構造の転換、失業問題への重点的取り組み、公務員改革を含む統治構造改革等を改めて列挙している。

これらの政策のなかで、狭い領域に既に680万人を擁する香港の人口増加問題への取り組みは最近強調されており、2期目で取り組む重要施策としての位置付けを与えられているが、中でも外国人家政婦の人数制限と中国本土から香港へ1日に移入を許可される人数枠については、董長官の再選確定前から議論が続いている。

外国人家政婦問題については、最低賃金カット問題が外交問題にも発展したが(本誌2002年2月号第I記事参照)、大方の予想に反して、政府は2月初めに月額3760ドルの最低賃金の維持を決定した。しかし、増え続ける家政婦の人数については、地元の家政婦を雇用市場から追い出しているとの声があり、包括的な人口政策の一環として議論されねばならないとされている。政府当局者によると、2002年1月の外国人家政婦数は23万7260人で、10年前の10万1200人の2倍以上に増加しているが、昨年だけでも、雇用市場の悪化にもかかわらず、約1万人増加している。他方、香港では中流層の主婦が家事から解放されて仕事に就く傾向があり、人数枠の制限はこれらの層の不満を醸成することにもなり、また家政婦の母国の反対で外交問題に直面し、感情的な対立に発展する可能性もある。従って、政府当局者によると、人数枠の制限は、香港内でも意見の別れる微妙な問題であるが、香港の人口政策の議論の中で避けて通れず、政府のシンクタンクである中央政策部も検討を続けている。

次に中国本土からの1日の移入者枠については、現在中国当局の発行する香港への片道だけの移入許可のもとに1日150人となっているが、家族の再会目的のための退職者や子供がほとんどで、香港社会の重い負担になっていると批判する声がある。董長官も2月19日、中央政府と協議することを確約したが、専門筋によると、過去数年間で75人から150人に増加した人数枠を現時点で削減することは現実的でなく、家族問題であることを前提に、移入者の技能に関してカナダのように何らかの評価制度を導入すべきだという意見もあり、また長期的戦略としては、包括的な人口政策の中で、移入者の質の向上を図り、片道だけの移入許可制を改正して、専門技術者等の人材導入の促進を図ることが必要だとの意見もある。

このような人口問題への取り組みも含め、董長官の2期目の施政は、香港の景気低迷と雇用市場の悪化のもとでの難題を抱えての出発となるが、一国二制度のもとの中央政府との関係も含めて、同長官の今後の舵取が注目される。

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