(香港特別行政区)強制積立金(MPF)実施を控えた動き
香港市民の老後の生活を保障するため、使用者、雇用者の双方が毎月雇用者の基本給(賃金)の5%を保険料として積み立てることを法的に強制する強制積立金(MPF)(本誌2000年5月号参照)は、いよいよ2000年12月1日に実施されるが、この実施を控え、民間企業の使用者側や19万人の公務員を抱える政府の対応等で、幾つかの顕著な動きが出てきている。
まず、民間企業の使用者は、様々な手を使い、基本給の額を何らかの形で減額し、保険料積立義務を実質的に回避する処置を取っている。その手段としては、端的に基本賃金を減額するもの、基本賃金の減額分を特別手当(住宅手当が典型で、MPF保険料控除となる)という項目に変更するもの、無給の休暇を増やして基本賃金の減額を図るもの、契約を更改して従業員を雇用者ではなく自営業者扱いとするものなど様々である。
香港では、飲食業と建設業に雇用者の約17%にあたる50万人が雇用されているが、この2つの業界で使用者によるMPF保険料積立回避処置が多く行われ、立法会議員のルン・フ・ワ工連会(FTU)副会長によると、同会はすでに100件の苦情をこの両業界の雇用者から受け取っているという。
他方政府は、契約ベースの公務員に対して、MPFの実施により使用者としての保険料を積み立てる場合、保険料1ドルに対して従来雇用者としての公務員に支給される退職手当からこの保険料1ドル分を控除することを表明している。これは実質的には、契約ベースの公務員が政府の保険料積み立てを肩代わりすることを意味する。この政府の措置によって、約7000人の契約スタッフが影響を受けることになる。
政府の意図は、退職手当は老後保障の趣旨も含まれるので、MPFで二重に保証する必要はないとするもののようで、また、ジョセフ・ウォン公務員担当長官は、この処置は1998年に初めて表明され、MPF計画局や労働局とその後も十分協議され、さらに、MPF条例では使用者は自己の資金から保険料を負担するとしているだけなので、退職手当を控除する処置は何ら違法ではないとしている。
これに対して、このような政府の処置は、労働コミッショナーが民間企業に対して、MPFの導入により雇用者の手当を減額しないように呼びかけていることと矛盾し、違法ではないにしても反道徳的であり、また、保険料積み立ての回避を図ろうとする民間企業の使用者に対しても悪影響が及ぶと、労働側等から批判がなされている。また、このような悪影響により、民間企業の雇用者の実質的な賃金も減少して、貧困が進むとの懸念も表明されている。
さらに、MPF条例はその違反者に対して10万ドルの罰金または6カ月の懲役という法定刑を規定しており、香港政府は、この罰則を含めて、MPFを周知させるためのキャンペーンを行ってきた。それにもかかわらず、MPFが実施される12月1日時点では、多く見積もっても使用者の70%しか期限を順守せず、ほぼ30%の香港の使用者はMPFの規定を順守しないだろうとの予測がなされている。ちなみに、10月上旬の調査では、8万8000人の使用者がMPFの登録を済ませているにすぎず、これはMPF順守義務を負う香港の使用者全体の35%にすぎなかった。
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