(香港特別行政区)董長官、貧困・失業対策を表明
第4回施政方針演説

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年1月

董建華長官は、特別行政区政府の長として、毎年この時期に施政方針演説を行うが、2000年10月11日になされた第4回演説は、最近なされている貧富の格差の論議も踏まえ、また、香港大学等の各種世論調査での労働・雇用問題についての具体的行動計画を望む声も背景に、貧困・失業対策、教育対策等を盛り込む内容となり、例年の一般方針的な内容に比べて、時間は短いが具体的内容をもつものになった。

政治改革については、執行機関である行政会議の構成を再考すること、政府高官の説明責任を強化すること等が表明された。後者は、従来香港政府の政策決定に対する責任の所在が曖昧であるとする批判に答えたものである。

労働関係では、特に貧困・失業対策が具体的に表明された。特に最近各種研究機関、労組等によって論議された貧富の格差の問題に対しては(本誌2000年10月号12月号参照)、向こう2年間270億ドル(1ドル=14.42円)を支出し、貧困層を支援することが表明された。また、2年間で4億ドルを支出して、5万人の低学歴労働者に職業訓練を施すこと、政府部門における雇用として、環境保護分野等で1万5000人の雇用を創出することが提言された。

さらに教育対策としては、年間支出を2億ドル増額すること、政府が助成する職業訓練枠を6000人増加すること、中等教育修了者60%に対して10年以内に専門教育を施すこと等が盛り込まれた。

従来香港では、サッチャー政権以前の英国型の福祉政策を嫌う風潮があり、各種世論調査の分析でも、市民が福祉に頼らず、自助によって生活を維持すべきとの意見が強い。その意味では、市場原理から離れた貧困者対策を施政方針演説に具体的に盛り込むことは異例と言えるが、董長官が貧困者対策を具体的に表明したのは、景気の回復と失業率の低下が進んで(2000年7~9月期の失業率は4.8%で、前期比0.1ポイント低下、失業者数は16万8000人で、前期比で4500人減少、不完全雇用率は2.6%で、前期比で0.2ポイント低下、不完全雇用者数は9万人で、前期比で5700人減少)、香港経済について楽天的な見方がなされる中で、一部のタイクーンと呼ばれる億万長者を代表とする富裕層と非熟練労働者からなる平均賃金水準以下の貧困層との格差が、政府としても無視できない程度に進んだからである。しかし、香港財界の支持をも基盤とする董長官は、施政方針演説の後、経済界の懸念を払拭する意味もあり、財界人との10月16日の昼食会で、貧困対策によって香港が福祉国家に移行するのではないことを改めて説明している。

これに対して、先の第2回立法会選挙で選出された労働側代表、民主党その他のリベラル派は、施政方針演説の貧困対策では不十分で、特に貧困ラインが設定されなかったことを批判している。だが、労働側代表から新たに選出された立法会に初めて提出された非熟練労働者と失業者対策についての動議は、経済界の利益代表の反対で10月18日に否決された。しかしその後10月27日、民主党はさらにドナルド・ツァン財務長官に対して、来年度予算に33億ドルの貧困者の雇用創出と環境対策の追加支出を計上することを要求しており、貧困問題は今後も各方面で論議を呼ぶことになりそうだ。

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