(香港特別行政区)外国人家政婦の最低賃金カット、母国政府が反対表明

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年2月

深刻な景気の低迷と悪化する失業率に見舞われている香港で、2001年11月にはいって外国人家政婦の賃金カットが検討されているが、これをめぐり、母国政府が11月末に反対を表明し、さらに母国政府間で反対の共同歩調を取る動きが出ている。香港在住の外国人家政婦の総数は約22万3000人であるが、特にその中でも最大数の15万5330人を送りこむフィリピンでは、家政婦から本国の家族への仕送りが、無視できない重要な経済の潤滑油になっているという事情が背景にある。

以下、今回の賃金カットの動きにつき、香港内の反応も含めて、母国政府の反対に至るまでの経緯を、事の発端からその概要を紹介する。

まず11月2日に労働側立法会議員から、香港在住の22万人を超える外国人家政婦は地元住民の雇用を奪っているので、外国人家政婦数の上限を10万人に制限すべきだとの主張がなされた。これに対してファニー・ロウ人材教育長官は、地元の14万人の非熟練労働者が家政婦の職に就きうる可能性を認めつつも、地元住民の家政婦のことは徐々に考慮していくと述べ、また、外国人家政婦(特に住み込み)の数は需要と供給で決まるから、今すぐにもそのような人数制限を行うつもりはないと明言した。

その後11月18日、フィリップ・チョク人材教育副長官がサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙に、現在月額3670ドルの外国人家政婦の最低賃金の見直しが進んでおり、その結果は2002年1月末までに発表されるが、経済状況の厳しい折りだから、切り下げの圧力が強いと発言した。

この発言をきっかけに、賛成する雇い主、反対する家政婦側を中心に、政党等からも意見が表明され、さらに家政婦の反対デモ、母国政府の反対の動きと、字体は急展開を示した。

まず中流層の支持も多い民建連(DAB)の立法会議員から、現在の厳しい経済状況では、最低賃金は2500ドルまでカットされても仕方が無いと主張された。また、外国人家政婦雇用主連盟(EODHA)は、雇い主のほとんどが中流階級で、この層は景気の下降で最も打撃を受けた層だから、彼らの負担を軽減するためにもカットはやむをえないと述べた。

さらに同連盟は、最近のフィリピン通貨ペソの切り下げにより、香港の家政婦の最低賃金がカットされてもフィリピン人家政婦に支障を来すことはないとした。

これに対して、フィリピン移住労働者会等は、外国人家政婦の賃金は香港でも最低レベルの賃金であり(平均賃金の3分の1未満)、厳しい経済状況下で家政婦が失業問題のスケープゴートにされるのは不当であり、また、最低賃金カットにより家政婦を違法な職業に追いやる可能性があると、厳しく批判した。また、在香港同国総領事館は、EODHAが最低賃金カットをペソの切り下げと結び付けて正当化したことを厳しく批判し、最低賃金はその国の生活コストとの関係で決まるもので、香港は世界でも有数に生活費の高いところであるから、ペソの切り下げと最低賃金カットは何ら結び付かないとし、逆にペソが切り上げられたら最低賃金の引き上げがあるわけではないだろうと反論した。

その後、EODHA等から、シンガポール等も含めた他のアジア諸国との比較で(注1)、香港在住の外国人家政婦がアジアの家政婦の中で最も高い賃金を得ており、賃金水準、契約期間、契約条件の点で、香港社会は良い雇い主だとの主張がなされた。だが、これに対しては、アジア移住労働者センターから、最低賃金を下回る額しか支払われていない家政婦が15%、週休のない家政婦が22%との調査結果が示され、実際の条件は比較された数字よりも悪いとの指摘がなされている。

その後11月22日に、ドナルド・ツァン政務官は、公共部門でも賃金凍結か僅かの賃上げしか行われておらず、民間企業では賃下げが普通ゆえ、このような香港の厳しい状況に直面して、外国人家政婦も最低賃金のカットを覚悟すべきだと発言した。また、EODHAは、最低賃金のカットは15%ないし500ドル程度にすべきだと、政府に要請した。

このような政府ナンバー・ツーのツァン政務官の発言をうけて、11月23日、アジア移住労働者調整団体を代表する約50人の外国人家政婦が、政府に対して最低賃金切り下げ反対のデモを行った。同団体は、フィリピン、インドネシア、ネパール、スリランカ、タイの移住労働者団体の連合で、約2000人のメンバーで構成されている。

このような中で11月25日、グロリア・アロヨ・フィリピン大統領は、香港政府に対して最低賃金のカットをしないようにとの異例の要請を行った。同大統領は、最低賃金カットが外国人家政婦の家族の生活に大きく影響することを理由に上げている(サウス・チャイナ・モーニング・ポストの調査では、平均的なフィリピン人家政婦を例に取ると、最低賃金3670ドルのうち、自己の香港での生活のための支出が1070ドル、フィリピンの家族への仕送りが2500ドルである)。

さらに11月27日、在香港のタイ並びにインドネシア領事館も、最低賃金カットを行わないようにとの要請を出した(香港在住のインドネシア人とタイ人の家政婦の数は、それぞれ6万6970人、6940人、他の国籍が3870人)。また、スト・トーマス・フィリピン労働大臣は、タイとインドネシアと協議を行っており、共同行動を取る準備をしていることを明らかにした。同大臣は、従来は家政婦の母国は競争関係にあったので、それぞれ別個に目標を追求していたが、今回は共同歩調を取ろうとしていると述べている。

このような外国からの異例の要請に対して、チョク人材教育副長官は、政府は公正なメカニズムに従って外国人家政婦の最低賃金の評価を行っており、家政婦の母国の通貨価値は評価の基準になっていないと述べている。同副長官は、このメカニズムでは、比較可能な賃金水準を考慮し、香港の経済状況、消費者物価指数等も評価要因になっているとしている。

ちなみに、外国人家政婦の最低賃金は、アジア経済危機に際して、1999年に3860ドルから5%カットされて3670ドルになり、それがそのまま凍結されていたので、今回カットされれば3年間で2度目のカットになる。

香港

  • 家政婦の国籍:主にフィリピン、インドネシア。
  • 賃金:3670ドル(香港の平均の37%)
  • 雇用条件:2年契約。期限が切れたら、2週間以内に香港を退出せねばならない。
  • 週休:1日。

北京

  • 家政婦の国籍:中国
  • 賃金:300~1000ドル(北京の平均の10~33%)
  • 雇用条件:一般的に契約なし。
  • 週休:1日ないし2日。

台北

  • 家政婦の国籍:フィリピン、少数がインドネシア。
  • 賃金:3564ドル(台湾の平均の36%)
  • 雇用条件:ほとんどの家政婦が、雇い主に紹介される前に、雇用斡旋業者にブローカー料7800~4万7000ドルを支払わねばならない。雇用後は月額450ドルの保証金を支払わねばならず、契約期間満了後返還される。契約期間は最長3年で、書面契約。6カ月毎に妊娠とAidsの検査を受ける。
  • 週休:公式には1日、しかし実際は殆どの家政婦は週休が無い。

シンガポール

  • 家政婦の国籍:インドネシア、少数がフィリピン
  • 賃金:インドネシア人は最高1062ドル(シンガポールの平均の4.5%)、フィリピン人は最高1486ドル(シンガポールの平均の6.2%)。
  • 雇用条件:2年契約、通常は休暇無し、6カ月毎に妊娠検査、1年毎にAids検査。政府は雇い主に家政婦に対する責任を負わせる。2万1230ドルの保証金を、家政婦の逃亡、窃盗、違法行為に備えて政府が保管。
  • 週休:無し

インドネシア

  • 家政婦の国籍:インドネシア
  • 賃金:300ドル(ジャカルタの平均の10%)
  • 雇用条件:書面での契約は要求されない
  • 週休:無い場合が多い

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