JILPTリサーチアイ 第72回
フリーランスの労働法政策

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研究所長 濱口 桂一郎

2022年3月28日(月曜)掲載

去る3月22日にJILPTよりブックレット『フリーランスの労働法政策』を上梓した。これは、2021年3月3日と同月17日に、それぞれフリーランスとテレワークについて対象を絞った形で開催した東京労働大学特別講座のうち、フリーランスの回の講演記録を関係資料とともに一冊にまとめたものである。テレワークの回については既に2021年6月に、JILPTのテレワークに関する調査結果と併せてブックレットとして刊行していた(『テレワーク コロナ禍における政労使の取組』)。

フリーランスについてすぐにブックレットにしなかったのは、ちょうど政府のフリーランス対策が大きく動いているところであったためであり、また諸外国のフリーランス政策も変化のさなかで、しばらく様子を見た方がいいと考えたからである。2021年にもさまざまな新たな政策が登場し、また年末にはEUのプラットフォーム労働指令案が提案されるに至り、そこまでを講演内容に書き加えた上で、今回遅ればせながらブックレットとして刊行することとした。ベースは特別講座の講演記録であるので、労働法学の観点から本格的に論じるというよりは、今進んでいる事態の全貌をできるだけ分かりやすく伝えるということに焦点を当てている。ここではブックレットの内容から、日本と諸外国の法政策に関わる重要な点をいくつか紹介したい。

1 フリーランス問題の経緯

雇用契約の外延をめぐる問題の歴史は古い。前近代の職人は作業方法が内部化されており、いちいち指揮命令せず、雇用というより請負に近かった。雇用の典型は執事や女中など家事労働者であった。ところが産業革命で指揮命令に従う従属労働が一般化し、労働者は弱者とみなされ、それゆえ労働法や社会保障の保護を受けるようになった。逆に、自営業者は弱者ではないとみなされ、労働法や社会保障の保護が受けられなくなった。

しかしながら当時も実際には、法形式上は自営業者だが社会経済的状況は雇用労働者よりも厳しい人々がいた。「内職」と呼ばれる家内労働者である。彼らは、生産工程の一部が各家庭に委託され、低工賃で加工する家計補助的労働力で、経済構造の最底辺をなしていた。紆余曲折の末、1970年に家内労働法が制定され、業務ごとに最低工賃を設定されている。しかし法の対象が「物品の加工」に限られ、家内労働者の数は法制定時の181万人から11万人に激減している。

一方で、ネットを介した在宅就業は拡大の一途をたどっている。彼らに対して厚生労働省は2000年に「在宅ワークガイドライン」を策定し、契約条件の文書明示・保存、報酬の支払は成果物受取りから30日以内にすべき等を規定した。2017年の「働き方改革実行計画」を受けて、2018年には「自営型テレワークガイドライン」が策定され、仲介業者がいったん受注して働き手に再発注する場合(クラウドソーシングも含む)も対象になった。その他コンペ方式における知的財産権の保護や、契約解除の際の予告も規定されている。とはいえ、これは法的根拠なき一片の通達に過ぎず、法的拘束力はない。家内労働法違反は労働基準監督官が臨検監督するが、こちらのガイドラインにはなんら強制力はない。

2 労働者性に係る監督復命書等の内容分析

さて、労働法や社会保障で労働者保護が確立すると、境界領域の者が自らの「労働者性」を主張するケースが発生する。そうした事案の目安として1985年、労働省の労働基準法研究会が「労働基準法の『労働者』の判断基準について」という報告書をまとめた。これによると、使用従属性(指揮監督下の労働、賃金支払)をベースに、事業者性、専属性等を加えて総合判断する。

労働政策研究報告書No.206 表紙

筆者は、2017年4月1日から2019年10月2日までの約2年半の期間内に、監督指導業務を通じて得られた個別事案に係る監督復命書及び申告処理台帳のうち、その中に「労働者性」「個人事業主」という文言が含まれているものの提供を受け、その内容分析を行い、2021年2月に労働政策研究報告書No.206『労働者性に係る監督復命書等の内容分析』として刊行した。対象は監督復命書が80件、申告処理台帳が42件、両者併せて122件である。

業種としては、建設業が54件(44.3%)、飲食店・接客娯楽業が16件(13.1%)、運輸業が11件(9.0%)、商業が10件(8.2%)である。職種としては一人親方が56人(45.9%)、運転手が13人(10.7%)、接客職が13人(10.7%)、理美容師が9人(7.4%)、営業・販売職が7人(5.7%)、情報通信技術者が4人(3.3%)、料理人が3人(2.5%)である。事案の内容は賃金未払いが54件(44.3%)、労働安全衛生が40件(32.8%)である。労働者性の判断状況を見ると、労働者性ありとする事案が27件(22.1%)、労働者性なしとする事案が37件(30.3%)、労働者性の判断に至らなかった事案が58件(47.5%)であった。

職種別の特徴を見ていくと、一人親方(56件)では、建設業における重層請負の末端においては、雇用契約であるか請負契約であるかが当事者自身においても判然と区別されず、あるいはまた時によって請負事業者として働いたり、雇用労働者として働いたりしており、その相違も必ずしも明確でないなど、渾然一体的な働き方が広がっており、労働基準法研究会報告の判断基準によって一義的な判断を下すことはかなり困難である。また一人親方の入職の経緯が親族関係や知人、友人関係など、極めてインフォーマルな人間関係に基づいて行われていることが多く、それが雇用契約か請負契約か判然とし難い実態を生み出している。

運転手(13件)では、傭車運転手に限らず、会社がトラック等を所有し、それを運転手に貸し出して運送業務を委託する形を取っているケースが多い(全13件のうち、10件は会社所有)。傭車運転手は「高価なトラック等を自ら所有するのであるから、一応、「事業者性」があるものと推認される」(労基研報告)が、この場合に妥当するであろうか?

接客職(13件)では、キャバクラやパブ等、歓楽的飲食店の店内で夕方から深夜に至るまで接客しなければならないという業務上の必要性から、報酬を時給で定めている(=労働者性ありの要素)一方、接客の具体的態様はいちいち事業場側の指揮監督下にない。理美容師(9件)でも、店舗と開店時間という形で空間的時間的拘束性が一定程度ある(=労働者性ありの要素)が、「師」のつく職業であることからも、サービスの個別性が高く、いちいちの指揮命令が希薄であるため、個人事業主との形式が親和的になっている。

営業・販売職(7件)では、非店舗型の外勤営業・販売職の場合、時間的空間的拘束性が乏しいことが個人事業主であるとの形式を親和的にしている。外勤営業職は雇用労働者であっても事業場外労働のみなし労働時間制が適用されるので、あえて個人事業主という法形式を取る必要性がそれほど高くなかった面もあろう。同様に、情報通信技術者(4件)も専門業務型裁量労働制が適用されるので、あえて個人事業主という法形式を取る必要性がそれほど高くなかったのであろう。

3 フリーランスガイドライン

近年世界的に情報通信技術を活用した新たな就業形態(プラットフォーム経済、ギグ経済、クラウドワーク等々)が拡大している。日本でもコロナ禍でウーバー・イーツが目に付くようになった。政府は2017年の「働き方改革実行計画」で、非雇用型テレワーク等雇用類似の働き方について「法的保護の必要性を中長期的課題として検討」するとし、厚労省は同年から「雇用類似の働き方に関する検討会」、「雇用類似の働き方論点整理検討会」を開催し、2019年6月の中間整理では、①労働者性の拡張、②中間的概念の創設、ではなく、③自営業者のうち一定の保護が必要な人に保護の内容を考慮して別途必要な措置を講ずる方向を提示した。

この検討会に報告したJILPTの調査結果では、雇用類似就業者(発注者から仕事の委託を受け、主として個人で役務を提供し、その対償として報酬を得る者)の数は、JILPTの試算では228万人(うち本業とする者約169万人、副業とする者約59万人)であり、そのうち事業者を直接の相手にする者は170万人(うち本業が約130万人、副業が約40万人)である。

一方2021年3月には、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定され、公正取引委員会による独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請代金支払遅延等防止法の適用に関する考え方を整理している。これによれば、独占禁止法・下請法はフリーランスとの取引にも適用され、自己の取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、フリーランスに対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として、独占禁止法により規制される。また発注事業者が発注時の取引条件を明確にする書面をフリーランスに交付しない場合は独占禁止法上不適切であり、下請法違反となる。さらに規約の変更を一方的に行うことにより、自己の取引上の地位がフリーランスに優越している仲介事業者が、フリーランスに対して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となる。

4 労災保険の特別加入と安全衛生

同ガイドラインは併せて労災保険の特別加入に言及している。これは、建設業の一人親方は現場で業務災害に遭うリスク高いため、1965年労災保険法改正により、本人が労災保険料を負担することで、事故に遭ったときに労災保険の給付が受けられる仕組みを設けたことに始まる。

近年のフリーランスの拡大を受けて、2021年4月には芸能関係作業従事者、アニメーション制作作業従事者、柔道整復師、2020年改正高年齢者雇用安定法による創業支援等措置に基づき事業を行う者が対象に追加された。

2021年9月には、ウーバーイーツのようなフードデリバリー事業とITフリーランスの2職種も追加された。前者は省令の規定では「原動機付自転車又は自転車を使用して行う貨物の運送の事業」とされており、プラットフォーム型に限定されていない。なおこの追加に対して、配達員が結成したウーバーイーツユニオンは、プラットフォーム企業が配達員の働きによって利益を上げている以上、プラットフォーム企業が労災保険の費用負担義務を負うべきと主張している。なお2022年4月には、あんまマッサージ指圧師や鍼灸師も追加される。

一方、2021年5月の建設アスベスト訴訟の最高裁判決で、一人親方に対する国の責任が認定された。労働安全衛生法は、労働者に該当しない者が,労働者と同じ場所で働き,健康障害を生ずるおそれのある物を取り扱う場合に,労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難いというのである。そこで、厚生労働省は労政審安全衛生分科会で規制の見直しに着手した。これにより、(間接雇用関係も含めて)労働者に保護対象を限定してきた労働安全衛生法政策が、労働者ではない一人親方などの自営業者に対してもその保護を拡大することになる。

5 休業と失業のセーフティネットは

さて、コロナ禍で安倍前首相が学校の休校を宣言した2020年3月、厚労省は子供を抱えた雇用労働者向けに「小学校休業等対応助成金」を新設したが、これに対し、子供を抱えて働いているのはフリーランスも同じではないかと批判が沸騰し、厚労省は急遽フリーランス向けに「小学校休業等対応支援金」を新設し、1日あたり4100円(後に7500円)の支給を決めた。

一方、経産省サイドでは2020年5月から「持続化給付金」が設けられ、売上が前年比50%以上減少している法人に200万円、個人に100万円が支給される。当然フリーランスも対象のはずだが、「売上」とは確定申告書で事業収入として計上したものを指し、フリーランスは税務署の指導に従い、給与所得や雑所得として申告してきたため、対象外となる例が続出した。批判を受けて6月末から、給与所得、雑所得として申告してきた者もようやく申請可能となった。税法上の労働者性との齟齬が露呈したと言える。

さて上記小学校休業等対応支援金は、ごく限られた事態において、フリーランスにも雇用労働者と同じ「休業補償」を行うものであるが、では、失業補償はなくてもいいのだろうか。そもそもフリーランスの場合、雇用労働者と異なり、雇用契約の存否という基準が存在せず、休業と失業を法的に明確に区別しがたい。とはいえ、現実のフリーランスは主たる取引先に経済的に従属していることが多く、そこからの注文が途絶えることによる休業/失業のリスクは現実にある。それを雇用保険のような仕組みで救済することは考えられないだろうか。

実は、欧州連合(EU)は2019年11月に「労働者及び自営業者の社会保障アクセス勧告」を採択し、失業給付を含む社会保障6分野について、自営業者にも適用を要請している。EU諸国の実態を見ると、失業保険について自営業者も何らかの形(全面適用/部分適用/任意適用)で適用している国は20か国に上る。また韓国も2020年12月、全国民雇用保険として、勤労基準法の適用されない特殊形態勤労従事者を順次雇用保険に適用することとした。これは従事者と事業主が保険料を折半するものであり、宅配便運転手、バイク便、代行運転に順次拡大しているという。

なお日本では、2022年2月に国会に提出された雇用保険法の改正案において、基本手当の受給資格に係る離職の日後に事業を開始した受給資格者について、4年を上限としてその事業実施期間を受給期間に算入しないことにしている。これはごく局部的な形ではあるが、(かつて労働者であった)フリーランスへの失業給付と見ることもできる。

6 諸外国のフリーランス労働法政策

上述のように、近年世界的にプラットフォーム経済が注目を集めており、プラットフォームを通じて就労するいわゆるギグワーカーの労働者性が焦点となってきている。諸外国の状況をごく簡単にまとめておこう。

プラットフォームを通じて就労する者を対象とした立法を有するのはフランスだけで、2016年のエル・コムリ法により、プラットフォーム企業の保険料負担による任意労災補償、労働組合の権利、教育訓練の権利が認められている。さらに2019年のモビリティ法により、適切な労働条件を定める憲章を作成すれば、運輸業のプラットフォーム就労者を自営業者と認めるという誘導策もとっていたが、破毀院(最高裁)は労働者性を認める判決を出した。ドイツでも、2020年11月に連邦労働社会省が出した「プラットフォーム経済における公正な労働」において、プラットフォーム就労者の潜在的誤分類に対して挙証責任の転換を検討している。

裁判所の判例の動向を見ると、こちらもフランスの破毀院(最高裁)が先行していて、2018年11月28日のTake Eat Easy事件判決でフードデリバリーのプラットフォーム就労者を労働者と認めた後、2020年3月4日のUber事件判決でタクシー型旅客運送のプラットフォーム就労者の労働者性も認めた。スペインでも2020年9月23日のGlovo事件最高裁判決で労働者性を認めており、さらに同年12月1日にはドイツの連邦労働裁判所がRoamler事件判決で、ガソリンスタンドの商品陳列のマイクロタスクを遂行するクラウドワーカーの労働者性を認めるに至っている。なお一昨年EUから脱退したイギリスの貴族院(最高裁)も、2021年2月19日のUber事件判決で自営業者ではなく、(employeeとは異なるイギリス独特の概念である)workerであるとの判断を下した。

ちなみに、アメリカのカリフォルニア州では労働者性を認める最高裁判決の後、それを法制化したギグ法の制定、それをひっくり返す住民投票、さらにそれを違法と断じる高裁判決・・・と、事態が二転三転している。

7 EUのプラットフォーム労働指令案

こうした中で、2021年12月9日にEUの行政機関である欧州委員会から提案された「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」は、かなり大胆な労働者性の推定規定を設けており、大きな話題を呼んでいる。

同指令案第4条は、同条第2項に該当するような労働の遂行をコントロールするデジタル労働プラットフォームとプラットフォームを通じて労働を遂行する者との間の契約関係を雇用関係であると法的に推定し、この法的推定はあらゆる行政及び司法手続に適用され、権限ある当局はこの推定に依拠しうるべき関係法令の遵守と執行を確認しなければならないとしている。その要件として同条第2項は5つの項目を挙げ、この5要件のうち少なくとも2つが充たされていれば、プラットフォーム労働遂行者については雇用関係であるとの法的推定がされるという法的構成となっている。

  • ①報酬の水準を有効に決定し、又はその上限を設定していること、
  • ②プラットフォーム労働遂行者に対し、出席、サービス受領者に対する行為又は労働の遂行に関して、特定の拘束力ある規則を尊重するよう要求すること、
  • ③電子的手段を用いることも含め、労働の遂行を監督し、又は労働の結果の質を確認すること、
  • ④制裁を通じても含め、労働を編成する自由、とりわけ労働時間や休業期間を決定したり、課業を受諾するか拒否するか、再受託者や代替者を使うかといった裁量の余地を有効に制限していること、
  • ⑤顧客基盤を構築したり、第三者のために労働を遂行したりする可能性を、有効に制限していること。

これらはいずれも、プラットフォーム労働の特徴として指摘されることであるが、これら全てではなく、5つのうち2つが充たされれば雇用関係であると推定するというのは、かなり緩やかな要件であるといえよう。

もちろん、推定は「みなし」ではないので、当然事実を挙げて反証することができるのであるが、デジタル労働プラットフォームの側が問題の契約関係を雇用関係ではないと主張する場合には、その挙証責任はデジタル労働プラットフォームの側にあり、かかる手続が進行しているからといって、雇用関係であるという法的推定の適用が停止することはないとされている。近年の国内裁判所の諸判決が追い風になっている面はあろうが、プラットフォーム事業者にとってはかなり厳しい指令案であることは間違いないと思われる。

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