1999年 学界展望
労働法理論の現在─1996~98年の業績を通じて(8ページ目)


おわりに

毛塚

最後に、今回の学界展望を振り返りまして、感想を簡単に述べていただければと思います。

岩村

今回は、雇用システムの変化に伴う、賃金をめぐる能力主義賃金の問題や、労働条件の変更をめぐる変更解約告知の問題などの点で、新しい理論的な進展が見られたと思います。また、先ほど毛塚さんもおっしゃったように、政策的な課題というのがいろいろ出てきて、論文としてもそういうものを扱ったものがあらわれています。今後、労働法の学界でも、こうした法政策的な領域について、なお取り組んでいく必要があるように思います。

そういった点で、3年後にこの学界展望をやったときに、どういう新しい労働法の業績が出てくるかを非常に楽しみにしています。

大内

この学界展望をやるということでいろいろな論文を読んだわけですが、そこで感じたのは、学界で目立った業績をあげている人は非常に限られているのではないかということです。以前から漠然とそのような印象は持っていたのですが、そのことが確認されたような気がしました。

また、論文のテーマの選択についても気になる点がありました。現在、労働法の分野の法律には大きな動きがある時期で、そういう新しいところに論文のテーマが集中していくのはある程度はやむをえないのかもしれませんが、それを考慮しても、ややテーマに偏りがあるのではないかという印象を受けました。他の人と同じようなテーマを同じような問題意識から論じて同じような結論を提示するというのでは、論文としての積極的な評価は難しいと思います。西谷さんや毛塚さん、土田さんなどの論文は、筆者名を伏せていても誰が書いたかわかるだけの個性があると思います。これは単に私個人の好みの問題なのかもしれませんが、私自身もそのような個性的な論文を書いてみたいし、またそのような論文に数多く出会いたいと思っています。

毛塚

今回は、できるだけチャレンジングな論文を選ぶということでのぞみましたが、結果的に言えば、自戒も含め、チャレンジングではあったが安定感がない論文、安定感はあるがチャレンジングではない論文も選んだ気もします。適正に評価するというのはいかに難しいかと、そういう感じを改めていたしました。ともあれ、大内さんのような若い世代の咆哮を感じることができたことは、うれしいことだと思います。願わくば、目まぐるしい時代にあって時代に対応するのではなく、時代と切り結ぶ若い研究者のチャレンジングな論文、そして時代の先を見裾えた目線の高い論文を期待したいと思っています。

きょうは、長い時間、ありがとうございました。